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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
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十五章 首都陥落作戦 -交錯-

次週より首都陥落作戦編開幕!

 (クアク)は再び円卓の目の前に立つ。一ヶ月前に座った時とは他の覚悟を乗せて彼は厄災の席に自らの意志で足を運んだ。


「誰だい?君」


「東 (クアク)。それが俺の名前だ」


(クアク)、東 (クアク)か!会いたかったよ東 (クアク)!僕は第七首都首都長アガツマ・ツバキ!初めましてだ!もしかしてバサラが君達に見出していた希望と言うのは君のことだったのかな?」


 ケタケタと笑いながらツバキは目の前に現れた支配の兵器に対して食い気味に質問すると(クアク)は静かに口を開く。


「俺は希望なんかじゃない。ただ、第三首都の人々への贖罪とこいつらを未来に繋げる為に戻ってきただけだ」


 (クアク)にハッキリと答えられ、たじろぐ素振りすらなかった事にツバキは一瞬戸惑うも、それ以上に彼に対する興味と面白さが勝り彼女は自らの右手を差し出した。


「揶揄うつもりで言ったんだけどね。こうも僕の目を見据えて言われると流石に君の勝ちだ。初めてなのに礼節に欠けた。すまない」


「バカ竜王様、礼節などはとうの昔になかったですよ。大体ここに来た時の印象は最悪です。何やってんですか」


 素直に謝罪をしたツバキに対して周りは騒つくも、その横に立っていたメデスがため息混じりに一人でに呟くと彼女はキッと彼の方向を向き視線をやる。


 しかし、彼は知らんぷりをする様に天井を見つめており、それに対してツバキは何も言わずに再び席に座ると埋葬屋の面々が会議を始める事を待った。


 それを見ながらバサラはため息を吐き、彼らが矛を収めてくれた事を確認出来ると中断してしまっていた会議を再開する。


 その後の会議は先程よりもスムーズに行われ、彼らがどの様な動きをするのかをこと細やかに全員に伝わり、ツバキはそれに対して何も言わずに耳を傾けた。


 他の面々も一つ残らず悔いが残らない為に真剣にその会議に参加し、自らの覚悟を確かめる様に聞き入る。そして、全ての決定をバサラが最後に締める様に大きな声で宣言した。


「今回の作戦は三つの都市を同時に堕とすことが大事だ。乱れては行けない。何処かだけが早くてもならないし、遅くてもならない。とても難易度の高い任務だ。それに対して人員の割く故に難易度は更に跳ね上がる。一つの都市に向ける人数は三人。第六首都に俺、行人、イェーガー!第五首都にスペクター、(フー)、スカディ!第四首都に(クアク)、ラスコー、ブローニャ、影縫!これで向かう!決して簡単な作戦ではない。最悪、死人が出るだろう。だが、俺達は立ち止まれないし、終着点(ゴール)はそこでは無い。その先にある未来こそが本当の終着点(ゴール)だ!作戦決行日は十二月二十四日!今から二週間後!全員心してかかれ!そして、それまでに悔いの残らない様に過ごせ!以上!解散!」


***


 バサラはそう言うと円卓から一人、また一人と姿を消し、部屋にはリリィとバサラの二人が残っていた。バサラは作戦の準備の為か端末をいじっており、リリィはそれを見ながらゆっくりと立ち上がり彼に向かい喋りかけた。


「ねえ、バサラ。何か飲まない?ちょうどお菓子を作っておいたからそれと一緒にどう?」


「ふむ、いいな!リリィの菓子は美味いからな。頂くとしよう」


 リリィは円卓の横にある茶室に入る。そして、自分とバサラに珈琲を淹れ、冷蔵庫からプリンを取り出し、スプーンと飲み物と共に目の前に置いた。それはかつて亡き友の好物であり、それを見たバサラ何も言わずにプリンにスプーンを差し込む。


 それはプリンと呼ぶにはとてもそぐわない程に硬さであったがバサラはそれを口に入れ、珈琲と共に流し込んだ。


「十年前を思い出すな。こうやってリリィ、俺、那須と一緒によくここでコレを食べた。懐かしい」


「そうね、あの時席は全然埋まってなかったから。ナハトも入ってきたばっかだし、マガツも死んじゃって、那須川も荒れてた」


 リリィとバサラは和やかに笑いながらかつての友に思いを馳せる。


「那須はよくあそこまで丸くなれたもんだよ全く。ジュダに噛みついては喧嘩して、しまいには一人で任務をこなす。協調性なんてあったもんじゃない。それが(フー)が来てからか一気に変わって色々驚いた。だが、あいつが本当に(フー)の事を思って煙草を止めたのは一番の驚きだったよ」


「そうね、ずっと吸ってたからね。私も吸ってるから何も言えないんだけど。バサラここで一本吸っていい?」


「勝手に吸えばいいさ。今は二人だからな」


 リリィはポケットに入れていた煙草を取り出すとそれに火をつけ、かつて横にいた友を懐かしみながらゆっくりと煙を吸う。煌々と燃える火をゆっくりと見つめながら彼女はバサラに再び話しかけた。


「那須川はさ、あそこで死ぬべきだったのかな」


 リリィは煙草を蒸しながら煙で自らの表情を隠す。自分の表情を見られたくなかったのかそれとも何かを察されたくなかったのか。それに対してバサラは知りながらも何も言わずに彼女の問いに答えた。


「あいつが死ぬべき人間なんかじゃないことは俺が知っている。結論だけ言えばあいつは死ぬべきじゃなかった。だが、それを伝えた上で那須は(フー)を助けに向かった。あいつの選択した行動を俺は否定出来ない。あいつはあいつなりに自分の意志を(フー)に残したからな」


「そう、なのね。うん、そうよね。彼はそう言う人間よね」


 リリィはそう言うとため息を吐くともに煙を吐き、それをぼんやりと眺めながら再び言葉を紡ぐ。


「バサラ、私ね、この作戦が全てが終わったら埋葬屋を出ようと思うの。少し旅をしようと思ってね。三十年前の審判で変わってしまった世界を私は殆ど見てないから。世界中を回ってみたいなって思っててね」


「そうか、楽しそうだな。だが、いつでも帰って来ればいいさ。残った奴は誰かはいるだろうしな」


「バサラ、残らないの?」


「俺か。俺はそうだな。この作戦が終わったら多分、死んでるよ。今回の作戦、いや、ジュダが仕掛けた大博打。これに乗った時点で俺の死は確定してるようなもんだ。何心配するな。那須に早めに会いに行くだけだからよ」


 バサラは自らの死を笑いながら伝えると自らの表情をリリィが吐いた煙で隠し、それ以上何を言うことはなかった。彼ら二人の時間は過ぎていき、巡り巡って交差する。かつての円卓に居た者は殆どおらず、それを憐れむことは無い。しかし、それでも三人で交えた時間は忘れられず、それを再び過ごす時間が無くなった事には寂しさを覚え、彼らは一人が欠ける事の大きさを再び思い出した。


***


 そして、時は過ぎ、運命の日が到来する。

 三つの首都の陥落。

 今から始まるは埋葬屋主席ジュダ・ダイナーが画策した大勝負。十三の席と全ての歯車が埋まり、全ては時計のように動き出す。


 機械仕掛けの神の決めた未来をひっくり返す戦いの火蓋が今切って下される。


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