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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
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二十七章 首都陥落作戦-第五首都 其の参-

暴王、其れ正しく、彼を呼ぶ。

 嫌い。

 嫌い。

 大嫌い。


 フレイヤの勝利の剣は目の前に立つ山の神への怒りと想いと共に徐々に速度が上がって行く。


「大雑把になってるわよ、フレイヤ。そうも心に迷いがあるなら早くそこを退いて。あなただけは傷つけたくない」


「五月蝿いな!黙ってよ!スカディ!あんたに勝たなきゃ私は、私は自分を正しいって証明できないじゃない!だから、あんたの方が退きなさい!」


 フレイヤは自らの姉であるスカディに刃を振りかざそうとするもそれを簡単に避けられ、剣の太刀筋がどんどん雑になっていった。


 最愛の姉、それを手にかけなければニエルドに認めてもらえない。それはこの都市で一番恐るべき事であり、生きていく上で必要な事であった。


 だが、スカディを目の前にして、その剣はどんどん雑に、大振りになって行き、自分の体が彼女と戦う事を無意識の内に拒んでいる事を理解するもそれでも剣を無理矢理に払い続ける。


 右へ、左へ、突いて、切って。


 同じ攻撃の繰り返し。


 精彩に欠ける攻撃をスカディは全て軽くいなし続ける。すると、唐突に攻撃が止むとフレイヤは泣き出しそうな声でスカディに喋りかけた。


「どうして、どうして真剣に戦ってくれないの!」


「あなたが真剣じゃないから」


「どうして、今になって優しくするの!」


「あなただけは私の本当の兄妹だから」


「じゃあ、どうして、どうしてあの時、あの場面で私を選んでくれなかったの」


 最後の一言にスカディは答えない。

 それを見たフレイヤは再び剣の柄を強く握りしめ、上に上がると彼女に向かい、その剣の真価を見せる。


生命開放(オープン)勝利乃剣(カラドボルグ)


 虹を纏いしその剣は凡ゆるものを覆い尽くす光を放つ。


 それをフレイヤは涙を流しながらスカディへと振るうも彼女は避ける素振りも防ぐ素振りも見せずにただ、そこに立った。


「ねえ、なんで剣で防ごうともしないのよ」


 自分の決意が軽く揺らぎ更に重くのしかかる。


「あなたが無理して私と戦ってるって知ってるから」


 その一言でフレイヤは剣を振り下ろすのを止め、それを地面に突き刺すとその場に座り込んでしまった。


「意地悪」


 フレイヤが短く呟くとスカディは彼女をそっと抱きしめ、ゆっくりと耳元に喋りかける。


「ごめん、フレイヤ。私ね、あの時の選択を少しだけ後悔してるの。自分だけじゃなくて、あなたも一緒に母さんと逃げようと言えば良かったって。それがあなたと私を死に追いやる事があったとしても。だけど、私はあなたの身を心配してそれを言い出せなかった」


「何で、一緒に、一緒に残ってくれなかったの」


「母さんを一人にするのは嫌だったから。別に、フレイヤの事が嫌いとかじゃない。さっきも言ったでしょ、あなたは私の本当の兄妹だから。ニエルドも兄妹だけど、あれは道を間違えた。いや、逆ね。あれは常に正しさのみで自分の道を生きている。だから、私はあいつの敵となって、あいつを斬り伏せる」


 スカディはフレイヤを抱き締めるのをやめ、次の階へと走り出す。そんな彼女を見ながらフレイヤは下を向き、彼女が前に進む様子を見る事なく目を背けた。


***


 第五首都海竜の宮頂上にてそれは彼女の帰りを待っていた。


 かつて、その手で消した自らの最愛の家族の帰りをまだかまだかと槍を携え、待ち構える。


 すると、その部屋唯一のエレベーターに灯が灯り、高速で登ってくるとそのドアが開い途端、彼は容赦無く槍を投げつけた。


 槍は轟音と共にそのエレベーターのドアと乗っていた者を破壊しようとするもそれを手で止めると同時に持ち主へと投げ返した。


 ニエルドは投げ返された槍を右腕で受け止め、構えるとエレベーターのドアから誰かの声がする。


生命開放(オープン)絶剣(デュランダル)


 トッという音共にそれは一瞬にしてニエルドの視界に入り込んだ。


 かつて愛した妹。

 かつて手にかけた妹。


 それが今、自分の目の前に立っている。


「久しいな、スカディ。何年振りだ?」


「ザッと六年振りよ、ニエルド」


 血に塗られた兄妹は互いに得物を構えて、それを振るう。三叉の槍はスカディを捉えた途端、正確無比に飛んでいき、それを自分の持つ剣でギリギリ防ぐと攻めに転じ、もう片方の腕で白い聖剣に手を置いた。


生命開放(オープン)逆光聖剣(アロンダイト)


 鞘から出した聖剣の光が斬撃となりニエルドのマントを破り切る。


 すると、マントから竜の鱗で覆われた碧い左腕が姿を現した。


 それを見てスカディは動揺する事はなく剣を振るおうとするもその動作すら許さず、ニエルドの左腕が二振りの剣に打つかるとその衝撃で彼女の小さな体は一瞬で宙に浮くと同時吹き飛ばされる。


「六年振りか、成程、あの時よりはやる様だな」


「ニエルド、あんたこそあの時よりは殺意をこめれる様になってるじゃない」


 互いに見合うと同時に彼らは同じ言葉を発する。


「「殺す」」


 その言葉と共にニエルドはスカディの視界から消えた。次の瞬間、吹き飛ばして空いた距離を一気に詰め、殺意が篭る槍を振るう。


 三叉の槍はスカディの肩を少し掠るとそれだけでその箇所の肉を抉り取った。

 しかし、それ如きでスカディは止まらない。


 ニエルドの一撃をギリギリで避けるとただの変哲もない右腕に目がけて右手に握る黒い剣を振るうも彼もまたスカディの動きを読んでおり、その剣を足で蹴り上げ、狙われた右腕で彼女の体に突きを放った。


 純粋なまでの暴力。

 ニエルド・ヴォーデン、彼はその圧倒的なまでの暴力で凡ゆる戦場を一掃した。


 かつて起きた第五首都での反乱及び惨劇。


 通称「終末内乱(アポカリス)


 記事には第五首都の護衛軍全体でそれを抑えたとされ第五首都の護衛軍が最強と言われる所以となった事件であると記されているが事実は異なる。


 それは戦士になりたての一人の男によって虐殺にも近い蹂躙で閉廷されたものでその張本人こそ、ニエルドあった。


 先代第五首都首都長グラン・ヴォーデン、彼は自らの息子に眠る、止める事の出来ない暴力を、能力を、才能を、それら全てに恐怖して、ニエルドを殺そうとするとも、それは失敗に終わり、彼は逆に自分が産んだ暴力の権化に喰われてその生涯を終える。


 それもまた彼のせい。

 全てを喰らう暴力。


 それこそが第五首都首都長ニエルド・ヴォーデンの正体であった。


 その暴力が今一人の少女に襲いかかる。

 容赦は無く、振るった武器に殺意が篭り、部屋中の壁を傷つけながらスカディ一人に向けられた。


 三叉の槍は何かを欲しているのかスカディに掠る度にそこから赤い鮮血を流させると連撃は止むことなく、右を抉れば、左で蹴り、残った腕で吹き飛ばす。


「ふん、ちょこまかと動くな。狙いが定まらなくなるだろ」


 ニエルドは圧倒的な力でスカディを吹き飛ばし、吐き捨てる様に呟いた。


「じゃあ、一撃でキメなさいよ。あんたの相手を弱い弱い言うくせに全然殺せないじゃない。何が最強の第五首都よ。聞いて呆れるわ」


 しかし、その呟きを聞いていたスカディは悪態をつくとその一言が彼の怒りの琴線に触れてしまい、彼女はいつの間にか体が壁に打ち付けられていた。


 意識が追いつくと同時に体の大切な一部がやられた感触があり、口から大量の血が溢れ出る。


「なら、お望み通り殺してやる。お前の弱さがお前達埋葬屋の欠点だ。お前の甘い考えが埋葬屋の弱点だ。悔やみながら死ね」


 壁に打ち付けられたスカディにその槍が突きつけられようとしたその時、彼の体を鎖が縛り上げ、拘束した。


そして、ニエルドの背後に立った幽霊は彼に純度の高い殺意を向けて口を開く。


「スカディを傷つけるなら僕がお前をぶっ殺す」

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