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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
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十四章 首都陥落作戦 -病室-

語られるスペクターの過去。

かつての恩人から今の兵器への思いは届くのか?

姿形が変わろうと人の魂は変わらず、今意志が受け継がれる。

 スペクターは見知った天井を見ると自分が意識を失っていた事を理解する。(クアク)を止められなかった事を悔やみ、起き上がると横には止められなかったと思っていた(クアク)の姿があった。


(クアク)何でここに?」


 スペクターは自分の失敗により彼を逃してしまったとばかり思っていたものの彼が横に居たことに驚きと戸惑いが混じりに問いかけた。


 (クアク)はそれを見ながら驚く事なく彼を見つめ、ゆっくりと口を開く。


「別に。ただ少し、あの時は俺も興奮していて話せなかったからこうやって顔と顔を会わせて喋ろうと思っただけだ。なぁ、スペクター何で俺なんかをあの時止めたんだ?」


「君と同じ様な人を知ってるからかな。そうだね、少し昔の話をしよう。僕は今のメンバーだと(フー)の次に埋葬屋に入ったんだ。あの時の席は全然埋まってなくてね。僕を含めて八人。那須川さん、バサラさん、リリィさん、影縫、ジュダ、(フー)、そして、もう一人。その人の名前はナハト。ナハト・ファンタズマ。僕の師であり、(クアク)に似ているどうしようもないお人好し」


 スペクターは一人でに喋り出すと(クアク)は何も言わず、目を瞑りながら彼の話に耳を傾けた。


「六年前、僕はジュダに拾われてここに来た。地下都市に来る前は地上に居て、そこで吸血鬼とバレたから追いやられた挙句、両親とも別れてしまってね。一人何とか生き延びた結果、ジュダに拾われてここに来れた。そこで僕は色々な事を学んでそして、彼らが人類の救済を目標にしている事を知り、彼らの手伝いをしたくて無理を言ってここに入った。最初に与えられた席はⅧ。そして、そこでナハトさんと出会ったんだ。最初は僕の事を子供と言って相手にしてくれなかったんだがね。ある任務を境に、ナハトさんは心を開いてくれた。彼女は僕に生命武器の使い方を教えてくれて基本的な戦い方は彼女に習った。厳しかったけど僕が死なない様に、傷つかない様に丁寧にしてくれて、それにあの人は知れば知るほどとんでもないお人好しだったんだ」


「待て、スペクターお前がその人を大切に思っているのも分かる。だが、その人がなんで俺に似ているんだ?お前は自分の尊敬する人間をお前を傷つけた俺と似ていると言っているんだぞ?」


 スペクターが懐かしそうに語る故に(クアク)は自分に似ている所など何処にあるのかと疑問になり思わず口を挟んでしまうもそれすらも慈しむ様にスペクターは再び言葉を紡ぐ。


「そうだな、君に似ている所はその魂の在り方かな?ナハトさんは君みたくガサツじゃないし、自分の道を無理矢理通そうとすることも無い。でも、誰かが助けを求めてるなら手を差し向けて、誰よりも早く他人のために動ける。(クアク)、僕はね、君が傀儡を壊して進むって言った時にナハトさんの事を思い出してしまって少し強く当たってしまった。あの人は任務に私情を挟まない人なのに妙に甘い所があってね。彼女がいなくなった時、彼女は僕を庇って死んだ。目の前で死んだんだ。あの人の武器を使えば、あの時死んでいたのは僕の筈だった。なのに、ナハトさんは僕を庇うために武器を開放せずに壁になってしまったんだ。目の前で崩れる彼女の体と目の前に滴る血。生温かくて、不気味で吐き気を覚える程、むせ返る程の匂い。彼女は僕に自分が使わなかった武器を託して死んだ。人は死に際に呪いを残す。残された者に、深い関わりがある者に。だから、僕は君を止めたくなった。自分のせいで誰かが死ぬのを見たくない。そして、君が彼女同様みんなの呪いになって欲しくない。僕の我儘さ」


 スペクターは語り終えるとまだ快調ではない為か疲れが襲いかかり、静かに意識を落としてしまう。一人残された(クアク)はこの話を聞き何かが吹っ切れたのかすぐさま立ち上がり、その場を去ろうし、そして、去り際に自分が傷つけてしまった友に対して自らの覚悟を述べた。


「お前の思いは分かったよスペクター。ごめんな、俺はどうやら自分の在り方に囚われすぎたらしい。少しだけ自分の事を理解出来た。こんな俺なんかが他人に心配されるなんて思ってもいなかったよ。もしかしたらキリアルヒャは俺が完全な兵器になるのを望んでいたのかも知れないな。そうしたら、俺は彼女の手の上で踊っていただけだったのかもしれない。だからさ、もう一度だけ自分を、仲間を信じてみようと思う。弱くてちっぽけな自分かも知れないがお前みた心配してくれて信じてくれる人がいるって事を知れたしな」


 (クアク)は再び部屋の扉を開け、新たな決意を胸に前へ進む。自らを兵器とした青年は自分を思い、信じてくれた人を知り、己の行動を悔いるながらも華に変えた人々の魂に報いるため大きな一歩を踏み出した。


***


「私を第五首都に向かわせてくれないかしら?」


 円卓を囲う会議は順調に進んでおり、残るは誰がどの首都を堕としに行くかの話になっていた。しかし、その話に入った直後スカディがすぐ様切り込んで行き、周りは呆然とするもそれに飲まれなかったリリィがゆっくりとそれに答える。


「スカディ、どうしてかしら?まだ話を始める直前よ。落ち着きなさいな」


「分かってます。分かってはいるんですけど」


 スカディは自分が少し前のめりになっていた事に気付き、落ち着くと続けて言葉を繋げた。


「ここにはちょっとした用事があるの。だからお願い。私に第五首都を向かわせて」


 そう言うと彼女は頭を下げるとそれに対して(フー)が彼女を宥めるように優しい口調で喋りかける。


「スカディ、顔を上げて。私達は家族なんだから気にする事ないよ。家族のお願いを聞けない人はここにはいないから。その代わり第五首都を堕とすのには私も参加する。スカディはすぐに無茶するし、多分ここにはスペクターも来るし、第五首都を堕とすのはこの三人でいいと思うよ」


(フー)がそう言うなら俺は賛成だぜ。俺は俺の決着をつかれれば取り敢えずはいいから」


「自分も特に言う事ないです。(フー)がそう言うなら大丈夫だと思います」


 行人とイェーガーはすぐに彼らに賛同し、決まるように第五首都を堕とすメンバーは決まったように思われた。しかし、その決定を破るように第七首都首都長であるアガツマ・ツバキが口を開く。


「お前達少し僕達を舐めすぎていないか?そんなに簡単に堕とせると思っているのか?それなら大間違いだ。この三十年間、七つの首都が一度たりとも堕とされなかった。その理由が分かるか?首都長達が強すぎたからだ。特に第五首都。あそこは先代の首都長ヴォーデン。彼の一糸乱れぬ統率と自信の実力で七つの首都の中でも最強を誇っていた。だが、そんな彼を一人で食い殺したモノがいる。それが現第五首都首都長ニエルド。僕はニエルっちって気軽に呼んでるけど彼自身は群れるのが大嫌いだし、いつもジュダにも僕達首都長にも敵意剥き出しだし。昔以上に第五首都を堕とすのは難しくなっているよ。正直、ここの面々全員であそこは対処すべきだと思う」


 ツバキは彼らに警告する。自分達が挑もうとしているものの大きさを理解して欲しく、そして、彼らが自分の力を過信し過ぎない事を伝える為に。しかし、その警告をものともせずにスカディはツバキの目をしっかりと見据えて答えた。


「第七首都長さんそれは百も承知の上で言ってるの。でも、あの人とようやく向き合う覚悟も決まったしこの機会を無碍にしたくない」


「ふーん、君がニエルっちとどんな関係か知らないけど僕は仲間を無駄にしたくないから言っているんだよ。君の私情で隊を乱すのはやめて欲しいな。なぁ、バサラ、君はここにいる彼らに希望を見出していると言っていたよね?僕は君が何故彼らにそこまで手を貸せるか分からないよ。このまま行くなら僕は君達との話は無かったことにしたい。なぁ、バサラ、それでも彼らに任すのかい?」


 ツバキの体からは静かに闘気が滾り始めるとそれを見るや否や、行人、イェーガー、ラスコーが武器に手をやり互いに牽制し合う。そして、ツバキが立ち上がった瞬間、三人が襲い掛かると同時のタイミングでドアが開き、黒いスーツに身を包んだ(クアク)が姿を現した。


「まだ、会議はやってるか、バサラ?」


「よく来たな、いや、ようやく来たなの方が正しいか、東 (クアク)。歓迎するぜ、ようこそ円卓へ」


 バサラは嬉しそうに微笑むと全ての歯車が揃い始めたのを感じ、内心のワクワクを隠しながら彼をⅩの席へと誘った。


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