二十九章 首都陥落作戦-第五首都 其の伍-
暴力、即ち、其れは凡ゆるモノを捩じ伏せる、シンプル故に歯止めの効かない人類の手段。
一方的な蹂躙。
それがニエルドの悦であり、彼は自らの一族の性としていた。
壁を吹き飛ばすや否や彼は勿へ目掛けて拳を放つ。それを壁で防ぐも壁ごと彼女を吹き飛ばし、近くにいたスペクターには踵落としを入れた。
透過により直撃を免れるもそれが突き刺さった床にひびが入り、そここら地面を無理矢理蹴り上げると一瞬にしてスカディの目の前に現れ、竜の鱗に覆われた左腕で彼女の頭を潰そうと振り翳した。
スペクターはそれ気付くと直ぐに鎖を放ち、彼を拘束するとその拘束を待っていたかの様に鎖を手で引きちぎり、再びスペクターの目の前に現れる。
「バカが、厄介なヤツから消すに決まってるだろ」
壁を吹き飛ばしていたはずの槍が目の前から飛んで来るとそれをスペクターに目掛けて突き刺し、先程とほぼ同じ箇所に出来た穴から血が噴き出す。
スペクターの血を見た勿とスカディはニエルドに向かい壁と剣を構えて走り出すもそれらを自らの鍛え上げた武で捻じ伏せた。
三対一であるのにその力の差は歴然としており、彼らは目の前に立つ人型が人ならざる者と錯覚する程にそれは圧倒的実力を見せつけると欠伸をしながら声を上げる。
「もう、終わりか?つまらんな、俺を殺すと言っておきながらこのザマか。もっとだ、もっと見せてみろ。お前達が持つ全てを曝け出せ」
その一言は敵に発破をかけるようなものであり本来であれば必要がない。しかし、ニエルドは自らのその有り余る力を使う為に彼らに立ち上がれと無理強いをし、己を満たすために立ち塞がった。
それに答えてか三人は怒りの矛先を向け、同時に動き出るとニエルドは再び笑みを零し、それらと自らの本能の赴くままにその槍を振るう。
勿は五つの壁をニエルドにぶつけるがそれをものともせず全て叩き落とした瞬間、ニエルドの背後を取ったスカディは黒と白の剣を彼の背中に突きつけるもその刃で傷をつけることが出来ず、彼女に向かって槍を突き刺した。
スカディの肩を少し抉るもそれを彼女は気にせず至近距離でニエルドの槍と自らの双剣で打ち合い始める。
白い剣が槍と弾かれ、黒い剣も槍に防がれる。
ニエルドは彼女に対する一切の攻撃に隙を、猶予を与えない。そんな中、スペクターは自らの武器に眠る霊王の力の一部を取り出した。
「生命解放、霊王武装乃電鋸」
霊王の力が宿りし武器でスカディと共にスペクターはニエルドと打ち合い始める。
槍は次に電鋸と二つの剣と鎬を削ると思いきや三本の武器と一本の武器であるにも関わらず、それは彼らを圧倒した。
電鋸の刃が高速で回り、槍とぶつかると凄まじい音を鳴り響かせながらスペクターはそれに魂を乗せて己の限界を引き出すように力を込める。
しかし、槍の主人はそんな彼の攻撃を一突きで意味のないものとした。
彼の全力は暴力の権化の前でその純粋無垢なまでの力を見せつけられると電鋸ごと吹き飛ばされる。そして、再びスカディと一対一になるとそれは先程同様槍を彼女に投げつけた。
槍は真っ直ぐに平行に彼女の心臓を目掛けて飛んで行く。
そこには躊躇いも躊躇も全てなく、殺意のみが込められており、辺り一面、全て食い破るまで槍は止まることを知らない。
スカディは自分に打つかるほんの直前、白き剣の根源から、眠れるその力を引き出した。
「生命開放、逆光聖剣・時間逆行」
投げた槍がニエルドの元へ戻る。
はずだった。
それは少しだけほんの少しだけ槍の道をずらしただけで彼女の体に容赦なく突き刺さる。
この槍は強欲の悪魔を司る悪魔が宿っており、それは生命武器の能力を吸い尽くし、自分のものとする七つの生命武器殺しの一つ。
槍はスカディの肩に突き刺さるも何とか心臓をギリギリの所で突き刺せず、彼女の体と共に壁を壊して空へ舞った。
スカディの体は最上階から姿を消し、スペクター同様自由落下の法則に沿って綺麗に儚く落ちていく。
「スカディ!」
スペクターの声が響くもそれは無情の嘆きであり、彼女にそれが届くことは無い。
スペクターは我を忘れ、怒りのままに電鋸をニエルドに向け突進するもそれを勿の壁が止めると声を荒げた。
「退け!勿!!あいつは僕の手で殺してやる!」
「落ち着いて、スペクター。あなたが冷静じゃなくなるのは自分の強みを一つ自分で消す事と同等だよ。スカディはさっき槍に吹き飛ばされた壁が拾いにあったから安心して。とりあえず、あれを使って切り抜ける。スペクター許可を」
勿の声でスペクターは深呼吸をし、ほんの少しばかり冷静になる。そして、彼女が自らの兵器として権能を使おうとしている事に反対しようとするもこの状況を打開するにはそれしか無い事を理解し、ため息混じりに応えた。
「埋葬屋四席として埋葬屋二席勿の権能の使用を許可する。無茶しちゃダメだぞ、勿」
「落ち着いてくれてよかったよ。うん、それも大丈夫。もう、私はこの兵器の力に負けないって約束したから」
勿の髪が逆立ち、両腕を前にして、腰を曲げ、猫が威嚇をする様に構えると自らの根源に眠る兵器の力を彼女は自らの手で呼び覚ます。
「権能解放、飢餓」
髪が黒く染まり、黒猫が一匹そこに現れた。
それは不吉の象徴であり、あらゆるものを飲み込み喰らう漆黒。
黒猫は五つの壁に手を置き、そこに眠る記憶を喰らうとそれを自らの糧にして、埋葬屋の敵となる者に近づいていく。
ニエルドも手を開くと先程スカディを壁外に吹き飛ばした筈の槍が彼に呼応して飛んでくるとそれを携え、同じように歩き出した。
互いにその力を理解し、己を証明するためにその武器を同時に振るう。
一つの壁が槍とぶつかり吹き飛ばされると残った三つが追従して放たれるもそれら全てを一本の槍で弾き返す。
残った一つから勿は刀を取り出すとそれを腰に差し、記憶にある武器の力を引き出した。
「権能解放、猫猫雷雷」
轟音と共にニエルドの体に向けて斬りかかる。
壁との連携により出来た隙を完璧についたのにも関わらず、それは塞がれており、勿は渋い顔をした。
それを見ながらニエルドは笑みを零すとその斬撃を槍で弾き、壁の守護がない状態に晒された無防備な体に目掛けてそれを投げつける。黒猫の体に飛んできた槍を壁が無意識に的に守るもそれは簡単にねじ伏せられ、壁が勿の体にぶつかりそうになった。
しかし、その瞬間にスペクターは電鋸から鎖を放ち、勿の体を壁にぶつかる直前に避けさせ、直撃を免れると自分の体に近付けた彼女の耳元でニエルドに聞こえない位の小さな声で喋りかける。
「勿、作戦を思いついた。これが決まればあいつの体に傷を付けることが出来るかもしれない。それには連携が重要になる。あの暴力の権化に一泡吹かせてやろう」
そう言うと勿を後ろにしてスペクターは先程失いかけた冷静さを取り戻し、再びニエルドの前に立つと彼に向かい声を上げた。
「第五首都長ニエルド。あんたは強い。強すぎる位だ。だが、その強さを僕は逆に弱点とする。埋葬屋四席スペクター。その不条理なまでの強さを斬り落とす者だ」
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