四十章 第三首都事変 其の拾陸
第二部閉幕直前!
最後の勝者は誰になるのかお確かめください!
劃は絶望の中、ビルの間をよろよろと歩いている。殺した人の数は数えきれず、その中には自分にお礼を言ってくれた少女も入っている事を理解するとますます自分が許せなくなっていた。
デバイスは既に壊れており、誰にも連絡が通じない。しかし、彼は埋葬屋の全員がまだ戦っていると信じ、前へ、前へと足を運ぶ。
そんな彼の目の前に真紅の髪を靡かせた少女が一人、立ち塞がった。
「あなたが支配の兵器ですね」
彼女の腕には斧が携えており、それを引き摺りながら呪われた足を進めようとする劃と距離を詰めていく。
「ああ、そうだよ」
「ならば投降してください。そうすれば私も手荒な真似をせずに済みます。もし拒否するのであれば、任務遂行の為、如何なる手を尽くしてもあなたを連れて行きます」
喋りながら彼女も劃も歩を止めず、彼らは互いの間合いまで近づくとそこで漸く足を止め、彼は再び口を開いた。
「俺はやるべき事、いや、やらなきゃならない事がある。あんたに構ってる暇は無い。あんた敵なんだろ? なら、あんたの仲間に闘争の兵器って奴はいないか? 俺はそれを手に入れる必要がある」
「報告。あなたの前に立つ私こそが闘争の兵器です。これならばあなたは私と戦ってくれますか? 」
彼女の目には闘志が宿っており、ボロボロの劃と違い燃えるようなやる気に満ちていた。
「ああ、そうかい。それなら存分に殺し合おう。兵器としてな」
「了承、認識変更。正体不明ではなく敵として認識。警戒レベルⅣより警戒レベルⅧへ移行、参ります」
彼らは互いに武器を握り、兵器としての本懐を果たす。
「権能解放、支配・刃」
「権能解放、闘争」
白と赤の光が混じり、黒い華と灰を包み込む。劃は目の前にいる少女に刀を振り下ろし、彼女もまた彼の体に目掛けて刃を向ける。赫く輝く光は刀とぶつかると刀と劃の体ごと軽々とビルの壁へと吹き飛ばした。
闘争に身を焦がした少女の肉体は人の筋力を超越し、その一撃はあらゆる人たらしめるものを壊し、潰し、破滅させる。そして、今の彼女は自分と同じ兵器と対峙した事により、そのポテンシャルがこれまで以上に引き出されていた。
劃はビルにめり込んでいたがすぐに体を起こし、痛みがない事を確認すると刀を握りしめ、再び闘争の兵器に立ち向かっていく。
刀はこれまで以上に体に馴染んでおり、それに力を込め彼は彼女と刃を交え、先程は一撃で吹き飛ばされたものの次は劃も体にもこれまで以上に力が入っており、吹き飛ばされず、その場で何度も打ち合った。
数十と刃を交えると少女は彼の体に蹴りを入れ、それを劃は刀で防御するもののそれごと吹き飛ばし、彼から距離を取ると声を上げた。
「質問、あなたは本当に支配の兵器ですか?戦う限りでは余りにも脆すぎる気がします」
「当たり前だろ。俺はそういう風に作られてしまった。本当は何の取り柄もない人間だ」
劃は蹴りを防いだ筈なのに刀から通じる衝撃で両腕にヒビが入っている事を気づくと刀を地面に刺し、両腕を膝に打ち付け、痛みを打ち消すように何度も叩きつけた。
「警告。あなたは私に勝てません。断言します。私は闘争の兵器、ブローニャ・デッカート。マスターの命令によりあなたを捕獲するものです。支配の兵器の紛い物のあなたでは役者不足です。死にたくなければ投降を願います」
彼女の言葉には悪意はなく、むしろ善意でそれを言っていた。しかし、それは今の劃に取っての最悪の地雷であり、自分の弱さが原因で多くの人を殺めてしまった彼の怒りに触れ、刀を再び握りしめるとそれに答え、宣言する。
「役者不足か、そうだな。俺の中にいる奴ならあんたに勝てると思うよ。だがな、俺は二度とあいつをこの世界に出さない。俺があいつを殺して、俺も自分自身を殺す。俺は東 劃。全ての兵器を殺し、自分を殺す。世界を守る為の歯車だ」
劃はそう言うと体の中に眠っていた天秤が彼に呼応する様に彼の胸部から現れ、彼はそれを握り地面に突き刺した。
「支配、お前を殺すまでにお前の全てを使いこなす。二度とお前がこの世界に踏み入れる事はない」
天秤は劃の胸に眠る彼女が殺し尽くした魂で満たされており、彼はそれに懺悔する様に両腕をピタリとくっつけ祈りを捧げる。
「権能解放、支配」
天秤は傾き、それは彼に力を分け与える。
ブローニャはそんな事お構い無しにと彼に戦斧を振る為、再び距離を詰めるも空に自分一人に向けられた大量の武器が浮かんでおり、それが一気に彼女に向けて放たれた。大量の剣や槍は形は歪で不完全でありながらも量は彼女の手を休ます事がなく、動かし続ける。
そして、武器の雨が止むと劃の姿がおらず、ブローニャは周りを見渡すと彼女が後ろを向いた瞬間、彼女の体に目掛けて彼は飛び蹴りを放った。
急に背後に現れた劃の動きに追いつけず、彼女は蹴りをもろに受けるもすぐに体勢を立て直し、戦斧を彼に突き立てる。しかし、それを劃は背中から現れた八枚の羽が防ぐと両手に刀を携え、彼女にぶつけた。
二つの刀は一つは彼が元々持っていた刀であり、もつ一つは刀身までもが黒く、漆黒という言葉がよく似合う刀であった。そして、それは凪良から奪った一振りであり、世界樹の株分けされた七つの樹を守護する一族が持つ生命武器殺しの一つ。
劃は羽を背中に仕舞い、二つの刀を振るうと彼女もまた、先程よりも速く、重く、戦斧を振るう。
刃は交える度に火花が散り、彼らの闘争に向ける温度が上がり続けた。
闘争の兵器につられ劃もまたその体に押し込まれていた才能を引き出され、ラスコーとの戦闘により体に蓄積されていた経験値がその場で開花し、彼女の予想よりも遥かに上回る。
戦斧を片方の刀だけで受け止める事は不可能であり、それを踏まえて劃は受け止めるのではなく攻撃をいなす事を覚え、そのいなした力を自分の攻撃に変え、舞うような斬撃を放った。
二つの刀がブローニャの体に傷をつけ、出血させるもそれは彼女の発する熱が一瞬にして蒸発させ、更に温度が上がっていき、体を発する熱に合わせるように戦斧が纏う赫い光も強くなっていく。
辺りはブローニャが放つ熱により蒸発していき、黒い華は既に燃え尽きており、その場の甘い香りは打ち消されていた。
刀と戦斧をぶつけ合う中でブローニャは劃に喋りかけた。
「訂正、あなたは私が思う以上に強い。謝罪します。そして、ここからは一切の躊躇無くあなたを蹂躙します」
「そうか、それは丁度良かった。俺も漸く体が慣れてきたところだよ」
二人の兵器は自らを象徴する兵器を手前に出し、同時に手を合わせると口を開く。
「権能解放、支配堕天使」
「権能解放、闘争躍動」
再び赤と白の光が彼らを包み込みむと互いに天使の羽を広げ、飛び上がり、刃を交える。
ブローニャの体は全身に発せられていた熱が無くなっており、その代わりに彼女の体の動きがこれまで以上に速く、そして、力強くなっていた。
劃は空中で刃を交えると一瞬にして消えるブローニャに追いつけず、背後を取られると彼女は戦斧を容赦無く振り、彼を地面に叩き落とす。
しかし、叩き落とされた筈の劃は羽の力を全力で使い、地面に着く直前で止まり射線にいるブローニャに対して憎悪を交えた光の刃を放った。
光の刃は正確無比に彼女を狙い迫ってくるもそれを全て戦斧で切り落とすと空中で戦斧を翳し輝かせた。戦斧にはこれまで発していた熱が蓄積されており、彼女はそれをビル諸共薙ぎ倒そうと戦斧の熱を解放させる。
「権能解放、闘争煉獄」
放たれた熱はビルどころか、その場一帯を溶かし尽くし人が生きた痕跡を一つ残らず消し炭にする。
彼女はその場から動かず、劃を探すと八枚の羽を犠牲にし、その一撃を耐え切った彼の姿を見つけた途端、彼に向けて戦斧を振り下ろした。
八枚の羽が焼き払われた事により、劃は本来の自分が持つ羽を再び広げ、戦斧を振り下ろして来た彼女を飛びながら避けるとその体に向けて天秤に仕舞っていた魂を使い、彼女の頭上に再び武器の雨を降らせる。
それらを再び彼女は蓄積された熱で燃やし尽くし飛んでいた劃も同時に彼女の熱に侵され、地面に落ちるとそれを逃さず戦斧を振り翳し彼の体をボールの様に吹き飛ばした。
放たれた熱風は劃の内臓を焼き尽くし、口から血を吐く事すら出来なかった。しかし、彼の体は人であらず、その痛みすらも心地良く感じ、吹き飛ばされながらも彼は彼女に向かい、自分が握っていた刀を投げつける。
刀を簡単に弾くと戦斧に再び熱を溜め、彼に確実な死を与えようと彼に近づき、その刃を輝かせた。
「私の勝ちです」
「ああ、あんたの勝ちだよ。でも、無料じゃ勝たせない」
彼は既に全ての仕込みを終えており、上空には先程よりも研ぎ澄まされた形をした武器の雨が彼女に向けられている。
しかし、決着が着く直前に彼らに向けて獣と槍が放たれ、それを弾くと二人は一旦戦うのを止めそれが放たれた方向を向く。そこには白い礼服に身を包んだ三人の男が立っており、その真ん中にはペトゥロ・アポカリプスの姿があった。
「やぁ、東 劃、久しぶりだね」
その一言に彼は怒りと憎しみを込めて返した。
「ああ、久しぶりだよ、ペトゥロ・アポカリプス。それと二度とあんたの面なんか見たくなかった」
劃とブローニャは互いに敵対する対象を変えると二人同時に三人に襲いかかった。
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