八章 第四首都兵器争奪戦 其の伍
悪魔は囁き、怠惰を欲す。七つの武器に大罪を。人の根源に大罪を。兵器争奪戦編完結間近!!
第四首都防壁内星の塔が一つ「スター」。その一室にてユリウス・シモンはよく温まったココアを飲みながら今宵の喧騒をじっくりと眺めていた。
彼女は都市の全てをドローンで見ており、これまで劃とその仲間達が傀儡を破壊し、市民を守っていた事、様々な出来事を知っていたにも関わらず、統合政府にすら連絡せず、眺めるだけであった。
「一応、この都市を守る為に自分は派遣されたのですが一向に彼を捕まえようとしなかったのは何故ですか、ユリウス様? 」
ティフォンはシモンが眺める画面の光から作られた影の中からゆっくりと現れ、少しばかり小言を言うとそれを揶揄う様に笑いながら彼女は答える。
「ふふ、ティフォンは可愛いね。たしかに君の苛立ちは分かるし、僕が支配の兵器を見逃して、尚且つ、君に追わせない事に何か思うことがあるのも分かる。だが、ここは中立地帯なんだ。彼が僕の絶対権限を無視出来る傀儡共を狩り続ける間は僕は手を出さない。一応、報酬だと思って欲しい。でもね、今夜行われてる宴は違う。市民に被害が出てないだけで人が死にすぎてる。だから、そろそろ動くよ」
シモンはそう言いながら小柄な体を立たせ、部屋の隅にある何かに手をかけるとティフォンはその手をかけた物に異様な空気を感じ声を上げた。
「それは生命武器殺しですか? 」
「ええ、七つの生命武器殺しの一つ、怠惰を司る者、第四の悪魔。今から面白いものを見せてあげる」
彼女の小さな体には似つかわぬ程大きな銃を手に取るとその武器に封じ込められた悪魔を開放させる。
***
「第四首都で争い事を起こした諸君。君達を私は許さない。第四首都首都長ユリウス・シモンがこの場を収めるそこから動くな不埒者共」
ドローンから放たれる少し気が抜ける様な声にカルマは耳を傾けることなく再びスカディに銃を向けると彼に向かって何処からか銃弾が放たれ、体を弾かれると怒りのあまり口を開いた。
「小心者のガキがしゃしゃり出てんじゃ無いぞ。ドローン越しで喋るだけでよくもまぁ、大口叩けるわい。今からお前の事を殺す事にした。待っとれ」
カルマはすぐにその場から立ち去ろうとするも彼に向かい銃弾が飛んでいき邪魔をする。最初は数発程で簡単に対応出来ていたが動こうとすればする程に弾丸の数と精密度が上がっていきカルマはその場を立ち去る事を封じられた。弾丸一発一発に威力は無いもののそれが当たった箇所は生命武器の恩恵を消し、カルマはそれでも老体を無理矢理動かした結果、幾つもの傷と穴を生む羽目となり、それを見るとシモンは再びその場で争った者達に喋りかける。
「動くなと言ったはずだ。私が動くなと言えば動くな。この首都では先代が決めた絶対中立地帯。その地で流血沙汰などとは万死に値するよ。こう見えてとっても怒っているんだ。私が拘束するまでその場を動くな動けば撃つ。迷わず撃つし、必ず撃つ」
しかし、その場のドローンが動かなくなっているスカディとスペクターに近づいた途端、暗い影の底からある一人の男が堂々たる態度で現れた。あまりにも堂々とした態度はまるでこの世全てのものが自分のものであるかの様に巨大な大剣を背中に背負い青年はドローン目掛けて声を上げる。
「怒るなよ、ユリウス・シモン。だが、あんたが決めた中立地帯のおかげで仲間の回収が出来た。だから、この場を見逃してくれたら俺は今はそのまま何もせず立ち去ろう」
青年は唐突に現れたのにも関わらず誰よりも自由に話し、そして、誰よりも堂々とドローン越しのシモンに交渉を仕掛けた。シモンも彼があまりにも堂々と動き回る為、動揺しており数秒間間が出来るもすぐに立て直すと彼を見据えながらなるべく感情を見せない様に言葉を紡ぐ。
「あなたと交渉に乗るメリットが無い。私達に必要な物は情報。逆に言わせて貰うよ、あなたこそ大人しく捕まるべきだよ」
「そうか、なら交渉決裂だ。非常に残念だな、紫門の娘よ」
青年はそう言うと背中に背負っていた大剣を取り出し、地面に突き立てるとその場にいる者たちに自分の存在を見せつける様に宣言した。
「俺は埋葬屋五席桜木バサラ。最強であり自由。最も強く最も神を殺すのに近い者だ! 来いよ、怠惰の悪魔。ほんの少し遊ぼうぜ」
「へえ、私の正体を知っていて尚且つその態度。いいね、やる気十分だよ。ぶち殺してやる」
ビルの中から銃を構えるとシモンは引き金を引くと共にその銃に力と怒りを込める。
「生命開放、第四怠惰」
引き金を引くとガラスを手前に水の様なものが現れ、それに銃弾が引き込まれる。そして、引き込まれた銃弾はバサラの背後へと現れると無防備な背中に襲いかかった。
バサラは首元に当たる直前、笑いながら四角の大剣を振るい弾丸を振り落とす。人が振るうには余りにも大きく、分厚過ぎる棺の様な大剣を彼は簡単に振り回し、当たる直前の弾丸を全て叩き落とした。
カルマの様な達人ですら避ける事が不可能になる程の不可視の弾丸。それをバサラは一つ残らず叩き落とすとまた、何処からか弾丸が襲いかかり、それをも簡単に叩き落とした。
背中に放たれた弾丸を大剣で弾いては目の前に現れた弾丸をも蹴りで打ち返し、死角を取ったのにも関わらず、それら全ては体に触れる事なく簡単に反応する。ドローン越しから引き金を引き続けるシモンですらその反応速度に驚かされ、少しだけ引き金を引くのを止めた。
「少しばかり驚かせられたよ。何だいその反応速度。まるで人じゃないね」
ドローンから機械音ではない音がするとバサラその音がなる方へ大剣を向けるとそれに答える。
「ああ、そうだよ、俺は人間じゃない。夜空を支配する王の血筋だ。ただ、俺は律儀でね、とある約束を守るまでは埋葬屋を守り続ける盾と剣となる。それだから負ける訳にはいかんのだよ」
「そうか、なら全力で僕も君に当たるとしよう。だが、勝負は一瞬だ。引き金は一回引くだけ」
シモンはそう言うと生命を喰らい、根源を殺すため引き金に再び手をつける。
「生命解放、第四怠惰降誕」
その引き金を引かれると共にあらゆる時間を停滞させ、のんびりとゆっくりと銃弾はその場から姿を消す。そして、その弾丸はバサラの心臓の手前に現れるゆっくりと心臓を抉ろうとするも彼は大剣の裏面を前にし、地面に突き刺すとその場の人間達の生命を貪る様に声を上げた。
「第一封印指定を解く。心せよ。魂亡き骸の軍勢がお前らの生を喰らう」
「生命開放、絶夜王・屍人行軍」
大剣の棺が開くとそこから屍人の軍勢が止めどなく溢れ出る。それは背後にいたスカディとスペクター以外の者を喰らう様に襲いかかり「エーギル」の面々はそれを避ける事が出来ず、只々一方的に蹂躙された。
槍で突くも止まらず、弓で射抜くも止まらず、剣で裂いても止まらず、斧を振り下ろしても止まらず、何をしても魂亡き骸の行軍は止まる事なく進み続ける。屍人達の行軍に目的は無く、そこにいる命ある者を喰らうのみ。
また、バサラの心臓はゆっくりと貫かれ、悪魔はその場で爆ぜたのにも関わらず、口から血を出すのみでその場に居た兵士達の命を喰らいながら自らの生命を繋ぎ止めていた。
軍勢が止まり、その場に肉体の形をした者はフレイヤのみでそれ以外の者は一人残らず食い荒らされる。自分だけが残ったフレイヤは呆然としていたが震える足を無理矢理立たせ、部下の仇を討とうとバサラに向かい走り出した。
剣を大剣で弾くと簡単にいなされ、フレイヤは地面に転げ落ち、バサラはそれを見ずに背を向ける。すると、フレイヤは自分の実力不足を痛感すると共にバサラよりもスカディに対して憎しみと苦しみを混ぜた様な言葉を発した。
「スカディ! 何で、生きてるの? ニエルドがあなたは死んだって言ってたのに。何で生きてるの! いきてるなら返事くらいして欲しかった。私を安心させて欲しかった。なのにどうしてなの? お姉ちゃん」
しかし、スカディは既におらず、それを聞いていたのはバサラのみで彼は何かを考えながら影の中に消えていった。
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