幕間 記憶Ⅰ
それは幼き記憶。
揺蕩うは血濡れの幕間。
「ねえ!お姉ちゃん!遊んで!」
幼き金髪の少女はそう言うと蒼い髪の少女の手を引きながらニコニコした表情で口を開いた。
「はいはい、わかったから落ち着いてフレイヤ」
少しだけ大人びた少女はその小さな少女に手を引かれながら庭園を走り回る。
これはスカディとニエルドの春の記憶。
何もなかった平穏。
崩れることの無いと信じていた平和な時間。
「ニエルド!お兄ちゃんなんだからあなたもフレイヤと遊んでよ!」
「うるさいな、僕は本を読んだいるんだ。その役はヘズがやるって言っているだろ」
「肝心のヘズがいないんだけど」
蒼い髪を靡かせハンモックの上で本を読んでた少年はため息を吐き、いやいや立ち上がるも少しだけ笑いながらフレイヤの手を握り一緒に走った。
「お姉ちゃん!ニエルド!次はあそこ行こう!」
「待て、フレイヤ。何でスカディはお姉ちゃんなのに僕だけニエルドなんだ?僕の方が年上だぞ」
「だって姉ちゃんがニエルドって呼ぶから」
「おい、スカディ!お前のせいだぞ。僕の威厳が立たないじゃ無いか」
「でも、ニエルドだって怒らないじゃん!なら私にとってあなたはお兄ちゃんであり、ニエルドなの!」
三人は仲良く駆け巡る。
兄妹としての幸せを、絆を。
しかし、それは一つの転機と共に崩れ去った。
「首都長の皆々様!あなた方は私達の傀儡になってもらいます!」
第五首都で起きた惨劇。
通称「終末内乱」
民衆による暴動とはニエルドが消した事実であり、真実は前第五首都長グラン・ヴォーデンの側近である男が護衛軍を用いて起こした未曾有のクーデターであった。
護衛兵達は首都長を封じ込めるために子供達を人質に取り、彼らを盾にしながら第五首都を一時期陥落させた。
グランは子供達と首都の両方を天秤に賭け、結果子供達を選んだ。
しかし、それは子供達を選んだにも関わらず、四人の兄妹にその邪悪なる魔の手が差し掛かる。
「可哀想な子供達よ。君達は首都長グランに選ばれなかった。残念だよ、私が彼らなら君達を選ぶと思っていたんだがそんな事は幻想であったらしい。もう既に君達に人質としての価値は無い。兵士達が君達で遊びたいらしいから好きにしろと言った。四人仲良く首都長を恨んで死んでくれ」
邪悪な笑みを残し、信頼されていた側近は嬉し涙を零しながらその場を去り、彼ら四人を辱めようと彼ら四人で自らの欲を満たそうとゾロゾロと兵士が入ってくる。
一つの部屋に十人ほどの兵士が武器を持ち、四人を囲うと三人は怯えて声も出なかった。
だが、そこに一人ニエルドだけは彼らが自分の兄妹に手を出さないように震える足を必死に抑えて口を開く。
「手を出させない。お前ら下衆共に僕の兄妹は手を出させない!来るなら来い!第五首都長グラン・ヴォーデンの息子であるニエルド・ヴォーデンが相手になるぞ!」
果敢に啖呵を切り、立ち向かうも彼は兵士の一撃で吹き飛ばされ、地面に転がると自らの弱さを思い知った。
弟の体を殴る者。
妹の服を破る者。
幼き子供に容赦なく群がる下賎な者達。
ヘズは目を背け、その目の当たりにしたくない現実から心を閉ざす。
スカディは自らの小さい体を手にかける男達に恐怖を覚え、真っ青だった髪の毛が刺激を受けたのか何か違う色に染まる感覚に襲われる。
フレイヤは涙を流すもそれが誰かに届く訳がなく兵士達は彼らを笑いながら人として最も愚かしく、醜い部分をまじまじと幼い少女に見せつけた。
怒り、憎悪、それら黒い感情が自分の弱さに直結し、自らの非力さを恨み嘆く。
ニエルドはこの時、自分の中で切れては行けない何かがぶつりと切れた音がした。
そして、気づいた時には自分の体を抑えつける兵士の頭が硬い地面の中に埋まっていた。
一瞬の沈黙。
幼子達を陵辱する人間とも呼べない獣達はその状況を飲み込むために誰もが沈黙を要した。
その沈黙と共に一人の獣顔は吹き飛びその鮮血がスカディの体にべっとり飛び散る。
獣はニエルドに襲いかかった。
自分達の狂宴を妨げた怒りかそれとも、彼らが殺された事に対する怒りか。
そんな事はニエルドはどうでも良かった。
自分の兄妹を弄んだ獣など、彼にとって心底どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良く、どうでも良かった。
獣は殺せばその匂いを嗅ぎ付けて何人も何人も襲い掛かり、それを一人残らず叩き潰した。
すると、そこには血の海が出来ていた。
血溜まりではなくそれはれっきとした血の海が兄妹達の体を赤く染め上げる。
五十八匹の人の形をした獣の死体が辺りに転がり、それの上にニエルドは立った。
死体を積み重ねたそれは最悪とすら呼べる光景で徐々に体にそれがべっとりとこべりつき、染み付いていく。
「スカディ、ヘズ、フレイヤ、シャワーを浴びるぞ。今は兄妹仲良く一緒に風呂に入ろう。大丈夫、俺がお前達を守ってやる」
そこに立った少年はかつての様に笑ったつもりであった。しかし、それは何かを何かに囚われたぎこちない笑みになっている事に兄妹達は返事も無く、ニエルドについて行く。
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