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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
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二十三章 首都陥落作戦-第四首都 其の撥-

自分の道を進む為、彼らの道を進める様に。

(クアク)は自分の思いを首都長に伝える。

 夢の中。

 白い空間に彼は立っていた。

 そこに支配の兵器はおらず、一人、ただ、一人でぽつり立つ。何を思うわけでもなくただただそこに揺蕩う。


 次の瞬間、おでこに何かが当たった衝撃で目が覚めた。


「ここは?」


 見知らぬ天井、見知らぬベット。

 しかし、目の前には今回の作戦のキーパーソンであるユリウス・シモン本人が本を読みながら彼が起きるのを待っていた。


「やぁ、初めましてだね、支配の兵器。僕はユリウス・シモン。第三首都首都長である者だ」


 彼女はそう言うと読んでいた本を机に置き、(クアク)の手前に手を出し握手を要求した。彼は戸惑いながらもそれに手を出し互いに手を握ると次は(クアク)が口を開く。


「初めましてだよな。埋葬屋、(アズマ) (クアク)だ。ところで、俺はどうしてここにいる?ティフォンとの勝負の後に倒れてそっから......」


「倒れている所を僕が捕まえてここに寝かした。大丈夫、君達の作戦の終了時間まで三十分あるから。安心して。それを見越して今、君を叩き起こしたんだから」


 シモンはそう言いながらコーヒーを淹れ始め、二つのティーカップに注ぐとそれを(クアク)の目の前に置いた。


「私は母親がコーヒー派でね。紅茶を嗜まないからこれで我慢しておくれ」


 彼女はそれをごくごくと飲み始め、自ら毒がない事を示す。(クアク)は躊躇いはしたものの出された物を残すのは悪いと覚悟を決め、それを口に運んだ。


「美味しい」


 淹れ立てで熱かったものの口に含めた際に広がる程よい酸味と苦味。そして、香りが(クアク)の鼻腔を擽り、彼の緊張をほんの少し溶かしていった。


「敵だから危機感を覚えるのは分かるがそう気を張られすぎてもこちらも困る。僕は今、あくまで話の場を設けたいだけだ。だから、それを飲みながらでもいいから話をしよう」


 シモンは近くにあった茶菓子を持ってくるとそれをテーブルに置き、彼の目の前に差し出した。


「こう言うお菓子はもう新人類には要らないものだからね。今は殆ど作られない。これは昔、母様が教えてくれたものでね。僕は料理はあまり得意じゃないから全部クロードに任せっきりだった。だけど、これだけは自分で作りたくてね。精一杯の努力をしてみたんだがどうかな?」


 (クアク)はこの場で彼女が何かをしてくる事は無いと確信し、その茶菓子に手を出した。


「初めて食べたな、こう言うの。味は薄いのか?ゴアゴアしてて不思議ととっても美味しいとは言えない。でも、なんだろう。とっても温かい味だ。兵器として、いや、旧人類になった体には食事は絶対に必要だから色々食べて来た。でも、ここ数週間は何も食べてなくても行けるって思って食べなかったからか温もりを感じさせてくれる」


 (クアク)は茶菓子とコーヒーを頬張るとシモンは先程褒められた事が予想外に嬉しく、少し頬を赤く染めながら彼の姿を眺める。


 そして、彼女は覚悟を決めたのか彼に喋りかけた。


(アズマ) (クアク)、君に問う。君は人類の進化に賛成か?それとも反対か?私は賛成だ。その為に私の母も、父も命を賭した。ペトゥロ様の計画の為に死んでいった。だから、私もその為に命をかけたい。ねえ、(クアク)。君はどうなんだい?」


 (クアク)に自らの行いを正しいと言って欲しいのか。彼女は彼の目をしっかりと見ながら問いかける。だが、(クアク)はその問いに真っ直ぐに答えた。


「俺は、俺には何が正しくて何が間違っているのか正直分からない。ほんの少し前の俺は自分をただの歯車として、兵器として人類を救う為に動いていた。人を、俺が華に変え、供花にした人々の命の為に生きようとした。だけど、その世界には俺と俺が殺した人だけだった。そんな所に皆んなが、いや、埋葬屋の奴らが入ってきた。いや、無理矢理入り込んで来た。閉じこもった殻を破って俺を信じるって言ってくれた。そんな奴らの思いを俺は無駄にしたくない。だから、俺は俺の正しいと思う事をするし、あいつらが正しいと思っている事に手を貸す。シモンさん、あんたこそどうなんだ?自分が本当にそれに正しいと思っているのか?親の考えを、意志を、思いを継ごうとして無理をしていないか?」


 (クアク)の言葉を聞き、シモンは寂しそうな笑みを溢す。それは何かを後悔しているのか、それ共彼に対する哀れみなのか分からない。しかし、それは聞いたシモンはゆっくりと口を開く。


「うん、君との会話は凄く感情的になりそうだ。君が言った通り、僕は親の理想を、夢を継ごうとしてる。だけど、それが本当に正しいのか。それが本当に真っ当なのか歳を取るほどに分からなくなっていた。今、理解出来たよ。ねえ、(クアク)。第四首都は貴方達埋葬屋に降伏する」


 その事を聞き、驚くとガタリと音を立てて(クアク)は立ち上がり声を上げる。


「なっ、いきなりどうしたんだよ、シモンさん。あんたにも立場ってのがあるだろ?それなのにこんな簡単に決めちゃうなんて」


「そんなに驚かれるなんて心外だな。でも、僕もやっと母様の思いと向き合えた気がする。十年前に母様が亡くなってね。あの時は身寄りの居なかった私をペトゥロ様が無理を押し切って第四首都の首都長にして下さったの。彼への感謝は果てしない。でも、母様に最後に言われた言葉が忘れられなかった。私の後悔を貴方が継ぐ必要ない。私の思いを貴方が継ぐ必要ない。貴方は、貴方の道を生きて。生き抜いて。この言葉は僕には重かった。絶対に、絶対に母様の計画を継いでみせるそう思っていた。でも、本当は違った。ペトゥロ様を止められなかった。それが彼女にとって後悔だったって。彼の姿が若返った事ではっきりと分かった。でも、それが彼女にとっていい事だと言い聞かせて、無理にでも納得をしていた。した様に陥っていた。だけど、今、君が僕の考えを打ちこわしてくれた。ありがとう、(アズマ) (クアク)。それと第四首都の人々を傀儡から守ってくれた事も」


 シモンは小さな体を曲げ、お辞儀をする。

 丁寧に、丁重に、彼への感謝を示す為に。

 そんな彼女を見ながら(クアク)は少しだけ自分に自信がついたのかそれに対して彼もまたボロボロの体を立ち上がらせ礼をした。


 互いに礼が済むとシモンの方から再び口を開いた。


「ああ、そうだ。君達の仲間はこの場に集めている。だから、安心して彼らの元に行くと良い。これはその鍵だ」


 鍵を放り投げるとそれを(クアク)はしっかりと握りしめ、扉に向かうも開ける直前にシモンの方を見返し、感謝を述べた。


「ありがとう、シモンさん」


 扉が開き(クアク)が出て行くと彼女はそれを見ながらコーヒーを飲む。自分のケジメと覚悟を胸に新たな道へと自らの足で歩み始めた。

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