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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
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二十八章 首都陥落作戦-第五首都 其の肆-

強欲とはあくどいほど欲が張っていること。

第五首都に封印されし悪魔が産声を上げる。

「お前、今、俺をぶっ殺すと言ったか?」


 拘束された身でありながらニエルドは自分の背後にいる幽霊に向けて怒りと殺意を込めた視線を送る。

 そして、自らを縛る鎖を最も簡単に引きちぎるとスペクターに目掛けて槍を突き刺そうとした。しかし、それは幽霊と一体となっており、槍は空間を貫くとニエルドは状況を把握するために彼らから距離を取る。


 そんなニエルドに対してスペクターはボロボロのスカディの姿を目にしてしまい怒りに身を任せて攻撃を放ち、幾十の鎖が彼を追いながら飛んで行くもそれら全てを自らの左腕に携える槍を振り回し、一蹴する。


「ふん、お前が埋葬屋の仲間か。そこそこやるようだが怒りに身を任せて攻撃をするとは未熟極まれり。そんな実力で俺に挑むとは片腹痛いわ」


 ニエルドは目の前に現れた幽霊に対して槍の先を向けながら言い放つとスペクターもそれを跳ね返すために口を開く。


「お前こそ感情に身を任せて攻撃してたろ。その荒々しい槍はお前の感情そのものだ。違うか?」


 その一言が終わった途端、槍が再びスペクターの体を通り抜けると幽霊に対して怒りの矛を振り回し、辺り一面に傷を作り上げていく。


 スペクターはその猛攻の一切を防ぐ素振りも見せずに受け、すり抜けされるとほんの少しだけ見えた隙を突き、ニエルドの体を再び鎖で縛り上げた。


 ニエルドはそれを再び力任せに引きちぎろうとするとスペクターの背後から先程まで動けずに居たスカディが剣を握りしめながらこちらに向かっており、剣を振り下ろす。


「とりあえず、お返し」


 鎖を引きちぎり防ぐもそれよりも速く、剣は体に切り傷をつけると血は流れず、そこに切ったと言う傷のみが残る。ニエルドはそこに手を置き、自らの体に生まれた跡を確かめ始めた。


 痛みは無い。

 だが、自らの体に切り傷をつけられた事に対する怒りが込み上げてくる。


 ニエルドは彼らに目掛けて思うがままに槍を振うとキツく縛っていたはずの鎖は簡単に破壊され、その凶刃がスペクターの目の前に現れた。


 それは正確無比に飛んでいき、体をすり抜けると再びニエルドの体を拘束する。


 三度目の拘束にニエルドは防御すら取らなかった。


 その違和感にいち早く気付いたスペクターは背後にいたスカディを右腕で押し、彼女を遠ざけると彼の目の前に鎖の壁を作り出した。


 目の前に現れた鎖の壁をニエルドは気にしない。


 それは障壁でも何でもない只の鎖。


 凡夫が作り出した貧者の防御。


 それらを(ことごと)く、(ことごと)く、蹂躙する為に第五首都を治る長は槍に眠る悪魔を呼び覚ます。


生命開放(オープン)第五強欲(アモン)


 強欲、人の業が生み出したそれを司る悪魔が第五首都に姿を現す。


 三叉の槍は姿を変え、装飾が青黒く染まるとそれをスペクターがいると思われる場所へと力いっぱいに投げ込んだ。


 衝撃音はする暇もなくそれは建物の壁に穴を空ける。

 空いた穴から遅れて轟音が鳴り響くとその槍の先はスペクターが貫かれていた。


 手を前にし、直撃を免れてはいるものの明確に死を感じさせるもので槍と共にスペクターは物理法則に倣って落下する。


(絶幽霊(スペクター)を常時発動してたんだぞ?!何で槍が俺の体を貫いてる。もしかして、生命武器殺しってのは武器の能力がそうなのか?ならしくじったあいつが油断してる隙に霊王の力を使うべきだった)


 スペクターは落ち行く中、思考を止める事なく頭を回すも、それは既に意味はなく、最後の抵抗をしている様にも思われた。


 地面にぶつかる直前の瞬間、彼の体は他の何かぶつかり、地面に落ちる衝撃ではなく途中で止められた事による強めの痛みの様なモノが体に走る。


「スペクター、大丈夫?」


 唐突に現れた壁と聞こえてきた声に驚くも冷静に辺りを確認すると自分を乗せているモノ以外に五つの壁が宙に浮いており、その一つからひょこりと猫耳が姿を現す。それの持ち主は一番下の階にて一人で第五首都の手練れ達を相手していた(フー)であった。


(フー)?どうしてここに?」


 槍を抜き、体に空いた穴を生命武器の力で塞ぐとスペクターは驚きながら声を出す。それに対して(フー)は銀色の髪を弄りながら応えた。


「二人から返事がないから向かってくる奴ら全員本気で潰してきちゃった。安心して殺してはいないよ。皆んな強かったから殺すくらいの勢いで戦ったけど、今どういう状況?」


「僕も途中階層で一人やった。そいつは首都長いや、スカディの兄妹だ。それを俺は手にかけた。何を言われても仕方ないけどそれは後で後悔する事にする。今は首都長ニエルドと交戦中だったんだがアイツが投げた槍が俺の胸を貫いて外に放り出された所だ。なぁ、(フー)、壁を使えば上まで直ぐに行けるか?」


無問題(モーマンタイ)、落ちない様にちゃんと壁を掴んでおいて」


 (フー)がキリッとした表情で答えると壁は建物と並行に変わり一気に速度を上げて動き出した。高速で上がっていく壁に重力が働き、ドンドン体に負荷がかかるもそんな事お構い無しにとスペクターはそれにしがみつく。


 そして、先程空けられた壁の穴から二人の埋葬屋が姿を現し、ニエルドに投げた槍をスペクターは投げ返した。


 スカディの剣と拳で打ち合うニエルドに槍が襲いかかるもそれに気付き直ぐに槍を腕で止め、彼女に振りかざす。


 スペクターはそれを鎖で止め、(フー)もまた彼に対して壁の一つをぶつけて吹き飛ばした筈だった。


 打つけられた壁はとてつもない重量があるのにも関わらず、それは微動だにしない。


 だが、それにより生まれた隙にスカディは再び彼の体に切り傷をつけた。


 二度目の傷も擦り傷程にしかならず、ニエルドはそれを見て、彼らに対して更なる怒りが込み上げると威圧する様に口を開く。


「お前ら未だ俺に歯向かうか」


「あんたが交渉に応じてくれるなら争わなくてもいいんだが」


 スペクターは傷をスーツで無理矢理抑えながら電鋸を構えると(フー)とスカディも同じ様にニエルドに武器を向ける。


「交渉をおごるものが武器を構えるとは何とも皮肉だな。だが、それが正解だ。お前らと交渉する事など何も無い。いや、何一つすらありもしない。別に統合政府の為とは思ってなどいない。あいつらは俺がいつか潰す。そこにはお前ら埋葬屋もある。気に食わないヤツは全てこの手で叩き潰す」


「暴論ね、でも、実に貴方らしい。これなら私も躊躇いなくあんたを殺せる」


 スカディがそう言うとそれを開戦の合図とし、三対一の戦いの火蓋が切って落とされた。


 ニエルドを守護するものは一人もおらず、彼に立ち向かう者は三人いる。


 槍を握る手が強まり、自分の心が昂っているのを感じるとニエルドは不気味に微笑んだ。


 スペクターと(フー)は速攻を仕掛けると彼の体を拘束した途端に壁をぶつけた。鎖はニエルドの手足を拘束するもそれを簡単に引きちぎるもその生まれた隙を壁が突き吹き飛ばす。


 壁と鎖の連携により、ニエルドは初めて防戦を強いられ、そして、そこに壁と共にスカディの双剣が彼に傷をつけた。


 噛み合った歯車を止める事は難しく、何度も何度も繰り返し同じ攻撃を放つ。言葉を交えぬ連携は彼ら一人一人が仲間を信頼する事で生まれたモノであり、ニエルドはそれを受け続けた。


 何かを堪えている様に、いや、何かをためる様に辛抱強く、先程とは比較にならない程、静かに闘志を燃やし続ける。


 鎖と壁はテンポ良くぶつかり、それに油断はなかった。


 しかし、瞬きの間、何か一筋の蒼い光が(フー)の壁の一つと共に屋外に姿を消す。


 その油断の無さを捻じ伏せる事が出来るものは何であろうか。知能、技術、物量、発想、それらへ油断の無さを消す事が出来る。


 だが、もっとシンプル且つ最小の動きでそれを潰す手段が一つだけあった。


 それは力。

 シンプルな暴力により行われるそれは簡単に最も容易く行われる強者による圧倒的蹂躙。


 (フー)は急に鼻から血を垂らすとそれが吹き飛ばされた壁が原因と気づいた。


 いつもなら壁からの衝撃がこちらに響く事はない。それなのにそれを痛いとすら感じさせる程の威力で槍は壁を吹き飛ばす。


「漸く隙が出来たな」


 そして、その一言を皮切りに強者は笑いながら彼ら三人の前に立った。

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