二十二章 首都陥落作戦-第四首都 其の漆-
ブローニャvsスラー決着!
二つの思いを胸に闘争の兵器は次なるステージへと飛び立つ。
スラーはラスコーの顔を容赦なく殴り続ける。
無駄は無く、正確且つ無慈悲に何度も、何度も殴り続ける。
小刻み良く拳を振り下ろしていたが背後からの殺気を感じ取るとラスコーを叩くのを止め、すぐさまそれに意識を向けた。
しかし、振り下ろされた戦斧はあまりにも力強く、黒縄を巻いていた腕で防ぐや否や一瞬にしてそれが地面に転げ落ちた。
ゴロンゴロンと音を立て、自らの右手が転がると体から発せられる危険信号を全速力で捉えるとそれから距離を取る。
スラーは転がる腕をもう片方の手で黒縄を巻きつけ拾い上げ、無理矢理くっつけるとその戦斧の持ち主を姿を確認した。
そこには先程までピクリともしなかった赤髪の闘争の兵器の姿があり、確認した途端に彼は目標を彼女に見定め黒縄で縛り上げると蹴りを放つ。
黒縄は狙った獲物に巻き付くと離すことなくブローニャを締め上げ、スラーとの距離を強制的に近づけた。ブローニャはされるがままに体を動かされるも至って冷静且つ余裕の表情で蹴りを受けると縛られたまま、スラーに喋りかけた。
「質問、何故ラスコーをここまで傷付けたのですか?」
「お前は敵に対して容赦をするのか?おめでたい頭だな。する訳がないだろ?目の前に敵として現れたらなら殺す。それが自分が気に食わない綺麗事を並べるヤツなら尚更殺す。何があっても殺す。こいつは自分のためじゃなくて他人の為に命を張ると言った。綺麗事だよ。見間違いの無い程の善人だ。こいつは自分をそんな人間じゃ無いと思ってる。こういう奴は簡単に自分の命を差し出す大馬鹿野郎だ。だから、今、ここでこいつが過ちに気づく為に殺す。お前はどうだ?赤髪、お前も綺麗事を並べるのか?」
スラーは黒縄を緩める事なく、先程よりも縛る力を更に強くするもブローニャは痛みで表情を一歳変えず、彼の目を見据えてそれにハッキリと応えた。
「応答、私は綺麗事を並べる気はありません。私は私です。闘争に身を焦がす兵器。それ故に、私はあなたと戦う為にここに立っているのです。ただ、私はあなたに容赦はしません。あなたはラスコーを殴っていた。彼は私の戦友です。それを殴られて怒らないなど戦友失格です。だから、全力で殺します」
質疑応答は終わり、彼らは自分達が似たモノ同士である事を理解するとスラーは再び鞭を引っ張りながら彼女の顔は目掛けて拳を放つ。
体を強く縛られていたブローニャは彼に無理矢理近づけされるも抵抗する事なくそれを受けた。
少女の顔にほんの少し血が流れるも彼女はそのを血をペロリと舐め、口を開く。
「権能解放、闘争爆発」
スラーは彼女が権能を使った瞬間、黒縄を解き、自らの体に巻き付けるとそれを防ぐ為に動き出す。
超新星が如き爆発は辺りを溶かすと三人のみを残していた。
黒コゲでありながらラスコーは息を吹き返し、彼女の熱により、消えかけていた彼の意識は目覚め、目の前に立つ赤髪の少女の姿に目を奪われた。
真紅の髪を靡かせながら、かつての様に闘争の兵器が、ブローニャ・デッカートが立っていた事にラスコーは何も言わずにその姿を眺めるとそんな彼を横目に話しかける事は無く、ブローニャは自らの武器を手から取り出し、スラーへと襲いかかる。
戦斧を振り回すとその刃が当たった箇所が焼き切れた様な跡がつく。スラーはそれを黒縄のみでは耐えきれないと踏み、新たな武器を根源から引っ張り上げた。
「生命開放、叫喚・修羅」
両腕にトンファーが現れ、それを戦斧にぶつける。ぶつけられたトンファーは切れる事なく、何回か打ち合うとその先端を急にブローニャに向け、彼は短く呟いた。
「生命開放、阿鼻・羅生」
トンファーの先端から唐突に銛の様な物が放たれ、それはブローニャの体に突き刺さるとそれを伝い、自慢の腕力で彼女の体を吹き飛ばした。
宙に浮くブローニャにもう一方の銛が放たれ、体に突き刺さすと宙に浮いていたそれを力いっぱいに引っ張り地面に撃ち落とした。そして、そんな彼女を無理矢理引き摺り回しながらビルの壁や地面を当て、打ちこわした。
ブローニャは引き摺られるも顔を一切変える事なく、それを寧ろ受け入れる様に体に傷を負っていく。そして、ある程度体に負担が掛かった瞬間、スラーの振り回しに足に力を入れ、抵抗し始めると唐突に握っていた戦斧の柄を両腕で折った。
すると、二つになった戦斧は輝き始めるとブローニャは父が託した時の神の力をアウトプットし、新たな闘争の象徴を作り出す。
「権能解放、時間接続闘争乃神」
両手で握っていた戦斧は両方の腕に片方ずつ握れる物となり、かつて復讐に囚われた特異点の姿と重なり合うと彼女は自分に突き刺さる二つの銛を一瞬にして切り裂いた。
「生命武器真名クロノス接続完了。これより目の前に立つ敵対象の処理を行う」
ブローニャは自らの血を使いながら、それを凝固させると己を纏うローブの様な物を作り、スラーが居る場所へと走り出した。
赫い髪と真紅の血のローブを靡かせ、紅の星が線を描きながら動き出す。
スラーの集中力は未だに健在でその高速の動きに対応するも二つの戦斧がトンファーにぶつかった途端、彼の体はビルに埋め込まれていた。
「は?」
スラーは壁に埋め込まれた体に気づくと思わず声が出てしまう。すぐさま体を起こそうとするも既に目の前には赫い兵器がおり、なんとか両腕を上げ、戦斧の直撃を免れた。だが、壁から次はビルの中にそれを突き破り、無理矢理捻じ込まれると彼女の戦斧が再び襲いかかる。
スラーはいつの間にかトンファーを切り替え、黒縄を握っており、それ戦斧のぶつけながらブローニャの破壊の一撃をいなし、攻めへと転じようと心掛けた。
それをブローニャは冷静に彼の鞭の軌道を全て予想し、読み切ると一切の攻撃の隙を与える事なく両腕の戦斧を振るう。
あまりにも攻撃が当たらないがそれでもスラーも冷静にブローニャに勝つための手段を考えるもその思考が彼の動きを鈍らせ、彼女の戦斧が自分の肩に突き刺さった。
痛みは無い。
元からそう出来た体だから。
だが、彼はほんの少し恐怖を覚えた。
スラーは戦斧を肩から抜こうとするも彼女の腕はそれを許さず、徐々に肉を断ち、骨へと到達する。そこで彼は自らの腕が消える想像が脳を駆け巡り、その場で自らの力のリミッターが外れると彼女を力の限りで蹴り飛ばした。
ブローニャは彼が先程よりも桁違いの力で自分の体を蹴り飛ばした事で戦斧から手を離してしまい、彼から少しだけ距離を取る。そんなブローニャを見ながらスラーは戦斧を肩から抜くと彼女に怒りをぶつけ始めた。
「お前は、お前だけは、許さない。俺になかった感情を与えたな。いらなかった感情を与えたな!殺す、今、殺す!計画なんぞどうだっていい。今、確実に、殺す!」
「拒否。私はそれを拒否します。私はあなたに殺される事は有りません。来るなら来なさい。アシモフ・デッカートの娘であり、彼の唯一の兵器のブローニャ・デッカートがあなたに引導を渡します」
ブローニャの言葉に呼応して、投げ捨てられていた片方の戦斧が彼女の腕に戻って行く。それを聞くとスラーは更に怒りを露わにし、明王の根源が彼の憤怒に呼応して、底に眠りし武器を解き放つ。
「生命解放、倶利伽羅・阿修羅」
スラーの上空に炎を纏った巨大な剣が顕れる。
それは彼の怒りによって呼び出された為か炎は燃え盛り、徐々に剣は大きくなって行く。
「この一撃を持ってお前と決別とする。逝ね、ブローニャ・デッカート」
「敵に名前を呼ばれるのは初めてですね。あなたは思ったよりも人らしい。来なさい、キリガミ・スラー。決着をつけましょう」
その一言を聞き、スラーは手をブローニャに向け、振り下ろすと巨大な憤怒を纏いし剣が彼女に目掛けて放たれる。
ブローニャは二つの戦斧を振り回すとローブの様に纏っていた血を羽の形に変化させ、その出力を最大にし、兵器として、人間としての新たなる一歩を踏み出した。
「権能生命解放、時間接続闘争乃神・逆針時計X」
闘争の兵器と時間の神が交わり、そこに雄々しく奮い立つ。
十秒間。
時は止まる事なく巻き戻る。
それは闘争が編み出した時間の使い方。
かつて、目の前で父を亡くした兵器は過去に囚われながらも前に進む。それ故の十秒間だけの時間逆行。己の後悔を胸に二つの戦斧を同時に振るう。
スラーの上に出来ていた筈の巨大な憤怒の剣は放たれる事なく、いつの間にか彼の体に巨大な切り傷が生まれていた。それに気付くと最後に抵抗をしようと持っていた武器を放とうとするも流れる血の量に見て、彼はブローニャに恨みを込めたような目つきで短く呟く。
「うんだよ、それ。訳わかんねえ」
そう言うとドサリとその場に倒れ込んでしまい、そんな彼を見て一瞥するとすぐにラスコーの下へと駆け寄った。
「ラスコー、ラスコー、しっかりしてください。あなたは私を、彼の最後を見終わるまで死なないと、いえ、死なないと言っていた筈です。ラスコー、お願いです。心音が動いているのは分かっています。なので、心配をかけないでください。ラスコー、ラスコー」
ラスコーの心音は徐々に消えかけており、それを瞬時に理解したブローニャはすぐに処置にかかった。彼女はボロボロになったラスコーの体に手を添えると自らの熱と生命エネルギーを流し込む。
そして、幾分かするとその温かい光を感じ取り、燃え尽きる寸前であったラスコーは安定した呼吸をし始めた。それに気づくとブローニャは一難去ったと額に浮かべた汗を拭くもその背後に唐突に銃を突きつけられる。
「ねえ、闘争の兵器?あなたが起きてるは意外。だけど、変な気は起こさないで。今から私の城に案内してあげる。もう、東 劃、いえ、埋葬屋との決着は着いたから。抵抗せずに言う事を聞いてね」
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