二十五章 首都陥落作戦-第五首都 其の壱-
第五首都陥落作戦開幕!
血に塗られてしまった一族の運命とは?
勿は襲いかかる兵士達を容赦無く自らを守る四つの壁で吹き飛ばした。
第五首都で最も高いとされている建造物、海竜の宮の一階フロアにて勿は一人、自らの敵になるものを一人残らず蹴散らしていた。
一人一人が訓練された強者で彼らに対応するには骨が折れる。
しかし、彼女は一言も弱音を吐かず、武器を、殺意を向けてくる兵士たちに一切の油断を見せない。
彼との約束を守る為、彼が託した願いの為。勿はかつての自分と決別し、覚悟を持ってそこに立つ。
そんな彼女に一筋の矢が弧を描き放たれた。
それは星の輝きが如き一矢で勿へ吸い込まれるように飛んでいく。
それに気付いた彼女の猫耳がピコリと動き、壁を動かし迎撃した。一つの壁が矢とぶつかり凄まじい音をたてながら互いの力量を見極める。
勿は流星の矢は撃ち落とし、兵士達を一掃すると彼らの背後から巨大な弓を携えた男が現れた。
「嬢ちゃんやるねえ。今の簡単に防ぐなんて予想外だよ」
「嘘を言わないで。あなたが本気じゃないのは分かってるから、お世辞は良い。でも、そこを退いてくれたら傷つかずに済むよ」
勿は彼から放たれた強烈なまでの違和感と殺意に圧倒されるも引き下がらず強気の姿勢で応える。それに対して男は余裕の表情を浮かべ、勿に自らの名前を告げた。
「私の名前はラッシュ。第五首都防衛軍「ヴァルハラ」四番隊隊長のラッシュだ。嬢ちゃんこそ退いてくれてたら傷つけずにお家に帰してあげるよ」
「いい、そんな事しなくていいわ。私は自分の帰る道は自分で作るって決めてるから。あなたに開けられた道になんて興味ない」
勿はそう言うと両腕を構え、壁と共にラッシュへと襲いかかる。初めに一つの壁がラッシュへと放たれ、それを避けると目の前には銀色の髪の少女が既におり、蹴りを食らった。
(やけに早いと思いきやそう言うことね)
ラッシュはそれを目視するとすぐさま矢を番る。
壁の表面に乗った勿は五つの壁を放つとそれに合わせて彼は弓に秘めたる根源を引き出した。
「生命開放、絶狩人・(ザ)星矢」
彼の星の弓から放たれた矢は先程同様光を纏い、壁と打つかり合う。五つの壁に合わせていつの間に五本の矢が放たれており、衝撃が辺りに走ると部屋の壁にヒビが入った。
爆風が起き、煙で視界が悪くなる。
しかし、ラッシュは生命武器の感知能力により、勿と壁が向かっているのを知っていた。そして、煙の中を壁がとてつもない速度で襲いかかると番えてあった矢をそれに向かい再び放つ。
近距離での衝撃で再び煙が舞う。
今の一撃で彼女に傷を負わせたと思いラッシュはその場を動かず彼女の動向を待った。
少女相手に大人気なかったかと思い、彼女が逃げ出したら追わずに見逃してやろうと矢を番えず呆然た立ちつくす。
それが命取りになる事を知らず。
彼の目は六つの壁を感知していた。
だが、勿が生命武器と同様の兵器である事を彼は見落としていた。
煙の中を一匹の猫が駆け回る。
とてつもない速度で目にも追えない速さでそれはラッシュの前に唐突に現れた。
銀髪の猫は彼が彼女を認識するよりも早く拳を放つ。それは正しく那須川の功夫を再現した様に素早く、合理的に人を壊す連撃であった。
ラッシュが勿が自らの目の前に立った事に対して確認するまでのコンマ数秒。
彼は猫を識った瞬間にその場に倒れた。
「だから言ったじゃん。舐めてると痛い目見るって」
勿は倒れた彼を置いて行き、その場から姿を消す。そして、現状を把握する為に耳につけたデバイスで彼らに話しかけた。
「こちら勿、今十番隊から四番隊までの護衛軍を撃破。後ろには行ってないから安心して。そっちはまだかかりそう?」
「こちらスペクター、ありがとう勿。勿のおかげで何とかなりそうだよ。あと少しだけ耐えれるかい?」
スペクターの声を聞き、彼女は自分らしくない不敵な笑みを零すと兄の一言を真似する。
「了解」
***
鎖に縛られた兵士達はうめき声を上げながら宙に浮かされていた。
勿がいる階の幾つか上でスペクターは向かい来る兵を一人残らず鎖で吊るしていく。
淡々と作業をする様に吊るして行くも油断は無く、彼らに指一本触れさせず圧倒していた。
「いいなー、君。敵じゃなかったら僕の部下に欲しかったよ」
上の階から降りてきたそれは刀を腰に刺しており、目に包帯を巻いた男であった。
「初めましてだね、埋葬屋四席スペクターくん。私は第五首都護衛軍「ヴァルハラ」二番隊隊長であり、首都長ニエルド・ヴォーデンの弟ヘズ・ヴォーデンだ。妹がお世話になったらしいから礼をしに来たよ」
「第四首都に現れたあの人のお兄さんか?」
スペクターはそう言いながら手に携えた電鋸を起動し、一気に距離を詰める。
凄まじい音共にスペクターは一瞬にしてヘズの前に現れるとそれを力一杯に振り下ろした。
しかし、ヘズは腰に差していた刀を右手で抜き、スペクターの奇襲を簡単に受け止めるともう片方の刀を左手で抜き、彼の体に刃を向けた。
スペクターもまたその反撃に自らの武器の能力で避け、次の攻撃への準備を図るとお互い闘争へのエンジンを一気に掛け始める。
電鋸の刃を簡単に刀でいなすとその力をもう片方に蓄えて更に自分の力を加え、反撃の一手を突く。
相手の力で相手を殺すものであり、カウンター特化の剣術。
スペクターは自分の力で返ってくる斬撃に体の一部を能力で透過させ対応した。
当たる本の直前に自らを透過する。
かつては出来なかった緻密なまでのコントロールを数多の死戦を潜り抜けたおかげで可能とし、それを持ってヘズと渡り合う。
そんな打ち合いの中、ヘズは二本の刀を急に地面に突き刺すと彼は自らが持つ武器の根源に自らを繋げて抽出する。
「生命開放、抜刀・光神」
その刀が抜かれると輝きと共に辺りを一閃する。
宙に浮いていた兵士達は自らが斬られたことを理解せず、その場に胴と脚が離れ落ちた。
痛みすら与える事なく、切った事すら知らずに息絶える。
スペクターはギリギリの所で体を伏せており、その斬撃を免れたものの辺りが血の海になった事でヘズから遠ざかった。
「あんた、自分の首都の兵士だろ?何でこんな事が出来る?」
スペクターの一言に彼は大声で笑いながら自らの顔に手を置き、自らの目に巻いていた包帯を取り、その空洞を見せつける。
「見えてないから。いや、見たくない現実から目を逸らしたから。僕は盲目、現実と向き合えない悲しい悲しい侍さ」
その瞬間、ヘズは再び刀を抜いていた。
しかし、相手の油断を誘った奇襲はスペクターには届いておらず、その抜刀を電鋸をぶつけて凄まじい轟音を鳴り響かせる。
互いの刃に傷一つ付くことは無い。
スペクターは彼が二つの生命武器を持っている事を確認すると怒りに身を任せながら電鋸を力任せに振った。
「オイオイ、君の部下でも何でもないだろ。何故、そんなに怒る?」
「あんた、俺が怒ってるのは分かるのか」
「感受性が豊かでね、そう言う力任せな攻撃はかえって君の動きの鮮明さを欠かす。こう言う風にね」
電鋸に伝わっていた力を受けると同時にいなし、それを向けて刀を振るう。それを予測し、スペクターは透過を始めようとした瞬間、先程まで斬撃であったモノが唐突に突きへと変わり彼の体に突き刺さった。
(痛っ、そう言う事か。あの剣術、切る以外にも力を使えんのか。油断した、まさか突きになって来るなんて)
スペクターは痛みによりいつもより頭を回そうとするとその思考がヘズの攻撃を加速させ、吹き飛ばした彼との距離を詰め、二振りの刀を振るいながら襲いかかる。
突きをモロに受けた事で酸素が足りず、ヘズの連撃への反応が遅れ、幾つも切り傷を生まれた。だが、彼への攻撃は唐突に終わりを告げる。
宙に浮いていた鎖がいつの間にかヘズの腕に絡みついていた。断ち切ろうとした途端、それは幾つも重なり合い、彼の体を宙に吊らす。
「へえ、やるじゃん」
互いに睨み合いながら幽霊と侍の一騎打ちの始まりの鐘が鳴り響いた。
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