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散華のカフカ  作者:
二部 闘争の戦斧
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幕間 記憶Ⅰ

明かされる(フー)の過去。

箸休め回ですが重要な回なので是非!

 これは十年前の春の記憶。

 少女は両親と楽しく、仲良く暮らしていました。

 兄弟は四人もおり、長女である少女は彼らを可愛がりとても大切に、とても優しく面倒を見ました。


「何があってもお姉ちゃんが守ってあげる! あなた達は私の大切な兄妹で家族なんだから! 」


 両親も彼らを優しく育て、少女はこの幸せはいつまでも、いつまでも続くと信じていました。


 ここからは少女の冬の記憶。

 目の前で両親を殺されました。

 頭を銃弾のような物で撃ち抜かれ彼らを守る隙も与えず、目の前に血の池が出来上がり、兄妹はそれを見て、泣き叫ぶも正体不明の何者かに簡単に連れ去られ、叫ぶ声は届かず、兄妹達を何とか助けようと一生懸命に少女は抵抗します。


「返して! 私の家族なのに! 何であなた達は奪おうとするの!お願い、返して! お願いだから、私から家族を奪わないで」


 少女の抵抗は虚しく終わり、彼らはされるがままに何処かへ連れてかれてしまいました。そこで少女は彼らから唯一残った家族である兄妹を守るためにそこの人間達に言いました。


「彼らには手を出さないで欲しい。私の体はどうなっても良いから彼らだけは助けてあげて欲しい」


 白衣を纏った彼らはその健気さに感銘を受け、微笑みながらそれに口約束を交わします。


「分かったよ、彼らには手を出さない。約束しよう」


 その言葉を聞き入れ、少女は安堵すると自分の体を彼らに捧げました。


 先ずは体を捧げました。


 彼らは少女の体を器にし、多くの人間の魂を入れました。少女は自分が自分で無くなる恐怖が襲いかかり、夜も眠れない日々を過ごしました。それでも、兄妹が無事なら頑張れると幼い体を奮い立たせその実験に耐えました。


 次に頭を捧げました。


 頭に何かを埋め込まれ、少女は感情を失いました。痛みは体を刺激せず、メスは麻酔無しに腕に突き刺さるもそこからは何が起きているのかサッパリ分からない。魂が自分をすり替えようとしてもそれに恐怖を感じない。少女は自分の体が自分の物では無くなってしまった事に何の感情も抱かなくなりました。それでも、少女は少女のままでした。兄妹と会えなくても、彼らが無事なら自分を強く保てました。


 最後に記憶を捧げました。


 感情を無くし、体を無くし、自分を保てたのは兄妹のおかげでした。しかし、彼らはそれを奪いました。少女の体には他者の命、無くなった感情、そして、生まれ育った六年間の記憶。


 少女は空っぽで、綿の詰められた人形へと成り果て、少女は彼らにされるがままに汚され、穢され、作り変えられました。


 青い髪は銀色に、頭の上には獣の耳が、体にはメスの切り傷が幾つもあり、かつての自分を少女は思い出せませんでした。それでも、何故か心の中には兄妹の影法師が薄らとだけ浮かび上がり、それを彼女は無我夢中で追い求めました。


「お願いがあります。兄弟と合わせてください」


 少女の願いを聞き、白衣の人間達はニヤニヤと不気味に微笑むとそれに了承し、彼女をある部屋を送りました。


「この先に君の家族がいるよ。久々の再会だ。募る話もあるだろう。たくさん話しておいで」


 少女は急いで扉の向こうへ向かいます。忘れかけた彼らの顔を思い出したくて仕方がありません。自分が自分であるために彼女は記憶に飢えた獣になっていた事に気づいておりません。


 少女は扉の前に立ち、大きく深呼吸をして、忘れかけた彼らの事を思い浮かべその扉に手を置き開きました。


 そこには六個の壁がありました。

 少女は彼らには騙された事に気付きます。


「何で騙したの。私は家族に会いたいの。実験をするならまた後ででいくらでもやるから」


 少女の嘆きを聞くと白衣の人間達は嘲ると彼女に向かい口を開きます。


「何を言っているんだい? それは君の家族だろ? 触ってごらん。君の飢えを満たしてくれる筈だよ」


 少女はそこで彼らが本当に邪悪である事に気付きました。少女は悲しいと言う感情を出さず、只々、それを見ながら叫びました。


「感情が湧かない筈なのに叫ぶとはそろそろ廃棄の時間かな」


 少女は壁に手をやるとそこからかつての記憶が頭の中に入って来て、彼等との思い出を思い返しました。しかし、それはすぐに消えていきます。彼女の体はすでに人ではなく常に何かに飢えた獣になっていたのです。


 思い出した記憶の中に感情はあり、その一瞬は悲しいと言う感情が湧くも、すぐに何処かへ吸い込まれ、彼女の奥に居座る何かがぺろりと全て平らげてしまいます。


 そして、壁から得られる兄妹の記憶を全て平らげ彼女は彼らの影法師を見る事が無くなりました。


 何年月日が経ったのか少女は分かりません。

 少女は今日もまた痛みもなく、喜びもなく、悲しみもない、色の無い日常を只々過ごします。


 しかし、その日常は終わりを告げます。

 いつも通りに起き、彼らに体を弄られる。少女は虚な光景に何の感情もなく淡々と過ごしていると今まで聞いたことのない警報音が鳴り響きました。


「統合政府の連中にバレたのか!? 急げ、この実験だけは誰にも渡させはしない! 」


 実験台の上で縛られていた少女を彼らは殺そうとしました。自分達の実験をバラされたくないのか必死になって彼女の頭を潰します。しかし、彼女はすでにその程度で死ぬ事はありません。


 振り下ろされる鈍器に痛みは無く、少女は殺すなら速くしてくれと願いながら彼らの殺意をその身に受けます。しかし、次の瞬間、彼らの一人が鉄の棒の様な物で潰されていました。それに恐怖などは無く、少女はこれなら自分を殺してくれるのでは無いのかと少しだけ自分の死に期待しました。


「誰だ?! 」


「君達に名乗る価値は無いかな。僕は今とっても気分が悪い。覚悟しろよ」


 鉄の棒を振り回す黒いスーツに身を包んだ男は容赦無く白衣を赤く染め上げていきます。その場にいた人間を全て殺し尽くすも彼のスーツは一切汚れておらず、彼が少女の前に立つと彼女は口を開きます。


「殺して、お願い。私はもう何も無い空っぽなの。大切な物を無くしても何も感じなくて、何も思えないの」


 少女の言葉を聞き入れて男はため息を吐くと構えを取り、彼女に突きを放ちました。少女はようやく死ねると思いほんの少しだけ喜びという感情を思い出せました。


 しかし、男の突きは少女を縛っていた物を切り裂き、彼は少女の体を優しく抱き抱えました。


「殺すなんて勿体ない。そんな事はしないよ。僕は那須川。そうだなー、埋葬屋四席で君の家族になる者だ! 」


 男が何を言っているのか少女は全く理解出来ません。しかし、少女の頬が濡れ、彼女は少しだけ悲しいと言う感情を思い出せました。


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