五章 第四首都兵器争奪戦 其の弐
夜の王は支配を喰らう。
四角く、太い大剣は一振りするごとに大気を揺らし、破壊の一撃となっていた。二本の刀でそれを受けることを許さず、一撃、一撃が当たってもいないのに劃の内臓を傷つける。
(何だコレ。当たっても無いのに内臓が傷つくのだけは分かる。痛いとかの次元じゃ無い、確実に自分の体内を削られて行く感じ)
夜の王はそれを振り回すだけで劃はそれを一方的に受けるのみ。バサラは彼からの攻撃を許さず、試練が始まり一度たりとも刀を振るわせなかった。
「オイオイ! こんなんじゃ、すぐ連れ戻しちまうぞ、劃! 一度だ! たった一度でいいんだ! さぁ、早く! 」
バサラはそう言うと彼に向かい大剣で突きを放つ。それはあまりにも普通の突き故に劃は反射的に二本の刀で受けようとしてしまった。
けれど大剣の先と刀がぶつかった瞬間、劃は受けたことのない衝撃が襲いかかり、体内にある切れてはいけないモノがぶつりと切れ、目から血を流してしまう。
劃は目の前が真っ赤に染まり、立っていることすら精一杯の中、ようやく大剣を受け止める事が出来るとそのチャンスを逃そうとせず、自分の刀に引っ掛からせ無理矢理バサラの腕から引き離した。
「ほう! 大剣から俺を引き離したか! 悪くない戦術だ! ダメージの限界はあると踏んでいたが中々に我慢出来るな! いいぞ、それなら殴り合いと行くか! 」
劃は喋る事は出来ず、襲いかかるバサラは容赦無く拳を振るう。しかし、その拳を再び劃は避け懐に入る事に成功し、背負い投げを繰り出した。
(ほう! そう来たか! 中々にどうして技が多い! 意外に小回りが効く技術だ! よく見たら合気の足の動きもあるな)
背負い投げをくらいながらバサラはそんな事を考えていると自らの体が地面につく瞬間に足をつけ逆に劃の体を力任せに放り投げる。
投げられた劃は飛ばされるがままに地面に転がると朦朧とする意識の中、ゆっくりと立ち上がった。
「良いじゃないか、良いじゃないか。十二分に実力がある。俺とやり合ってここまで動けるのは中々だぞ」
立ち上がった途端、両手を開くとそれに呼応した様に二本の刀が彼の元に戻って行き、それを握りしめると再びバサラに立ち向かう。
しかし、彼らを囲う様に鎧に身を包んだ兵隊達が現れ、その気配に気づくと劃は攻撃をやめた。
「我らは「エーギル」。第四首都の傀儡殲滅の命を受け、この地に立った。貴様らは何者だ? 返答次第では拘束させてもらう」
声を上げた兵士以外にも鎧に身を包み、顔を隠しており、表情は窺えぬものの彼らが劃を狙っている事だけは確かであった。
「劃、一旦休んでおけ。ここは俺が遊んでやる。なぁ、あんたら死にたくなければここを立ち去りな。あんたら別働隊だろ? 大将様が居ないのは分かってるから」
「隊長が居なくても我らは強い、舐めるなよ」
彼らはすでに武器を構えており、バサラはそれを見てため息を吐くと両腕を前にし、再び口を開く。
「身の程を弁えれないやつはね、蛮勇って言うんだよ」
バサラのその一言を合図に彼らは一斉にその武器に秘められた力を開放した。
「生命開放、海兵隊」
彼らが携えていた武器が様々な形に変わるもバサラはそれを気にせず、不敵に笑みを溢す。槍を持った兵は彼に突きを放つもそれを簡単に掴み上げ、地面に投げつけ、斧を振り下ろす兵は彼にその刃を掴まれ体に拳を入れられる。
拳は鎧を簡単に貫通し、体の内部を破壊すると一人、また、一人と倒れ、その場の凡ゆる武器と敵意が兵器である劃ではなく、ある一人の男に向けらるもそれを悉く潰していった。
半分程を倒した頃、バサラは先程飛ばされた大剣を拾い上げ、再び笑みを溢すと既に闘争心が失せ欠けていた兵士達に襲いかかる。
最初は彼らが狩人であるはずだった。しかし、今はそれが一転して一方的に狩られる側。そこに容赦は無く、夜の王は彼らの悲鳴で己の悦を満たしていく。
「我らは「エーギル」!! 第五首都、いや、全ての首都において最強の兵隊であるぞ!! それが何故! 一人に! 蹂躙される! お前ら! 逃げるな! 武器を! 己の体を持って我らが最強である事を示せ! 」
隊を率いていた男の声に呼応するものは一人もおらず、目の前にいる人の形をした怪物に彼らは背を向け、逃げ惑う。
「なぁ、あんたも逃げたらいいさ。逃げる奴は追わない。背中を向けない限りは殺すが背を向けたってのは敗北の証だ。そんな無防備な奴を俺は許す」
「黙れ!! 」
男は巨大な斧を振り下ろすとバサラはそれを素手で掴み、斧を取り上げる。しかし、彼はもう一つ、仕舞っていた短刀を彼の体に突きつけた。それはバサラの体に僅かながら傷を負わせ、刺された箇所から血が滴り落ちる。
「へえ、やるじゃん」
その瞬間、男の首と体は二つに分かれ、血の雨が降り始めた。先程まで何十といた兵士達は一人残らず消え失せており、そこには動かぬ骸と彼の姿を眺める兵器だけが残っている。
「ふむ、なかなかに良い兵士だ。俺に不意打ちではあるものの血を流させるとは。まぁ、いい!劃、休んだばっかで悪いが行けるか? 」
「ああ、十分だ。あんたに加減が要らないことだけは分かったからな」
そう言うと劃は再び夜の王と対峙した。二本の刀を握る手は震えが止まらず、足も、体もすくんでしまうほどに強く、そして、高い壁に自ら向かっていく事に呆れるほど馬鹿だと感じている。しかし、そんな事よりも彼を乗り越える事が出来れば自分が探している答えが見つかるんじゃないかと思い彼は自ら死地に踏み込んだ。
バサラは向かってくる劃に容赦無く大剣を振るい、それは大気を揺らし再び彼に襲いかかる。劃はそれを受け再び口から血を吐くも気合で持ち堪え、二本の刀を大剣に漸くぶつける事が出来た。
「ほぉ! 耐久性能が上がった訳でも無いのに自分から地獄を耐え切ったか! 」
彼が再び大剣を振るう前に二本の刀を振るう。
途切れる事なく、何度も、何度も、その刃を打ち付け、バサラに防戦を強いると彼は更に速度を上げていった。
劃はバサラが大剣を振るう速度が自分が刀を振るう速度よりも少しばかり遅いだけで一瞬でも気を抜けばやられる事を理解しており、力の限りに振り続ける。
刃と刃が混じり合う度、火花を散らし、黒い夜に甲高い音が鳴り響く。そして、何十もその武器を振り回した後、バサラが彼に笑いながら喋りかけた。
「劃、合格だ。お前は強い。答えはすぐに見つかるよ」
そう言うと彼は大剣を握りしめ、夜の王としての格の違いを劃に見せつける。
「生命開放、絶夜王」
その一言を聞いた瞬間、劃の意識は何処かへ落ちてしまった。
感想、レビューいつもありがとうございます!
嬉しくて狂喜乱舞です!
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします!
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます!




