二章 歯車
歯車は回り続ける。その身、その心、その魂が壊れようとも歪に、無理矢理、回ろうとする。
第三首都地下にてラスコーと劃は急いでその場を離れるための準備をしていた。自分達を追って来る刺客がいつ現れるかは分からず、その場を後にする必要があり、アシモフが残した最後の遺産である飛行機を調整している。
「とりあえず、これで動く筈だ。自動操縦もあるからいつでも行ける。劃、とりあえず第四首都に向かおう。あそこは中立地帯だ。体を休める分には丁度いい」
ラスコーはそう言うと事切れたようになっていたブローニャを抱え、飛行機の中に乗せると彼もその中に乗り込んだ。劃は那須川を見殺しにしてしまった事、都市の人間の殆どを殺し尽くした事により、満身創痍となっており、フラフラとした足つきでそれに乗り込もうとすると背後から気配がし、腰に差していた刀に手を置いた。
「待って、待って。私はあんたに興味は無いし、追ってきた訳でも無いから。ただ交渉しに来ただけだ」
彼の背後から巨大な銃を携えた年端もいかない少女が現れ、劃は警戒心を強めた。しかし、少女に敵意が無いことだけは理解し、刀から手を離すと彼女の言葉に応える。
「物騒な物持ってるのに警戒するなは無理があるだろ。一体何が目的だ? 」
劃がそう言うと少女は彼が自分の話を聞いてくれそうだと気付き、嬉しそうに銃を置くと口を開いた。
「私は来栖エルザ。前まで凪良に雇われてたスナイパーだったんだけど今は雇い主がいなくてね。どうだ? 私を雇わないかい? 」
小さい体を一生懸命に背伸びする姿を見て、劃は迷うも飛行機の中から中々乗り込まない彼を心配し、外に出てきたラスコーが喋りかける。
「おい、劃、時間が無いんだ。速く乗れってオイ、あんた誰だ? 」
彼はすぐさまダガーナイフを抜き、両腕を前に構えると彼女は嬉しそうに声を上げた。
「ラスコーかい? 良かった、良かった! 話が分かる奴が来てくれて何よりだよ! 私だよ、私」
少女はぴょこぴょこ飛び跳ね、横に置いていたライフルをラスコーに見せるとそれがかつての戦友のものであり、その面影を重ね目を見開く。
「まさか、エルザか? てっきり死んだかと思ったぞ」
「いや、死んだんだよ。私、実際、数十分前に体に腕突き刺されて死んだんだ。でも、私の生命武器がそれを回避してくれたらしいくてね。目覚めたら体が小さくなってたからあんたらがこそこそ準備していた所に行ってみたらそこにいたんだ」
少女は嬉しそうに語るも劃の警戒心は上がる一方でそんな彼を見てラスコーは再び口を開く。
「とりあえず、ここは危険だろうし脱出しよう。あいつらの追っ手を巻くチャンスだしな」
「そうだねー、妹背山が全世界に仕掛けた傀儡が起動してゴチャゴチャになってるから逃げるなら今のうちかも」
「傀儡が何だって?今外はどうなってるんだ?」
エルザの言葉に反応を示し、彼女は少し驚きながら自分が知っている情報を彼らに簡潔に伝えた。
妹背山が死んだ後に世界中に仕掛けていた傀儡が起動し、各都市を攻撃し始めると多くの人間がその強襲をくらい、統合政府は現在その対応をするためこの場を既に去っていると言うことを伝えると劃は少し考えたのちに彼女にある提案を切り出す。
「来栖エルザ、あんたを雇いたい。今の俺には少しでも同業者が必要だ。この飛行機に乗せてやるから俺達と一緒に来てもらう。但し、裏切ったりした場合は即刻、俺の手で処分する」
劃は右腕で刀を抜き、エルザの首元に置くと彼女は嬉しそうに笑うとその条件を飲んだ。しかし、そんな彼女とは対照にラスコーはナイフを構えたまま劃に喋りかけた。
「劃、お前何をする気だ? お前の目的がハッキリしない。何故、急に彼女を雇った? 」
「第四首都にいる傀儡を壊し尽くす。そこにいる人達を助ける」
彼の言葉は少しばかり機械の様、無機質になっており、それを聞いていたラスコーは悲しそうに答える。
「俺達はあそこに体を休めに行くんだぞ? それと、お前は誰からも狙われてる兵器だ。そんな奴が目立つ様な行動を取ってみろ。お前を狙いに統合政府の面々がお前に襲いかかってくるぞ」
「関係ない。俺は俺が殺してしまった人々に報いなければならないんだ。知らない人、無垢な子供、全て殺し尽くした。なら、少なくとも今生きてる人を助けないと。助けて、助け尽くして、俺も、この世界に生まれ落ちた兵器も全て壊し、殺す。俺はそのための兵器から歯車に成り下がる」
彼の言葉に何も言えずラスコーはため息を吐くとボロボロの劃を見つめた。黒いスーツはボロボロで所々擦り傷だらけ、顔に生気は無く、死が染み付いている。ラスコーは最初に出会った彼と大分変わってしまった事に悲しくなりつつも彼をほっとけなくなっておりある条件を繰り出した。
「お前のその考えには賛同できない。だが、ブローニャを壊すのは後にしてくれるのであればお前の手助けをする。彼女は今何も出来ない、生きる指針が無い。これを飲んでくれれば俺はお前の犬にでもなってやる。これが俺の最大限の譲歩だ。もしこれがダメならこの飛行機を今、自動操縦で飛ばして彼女だけを逃す。言っておくが二人相手に時間稼ぎくらいは出来るぞ」
劃は少し悩んだ後に刀をしまい、彼の前に手を出すとゆっくりと口を開く。
「いい、それであんたが味方になるなら、それで。行こう、ラスコー。人が死ぬのはもう懲り懲りだ」
劃はそう言うとラスコーの後ろにある扉へと向かって行き、二人も飛行機に乗り込んだ。
大きな轟音と共に飛行機はその翼を広げ、夜の世界を駆け巡る。そして、二人の兵器と二人の契約者は第三首都を後にし、中立を驕る第四首都へとその足を運ぶ事になる。
***
三週間後。
第四首都郊外。
夜の街に傀儡は徘徊し、逃げ遅れた人々に襲いかかる。そんな彼らを見つけるとビルの上から白い天使は吐き捨てる様に呟いた。
「ここ多いな、傀儡」
そう言うと襲いかかる地面に目掛けてその身を投じ、逃げる人々と傀儡との間に現れると彼は二つの刀を握りしめ、その力を解放する。
「権能解放、支配・刃」
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