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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
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二十一章 首都陥落作戦-第四首都 其の陸-

明王は血を望み、時の神はかつての友との約束を果たす。

その身を再び闘争の焔に包み、いざ、新たなる門出へ。

同化(ユナイト)明王(ラージャ)


 スラーのトンファーは服に溶け合い、混じり合う。それは互いが反発する事なく体の一部の様になると手を開き、新たな武器をそこに顕現させた。


生命開放(オープン)絶黒縄(コクジョウ)・修羅」


 手にそれが巻きつくと先程までの鎖とは違い、しなやかに先端が唸る。そして、その新たに生まれた黒き鞭をラスコーに目掛けて力一杯振り下ろした。


 ラスコーは自らに向かって来る得物を目で確認するや否や、紙一重で避けるとそのままスラーは目掛けて走り出す。しかし、黒い鞭はラスコーを逃さず、それが物理的に曲がる事が不可能である様に避けていた彼の足を最も簡単に掴んだ。


 避けた事に対する油断。

 それは死角からの攻撃に反応を鈍らせ、彼をスラーから遠ざける。


 足を掴まれたことを一瞬で理解するとすぐに黒い鞭を解こうと動くもそれは簡単に解けず、彼の体を振り回すと共にビルへと打ち付けた。


 ぶつかった衝撃でガラスは割れ落ち、体に突き刺さる。肩に大きなガラスが突き刺さると神経を高速で繋いだラスコーに常人の何倍もの痛みが襲い掛かった。


 絶折神(オリガミ)・吽は体内に紙を作り上げると無理矢理神経を飛ばし飛ばしに繋げ、それを伝い電気信号を脳に送る事で超高速反応を作り出す。


 しかし、それは脳が処理し切れず、常に焼け切れる様な痛みに襲われると同時に受けた痛みを倍増して受け取ってしまう諸刃の剣でもある。


 突き刺さったガラスから痛みが染み込み、彼の体をそれが蝕んでいく。


 だが、スラーはそんな事はお構い無しにとラスコーの足を掴んだ黒い鞭を思いっきり振るい、彼の体を何度も何度もビルの壁に叩きつけ、ボロ雑巾の様にする。


 ラスコーの意識は既に遠のいており、頭が回らなっていたのにも関わらず、彼は立った。


 自分でも何故か分からない。

 足は震えており、一歩前進する事すらままならない。しかし、それでも彼は自分の後ろに居る少女を思い立ち上がる。


 そんな彼を見ながら足を掴んでいた鞭を解くとスラーは口を開いた。


「何故だ?そんな体で。俺的にはいいんだよ。お前一人を相手にして時間をかければ他の奴らがお前の仲間をやってくれるしな。だが、気に食わない。そこまでして立ち上がる意味が分からない。教えろ、何故お前がそこまでやる理由を。いや、立ち上がる理由を」


 口を開く事すら限界で、何かを言おうとすると依然と体に痛みが走り続け、口を開く事すら背一杯でありながら彼は繋ぎ繋ぎで無理矢理声を出し、それに答える。


「俺の隊長の娘だぞ。命をはらずにいれるか?あいつはまだ眠ってるだけなんだ。なら、その時まで俺が、おれが守る。守り続ける!俺はラスコー。アシモフ・デッカートの部下であり、埋葬屋十一席。二人の兵器の最後を見届けようとする者だ」


 ラスコーは自らの言葉で目を覚まし、体の限界を紙で繋げて無理矢理こじ開ける為にスラーへ目掛けて最後の一撃を放とうと己の全てを武器に込めた。


生命開放(オープン)絶折神(オリガミ)・阿吽!」


 しかし、それをスラーは逃さなかった。

 ラスコーが最後の一撃を放とうとした瞬間、スラーは既に目の前に立っており、無情にラスコーの顔へと拳を振り下ろす。


 先程とは違う直接的な痛み。

 明確に自分の命に関わるそれはラスコーの体にかつて無い痛みを染み込ませた。


「俺さ、そう言うのが一番嫌いなんだよね。ムカつくから死んでくれ」


 スラーがラスコーの体に何度も何度も拳を振り下ろし、それをブローニャは彼らの近くに行くと呆然と眺めていた。


 自分の顔にラスコーの血が飛び散ちり、それを彼女はそれを手で拭くとこべりついた血を口の中に入れる。


***


 ラスコーの血を舐めた途端、視界が真っ白になり、そして、果てしない赤が混じる世界へとブローニャを誘った。


 闘争の心象世界。


 それを心で理解すると自らがかつて救えなかった自分の主人を思い、彼女は崩れ落ちた。


 他人の血が自らの失っていた意識を蘇らせるも、彼女の心の穴は埋めることが出来ず、膝から崩れ落ちると再びその場から動かなくなってしまう。


 そんな彼女の目の前に一人の男が立つと優しい表情で口を開いた。


「おいおい、ブローニャ。そんな所で座っていても何も始まらないぞ」


 懐かしい声が聞こえ、彼女は思わずはっとした表情で上を向く。そこにはつい先日、目の前で救えなかった男、自分の主人であるアシモフ・デッカートの姿であった。


 ブローニャはその姿を見るや否や、目頭が熱くなり、その場で涙を流すもそれが自分が知ってるアシモフでない事に気づくとすぐに怒りを向け、立ち上がった途端、自らの権能を知らしめる武器を彼の首元の手前に置いた。


「それ以上マスターの真似をするとその首を叩き落とします。一体あなたは何者ですか?」


 アシモフの姿をした何かは首元の刃を見ながら手を上げ、降参のポーズを取ると彼女の問いに答える。


「流石だな、アシモフの娘。俺はクロノス。時間(とき)の神であり、アシモフ・デッカートの唯一無二の友だ」


「あなたがクロノス?マスターの姿を借りて現れるなんて酷すぎます。それよりも何故この空間に?兵器の世界に入ってこれるモノなのどいないはずでは」


 彼女は目の前に現れたクロノスに戸惑い、それを見るとクロノスはコツコツと歩きながら喋り始める。


「アシモフの最後の頼みでな、無理矢理こじ開けて来た。大変だったぜ、俺は神と言われているが元は人間。その人間の根源の一角である兵器の中に入るのは本当に難しく、困難な道のりだったよ。だが、あいつの頼みだったからな。諦めずにここまでこれたのは良いものの肝心のお前の意識が閉ざされたせいでずっとここに居たんだ。まぁ、血を摂取した事で闘争の根源が覚醒してお前の意識を蘇らせたんだろう。タイミングが良いやら悪いやら」


 クロノスは喋るのを止めるとすぐさまブローニャは彼に対して、いや、弱い自分に対して怒りを顕にした。


「一体何しにきたのですか?戦えない私を冷やかしに来たのですか?戦いを拒む私を罵りに来たのですか?現実から目を背ける私を戦えと、戦わないお前は価値が無いとそう言いに来たのですか?」


 彼女は価値を示す事が出来ない兵器に意味はないと思い、自らの思うのままに口を開く。


「アシモフはそんな事を伝える為に俺をここに寄越すかよ。闘争の兵器、お前案外悲観的だな。そんなんじゃ、俺の力をお前に譲渡する事を躊躇うぞ」


「何故?どうして?私にあなたの力を譲渡を?」


 ブローニャは彼の言葉に疑問を投げかけるもそれを聞いたクロノスはその言葉にため息を吐きながら応えた。


「アシモフの頼みだからだよ。それがあいつが俺に頼んだ最後の望み。なぁ、闘争の兵器よ。お前は今何をしてるんだ?何故そんなところで地団駄踏んでる?」


「地団駄など踏んでおりません。私の物語はマスターが亡くなった時点で終わっているのです。私に価値はありません。私はマスターの為の兵器。マスターの為の闘争でありました。しかし、そのマスターが死んだ。私の力不足で。私の目の前で。私のせいで」


 そう言うとブローニャは再び自ら殻に篭るもクロノスは彼女に近づくと大きな腕を広げると強く抱きしめ、かつての友と溶け合った本来の自分の声で優しく喋りかけた。


「ブローニャ、お前は俺の子だ。ほんの二ヶ月程であったがあの時、俺は、あの瞬間だけ二度と味わう事のない幸福をお前から貰った。お前に価値が無いなんてとんでもない。お前は俺のもう一人の娘だ。生まれる事のなかったブローニャ。そして、三十年後に出会えたブローニャ。二人共、俺の娘なんだ。俺にとってお前はただの兵器だから横に置いてたんじゃない。お前を俺は本当の娘だと思ったから横にいて欲しかったんだ。俺の我儘であいつらには迷惑をかけた。ラスコーには何度も念を押された。それでも、俺はお前を娘だと最後まで思ったし、これからもそうだ。かつての俺なら自分の最後に納得がいってなかったと思う。どんなに惨めでも生にしがみつこうとしていた筈だ。だが、お前と言う希望を見出して、俺は変われたんだ。お前と出会えた事で俺は過去に囚われていた自分とケジメをつけれた。ブローニャ、俺を満たしてくれた闘争の兵器、いや、可愛いもう一人の娘。もう俺の心配をしなくてもいい。お前はお前の生を真っ当しろ。これはマスターとしての最後の命令であり、父親としての願いだ」


 そこにいるのはクロノスなのかアシモフ・デッカートなのか分からない。しかし、その言葉に嘘偽りは無く、彼らの本心からの言葉であり、その一言でブローニャの赤のみが広がっていた視界に色がつく。


 かつて、闘争のみにその身を焦がした少女は亡き父の言葉を聞き、目を覚ました。彼女の目にはそれまであった曇りは一切なく、自らの足で立ち上がるとクロノスをしっかりと見ながら口を開く。


「クロノス、それはマスター、いや、父の言葉ですか?それともあなたの言葉ですか?」


「教えない。これは教えられないな。お前が頑張って、また、いつかまた会えたら教えてやる。ほら、ラスコーが死にそうだから早く行ってやってくれ。あ、忘れていたが俺の力を兵器としてインプットもしろ。お前ならすぐになれる筈だ」


 クロノスは右手を出すとそれをブローニャは何の迷いもなく握りしめ、時の力をその身に宿す。そして、ブローニャはクロノスに背を向けると彼の姿を見る事はなく、最後に感謝の言葉を彼に向けた。


「ありがとうございます、クロノス。例え、これがあなたの嘘であったとしても私はあなたに救われた。その事実は変わりません。あなたにまた会える事を信じて、行ってきます。父へそうお伝え下さい」


 赤い髪を靡かさせながら、彼女は再び現実という名の非情の戦場へと自らの意志で足を踏み込む。彼の言葉を胸に仕舞い込み、自分の生を真っ当する為に闘争の兵器として、アシモフ・デッカートの娘として、今、自らの意思で目を覚ます。


***


 視界良好。

 一点の曇り無し。

 目の前に居るラスコー、バイタル低下。

 早急に処置。

 目の前に居る敵。

 迷わず処理。


権能解放(オープン)闘争(ポーレモス)


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