七章 幽霊
文字数多いですが戦闘描写が多いので読みやすいかと思うのでお手に取って頂けると幸いです。
スカディは妹背山の兵器と対峙する。
彼女はこの邪悪な男を速やかに始末ししなければならないと変幻自在の魔槍を携え突進すると魂抜け落ちた虚なる巨兵は向かって来る少女を見つめながらゆっくりとした声で叫んだ。
「生命開放、暴食」
巨兵の腕がメキメキと大きくなり少女に向かい迫り来る。
瞬間、スカディの魔槍は彼女の意思とは関係なく彼女を守る為に形を変え、それが功を成したのか巨兵の一撃で吹き飛ばされて尚、体には傷一つついておらず彼女は再び魔槍を前にし突進した。
それを巨兵を介して眺めている妹背山は不満を述べる。
「さっきと同じ構え、君意外に芸が無いね。もっと君の体の機能美を存分に使い僕に魅せてくれないかい?」
しかし、彼女はそれを無視して突進し、巨兵の拳は今度は巨大な斧となり彼女に振り落とされた。
「あんたこそ、芸が無いんじゃない?」
寸前に足を止め、彼女は叫ぶ。
「生命開放、魔剣」
魔槍は形を変え剣となる。
黒い砂鉄の様な物は槍を剣に変え、彼女の怒りを体現するかの如く、厚く、太く、少女が携えるには不可能なほどに大きくなっていた。
不可能と見えた大剣を彼女は軽々と振るい、自分に向かう巨兵の斧を最も簡単に切り裂き、巨兵の右腕は綺麗にパックリと割れていた。
巨兵は少しだけ揺らぐと左腕を鉄槌のような形に変え、それを彼女に向かい放つ。
しかし、彼女はその自分に向かう巨大な鉄槌を携えた大剣で正面から受け止めた。
ドン
重い二つの兵器の衝突音はその場に大きく鳴り響き、小さな体からは考えも出来ないほどの膂力を発揮し、彼女は巨兵を押し切った。
巨兵は倒れそうになる体を持ち直し、再び斧を振り下ろしたが、少女はそれよりも早く大剣を更に大きくし、振り下ろそうとする腕をめがけて大剣を振るう。
巨兵の左腕は地面に無機物に落ちており、切られた両腕から大量の血が流れている。しかし、巨兵は止まることを知らない。次は右足を槍の形に彼女の小さな体をめがけて突き放った。
彼女は向かい来る魂抜けた虚の巨兵に対して、せめて最後だけは安らかな眠りにつけるようにと願いながら、そして、妹背山という邪悪に対しての怒りをその魔剣に込め、それ本来の形を開放した。
「生命開放、絶剣」
黒い砂鉄は大剣の形から魔剣本来の形よりも少し大きいくらいの形となる。先程の大剣とは砂鉄の密度が全く異なっており剣は黒いオーラを出していた。
そんなことをお構いなしに巨兵の槍は彼女に向かい迫り寄ると彼女を殺す事しか頭になく無慈悲に、無機物に、かつての自分を忘れた様に襲いかかった。
スカディは剣を構え、そして、軽く振るう。
地面には三つの切り跡が現れ向かい来る巨兵の体は三枚おろしの様になり、その場に転がり落ちた。
それはまるで神話の英雄の再現が如き、斬撃であった。
妹背山は壊された傀儡からギリギリ声を出せるモノを見つけ出し声を出す。
「ビューティフル!私の傑作の一つをこうも簡単に下ろすなんて、最高だ!実に、実にいい!グラッツェ!」
その声を聞きスカディは、嫌悪感を露わにしながら口を開いた。
「もうあんたに構うことは無いわ。二度と会わないことを祈るわよ。後ね、次会ったらあんたを直接ぶった斬るわ」
そう言うとそのフロアを後にしようとした。
刹那
彼女の体に巨兵の切り落とされた腕が一人でに宙を舞い、少女の小さな体に拳が入る。
ズドン
重い音が鳴り響く。
直感で無意識の内に彼女は受け身をとっていたが、それを最も簡単に貫通し彼女の左腕に痛みを走らせる。
まだ、開放を解いていなかった為、剣を振り、その巨兵の腕を切り落としたが、体に走る痛みに彼女は膝をついた。
何処からか妹背山の声が聞こえて来る。
「ああ、やはり思った通りだ!しっかりと理解したよ。君のその小さく華奢な体からはあり得ざる膂力、その正体。君の体はしなやかなバネの様な筋肉をしているね。これは瞬発力に適していて、そんな重い大剣やらを持つ為の保ための筋肉では無い。しかし、君はその神に愛された瞬発力を使い補っている。攻める為だけに筋肉使っている。全てを攻撃に振っていると言うことは君の体の脆さは目に見えて分かる。君の肉体はね、自分自身が思っている以上に脆い。もう一撃入れば終わりと言った所かな」
そう言うと彼は人形を介し、不気味に声を放つ。
「生命開放、絶人形王」
妹背山が自身満々にそう言うと彼の言葉をきっかけに地面に転がっていた壊れた傀儡と巨兵の死体が動き出し一箇所に集まり、そして、人の形を形成し始める。
傀儡と巨兵の山の中から形成されたモノは尻尾の様なモノが三つほどついており、顔は先程の巨兵のものに壊れた傀儡のパーツが仮面の様についているが、体はしなやかで足はチーターの様な形をしていた。
「君の瞬発力は言わば獣の類だ。だから、私も新しく人形を錬成させた貰ったよ。まぁ、後、一撃で君の事をしずめて、君の体を堪能させてもらうよ。ハッキリ言って僕に開放を使わせた事は凄い事だよ。誇って死んでくれたまえ」
獣の傀儡は巨兵の倍の速度で動き回る。
スカディは折れた左腕から伝わる痛みにより未だに立てずにいた。
そんな事はお構いなしに獣の傀儡は彼女の後ろに回り込み鋭い蹴りを放つも蹴りは彼女の体に届く前に切り落とされた。彼女は右腕をギリギリの所で動かすことが出来、魔剣を振るうことでなんとかその場を乗り切ると右腕に力を入れなんとか立ち上がり不安定な状態で剣を握る。
「まだやるのかい?君しつこいよ?はやく死んで貰えないかな?僕の最高傑作を作るには君の体が必要なんだ!だから、速く、早く、今すぐに死んでくれ!」
切られた足がワイヤーの様な物で再び繋がると獣の傀儡の怒号はフロア一帯に響くも彼女は剣を強く握りしめた。
「誰があんたなんかに負けるもんですか。あんたみたいな外道は私がこの剣でぶった斬ってやる」
そう言うと体に響き渡る痛みを我慢し、獣の傀儡へと走り寄ると獣の傀儡は走り寄る彼女に対して、三つの尻尾を使い攻撃した。三本全てが彼女に飛んで行き彼女の魔剣を貫こうとする。しかし、その槍の様な尻尾を彼女を簡単に切り裂き獣の傀儡の間合いに入り再び開放を行った。
「生命開放、絶剣・影星」
魔剣は彼女が受けた傷の痛みを糧に獣の傀儡の命を欲する。
彼女の一振りは無数の斬撃に変わり傀儡の体を切り裂き続けた。
(あの傀儡は只斬るだけじゃ駄目。微塵切り、いや、粉になるくらいの勢いで切る気持ちで行かないと。ジュダのジジイなら粉になるまで切れるけど私は何処まで出来るかしら。影星のお陰で痛みは和らいだけど折れた骨が治った訳じゃ無い。絶剣を振れるのも後数回あるかないか。これで決着がつかないと後が不味い)
彼女がそう思っていると影星の斬撃は終わりを迎え傀儡が姿を現した。休まず与えた斬撃は功を成し傀儡は再生が不可能の様に見えた。
しかし、
パキリ
不吉な音が人形の方から聞こえて来ると傀儡の背中が割れ何か中から立ち上がる。
彼女は魔剣を力強く握りしめ、その中から現れた傀儡が動く前に走り寄った瞬間、彼女は地面に横たわっていた。
血反吐を吐き体の大切な部分に傷がついたのを理解するとその痛みは再び容赦なく襲いかかる。
その傀儡正しく鬼神が如き立ち振る舞い。
「生命開放、絶人形王・転生現身」
鬼神から妹背山の声がし、彼女はそれを聞くことが出来なかったが朦朧とする意識の中、なんとか剣を握りしめ立ち上がった。
「はぁ、まだ立つのかい?案外しぶといな。君と言う人間には興味は無いんだ。その体を開け渡せば君の魂までは攻撃しない予定だったんだけどなー。もういいや。知ってるかい?体は幾らでも治せるが魂は治せない。治す手段が無いんだ。僕の武器は魂には触れるけどそれを出したり、入れたり、傷つけたりするだけ。魂は一度傷つくとそこが穴となり、崩れ去る。後は分かるよね?死にたく無いと嘆きながら死んでくれ。ああ、でも、君との戦いは非常にいい経験になったよ。転生現身もここまでの物が出来るのは初めてだったよ。それじゃあね」
その言葉を最後に鬼神はスカディの体にめがけて突きを入れた。
不可避の速攻。
魔剣を使った防御を簡単に貫き体に再び激痛が走り、叫ぶ事すら出来ない。
いつの間にか魔剣の開放は解けており、彼女は起き上がらなくなってしまい、鬼神は容赦なく彼女に近づき彼女の心臓をめがけて拳を放つ。
後ろに何かが立っていた。
ぞわりとした空気に気づき鬼神は拳を止め、後ろを向く。
しかし、すでに何かはそこにはおらず再び前を向くとスカディの体を抱き抱えこちらを見ていた。
もう少しで自分の物になりそうな少女の体に勝手に触れているそれを妹背山は許す事はなく、鬼神は彼女に当てる拳をその何かにぶつけた。
それの体に拳は入らずすり抜け、妹背山は理解が出来ず、何度も何度も拳を放つ。
しかし、その拳はそれおろかスカディにも当たっておらず、空を裂き続ける。
そして、それは彼女を抱き抱えながら鬼神をすり抜けると彼女を花を扱う様に優しく、丁寧に地面に置いた。
妹背山は怒りを滲ませた。
「お前、私の、私の物に何勝手に手をつけている!それは私が手に入れた最高の素体だぞ!はやく私の元に戻せ。そうすれば楽に殺してやる」
そう言うと鬼神は彼に向かって行く。
「あんたがやったのか?」
「私の質問に答えろ!それは私のも」
ドスリ
重い音が地面から鳴り響き、彼の言葉を遮ると鬼神は足を止めた。
地面には自身の腕が無造作に転がり落ちている。
そして、気づいた頃には鬼神の体はバラバラに切断されていた。
何が起きたか分からない。
しかし、目の前に立つ何かはいつのまにか巨大な電鋸の様な物を手に握りしめていた。
鬼神は再び怒号を上げ切り裂かれた体を再生させ、それに襲いかかり、それは鬼神を面白がることもなく、驚くこともなく、しかし、幼馴染の体に傷をつけた鬼神の中にいる外道に対しての怒りを込め叫んだ。
「生命開放、深淵」
彼の言葉に呼応し、鋸は起動する。
先端の丸鋸は彼の血をたっぷりと吸うと凄まじい勢いで回転しら迫り寄る鬼神に一瞥を向けると彼は電鋸を前にし構る。
「埋葬屋四席、スペクター。あんたに悲壮なる死を与える者だ」
そう言うとスペクターも鬼神に向かって走るとそれの拳は鉄槌の様に変化しており、鉄槌を彼に向かって振り下ろした。しかし、巨大な槌は彼に振り下ろされることなく手前で動きを止め、壁には赤いチェーンの様なモノが巻き付いており、それにより鬼神は身動きが出来なくなっていた。
「鬼神の筋力は最高クラスだぞ。何故、この様な細い鎖如きが止めれる」
妹背山の怒り露わにした。瞬間、再び鬼神はバラバラにされ、スペクターはそれを見ながら口を開く。
「逆に言わせて貰うぞ。俺からしたら何故、あんた如きが彼女を傷つけている?」
電鋸が再び唸り声を上げる。
「餓鬼が舐めるなよ。だがな、分かったぞ。君の武器は血を多く使っている様だな。ならば、君が貧血になるまで再生し続ければ良いだけだ。立て、鬼神。こいつが尽きるまで立ち続けろ」
その一言により再び鬼神はバラバラになった体をワイヤーの様なもので接合し始めると鬼神のパーツは上手くハマらなくなっており、再生が不可能な物になっていた。
何度も体をくっつけようとする姿を妹背山はイライラしながら「このでくの棒が!何故再生しない!」と再び声を荒げる。
「当たり前だろ?綺麗に切ってるんじゃないんだ。ボロボロにしながら切り落とせばそこの断面の再生は遅くなる筈だ。あんたさ、他人のことはよく分析するけど自分のことは何も分かって無いんだな」
嘲る様にスペクターは言うとそれが妹背山の怒りの琴線に触れ、彼は激昂し、その怒りを人形と画面の相手に込め叫んだ。
「生命開放、絶人形王・転生異神」
鬼神はツギハギの怪物となり先程の整った形の面影はなく、海底を支配する外典の異神の様な物が現れた。
「君ガ初めテだヨ。コれヲ使うコとニなルのノは。イ識が持っテかレる?意、シキ、イあ!イあ!クトゥルフ フタグン?ワレワタシ、誰?ワレワクトゥルフ?ワタシは妹もセ背ヤ山?ワレはダれ?」
自分という者が意識が分からなくなり、武器と自分の境界線は無くなり沈んでいく。
それを憐れむこともなくスペクターは淡々と声を放つ。
「根源に意識を持ってかれすぎてるな。同化もしないでそんなに絶化を使った代償だね。あんたのことはスカディを傷つけたから許せない。だけど、その感じはあんた自身の意識はもう殆どないね。なら、せめてもの慈悲だ。苦しんで死んでもらうよ」
そう言うと鋸を携え祈りを込める。
「生命開放、絶霊」
彼の黒いコートの様な物がチリチリと燃えた様になり、髪色が白く変色した。
今の彼は世界から爪弾きされた人間の紛い物。
それ故に彼は二つ生命武器を同時に使いこなせる。
彼は異神へと向かって行く。
深淵に身を投じる勇者なのか?
はたまた、無謀な挑戦者なのか?
その答えはわからない。
しかし、彼は異神の中に自ら入り込んだ。
「ワレ、ワレ、ワタし、ワタレ、我ハクトゥルフ?現世ニヒサシブリニもドっテこれこれタ。ナラばクイツくそうコノタテモノゴトくらいつくそう。オロカナニン間どもに奪わレタ屈辱果タさンとする」
異神は意味不明の言葉の羅列を並べ触手をフロア全体に伸ばし破壊しようとした瞬間、彼の体の中からチェーンが飛び出て壁に突き付いた。
最初は一本。それが異の神体からまた一本、また一本と増え続け異神の体はチェーンで完全に固定され動けなくなった。
ヴゥゥゥーーーーン
轟音が鳴り響く。
異神の体の中でスペクターは巨大な電鋸を振り回し、異神はそれを阻止する為に体の中のパーツで攻撃するも、彼の体にそれは当たらず全てすり抜ける。しかし、彼の武器はしっかりと異神の体を引き裂いて行く。
「やメろ、ヤめロ。死にタクナイ、シニたくナイ」
異神は嘆いた。
その幽霊が如き存在に己が切り裂かれる運命に。
異神は嘆いた。
ようやく顕現出来たのに何も出来ずに壊される事を。
しかし、スペクターには関係ない。
自分の幼馴染を傷つけたことは妹背山の武器を、彼の事を許すはずがない。
パーツ一本一本を丁寧に大雑把に引き裂き続け、再生すら許さぬ深淵の鋸は切った箇所を錆びさせる。
そして、少しして電鋸の轟音が止まった。
彼は異神をすり抜け、その後ろに立つとスカディのいる方へと足を進めた。異神のその身は崩れ去る。妹背山の意識も根源より引き出された異神の魂も全て共に灰の様に消え去った。
「ごめん、スカディ。遅くなっちゃった」
彼はそう言うと一つの影が忍び寄る。
そして、その影から眼鏡をかけた長身の男が現れると彼女を抱えた。
「スペクター様、彼女は私が連れて帰ります。貴方は任務を続行して下さい。那須川様、柊様、イェーガー様が貴方の事を待っております。任務は最終段階に入っております。必ず<支配>のアポカリプスシリーズの確保を」
「分かったよ、影縫。スカディのことはすぐにリリィさんのところに運んでくれ」
「畏まりました。運び次第すぐにそちら向かうのでどうかご武運を」
影縫は再び影の中に消えてしまった。
そして、彼はフロアの下を目指す。
混沌極める決戦場へと自らの足で踏み込むのであった。
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