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第一話

 台所から魚の焼けるにおいが漂ってくる。今日は父親の帰りが遅いため、妹の明日香が夕飯を作っている。

 日比野今日香は風が丘学園中等部の三年生だ。双子の妹の明日香とは顔がそっくりで、髪型を揃えたら父親ですら間違えるほどだった。

「あつぃ……」

 明日から夏休みだ。電気代節約のためにエアコンはかけていない。ソファに寝転がり、がんばって団扇で扇いでいた。

「明日香〜。ご飯まだぁ?」

「もうできてるけど、ピーちゃんが帰ってきたらにしよう?」

「小鳥なんてほっとけばいいじゃん。どうせどっか走り回ってるんでしょ?」

「たぶんね。……お姉ちゃんも何かスポーツやったら?」

「何で?」

「最近少し太っ……」

 そこで玄関から「ただいまぁ〜」の声が響いてきた。明日香が迎えに行く。

「太ったかなぁ……」

 お腹をつまんでみた。あまり気にしていなかったが、確かに少し太ったような気がしないでもない。

 そのとき小鳥がリビングに入ってきた。

「ただいまぁ。……あれ? 今日香、もしかして太ったの?」

「そんなわけ無いでしょ! 小鳥こそ……」

「自転車乗ってるんだから太るわけ無いじゃん」

 小鳥はジャージを脱いで締まった腹筋を見せてきた。若干敗北感を味わう。

「ピーちゃん。お風呂たまってるけど、入ってくる?」

「ありがと」

 明日香が笑顔でピーちゃん(小鳥のことだ)に、一番風呂を勧める。小鳥は他人の家だというのに、遠慮することなく風呂場に向かった。

「明日香って、小鳥に甘すぎじゃない?」

「え〜? だってピーちゃんかわいいし」

「確かにそうだけど……かわいいって言うと、あいつ怒るじゃん」

「そう? わたしには怒らないよ?」

 顔が同じなのに、いったいこの差は何なのだろう。やはり明日香のほうが面倒見がいいからか。

 かなり待って空腹感が絶頂に達した頃、ようやく小鳥が風呂から上がった。小鳥は長風呂なので、こういうときはかなり待たなければならない。

「ごめん、待った?」

「待ったに決まってるじゃん」

「別に待ってないよ〜?」

 双子は同時に違うことを言った。なぜ双子でここまで性格が違うのか。

「いただきまぁす」

 明日香の隣(今日香の正面)に座った小鳥から、シャンプーの香りが漂ってきた。それが小鳥のかわいさに磨きをかける。

 藤井小鳥ふじいことりは、日比野家の主である義明よしあきの親友の『息子』で、幼い頃に両親が他界しているため日比野家に居候している。

 体系は小柄で、身体は細くてしなやかだ。さらさらの髪は肩の辺りまで伸ばしている。小さな顔に大きな瞳。初対面の相手には、ぺちゃ胸の女の子に間違えられることがしばしばある。小鳥という名前は女性名だが、両親が鳥が好きだからという理由で小鳥にされたらしい。

「ピーちゃん。今日も高等部の人たちと走ってきたの?」

「うん。地獄坂で渡先輩に勝ってきた」

「すごい! これで八連勝?」

「まだ七連勝だよ」

「十連勝したらお祝いしようね!」

「じゃあビーフシチューが食べたいなぁ……」

「わたしが作ってあげるよ。お姉ちゃんも手伝ってくれるよね?」

「え? あ、わたしは料理できないから…………」

 今日香は料理が苦手だった。小さい頃から明日香にばかり家事をやってもらっていたせいだ。

 日比野家は母親が出産のあとすぐに他界しているため、幼い頃から家事を子供たちでやってきた。初めのうちこそ二人でやっていたのだが、そのうち明日香だけが家事をこなすようになった。おかげで明日香のほうが小遣いが多い。

「そういえば、二学期から転校生が来るんだって」

「へぇ。男子? 女子?」

「女子。すごいきれーなんだって」

「でも、小鳥のほうがかわいいんじゃない?」

「なっ……かわいいって言うなよ!」

 少しからかってみる。小鳥は自分のかわいい顔を不満に思っていて、「こんな顔なら深海魚に生まれたほうがマシだよ……」と嘆いていたことがあった。

 夕食を終えて入浴も済ませテレビを見ていると、小鳥が歯を磨いて二階に上がって行った。

「もう寝るの?」

「うん。明日も自主トレするから」

 まだ十時を少し回った位だった。小鳥は毎朝早くから自転車で出かけている。

「おやすみ」

「うん。おやすみ」

 二階に上がっていく小鳥を見て、羨ましく思った。熱心に打ち込めるものがあるというのは羨ましい。



 



 一話目です。アドバイス等よろしくお願いします。

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