二十六章 首都陥落作戦-第五首都 其の弐-
光の神は自らを目を閉ざし、現実から見たくないものを背ける。
ヘズは吊るされた体をモゾモゾと動かし、脱出を図ろうとするも鎖は更に強く締め上げる。
「うん、見込んだ通りだ。それ故に殺すのが惜しい」
「縛られながら言うセリフじゃないぞ。そのまま大人しくしてろ」
「逆に聞くよ。大人しくしろって言われて大人しくするヤツがいるかい?」
ヘズは宙に浮いているにも関わらず、腰に差していた刀に手を置くと抜く事なく、鎖を切り裂いた。
(やっぱり抜刀後にはしっかりとラグがあるな。二度目の攻撃を打たないのはその刀の条件か。少し探りを入れるか)
スペクターは一瞬にして拘束を破られたがそれに対して冷静さを欠かす事なく、彼の武器の詳細を探ろうとする。
「出鱈目な武器だな。抜刀ってのが肝じゃないのか?」
ヘズはそれに気づいていたのかいないのか分からないがその問いに答えた。
「何、抜いただけさ。手を置く、少しだけ刀身を見せる。この工程だけでは光は抑えられない。少しでも輝きを見せれればこの刀は光を放つ。だから、今もこう、距離があるから抜くまでだよ」
そう言うとヘズの手は既に刀の柄に手を置いており、彼の詠唱と共に再び閃光の斬撃を放つ。
「生命開放、抜刀・光神」
光は再び刃となり、辺り一体を斬り裂く。
だが、スペクターの反応速度もそれについて来ており、その一撃があった瞬間を狙い、彼の懐に入り込もうとした。
抜刀後には大きなラグがあり、その隙を突くと電鋸の刃を彼の体に突き立てようとする。
「生命開放、抜刀・光神」
二度目の抜刀。
それは彼の隙を狙った様に放たれた閃光。
スペクターは何とか電鋸をぶつけ、それを晒すも反応が遅れたせいかはたまた自らが作り出した油断のせいか、光の斬撃が彼の右目を容赦なく切り裂いた。
するとニヤリと笑いながらヘズは得意げにスペクターに喋りかける。
「やっぱり君、しっかりと僕の事を見てから戦ってる。素晴らしい観察眼だ。でも、それがかえって仇になったね。僕は一度も抜刀後にラグがあるとは言ってないよ。そのラグは君みたいな戦いかながら相手を分析して来るヤツを引っ掛けるフェイクだ。まんまと引っ掛かっちゃって。でも、残念、この一撃で君の体半分に別れてる予定だったんだけどギリギリのところで避けたね」
ヘズの声が聞こえてくるも、スペクターはそれに耳を傾ける事が出来ず、その場から距離を置く。
視界が赤く染まると同時に片目の画を感じなくなった。
黒く染まったそれはかつて自分が見た闇そのもの。
しかし、スペクターはその闇を断ち切る為に電鋸を再び起動させ、武器に眠る力を引き出した。
「生命開放、絶深淵領域」
電鋸から鎖が放出され辺りをそれが張り巡らすとヘズの体を包み込み、鎖の結界が生まれ彼ら二人を封じ込めた。
「へえ、便利だね、その武器。電鋸から鎖が出て、結界も作れる。しかも、君を切った感触がない時があったからそれも武器の能力かい?いや、まさか二つ使いこなしてるのか。素晴らしい才能だ。スペクターだっけ?やっぱり僕の部下にならないか?第五首都の守り人になるべきだ。その才能!その武器!その感性!埋葬屋なんて所で腐らず、僕の下で高め合おうじゃないか。その溢れるばかりの才能を!」
ヘズはそう言うとスペクターの前に手を差し出し、それを取る事を要求する。スペクターはそれを見ながら彼に固めるのみで殺意を向け、武器を構えるとそれ答えた。
「あんたみたいに勝手に価値観を押し付けてくる奴が僕は一番嫌いだ」
その一言でヘズは残念そうな顔と共に戦いへのボルテージを上げ、スペクターとの距離を詰めた。右手の刀が彼の体は迫るとその当たる直前に彼の太刀を一本の鎖が受け止める。
ヘズはその鎖を断ち切ろうとせず、直ぐにもう片方の手に握られた刀を振るうもそれはスペクターの体に当たる事なく空を切った。
(また、透けたな、うん、全く感触がない感じ!多分、そう言う武器なんだろうね。なら、光神は何故避けれない?これがあれば当たらないはず。ああ、分かった、光に弱いのか。目が見えないから彼がどんな避け方をしてるか分からないけど。だったら、全力でそれを使うだけだ)
ヘズはそう考えた途端、二振りの刀を地面に刺し、三本目の刀に手を置きくと光の刃を抜く。
「生命開放、抜刀・光神」
鎖の結界を一気に光が断裂させる。
しかし、それで終わる事なく、彼は再び刀を鞘に挿しており、再び口を開いた。
「生命開放、抜刀・光神」
二度の抜刀。
それは鎖を容赦なく斬り裂き結界を保たせるのを不安定にする。未だにスペクターに当たる事が無く、少し苛立つもヘズは彼を追い詰めている自信があった。
そんな中、ヘズの耳に背後からとある声が聞こえる。
「生命解放」
背後に聞こえた途端に彼は自分が持つ最大の反応速度で刀を抜いた。
「生命開放、抜刀・光神」
抜刀は今までよりも大きく辺りを斬り裂き、背後に届くほどの斬撃であった。
抜刀の範囲の嘘。
ヘズは自らの攻撃範囲を偽りながら放っていた。
相手にそれを擦り込ませ、相手にここまでと錯覚させる為。
背後にある何か大きなモノを斬り裂いた感触があった。
半分だけが転げ落ち、その場で自分以外の生命活動を感じない。
ヘズは確信した。
自らの勝利を。
「生命解放、霊王武装乃電鋸」
上空から鎖が放たれるとそれはヘズの右腕に引っかかり、彼の勝利への確信と共に破り千切られる。
ヘズは勝利により、彼の死体をその目で見ようともう一つの生命武器である狡知戯神を解いていた。
その武器の能力は体の一部を失わす事でそれ以外の感覚一つを尖らすと言うモノで彼は自らの視覚を消し、触覚を研ぎ澄ましていた。しかし、結界内にてヘズは自分とスペクターがそこに居ると仮定し攻撃を放っており、最初からいないと言う事実に気づけず武器を払った結果、彼の腕は地面に転がり落ちる事になる。
「は?」
反射的に声が出てしまい、自分の腕が落ちている事に気づくまでに数秒かかると脳の処理が追いついた途端に右腕から痛みが押し寄せた。
その間にスペクターは霊王の一部を纏った電鋸をヘズに向け、彼の体に切り傷をつける。
肉を抉りながら作った傷跡にヘズはそれを認識すると共に受けたことの無い痛みが体を駆け巡った。
「結界はフェイクだよ。あんたが自分で言ったんだ。まんまと引っかかってやんの」
ヘズは急いで刀に手を置き、彼に向けて抜刀を放つも先程までの繊細が欠け、それを簡単に避けられる。
霊王の両腕。
それは武器を殺す為に特化したモノであり、凡ゆる生命に対する特効の刃。
スペクターは第三首都にてその霊王と根源が繋がった事により、その全貌を出すと彼の魂は霊王の体に収納され、それの思うがままに破壊を尽くす諸刃の剣であった。
また、それを全て出し切った場合、霊王が修復出来ないほどのダメージを負って消滅する時以外にスペクターの体に魂が還らず、肉体的に死を免れない。
故に、スペクターはその一部を電鋸に繋げることでその強力な無比な霊王の力を互い稀なる観測眼とその溢れ出る才能により、ほんの少しばかり引き出すことに成功した。
霊王の一部を纏った電鋸は辺りに鎖を解き放ち、鎖の牢獄を作り出す。
「さぁ、最終ラウンドだ。まぁ、一方的にやられるだけのな」
スペクターは自分の体に回る力にニヤけると霊王の根源に引き摺られそうになるのをギリギリの理性と本能で綱引きしながら今自分が持てる最大の武器を解き放った。
「生命解放、霊王武装乃電鋸・絶逆鉾」
鎖の牢獄だった物が一つとなり、天を裂く矛となりて、盲目の神を貫かん。
ヘズは抵抗しようと光の刃を振るうもそれは輝きを一切受け付けない黒く深い海の槍であり、全てを吸い込んでいく。
それを見て全てを諦めたのか抵抗する事を辞め、自らの両腕を広げ、彼は短く呟いた。
「はぁ、戦いは嘘ついてなんぼってか。自分が騙されるとは悪くない最後だ」
彼の胸を貫き、そして、霊王の一部がその魂を喰らう。
傷は一箇所。
ただ一点の黒い穴。
盲目の神の名を持った青年は霊王の右腕に敗れ去り、その場にかつて肉体だった物が無機物に転げ落ちた。
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