幕間 記憶Ⅱ
第二部終結直前の幕間です!
全てを失った少女の飢えを満たしてくれるものは一体何なのか。
ご注目下さい!
少女は自分の名前を忘れ、かつての自分を忘れ、家族も、生い立ちも全て、全て忘れてしまっていました。
そんな彼女の心を埋めてくれたのはある男の人でした。名前は那須川。彼は少女を保護するやいなや直ぐに女性の下へと連れていき治療してくれました。少女はそこで白い寝台の上で自分の隣に居る那須川に聞きました。
「何でこんなに良くしてくれるの?私はあなたのことを知らない。それなのにどうして? 」
那須川はそんな彼女の顔を見つめながら優しく微笑むと猫耳がついた頭を撫でながら口を開きます。
「理由なんて必要ないと思うなー。そんなに欲しいなら、うーん。僕が妹が欲しかったって言うのでどうだい? 」
彼が何を言っているのか少女は全く理解出来ませんでした。しかし、何故か涙が溢れて来ます。言葉を紡ぐ事が出来ず、嗚咽を混じえながら泣いてしまいました。
「え?! 僕泣かせる様な事言った? ちょっと、ちょっとー。ごめんって〜。えーと、どうやったら泣き止んでくれる?」
彼は戸惑いながら少女を宥めるも少女は泣くのを止めません。いや、止めることが出来ませんでした。
「違うの、違う。何なんのこの感情は。分からない。分からない。でも、涙が止まらないの。なんでかな? 私何も残って無いのに。何も残ってなかった筈なのに。何でかな? 」
少女の涙を見ながら男は優しく頭を撫で、彼女が泣き止むまで隣に居ました。
ここからは少女に出来た二つ目の春の記憶。
埋葬屋の人々は少女に優しく接してくれます。
彼女の空っぽの体と記憶を彼らの優しさが埋めてくれました。
一ヶ月が過ぎた頃、少女が名前を言わないので呼ぶのに困った彼らは彼女に名前を問いました。
「名前?私の名前は何も無いよ。誰でも無いから誰でも良い。私は昔の自分を忘れたのだからそんな私に名前なんて」
彼女の言葉を聞くと朽ち果てる寸前の樹木の様なお爺さんが彼女に向かって喋りかけます。
「そうか、君には名前が無いのか。ふむ、なら私たちが付けようじゃないか。もし、君が嫌なら止めるがどうかね? 」
優しい言葉に彼女は少し戸惑うもそれを那須川が彼女の頭を撫で、彼女の代わりに答えてくれました。
「そうだね!ジュダにしては良いアイディアだ!皆で出し合って決めよう!僕はもうとっくに考えてたのがあるから楽しみだ! 」
「お前に決定権は無いぞ。それとジュダにしてはとは何だ」
二人が目線で火花を散らす中、一人の女性が少女の肩に手を置きました。
「あなたの自由で良いのよ。あのバカ共は置いといてあなたが名前が欲しいならしっかりと答えなさい」
少女は彼らの優しさに応えたいと思い、名前が欲しいと呟きます。すると彼らはそれを聞き入れた途端、すぐに彼女の前に五つの名前を出しました。
そこにいなかった筈の二人も名前を出してくれました。
朽ち果てる寸前のお爺さんはローズと。
自分を治療してくれたお姉さんはアイリスと。
黒い執事のお兄さんはリタと。
最強と名乗るお兄さんは愛美と。
那須川は勿と。
彼女はどの名前も大切に感じ選べませんでしたがその中から何故か、那須川の勿を選びました。
理由はありません。直感でそれが良いと少女は感じ、彼女はそれから勿を名乗り、皆んなからも勿と呼ばれる様になりました。
「ねえ、那須川? 何で私に勿なんて名前をつけたの? 」
少女が埋葬屋に来て何年か経ったある日の事。勿はそれが気になり那須川が瞑想をしている所で聞きました。
彼は彼女の頭を優しく撫でると彼女を抱き抱え、自分の前に人形の様に置くと瞑想をしながら答えてくれました。
「君が何者でも無い誰かのWhoと忘れんの君と合わせて勿ってつけたのだけさ」
「もう少し名前に意味があると思ったら大分皮肉が効いてて悲しい」
彼女がしょんぼりとした表情をし、それを見て那須川は嬉しそうに微笑みまたした。
「まぁ、冗談は良しといて! その内、本当の意味を知る日が来るさ! その時までのお楽しみにしておいて! 勿がそんな表情を出来る様になったなんてね。嬉しくもあり、少しだけ寂しくもあるな」
そう言うと彼は少女を抱いたまま、瞑想を始めてしまいました。彼女もまた彼の体温が心地良く、その場で猫の様にくるまると眠りにつきました。
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