幕間 勿忘草
二部完結!!!
残された者、託された者。
全ての人間を巻き込んで次なる一歩を歩んでいく。
意識を失った兵器の出来損ないをボロボロの傀儡の体を引き摺りながら、抱え運ぶ。
既に、体は死に至る直前である事を理解し、妹背山は何とか彼だけを生かそうとビル群を抜けるも目の前に二つの影があり、それを見て何かを悟ると兵器の体を優しく置くと両腕を上げ口を開いた。
「降参だ。僕達の敗北だよ。はぁ、何とも度し難いなぁ。知ってるよ、後ろにいるんだろ? ペトゥロ・アポカリプス」
彼らの背後にも二つの影が伸び、二つの兵器が現れるとその言葉を聞いたペトゥロは彼を見ながら優しく答える。
「ああ、久しぶりだね、妹背山。二十年ぶりかな。何より、ここまで凪良の子守大変ご苦労。だけど、彼は本当の凪良には成れない紛い物だったらしいね。彼との約束は果たせそうに無いな。妹背山、一応、助け舟を出そう。彼を手渡せば命だけは助けてあげる」
ペトゥロの優しい囁きを聞き、妹背山は笑いながらボロボロの腕を上げ中指を立てるとベロを出しながら体から刃が付いた尻尾がペトゥロに襲いかからせる。しかし、それはティフォンに切り裂かれると妹背山は最後の呪いを残す為に声を上げた。
「ああ、完敗だ! 完敗だよ! ペトゥロ・アポカリプス!! だけど、これからの君達に囁かなプレゼントを用意した。私のいない地獄を楽しんでくれ!! 」
妹背山はそう言うと自らの首を切り裂き、傀儡の動力を停止させるとそれはガランと言う音ともに抜け殻の様に転げ落ちる。既にそこに妹背山の魂は無く、異様な空気が流れるもその空気をダルタニャンが持っていた端末から鳴り響いた音が切り裂き、それを取ると彼は直ぐにその端末をペトゥロに手渡した。
電話の主は彼の右腕のリャン ソフィアであり、彼女は何かに怯えつつも興奮気味で今自分に起きている状況を伝える。
「ペトゥロ様、大変な事が起きております! 七つの首都に大量の傀儡が現れました。数は数え切れません。各都市も唐突な出来事で対応が遅れ、大変な事になっております! 」
そこでソフィアからの連絡が途切れるとペトゥロはため息を吐き、すぐに凪良を抱え上げ、三人の従者に命令する。
「ダルタニャン、エルダーズに連絡。至急、首都長会議を行う。それと各都市に於ける防御壁を展開、急いで人々を非難させろ。左門、ティフォンは私と共に第一首都にいる傀儡の殲滅及び人々の避難をさせる。急ぐよ、人類を救うための計画なのに肝心の人類が居ないとなると色々困っちゃうだろ」
***
少女は見知った天井を虚な目で見つめるとこれまであった出来事を思い出す。ペトゥロと戦った事、自分の弟に出会った事、彼に敗北した事、そして、一番忘れてはいけない人を忘れてしまった事。
彼女は長い眠りから目を覚ますと塞がっている傷を確かめる。そして、自分の体に仕舞っていた壁を出し、それに手を置き、これまでの記憶を辿り始めた。
辿えど、辿えど、あの人の顔も名前も思い出せない。少女の目には涙が溢れ出るもいつもなら必ず横にいてくれた名前も知らないあの人がいない事に気がつく。
おかしい、何かがおかしいと部屋の外へと出ていくと少女の姿を見つけたリリィが彼女の下へ行くと体を強く抱きしめ何かを喋っていた。
しかし、少女にはその声が聞こえず、彼女の耳元でボソリと呟く。
「思い出せないあの人は? 何処にいるの? あなたがリリィって言う人なのは分かるの。でも、私を助けてくれたあの人は何処にいるの? 私、その人に謝らないといけないの。何処? リリィ? 何処? 」
少女の言葉を聞き、リリィは寂しそうな表情を浮かべるも何も言わずに彼女にUSBと栞のようなものを渡すとその場から立ち去ってしまった。
リリィの首には今まで着けていなかったペンダントの様な物が巻かれており、それを見て少女は何故か心が痛んだ。すぐに彼女は部屋に戻り、USBを壁に繋げ、そのデータを読み取ろうと腕を置く。
するとそこにはカメラに喋りかける一人の青年の姿があった。
「あー、あー、これ撮れてる? 本当かな? まぁ、いいや! やぁ、勿! これを渡したって事は僕はもう居なくなっているんだろうね!」
その声を聞くと勿は自分を助けてくれた青年の姿をハッキリと思い出し、涙を流すも彼の言葉をよく理解出来ず、感情を表せなかった。
「本当は直接伝えたかったんだけどね。でも、こうなる事はなんと無く分かってたし、僕自身も後悔は無いかな! ふふ、なんか照れるなコレ。ねぇ、勿、君は僕と初めて会った時の事を覚えてるかい? 僕はハッキリと覚えてるよ!あの時の君は本当にどうしようもなく弱々しくてね。殺してって言ったの覚えてるかな?忘れん坊だから覚えてないかもしれないけど。僕はね、あの時君を救えたから今の自分があると思ってるんだ!! 」
那須川が一人でに喋る映像が頭の中に流れてくるも彼女は彼が既にいない事を漸く理解すると絶望し、彼女の心はかつての様に無になっていく。
彼が初めて埋めてくれ心も、彼が埋めてくれた楽しい記憶も、全て、全て、もう戻らなく、そして、彼が埋めてくれない、彼に埋めてもらえない、そう頭で理解した途端、勿は生きる気力を無くしてしまい、全てがどうでも良くなっていった。
そんな彼女とは対極に那須川は元気に喋り続け、それを見る事も辛くなった勿はそれを切ろうとした瞬間、彼が栞を出し、それについて喋り始める。
「長いからって切ろうとしちゃダメだからね! 本番はこれからだよ!これは僕がいなくなった時に誰かに渡しておくモノだから説明させて! これはね、僕の手作りの栞なんだ! 凄いだろ? 戦い以外にも出来ることがあるんだぜ。それはそうと勿はこれから色々な体験をすると思うんだけどそこで知識が無ければその体験も面白味にかけると思ってね! だから、この栞を使って沢山の本を読んで欲しいんだ。僕はジュダに本を読めって言われて色々読んだけどあんまり意味が無かった。でもね! 勿には絶対意味のあるものになるはずだよ! 君はこれから長い人生を過ごしていく筈だ。だから、決して挫けず、みんなと頑張って欲しい」
勿は彼の言葉を聞けば聞くほど自己嫌悪に陥り続け、自分の頭を壁で潰してしまおうとすら考えていた。那須川はデータであり、本物では無い。それが彼女の心を余計に蝕んでいく。
辛い、辛い、辛い、辛い、辛い、辛い、ごめんなさい。これらが常に頭を回り続け、自らの首を絞めていく。しかし、そんな彼女にデータである那須川は優しく最後の言葉を残した。
「もしかしてだけど勿死のうなんて考えてない? それだったら僕は嬉しいな! そんなにも僕のことを思っているなんて! でも、そうでなくても僕は嬉しいな。君が僕が居なくても立ち直ってるって事はとっても成長したって事だしね! ねぇ、勿、君にあげた栞はね、押し花がついてるんだ。その花は勿忘草、日本名は勿忘草。君の名前がついているだろ? 忘れん坊の勿にピッタリ。冗談はさておき、花にはね花言葉ってのがあるんだ。花に意味を残す。うん、いい事だ! そして、その勿忘草の花言葉は「私を忘れないで」! 君の名前の意味にも同じ事を込めている。みんなに忘れらない立派な人に育って欲しい。そんな意味込めて、勿ってつけたんだ。なんだか一人で喋ってるのに色々溢れてくるな。最後に勿、君の行く末を見届けれないのは寂しいけど、君がいつか本当の自由を手にして、本当の愛を見つける事を信じてる! それまで、皆と一緒に色々な事を学び、間違い、そして、一杯皆に甘えるんだ。君の飢えは彼らが満たしてくれるし、いつか、自分でその飢えを満たす手段を見つけれる筈さ! 勿、僕は君の家族になれたかな? 立派な兄になれたかな? ふふ、僕は君のお陰で満たされた。ありがとう」
その言葉を最後に彼が残していた様々な記憶が勿の脳裏に記憶され、それらは体に眠る獣が全て飲み込み、喰らう。それでも、彼と共に過ごした忘れられない記憶となり、彼女の目には大粒の涙から溢れて大きな声を上げながら泣き叫んだ。
勿を救った英雄はおらず、しかし、彼女の記憶には、彼らの記憶には残り続けるであろう。
「ごめんね、那須川。私、私、弱い子だった。あなたが思ったよりも弱くて成長出来てなくて、期待を裏切ってしまった。でも、それでも、前に進もうと思うよ。あなたが残してくれた多くの希望と共に私はこの歪で完璧じゃない世の中を変えて見せる。だから、見てて。それまでは絶対に死んだりしない。これは私が背負うべきはじめての罪であり、受けるべき罰。ありがとう、那須川、本当にありがとう」
勿はひとりそうつぶやくと再び目からは涙が溢れ、泣きじゃくる。しかし、幾分かして泣くのをやめて、涙を拭くと彼女は新たな決意を胸に新しい一歩を踏み込み、部屋から飛び出していく。
部屋にはかつて弱かった頃の少女が置いてきぼりにされ、未来に進む彼女を見て寂しそうに微笑むと彼女もまた何処かへと去っていった。
***
第四首都郊外。
夜の街に傀儡が徘徊し、逃げ遅れた人々に襲いかかる。そんな彼らを見つけるとビルの上から白い天使は吐き捨てる様に呟く。
「ここ多いな、傀儡」
そう言うと襲いかかる地面に目掛けてその身を投じ、逃げる人々と傀儡との間に現れると彼は二つの刀を握りしめ、その力を解放する。
「権能解放、支配・刃」
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