十三章 贖罪
兵器と人。
兵器を使う人はそれをどう使うかを考える。ならば感情を持った兵器を人は何を思うのか。
東 劃は悪夢から覚めるとそこにはかつて見た事のある天井があり、体をこれまでよりもキツく拘束されている事に気付いた。
「目が覚めたかい、劃?私が誰だか分かる?」
「あんたはたしか、えーと、リリィ。リリィ・サンロードじゃなかったか?」
劃がそう答え、リリィと呼ばれた女性は薄ら笑みを零し、耳に当てていたデバイスに向けて呟くと再び彼に喋りかける。
「御名答。ちゃんと覚えてくれて嬉しいわ、劃。今拘束が強くなってるのは仕方ない事だと思って。スペクターが来るからそこの問答次第ですぐに拘束は解かれるわ。それじゃあ、縛られてはいるけどゆっくりしていって」
彼女はそう言うとその場をすぐに立ち去り、劃は大人しくスペクターが来るのを待った。何もない天井をぼうっと眺めていると数分して黒いスーツに身を包んだスペクターが部屋の扉を静かに開け、姿を現す。何も言わずに彼はすぐに劃の横に置いてあった椅子に腰掛けると彼の目を見つめて真剣な表情で口を開いた。
「久々だね、劃、あの時以来だ」
「ああ、そうだな、俺が負けた時以来だ」
その一言で沈黙が生まれる。彼らは自身の敗北と未熟さを後悔していた。劃は自分が負けていなかったら都市の人々を殺していなかったはずだった事とスペクターが自分を信じて前に進んだのにも関わらず自分の敗北によりその信用を裏切ってしまった事を。スペクターもまた自分の未熟さにより霊王を召喚してしまった事と自分が負けた故に彼がその事を自分の責任の様に感じてしまっていた事を。
互いに互いを気遣うとそこにはポカリと空いた沈黙が一つ、二つと生まれていく。何を言い出そうにも言い出せずにいたものの覚悟を決めたのかスペクターが再び話を続け始めた。
「君が第四首都で集めた仲間達は今は埋葬屋が保護しているよ。全員、君を倒したってバサラさんが見せたら抵抗せず着いて来てくれたらしい。随分信頼されてようだね」
「別に仲間じゃない。あいつらは俺が雇っただけだの傭兵だ。それ以上でもそれ以下でも無い」
「じゃあ、僕達埋葬屋も仲間じゃ無いのか?」
スペクターの一言に劃は一瞬言葉を詰まらせ、言葉を紡げなくなる。たが、彼は誰も巻き込む事は許されないと覚悟を決め、情を捨てたように自分を偽り無理矢理言葉を継ぎ接ぐ。
「そうだよ、お前らも仲間じゃない。あいつらも仲間じゃない。俺にとってあんたらは銃だ。装填出来る使い捨ての弾。だからもう、俺に構うな」
「劃なら何故第四首都の傀儡を壊して回っていた?目立つはずの行動を君は自分の為にやったのかい?本当は人が傷つくのを見てられないからじゃないのか?」
スペクターがそう言った途端、身動きが取れないほどに強く固定していたはずの劃の体が唐突に動き出し、彼の顔に目がけて拳を入れた。
拘束具は自ら外れたように固定するはずのパーツが開けられており、自らの手足を縛っていたそれを蹴り飛ばすと劃はその場を後にしようとする。
しかし、体が拘束具とは別の鎖に縛られると吹き飛ばしたはずのスペクターが電鋸を手に携えならがら立ち上がり、怒りの形相を露わにしていた。
鎖は際限無く電鋸から放たれ、劃を締め上げようとするも彼は両腕に握る刀を抜くと自分を縛り上げようとする何もかもから解き放たれようと切り裂く。
それを見ながらスペクターは鎖に気を囚われた劃との距離を詰め、電鋸を彼の身体目掛けて振り下ろすと劃はそれを刀を振り打ち合った。
電鋸はブゥゥゥゥゥーンと言う凄まじい音を上げながら刀に襲いかかるもそれは悪魔を宿しており、本来であれば折れるはずの細い鉄は折れる事なく刃は欠けるとこなく深淵の鋸と鎬を削る。
ぶつかるたびに甲高い音が鳴り響く。
そんな中、スペクターは彼に殴られた事よりも何でも背追い込もうとする劃に怒りを向けて声を上げた。
「君はいつだってそうだ!何でもかんでも自分で背負って無茶をする!少しはその無茶をやめたらどうだい!」
「うるさいな!無茶なんてしてないって言ってるだろ!お前らは仲間じゃないんだ!俺が何しようとも俺の勝手だ!」
「さっきからそのことを言ってるんだよ、この分からず屋!君が埋葬屋の人達を仲間じゃないって思ってるって言ってんのが気に食わない!僕達は少なくとも君が埋葬屋の円卓に肩を並べた時点で仲間だと思ってる!だから、君にあのビルでの戦いで君に背中を預けたんだ!」
「その結果があれだったんだよ!俺は、俺は人を殺しすぎた、殺しすぎたんだよ。キリアルヒャは俺が人を灰にする触感がわかるように一々あの瞬間だけ感覚を共有してきた。逃げ惑う人々の命を喰らい余分な肉体を灰にし、禍々しくも美しい華へと変える。傀儡を壊した時に出会った少女も俺が殺した。俺がこの人達の未来を奪った!そんなヤツが人並みの感性を持っていいと思うか?そんなヤツが人のように他人に頼っていいのか?なぁ、答えてくれよ。俺は自分を兵器とすることでしか自分を保てないんだよ」
劃はそう言い、スペクターから遠ざかると右腕を胸に突き刺さし、その場に自らが作り出した箱型の兵器を体から取り出した。
それは真っ白であり、何者にも染まらぬほど純白。命を糧に作り出された結晶に劃は二本の刀を箱に突き刺すと音を立てながら箱の中から一つの武器を作り出す。
「権能開放、支配式契剣」
主人の声に答え姿を現したそれは幾つもの刃が連結した剣であった。
スペクターはそれを気にすることなく鎖を放ち、劃を拘束しようとするも彼はそれを容赦なく振るうと剣は七つの連結部が分かれ、竜の尻尾が如き鞭となり、鎖を一振りで全て切り裂く。部屋の壁に切り傷をつけながらスペクターの体にも同じ大きさの斬撃が襲いかかる。
スペクターは自身の能力である物質透過を使っていた。しかし、それは劃には関係なく支配の兵器の権能、その効力による凡ゆる生命武器への特攻である能力の無効化により、スペクターの身体と右腕から血を噴出させる。
唐突に現れた切り傷に何が起きたか分からずその場に倒れ込みそうになるもなんとか立て直し、前を向くと劃は既に鞭を振るっており、スペクターに斬撃を放った。
鞭が七つの斬撃を放つとスペクターはそれをボロボロの体でありながら見切ると電鋸で二つ弾き、鎖で三つ打ち消す。しかし、残りの二つを防ぐことが出来ず、左腕と右足を切り裂かれ痛みにより膝をついてしまう。
「もう諦めろ。結局答えは見つからないんだ。俺は全部の兵器を殺して自分も死ぬ。そこで漸く自分の存在意義を見出せるんだ。じゃあな、スペクター。止めようとしてくれてありがとう」
劃はそう言うと再び背を向け、その場を後にしようとするも鎖が未だに彼を止めようと絡みつき離さない。
劃は何度もそれを簡単に振り払い、そして、部屋のドアの目の前に立つとそこから出ようそれに手を置く。
しかし、唐突に鎖が強くなり彼を動けなくり、何かに気づいた劃は後ろを振り向くとそこには先程まで倒れていたはずのスペクターの姿がおらず、再び武器を取り出そうと動くもそれよりも早く彼の顔に切り裂かれたような痛みと共に体がドアから遠ざかされる。
劃の顔には切り傷が生まれ、血が流れると目の前には拳に電鋸の刃を両腕に巻きつけた身体中が血まみれになっているスペクターが立っていた。
彼は再び電鋸の刃が自分の腕に食い込み血が流れるものそんな事は御構い無しにと劃目掛けて拳を振るう。それを避けようとするも劃の足を鎖が絡ませ一瞬の隙が生まれると再び顔に目掛けて二度目の衝撃が頭を巡った。
「そうやって、無理矢理自分を動かしてるのも知ってんだよ、東 劃」
スペクターは自分の身を食い破る程の痛みが襲いかかるもそれを耐え、口を開くと倒れている彼に目掛けてもう一度拳を放つ。
三度目の衝撃。
劃は自らを兵器と定義し、思い込む事で再生を早めていた。しかし、それにも関わらず自分の体の再生がついてきておらず、防げる事なくスペクターの拳が突き刺さる。
予想だにしないしぶとさ、執念により、劃は膝を突くとスペクターは再び彼に目掛けて声を上げた。
「なぁ、劃。もういいんじゃないか?何もかも一人で背負うなよ。僕達は何があっても仲間だ。だから、さ」
フラフラとした足取りで劃に近づくと彼は言葉を紡ぐ寸前に倒れ込む。目の前で倒れた青年に劃は怒りを向けようとするもその怒りが人である由縁のものと自覚すると彼は再び自分の弱さに打ちひしがれた。
そんな中、部屋の壁こらドンと言う音共に穴が開くと大剣を携えた桜木バサラが姿を現した。二人が倒れる姿を見て何かを察するとスペクターを抱え上げ、劃に背を向ける。
「劃。この部屋はな外からのロックもかけられるが内側からのロックをかけると外からかけた時よりも頑丈に固定され、開けることが出来ないんだ。スペクターはそれを知った上でお前を止めようとした」
「じゃあ、なんでスペクターは!俺を殺すつもりで来なかったんだよ!殺すつもりで来れば幾らでも殺せたろ!」
「あいつの優しさとお前への信頼。違うか?俺はお前と会って数日だから分からないが一回殺った時に気づいた事は一つ。お前お人好しだろ?」
そう言うとバサラは自らが開けた部屋の穴から立ち去って行き、劃は一人その場にへたりと膝を着くと何も言わず天井に手を向ける。
(人に認められたのか俺は?何でだよ、何で、こんな人殺しの兵器に優しくするんだよ)
騒つく心と人としての感性。
兵器と人の狭間で青年は揺れ動き、世界は新たな兆しを見せる。
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