四十二章 第三首都事変 其の拾捌
復讐に囚われた修羅の終わり。
燃えるペトゥロを眺めながら左門は絶望により叫びながら自らの体に収まっている権能を解放する。
「擬似権能解放! 飢餓!! 」
左門は帽子を脱ぎ捨て、黒く染まって行く髪と猫耳を見せつけると赫い髪をひらひらと靡かせるブローニャへ激しい連撃を放った。しかし、彼女もまた闘争に身を焦がした兵器であり、その連撃を簡単にいなすと戦斧をぶつけ距離を取る。
「どけええええええええええ!!!!!!! お前ら全員皆殺しだ!! 覚悟しろよ! ペトゥロを! ペトゥロをよくも!」
「あなた方の計画はここで終わりです。ここからはマスターが時代を作る番です。マスター指示を、この場にいる敵全てを私が殲滅してみせます」
ブローニャはそう言うと彼らがいる方向を見るとそこには燃え盛るペトゥロの死体から何かが形成されていき彼らの目の前に裸の青年が姿を現した。
彼らはペトゥロ・アポカリプスを確実に殺していたと思っていた事により、驚きで唖然としてしまう。誰一人その場から動く事が出来なくなっており、そんな彼らを眺めながらその地に生まれ落ちた死を纏う青年は口を開いた。
「素晴らしいな、人間達。この男を何の躊躇いも無く殺すか。ジュダ、アシモフ、君達がやはりイレギュラーの特異点だったらしい。よく分かった。よく理解した。それじゃあ、愛すべき人間達に手向けの華を渡してやろう」
青白い髪をした青年は右腕を上げるとそれにいち早く気づいたピエールがアシモフを庇う様に立ち塞がり、巨人の一撃を叩き込む。
青年の顔は一撃で潰されるも右腕をピエールの放った腕に触れ、彼に最後の一言を呟いた。
「権能解放、死」
青白い輝きがピエールの体を喰らい、彼の姿を見ると彼の目には光は灯っておらず、その場に倒れ込んでしまう。
体は既に人としての機能が停止しており、ピエールと言う青年は死という概念そのものに襲われた哀れな被害者へと成った。
「やっぱり凄いね。人間と言うモノは往生際が悪いし、他人のために命を捨てれる素晴らしい生物だ。だから、私は君達から死を遠ざけてあげたいだけだったのだがね。襲い掛かられてはしょうがない、非常に残念だ」
言葉と同時にこれに目掛けて一線の閃光が切り裂き、青年の胸を貫き、そして、ヒュードルは怒りを向けながらパチリと指を鳴らす。
「生命開放、絶罰」
人間を苦しめる原初の呪いが襲いかかるも青年は気にする事なくアシモフ達がいる方へと近づいて行く。
ヒュードルは何としても近づけさせまいと再び引き金を引こうとするも彼の体を一本の腕が貫いていた。
貫いた手を引き抜かれ、彼は体に開けられた穴が自分の内部と世界を繋げられたことを理解し、最後に後ろを振り向く。そこには白い礼服に身を包んでいた少年が立っており、その後ろには既に胸を貫かれていたエルザの姿もあった。
「エルザの姉さんもやられたか。はぁ、何ともまぁ、罪深く、意味の無い人生だったよ、全く」
ヒュードルはそう言うとその場に倒れ込み、目からは生気が失われ、開かれた穴から血の池を形成していく。それを眺めながらティフォンは腕を拭きながら左門達がいる下へと進むためその場を後にした。
***
死は誰にでも唐突に訪れる。しかし、今、目の前に立つ彼はそれそのものの様だった。
ジュダは既に攻撃の準備をしており、彼に向かい再び巨人を燃やし尽くした焔を放つ。
しかし、それは彼にぶつかった途端、その焔はなかったかの様に消え去り、ジュダの攻撃を悉く無意味にすると彼に喋りかけた。
「ジュダ、頭の良い君なら僕が何であるか理解していると思ったんだがね」
「ああ、理解している。だからこそ、抗っているのだろう?なぁ、ペトゥロ・アポカリプス! 」
ジュダは焔を手に宿し、彼に近づき拳を放つも焔は彼に当たる直前で消え去り、それに気付くと彼はペトゥロと呼んだ青年から再び距離を取る。
「どうしたんだい、ジュダ? 昔みたいに拳で分かり合おうじゃないか」
ペトゥロはそう言うと一歩、また、一歩と彼らに近づいて行き、そして、既に限界を迎え動けなくなっていたアシモフの目の前に立った。アシモフは先程の解放により全ての力を出し尽くしていたが目の前に現れたペトゥロをこの世の全てを呪う様に睨みつける。
「アシモフ、君にはこれでも敬意を表しているんだ。イアンコフを殺した時から始まって、戸松の撃破、闘争の兵器の完成。そして、今回、私と言う肉体の消失。これら全てに君が関わっていた。デウス・エクスマキナの未来予想から唯一外れる男、アシモフ・デッカート。君には上質な死を与えよう」
ジュダはペトゥロが拳を振り上げると同時に両腕の焔を最大火力にし、アシモフから遠ざける為に再び肉体に眠る原初の焔と彼が生み出した新星の風をを引き出す。
「生命開放、零絶焔風刃」
先程よりも遥かに大きい火柱が立ち、彼らを包むもその焔はすぐに消し去られ、ジュダはなす術が無くなりそんな彼を横目にペトゥロはアシモフに優しく喋りかける。
「ジュダの攻撃は僕を殺す事は絶対にない。君ならもしかしたら僕の首に届くかもしれないよ? 」
アシモフはそんな彼の言葉に歯向かう事はなく、静かに口を開いた。
「もういいんだ、俺の負けだよ。ペトゥロ・アポカリプス。さっさと殺してくれ」
それを聞くとペトゥロは彼への興味が無くなっており、右腕を上げ、ゆっくりとその権能を彼らに見せつける。
「権能解放、死」
***
「アシモフ、アシモフ! 」
真っ白い景色が広がる中、彼は自分の名前を呼ばれた事に気づくと何も無かった景色が少しずつ色づいていく。
「アナかい? ああ、そうか、そうなのか。俺はようやくここに来れたのか」
青い髪の青年は既に体がかつての自分のモノになっている事と自分が死んだ事を確認すると女性の膝の上で眠っている事を理解した。
そこには三十年前に失った最愛の彼女。
白く長い髪が目立つ彼女の姿を見て、青年の顔からは涙が溢れ出ると自分の顔を腕で隠す。しかし、そんな青年を彼女は気にする事はなく、彼を宥める様に耳元で呟いた。
「アシモフ、私達の為に今まで怒ってくれてありがとう。本当はあの時、止まってくれなかったのはほんの少し寂しかったけど、それでも、あなたは止まる事なくここまでやり切った。だから、もういいの。アシモフ、私の愛したアシモフ」
彼女の言葉を聞きながら青年は顔を上げる事なく腕で涙を隠し、顔を見せないようにする。
「ごめん、本当に今までごめん。君が戦いを嫌っていたことも、俺に復讐なんてして欲しくなかった事も全部知っていた。知っていたからこそ無情に奪われた君を、無情に奪われた彼女を、俺は、俺は君達を捨てる事が出来なかった。世界がどうなろうと俺は君が生きていればそれでよかったんだ」
アシモフは泣きじゃくりながら口を開くと彼らの前に一人の男が立っていた。アシモフは彼の姿を見ると彼女を抱きしめるのをやめ、それの前に立ち、男は笑いながら声を上げる。
「アシモフ、お前の生き様見せてもらった。なかなか楽しめたよ。かつてバカ息子共に殺された恨みでしか俺は生きていなかったがお前と出会えて少しだけ変われたよ」
男はアシモフと似た顔立ちをしており、それを見て涙を拭き彼は笑いながら手を出した。
「そうか、クロノス。今までありがとう。お前にかける言葉これだけだ。後の世界は俺は何も出来なかったが彼女がなんとかしてくれる筈だ。俺のもう一人の娘がな」
「闘争の兵器か? ふん、お前も策士よな。兵器としての覚醒に必要な喪失。それを補って死ぬなんて、まぁ、ここからは俺も知らない未来だ。彼らの行く末をゆっくりと見届けようじゃないか」
クロノスはアシモフに差し出された手を握ると優しい光が彼らを包んでいく。そこにはかつて彼を支えてくれた者達が彼らの帰りを待っており、三人はゆっくりとその光が刺す方へと足を運んだ。
そこにはかつて復讐に囚われた修羅はおらず、アシモフ・デッカードという一人の人間の姿があった。
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