四十一章 第三首都事変 其の拾漆
白い巨人はその身を焼かれ、死の概念が彼らを襲う。
二つの兵器は敵意の矛先を変え、全ての元凶であるペトゥロ・アポカリプスに目掛けて駆け寄って行く。しかし、それを彼らの従者は許すはずもなく彼らの攻撃がペトゥロに当たる前に叩き落とした。
劃は金髪の少年の蹴りを刀で受け、ブローニャは三体の色とりどりの獣に道を塞がれると劃は少年の後ろに無造作に置いてある勿の姿を見て声を上げる。
「お前、その子をどうしたんだ? なんでお前がその子を連れてる? 」
左門はそんな事お構い無しに蹴りを放つも劃の怒りのこもった斬撃が彼の蹴りとぶつかり少し後ろに飛ばされると彼は興味がないように答えた。
「別にただの戦利品だよ。あんたもここに入れるつもりだから早めに降参してくれれば痛い目済まずに済むよ」
「嫌なこった。とりあえず、お前を倒してその後ろの奴を叩き斬る」
劃はそう言うと彼に再び斬りかかりそれを左門は蹴りで返し、打ち合いが始まる。
蹴りと刀を交えながら彼らは互いにその場に起きた事に対する怒りをぶつけ合った。劃は自分がこの様な戦いに身を投じる事になった元凶であるペトゥロ・アポカリプスに対する怒り。左門はペトゥロを攻撃しようとした事と自分を無視した無礼者に対する怒り。
彼らは打ち合う度に相手と分かち合う事が出来ないと感じ、互いに攻撃はより鋭く、より速くなっていく。
蹴りは一撃で刀を弾くももう片方に携えた刀が彼の体を狙い、それを防ぐ。激しい攻防が続く中、彼らの横で三体の獣を簡単に切り殺すとペッローの首を切り落とそうとするブローニャの姿があった。
三体の獣はブローニャの体に齧り付くと同時に彼女の体から発せられる熱により効力を失い、それを簡単に切り落としペッローの首を落とそうと戦斧を振るう。
しかし、それに合わせる様にペッローは彼女の目の前で引き金を引いた。
「生命開放、絶神獣・貫通弾」
目の前に現れた白い獣をブローニャは何の躊躇いもなく戦斧を払うも獣が戦斧の刃に齧り付くと体ごと獣に押し切られ、その背後から先程まで動く素振りを見せていなかったペトゥロ・アポカリプスが目の前に現れると拳を放つ。
いかに闘争の兵器であるブローニャであってもその連撃を防ぐ事ができず、体に拳を受けると彼女はすぐに立て直し、ペトゥロに得物を振るうも彼はそれを右腕で受け止める。
「ついさっきあった時よりも強くなっているね? イズラエルとの戦闘が君のいい刺激になった様だね」
「そうですね、それは認めましょう。彼女は私の血肉になり骨となりました。あなたは何になるんでしょうか? ペトゥロ・アポカリプス。あなたは既に人を辞めている。そんなあなたは私の何になりますか? 」
彼女は右腕に止められた戦斧を再び振るいそれをペトゥロは同じく右腕で防ぐと不気味な笑みをこぼした。
「そうだね、毒にでもなるんじゃないかな? 」
青白い右腕の力を使う素振りを見せず、ペトゥロは彼女が振り回す戦斧を冷静に受け止め、一瞬の隙を突き口を開く。
「生命開放、絶廻蹴・空圧」
放たれた回し蹴りはブローニャを空気の壁と共に吹き飛ばし、開かれた地では止まる事を知らず、容赦なくその場から遠ざかって行った。
そんな彼女を追おうとペトゥロが足に力を込めた瞬間、彼に向かい二つの銃弾が飛んでいくも一つはペッローが放った獣が喰らい、もう一つはペトゥロが簡単に手で止められてしまう。
「狙撃の腕は素晴らしいものだが正確すぎるのはかえって分かりやすい」
ペトゥロがそう言うと二人のスナイパーは彼らがいる場所よりも遠くから二人同時に声を上げる。
「「ああ、そうかい! なら、これならどうだ!! 」」
喧嘩を売られた二人のスナイパーは同時に指を鳴らし、その弾丸に込められた力を開放する、
「生命開放、絶罰」
「生命開放、怪鳥」
ペトゥロが止めた弾丸は触れたものを呪う、原初の罰。ペトゥロはその呪いが彼の内蔵部をぐちゃぐちゃにしたのを感じると口から血を吐き、また、獣に喰われた筈の弾丸はその獣を切り裂き、不死鳥の如く蘇ると彼の胸を容赦なく貫いた。
ペッローはそれを見て、怒りよりも彼が傷ついてしまった事によるショックにより、彼に近寄るとその瞬間に彼の胸をヒュードルの弾丸が貫き、彼もペトゥロの隣で倒れ込んでしまう。そして、それを確認するとヒュードルはデバイスを通じ、次の作戦の合図を告げる。
「目標狙撃完了、作戦をフェーズⅡに移行!! ぶちかませ、ピエール」
「了解」
ピエールと呼ばれた青年はその号令と共に彼らが倒れている場所へと走り出し、拳を振りかざした。
「生命開放、絶巨神」
ペトゥロの目の前にかつて彼らと苦楽を共にした友の武器が現れ、そして、襲いかかる。
ペトゥロは倒れているペッローを守るため、ピエールが放つ拳を左腕で受け止めるも動く度に呪いも同時に襲いかかり、体勢を崩すとピエールは彼の体を容赦なく殴り続けた。
そして、彼らの攻撃が全て終えた頃、ピエールの後ろから一人の影が迫って行く。
それはかつてユグドラの木漏れ日が引き起こした悲劇の被害者であり、彼らが作り出した世界への復讐者。
二つの手斧を携えて、その男は一歩、また、一歩とこれまでの怒りとあらゆるものに対する憎しみを踏みしめながら全ての元凶であるペトゥロ・アポカリプスへの前へと立った。
「へえ、ジュダをやったのか。やるじゃ無いか、アシモフ。後で彼の死体を回収しないとね」
ペトゥロの言葉に何の反応を示す事はなく、彼はその怒りの矛先の全てを目の前に立つ白い巨人にぶつける。
「生命解放、絶時間神・絶対領域」
二十秒
それは世界を自分一人の者にする最大の時間。
誰もが彼を止める事がなく、無常に、非常に、その時間を過ごさせる。
アシモフはペトゥロの体にこれまでの全てを斧に込め、手を断ち切り、体を引き裂き、彼の心臓に容赦なく振り下ろした。
二十秒と言う時間は人生に於いてあまりにも短く、そして、儚い時間。しかし、今の彼にとっては全ての憎しみをぶつけ、人生に於いてアナスタシアと過ごした時と同等の幸福と多幸感に満ち溢れた時間であった。
全ての人間の二十秒を喰らいペトゥロ・アポカリプスの体はこれまでに見た事ないほど傷がつき、左腕は切り落とされ、白い礼服は赤い鮮血が真っ赤に染め上げる。
左門はそれを見た途端、劃を吹き飛ばし、彼らの元に雄叫びを上げながら近づこうとするもそれをブローニャが妨げ、獣の咆哮にも似た叫び声を上げた。
「お前らぁ! いい加減にしろよ! ペトゥロを! ペトゥロを!!!!!!!!!!!!!!! 許さん!!!!!!!! 」
「黙ってください、今はマスターの仕事中です。あなたは何としても私が止めます」
その雄叫びは無常に響き渡り、死の直前を行き来するペトゥロは何故か不気味に微笑んだ。
「凄いじゃないか、アシモフ。ここまで私を追い詰めたのは初めてだよ。ふふふふ、あははははは、このためだけに第三首都と言う王が不在の地を狙ったんだね。素晴らしい、素晴らしいよ!君に敬意を表したい。さぁ、速く私にトドメを刺したまえ」
ペトゥロは口から血を吐きながらも自らの死を受け入れようとしていた。アシモフはそれに対して吐き捨てる様に言葉を紡ぐ。
「お前にトドメを刺すのは俺の仕事じゃない」
彼の言葉が放たれるとペトゥロの目の前に彼の最後の友が姿を現した。
「ジュダ、なのか? まさか、そう言うことか。あの土壇場で彼を味方に引き入れたんだな。あははははははは、そうか、そうか。それなら納得だ。君がまさか僕の最後を飾るのか、ジュダ? 」
「ああ、安らかに眠れ、生涯の友、ペトゥロ・アポカリプス」
黒いスーツに身を包んだ朽ち果てる寸前の大樹の様な男はかつての黒い獣であった頃のような佇まいで両腕をくっつけて祈りの型を取り、ほんの少しだけ頬を濡らし終着の一撃を放つ。
「生命開放、零絶焔風刃」
焔と風が混ざり合い、白い巨人を彼の後悔と友愛の一撃が燃やし尽くした。
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