十六章 首都陥落作戦-第四首都 其の壱-
ティフォンVS劃!
死闘を乗り越え勝利を手にするのはどちらなのか。
「なぁ、劃。この戦いが終わったらお前はどうするんだ?」
第四首都、とある喫茶店にて三人の男女がコーヒー飲んでゆっくりとした時間を過ごしていた。
「そんな事、今聞く必要あるか?」
「ああ、あるね、大いにある。俺はとりあえずブローニャをしっかりとした人間に育てる」
ラスコーはそう言うと何も喋らないブローニャに目をやると彼女がコーヒーを何の表情を変える事なく飲んでいた。温かいコーヒーは体を芯から暖めてくれる筈なのに彼女の表情は冷め切っており、何を考えているのか分からない。そんな彼女を見ながらラスコーは少し悲しそうに微笑むと劃が答えるのを待った。
いつまで自分の答えを待っているラスコーに呆れて劃はため息を吐くと吐き捨てるように答えた。
「そうか、なら頑張れよ。俺はこの戦いが終わったら死ぬからさ」
「本気で言ってんのか?何でお前が死ぬんだよ?」
「俺は人間だよ、紛うこと無くな。だが、それなら俺は人を殺し過ぎた。そんな奴が生きていいはずがない。支配の兵器として、いや、一人の人間として俺は自ら死を選ぶ」
劃の答えに怒りが勝り、ラスコーは机を叩くとドンという音共にそれに穴が開き、大きな声を上げる。
「ふざけんな、そんな事、俺が許すわけないだろ。お前が死ぬ事が贖罪だと思うのか?違うだろ、それは逃げだ。スペクターと話して何か変わったと思ったがそんな事なかったのかよ!」
「違う、逃げる訳じゃない。ただ、俺はこれから人々が生きる為には危険すぎる存在だ。だから、ラスコー、これは俺は俺自身が決めた事だ。全てを有耶無耶にして、自暴自棄になって決めた事じゃない。それまでしっかりと生きて生きて生き抜いて、自分が奪ってしまった物に顔向け出来る様に自分の生を全うする気だよ」
劃の曇り一つない表情にラスコーは反論の余地すら許されなくなり、何も言わずにコーヒーを再び口に運んだ。すると、影の中から影縫がぬるりと現れ、彼らに対して静かに警告をする。
「ラスコー様、劃様。お話をするのはよろしいのですがあまり気を立てないように。ここは埋葬屋の第四首都支部アジトでありますが我々の居場所が相手に知られてしまいます。この首都の長であるユリウス様は常に街を監視しておられます。この首都に彼女の許可なくこの部屋を作れたのは本当に幸運な事ですのでなるべく静かにお過ごしください」
影縫は彼らの会話に割って入ると既に無くなっていたコップの中にコーヒーを淹れ、時計を見つめた。十二月二十三日、時計の針はあと少しで十二を過ぎようとしている。
彼らは最後に注がれたコーヒーを一気に飲み切ると近くに置いていた武器を手に取り、立ち上がる。そんな彼らを見ながら影縫は自らにも発破を欠けるように両頬をパチリと叩き、再び口を開いた。
「それでは皆様。今回隊長を務めさせて頂きます。影縫縫人と申します。あと数刻で十二月二十四日になり、我々は首都陥落作戦を開始します。皆様には私の指示に従って第四首都を堕とします。なるべく全員で纏まって行動しますがよろしいでしょうか?」
「問題無しだ」
「了解」
ラスコーと劃は答えると時間が来るのを待った。
ブローニャは虚な目をしながらもラスコーにピッタリとくっつくと彼は彼女の手を握る。
黒いスーツに身を包んだ四人は互いに互いの目を見て、そして、時計の針が十二を回った瞬間に耳につけたデバイスに三人同時に号令を上げた。
「「「作戦開始!!!」」」
***
扉を開けた途端、そこは空中であった。
劃は予想外の事が起きている事に理解出来なかったがすぐに思考を変え、任務遂行の為に動き出す。
しかし、そんな劃に目掛けて一筋の光が道を描きながら彼の胸目掛けて容赦なく襲い掛かった。
劃はそれを二振りの刀で受け止めるも空中では足場がなく、弾丸の威力を抑える事ができず吹き飛ばされる。
ビルに打ち付けられた途端、漸くし弾丸が止まると高層ビルのガラスに打ち付けられた事に気づき、それを壊して中に入ろうとするも、そんな彼に向かって一匹の獣が空中を舞いながら蹴りを入れた。
劃の体と共にガラスを突き破り、吹き飛ばすと白い礼服に身を包んだ獣が距離を詰め、殺意を込めた拳を放つ。一撃一撃が必殺の塊のような拳であり、それを防ぐやいなや劃の顔に切り傷が現れ、それを見た途端に再び攻撃を放つ。
防戦一方の劃であったが刀の一振りを獣に投げつけるとその一瞬で生まれた隙を突き、もう一振りをぶつける事で距離取った。
すると獣の顔が夜に輝く月明かりに照らされてその輪郭を顕にする。そこには新調した白い礼服に身を包んだ統合政府の守り人であるティフォンの姿があった。
ティフォンは明かりに照らされなが再び劃との距離を詰め、その拳を根源に繋げる為、短く声を上げる。
「生命開放、絶火炎」
終焉の炎を纏いながら鋭く尖った手刀が劃の携える刀と交わり火花を散らした。
炎は夜の闇を照らしながら劃の首を取ろうとするも彼の二振りの刀がそれを拒み続ける。鈍器がぶつかるような鈍い音が闇の中で何度も何度も響き渡り、互いに自らを譲らない。
しかし、ティフォンが炎を纏う拳を振るのをやめた瞬間に両足で劃の刀に目掛けて蹴りを放つ。彼から距離を取ると刀を鞘から抜く、抜刀の構えを取り、そして、同時に口を開き、根源にある新たな武器を引き出した。
「生命開放、絶火炎・抜刀」
火炎は弧を描き、劃に目掛けて正確無慈悲に彼を喰らおうとする。
二振りの刀でそれを防ぐもそれは凡ゆる物を燃やし、切り裂こうとするその姿は悪魔の如き一撃であった。なんとかその一撃を二振りの刀で晒すとビルに炎の斬撃が壁に燃え移ると共に巨大な斬り痕が生まれる。
「なんて言う威力なんだ。と言うか炎が斬撃になる事なんてあるのか?」
劃は思わず一人で呟いてしまうとそれを聞いていたティフォンが威圧するように彼に喋りかけた。
「当たり前だ。俺がそう出来ると思いながら放っているからな。だが、お前も以前よりも強くなっている。以前画面越しから見た時は兵器として磨きをかけていたが今は人としての強さに磨きがかかった。いや、研ぎ澄まされたと言った方がいいか」
「敵に褒められるなんて意外だな。あんたそんな風に戦うヤツだったか?那須川との戦闘記録ではもっと荒かった気がするが」
「ふん、俺は俺だ。変わりは無い。だが、少しだけ那須川との死合いで相手に対しての敬意の払い方を習っただけだ。お喋りはお終いにして始めよう。今はお前と俺の死合いだ」
ティフォンはそう言うと手刀を突きの形に変え、劃に対して自らの前に立つ好敵手として全力を解き放つ。
「生命開放、絶嵐拳・抜錨」
嵐を纏う手刀から放たれた突きはかつて北欧の主神が持った槍の再現であり、ティフォンが放つ最強の矛。
それは劃の刀の防御を全くの無意味なものとし彼の体を一撃で抉り取る。
防いだのにも関わらず、その槍は劃の脇腹を容赦なく抉り、その箇所から生温かい血を滴り落とさせた。
その一撃で彼の警戒心は一気に跳ね上がり、意識の全体をティフォンに一人に傾け、もう二度とそれを食らわない様にと再び刀を構える。それを見るや否やティフォンは微笑む事なく再び先程と全く同じ構えで劃に襲いかかった。
嵐を纏う槍は連続的に放たれると無駄な動きが一つ無く、一方的に劃の肉体を抉り続ける。劃もまた無駄のない動きでそれを止めようとするものの防ぐと共に貫かれ、一方的な状況に追い込まれた。
右腕、左肩、太腿、脇腹、頬。
それら全てに槍は切り傷と穴を生まれさせる。
肉体を兵器する事で自らの治癒能力を上げている劃の体すらあまりの早さで生まれる傷に対処し切れず、大量の血と共に地面に膝をついてしまう。
しかし、劃はその大量の血を眺めながら、それに手を置く。そして、血になられた手を見つめ己の生を理解し、自らの武器を解放させた。
「権能解放、支配式武器庫」
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