二十章 首都陥落作戦-第四首都 其の伍-
劃vsティフォン!
遂に戦いは決着へ!
互いにボロボロの体を動かして携えた武器を前にしながら正面から打つかり合う。
劃にとって向かってくるティフォンは右腕のみの手負いの獣同然であるにも関わらず、本能が今の彼が一番危ないと警告を鳴らすが為に一切の躊躇と油断を無く、刀を振るう。
二振りの刀と右腕がぶつかり合うと彼は驚く事にこの場で生命武器の力を使わない、自分の肉体のみの技術を持ち出した。
それは功夫。
かつて、自分の前に現れ、疾風のように消えていった友の技術。それを彼の仲間である新たな好敵手に見せつける。
右腕と打ち合った途端、二振りの刀から劃の体の内部にその衝撃を響かせた。
一度目の衝撃からの吐血。
劃の体は兵器であるが人間でもある。
内部への攻撃にはあまり対処をする事が出来ず、口から思わず血を吐いてしまうとその隙を突くようにティフォンの蹴りが劃の顔へと突き刺さった。
それもまた彼の脳を容赦無く揺らすとグラつく視界と共に膝をつく。しかし、膝をついたのにも関わらず片方の刀を振り、ティフォンに対してそれをぶつけた。
それはティフォンの右腕に傷をつけると彼はその一撃が思ったよりも深い事に気づくと彼から少し距離を取る。
右腕から流れる血は痛みを生み、それがティフォンの感覚を鈍らせるがそれは更に彼の心を刺激し、高揚させると闘争への渇望を増幅させる。
一方の劃も脳の揺れが治ると再び刀を握りしめ、ティフォンの一歩先、二歩先へと進みたいと言う気持ち、兵器としてでは無い人間としての成長を羨望し、立ち上がった。
互いに目の前に立つ者よりも前へ、前へと進む思いが彼らの力となり、再び武器を打つけ合う。
衝撃が内臓を破壊し、刀が体に傷を生み続ける。
互いに鎬を削る中、ほんの一瞬だけ、ティフォンの才能が劃の成長よりも速くその開花を見せ、彼は自らの武の完成へと今、至る事になった。
その瞬間を自らで感じ取り、拳を振るう直前に再び交えたかった友の事を思い、彼に対して、そして、目の前に現れた好敵手に対しての感謝を述べる為にティフォンはその一撃に名をつけた。
「破号鉄鋼砲!」
劃の二振りの刀に目掛けて放たれた拳は紛れもなく彼の師であり、友であった李 那須川の拳そのものであった。
「ぐはぁ」
懐かしき友の一撃が敵と成り打ちつけられ、おもわず声を上げると劃は目の前に立つ男が自分よりも先に戦いの極地に進んだ事を瞬間で理解した。
四体を武器とする事で自らの全身を兵器とかす。
那須川が生んだ覇号。
それは彼の守りの意識から生まれた一撃であった。しかし、ティフォンが生んだ覇号はそれとは違うベクトルのものであり、故に破号。
破壊の意識から生まれた一撃。
その一撃によりティフォンの体はその才能全てが完全に覚醒し、それらが指先から全身に周る。
彼は己の武の完成と共に人の踏み出す極限の境地、正しく領域に入っていた。
ティフォンの成長を目の当たりにし、一歩遅れを取ったにも関わらず、劃はニヤリと笑みを溢す。
そんな彼を見ながらティフォンも笑みを溢すとすぐに拳に嵐を纏わし、それ携え走り出した。
(さっきまでのは小手調べって感じか。舐めやがって)
そんな事を思っていたのが束の間、目の前に破壊の拳が現れ、劃はそれを避けると地面にぶつかると共にヒビを作りだす。避けられた途端に蹴りを放ち、それを防ぐとそこから衝撃が内臓を破壊された。
(勝てない。今のままでは確実に勝つ事が出来ない)
そんな事を思ってしまう自分の弱さに嫌気がさすもそれでも劃はそんな自分がいかにも人間的である事を理解するとその弱さを認め、彼もまた成長の極地へと足を踏み込む。
自らの五体を持ち上げながら二振りの刀を構え直し、ティフォンに挑む直前に自らの権能を使い一か八かの賭けに出た。
「権能解放、第三憤怒」
***
「オイオイ、俺を無理矢理使おうなんてムカつくぜ」
目の前にティフォンが襲いかかって来ていた所とは別の場所に居る事に気づき、戸惑うも目の前に現れた赤黒いモヤから放たれた声に応えた。
「お前がこの刀、いや、七つの生命武器殺しの中に居る悪魔か?」
「そんな事を知らずに俺の名を呼んだのか?ムカつくぜ。しかも、よーく見たらお前、支配の兵器か?お前ら何人居るんだよ。また、俺を使わせろって言うんだろ?」
「ああ、俺にはお前の力が必要なんだ。今目の前に勝ちたい相手がいる。だから、俺に力を貸してくれ」
劃が頭を下げた事に赤黒いモヤは少し驚くと再び声を上げる。
「なんだよ。無理矢理使うとか言うかと思いきや頼んでくるだ?それもムカつくぜ。だが、前の二人とは違って使わせて上げるとかじゃなくて勝ちたい相手がいるからってのは少しだけ興味が湧いた。そうだな、少しだけだが貸してやるよ。俺の力を」
赤黒いモヤが劃に纏わりつくと彼の視界は再び薄れていく。
「解き放ってみやがれ、俺の怒りをよぉ」
***
体が燃える様に熱い。
この熱さは体に蔓延る憤怒の力である事を理解し、それを抑えつけようと意識を燃やす。
目の前には自分を好敵手と認めてくれた友であり、敵。
そんな彼の本気に応える為に己の持てる力の全てを使い、東 劃、今がその開花の時である。
体から赤黒いモヤが現れると共に劃はティフォンの目の前から消え、彼の背後に現れると体に巨大な切り傷を生んだ。
白い髪が赤黒いモヤと混じり、その白を染め上げる。
ティフォンは切られたが背後にいる劃に目掛けて拳を放つもそれを彼は最も簡単にいなし、そして、二振りの刀を振るった。
ティフォンは領域へと踏み込んでおり、その反応速度は人が生み出す速度を遥かに超え、ラスコーが絶折神・吽を使った時と同じ程になっている。しかし、その速度を持ってしても劃の攻撃速度について来れなかった。
(右、左、左、右、クソ!切られた!また!反応しきれない!なんだ、さっきとは纏うオーラが違う!だけど!負けたくない!こいつだけには!)
打ち合いは一方的にならず、彼らは自らに傷がつく事を前提に武器を振るう。
互いに限界などはとうの前に超えており、それでも彼らは止まらない。
戦い、闘争、そこから生まれる成長と己の脳を溶かす様な悦、快楽。
それら全てを貪ろうと拳と刀を振り続ける。
いつの間にか二振りの刀は吹き飛ばされ、劃の腕には黒い刀だけになっており、互いに一つの武器を携えていた。
(片腕だけなのにこうも踏み込むタイミングを誤ると首を取られる。この刀の能力は多分ドーパミンの強制分泌によるアドリナリンの活性化。今の俺はアドレナリンで強制的に限界の臨界点をぶっ壊している。あいつを倒すには......)
(いきなり速度が上がったと思ったら刀を振る正確さも底上げされてる。破号を当ててるにも関わらず一切怯まない。さっきまでは当たった瞬間に血を吐いてたが今は全くその素振りを見せない。なら、今から......)
(こいつの限界が来るまで常に高速の斬撃を入れる!絶え間無く!一瞬の間も無く!)
(こいつを屠る為の一撃を狙う。傷がつく事を考えるな!己が持つ全てをその一撃をそこに載せろ!)
互いに打ち合いながら思考し、そこで答えを導き出すと更に激しく拳と刀をぶつけ合う。
違う答えに向かい、互いに互いの攻撃を一瞬も気を抜かずに放ち続けた。
劃はティフォンが反応しきれない程の斬撃を、ティフォンは劃を倒し切る為の一撃を。
己の全てを持ってその一瞬一瞬に費やし続けた。
そして、互いの体に自分の意識とは裏腹に動けなくなる程の限界が唐突に現れ、互いに距離を取り、彼らはトドメの一撃を放つ為に最後の構えを取ると劃がティフォンに向けて喋りかけた。
「次の一撃で最後だ」
「それはこっちのセリフだ、東 劃」
最後の一撃を放つ直前に彼らはお互いに同じ言葉を好敵手の吐き捨てた。
「「お前が先に逝け!」」
離れた距離を一気に詰め、己の目の前に立つ者を倒す為に一撃を放つ。
「権能鉄鋼斬・皇!」
「破号鉄鋼砲・嵐!」
白く輝ける刃に赤黒いモヤがかかり、その一撃は凡ゆる物を捩じ伏せる斬撃となった。
破壊を極めた意識の一撃は嵐の槍を交えて、凡ゆる物を切り裂く砲撃となった。
二つの衝撃は混ざり合い、そして、美しいコントラストを生み出しながら二人の勝負の決着を彩る。
最初に膝をついたのは劃であった。
体の内部に衝撃が走り、彼の内臓の全てを裏返した。
その一撃を見ながらティフォンは自らの敗北を確信する。
彼の体には先程付けられた傷とは別にバツを描く様に傷をつけられ、そこから鮮やかな血が噴き出すとその場に倒れ込んでしまった。
少しして二人の戦士を背中を小さい少女の姿のユリウス・シモンがそれを見つめながら彼らを自分の部下に運ばさせる。
彼らが戦った跡を見ながら少しだけ満足そうな表情をし、一人でに呟いた。
「ティフォン、君が負けるとは思っていなかったよ。でも、君がとても大きく成長出来た事を感じ取れる。今回は君の敗北だ。だが、その敗北すら心地いいんじゃないかな?それと、劃。君には少しだけ褒美を上げる。ティフォンを成長させてくれた事とこの都市を傀儡から守ってくれた事に対する感謝のお礼だ」
彼女はそう言うと再び闇に姿を消し、そこにはボロボロになったビルの残骸のみが残っていた。
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