四十三章 第三首都事変 其の拾玖
二部完結間近!
遂に訪れる終わりの瞬間。
男の生き様をその目でお確かめください!
「マスター? 返事をしてください、マスター。ヒュードル? ピエール? ラスコー? 返事を、返事を、皆さんの指示が無ければ私は動けません。マスター?いやだ。マスター、私に指示を、私に命令を」
ブローニャはデバイスに話しかけるもそれに答える者は誰一人おらず、光に包まれたアシモフは彼らと同じく動かな屍となり彼女はそれを理解すると頭を抱え動けなくなってしまう。そして、その隙を突き左門は彼女にこれまでの怒りをぶつけ様と顔は目掛けて容赦なく回し蹴りを放った。
しかし、それはブローニャの顔に当たる直前、二つの刀が弾き返し、彼女を守る様に劃が立ち塞がる。
「へぇ、僕の召喚したおもちゃ全部壊して来たんだ。少しはやるじゃん」
「うるせえ、ガキンチョ。お前を倒してさっさとあの青白い奴も殺す」
「青白い奴だと?お前の目は節穴か?あれはペトゥロだ。やはり、あれくらいで死ぬわけなかった。ペトゥロは死を克服したんだ」
左門は何かに囚われた様な口調でそう言うと両腕を前に構え、ペトゥロに仇なすものを全て殺す勢いで劃に攻撃を放つ。
左門の蹴りは一撃で劃の防御を突き破り、吹き飛ばすと左門の背後に浮かんでいた魔法陣から腕が伸びそれが彼を叩き潰そうと襲いかかった。何度も、何度も、叩きつけ、劃はボロボロにされるもその腕を切り落とし、左門に近づくと彼の首を切り落とそうと支配の権能を解放する。
「権能解放、支配」
天秤が彼の言葉に呼応し、彼らを囲う様に大量の武器が姿を現す。それを左門に目掛けて放ち、劃は彼が前が見えなくなっている隙に勿を助けようと動くも魔法陣の一つが彼女を守っていた。
劃は召喚された腕の拳を両方の刀で受け止めるもその力強さは先程の比ではなく勿から遠ざけられてしまうとそんな彼に追撃をかける様に武器の雨を抜けてきた左門からの蹴りを受ける。その蹴りもまた小細工を用いられた事による怒りが力へと変わっており、劃の防御を簡単に打ち砕くと彼を更に勿から遠ざけた。
「殺すぞ、汚れた手で姉ちゃんに触ろうとするな」
「何だって? 姉ちゃんだと? 何言っているんだ、お前? 」
劃の問いに答えることは無く、左門は何度も蹴りを放ち、彼の体の弱点を容赦なく、抉る様に攻撃する。劃は既にラスコーからの連戦により体力の底がついており手足を動かす事が出来ず、防御が遅れ顔に蹴りを受けてしまった。
それにより一瞬だけ意識を失ったその隙を左門は逃さず、彼の脳天に踵を落とし、ドンとう言う音共に地面へと叩きつける。
「ふん、そんなボロボロの体でよく僕に勝てると思ったな。自分の実力も測れないなんてなんとも愚かしいんだ」
左門は倒れている劃を何度も何度も蹴りつけ、これまでの自分の失敗を彼になすりつける様に強く、激しく蹴るつけた。しかし、それは左門による慢心、及び、劃が支配の兵器であった事により気づけた一縷の希望。
彼の興味の全てが劃に向いた隙を突き、影縫縫兎は勿の下へと現れ声を上げる。
「勿様の確保完了しました!皆様この場に集まって下さい!」
しかし、彼の目一杯の声に反応するものはおらず、ジュダは既にペトゥロに首を掴まれ動けなくなっており、劃は左門の蹴りにより意識が朦朧としていた。そして、彼の声に気付き怒りと殺意のみをドリップした左門が影縫の下へと向かっており、彼自身も唐突に上空から放たれた一閃に右肩を貫かれしまう。
(この角度からの射撃。こんな芸当が出来るのはただ一人しか知らない)
影縫はそう思うと自分に迫る左門よりも上空を見上げ、そこには一機のヘリコプターが空いており、そこから巨大なライフルを携えた老人が再び彼の顔に照準を狙いを定めている事に気づいた。
「影縫よ、私の存在に気づいたのは良いが目の前にいる左門様を無視するとはまだまだ修行が足りないな」
ヘリコプターから身を乗り出し、ダルタニャンは再び引き金を引く。彼はかつての弟子であろうと主人の障害になるのであれば容赦無く敵としてそれを排除する。
放たれた弾丸と襲いかかる左門。
絶対絶命の中、左門よりも速く自分に到着する弾丸を自らの影で止め、影縫は両腕を前にし、左門の蹴りを自ら受け止めようとした。しかし、影縫の前に一つの影が現れ、それは左門の顔に蹴りを入れると彼を地面に叩きつけた。
その影は隻腕であり、体には所々に穴が空いている。既に肉体と精神の限界は超越し、その先へと至った那須川の姿であった。
左門はその姿を見て、更に怒りが彼を支配していき、地面に叩きつけられたのにも関わらず、一瞬にして立ち上がり、その反動を利用し、那須川は目掛けて蹴りを放つ。それを那須川ボロボロの腕でありながら隻腕で簡単に受け止め、足を掴み上げると彼をペトゥロ目掛けて投げつけた。ペトゥロは投げ飛ばされた左門を受け止めると那須川は劃の下へ近づき肩を持ち上げ、彼を眠りから覚まさせた。
「劃、こんな所で寝てちゃいけないよ。君たちは今からが勝負なんだ」
起こされた劃は膝を震わせながらも立ち上がると再び刀を握りしめ再び両目に戦う意思が宿り、それに答える。
「何言ってんだよ、那須川。あんた一人では行かせねえよ」
そう言うと劃は二つの刀を携え、那須川の横に立った。そんな劃を見て那須川は彼に笑みを溢すとそれを合図にしてか彼とその横で心を失った闘争の兵器をボロボロの軍服を着た男が抱え上げ、その場を離脱するために残った力を開放する。
「生命開放、絶折神・電」
その言葉を最後に二人の兵器は姿を消し、そこには那須川と影縫、そして、ペトゥロと左門だけが残っていた。
「ふむ、何ともまぁ、悪足掻きを。李 那須川よ、無駄な事をするね。自分の身が惜しくないのかい? 」
ペトゥロはジュダを横に寝かせると今にも襲いかかりそうな左門を手で止め、彼の心を揺さぶろうとするも那須川の覚悟は既に決まっており、その質問をあえて答えなかった。そんな彼に影縫は左門の間合いからギリギリまでの所まで近づくと那須川に願う様に喋りかける。
「那須川様、今なら間に合います、ご同行を。ジュダ様は死んでおりません。あなたがいれば埋葬屋は何とか立て直せます。なので、今は撤退を」
しかし、彼の願いを那須川は聞きつける事はなく、一度だけ気を失っている勿を見るとすぐに前を向き、それ以降彼の方を見る事なかった。
「影縫、最後に聞きたい事があるんだ。いいかい? 」
「何でございましょうか? 」
「僕と過ごした時間は楽しかったかい? 」
那須川は後ろを向かず問いかけるも影縫は彼が笑っているように感じ、こぼれ落ちそうになる感情を抑え、静かに答える。
「勿論です。あなたと過ごした二十年間はとても有意義で素晴らしいモノでした」
「そうかい、ならなかった! それじゃあ、先行ってるからさ。そんなに速くこっちに来ちゃダメだからね、影縫! 」
彼の言葉を聞き、影縫は頬を濡らしながらも勿を影にしまいその場を去ろうとした。瞬間、彼に目掛けて一つの凶弾が襲いかかり、影縫の顔を完全に弾き飛ばす筈だった。
しかし、それは影縫の顔に当たる事は無く、凶弾は那須川が素手で受け止め、それをヘリコプターの羽根に目掛けて投げ返しすとヘリコプターは羽根を貫かれ機体のバランスを崩し、そのまま遠くへと墜落してしまう。
また、影を目掛けて攻撃を放つ左門が既に影縫の近くに移動しており、彼は影に目掛けて容赦無く蹴りを放っていたのにも関わらず、そんな彼を影に近づける事なく蹴りを放つ。
「神・覇号鉄鋼斧」
那須川の踵落としは再び左門の体を地面に打ち付けると既に影縫達の影はおらず、それを見て左門は怒りをぶつける様に彼に襲いかかった。その攻撃を那須川は笑いながら自らの最後の晩餐の如く味わう様に受け止め、彼を圧倒する。
左門は目の前に立つ男がついさっきまでとは別次元の存在になっている事を理解するとペトゥロがいる場所まで距離を取った。
「なんだもう限界なのかい? これならティフォンの方がよっぽど強かったよ!! 」
「黙れよ!お前のせいで姉ちゃんが遠ざかっちゃったじゃないか! お前が邪魔しなければ! お前が邪魔しなければ! 俺は姉ちゃんの飢えを満たされたのに! 」
左門は的を得ない答えを返すと那須川はそれに対して彼に怒りを向ける。
「違う! お前じゃ、あの子の飢えを満たせない。お前が満たそうとしてるのはお前自身の飢えだ! お前だけの愛の飢えを満たすために勿を利用しようとしているだけだ!あの子の飢えは僕達が満たした! これからもそうだ。彼女はいつか必ず自分で自分の飢えを満たせる様になる時が来るはずなんだ。だから、それまでは必ず彼らがそれを補ってくれる。僕はその為の贄だ。彼ら、彼女らが前に進む為の未来への投資だ! 僕は李 那須川! 埋葬屋三席であり、勿の兄! 兄妹としての役割を果たすためにお前らに立ち塞がる者だ! 」
彼は啖呵を切ると隻腕を広げ、何処からか一本の鉄棍が現れそれを握り口を開く。
「同化、均衡」
鉄棍は黒い服へと変化を遂げ、那須川の体を包むと彼は自分の限界を引き出す為、その最後の力を開放する。
「生命開放、絶均衡!! 」
その声に呼応し、ペトゥロと左門の首に鎖が巻かれ那須川同様、経済に囚われる囚人へと彼らを陥れた。
「何だ? これ? クソが!!! ペトゥロに鎖なんて巻きつけやがって舐めてるのか? 」
左門は声を荒げるも那須川は既に最後の一撃の準備を済ましており、彼らを笑いながら見据え声を上げる。
「ああ、僕の最後の開放だ!存分に僕の経済の中で遊んでくれ!」
那須川は左門に向かい最後の一撃を放とうと疾走する。左門と那須川の目の前にコマンドが現れるも、互いに攻撃以外の選択肢は無い。彼らの頭に防御の文字は無く互いに最大の一撃を放とうと口を開いた。
「召喚、召喚王!! 」
「神・覇号鉄鋼山!!! 」
召喚王は那須川の体を一撃で潰し、左門は一方的な勝利を確信し、背を向ける。しかし、再びその慢心が彼の命を奪う瞬間となり、召喚王の腕が破壊された事に気づくと後ろを振り向く。
その一撃、神をも屠る鉄とならん。
那須川の背中は左門にぶつかるととてつもない音共に彼の体を宙に浮かせ、音を置き去りにする。
ペトゥロは自分に迫って来る左門を避けようとするも人の作りし鎖がそれを逃さず、彼ら諸共吹き飛ばすとそこには那須川のみが一人立っていた。
ボロボロの体は既に動かす事は出来ず、彼は一人自分の魂が燃えゆく事を理解するとこれまでの人生の全てが頭の中を過ぎって行く。
ジュダとリリィ、イヴと過ごした幼少期の記憶。
埋葬屋として身を粉にして働いた青年期の記憶。
そして、勿と出会い、自分が戦い以外に満たされるものを知り、埋葬屋の皆を大切に思い始めた記憶。
流れる記憶は辛いものもあり、悲しいものばかりであったが、その中でも彼はほんの少しだけあった幸せの瞬間は尊く、満たされるもので一杯になっていた。
(ああ、何とも満たされる人生だった。ふふ、うん。僕は幸せ者だ! あー、それでも、うん、勿が本当の幸せを見つける所を見届ける事が出来なかったのは少しだけ、ちょっぴりだけ残念だったな)
男は最後にほんの少しだけ涙を流し、魂の灯火は消え意識は根源へと還っていくも、彼は自分の全てを守りきり、彼らの未来を灯し続けるであろう。
彼が動かなくなってから幾つも経た無い内に怒りに全てを支配された左門が血を吐きながら声を荒げた。
「クソが! クソが! クソが! クソが! クソが! クソがクソが! クソが! クソが! クソが! クソが! クソが! 何なんだ、今のは! 吐き気がする! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! ぐちゃぐちゃにしてやる!!!!!!! 」
怒り狂った左門はペトゥロよりも速く立ち上がり、既に動かなくなった那須川の体は目掛けて蹴りを放つ。
しかし、それを一つの大剣が受け止めると左門の身体を拳で吹き飛ばし、黒いボロボロのコートを羽織った黒髪の青年が一人何処からか現れると口を開いた。
「こいつの死体は貰ってくぜ? 最後まで守りたいものを守り切った褒美くらいはくれてやらねえとな」
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