三十九章 第三首都事変 其の拾伍
中盤戦閉幕!
都市の全ての人間を糧にした劃はこれから何をするのかご注目ください!
「ふふふふふふはははははははは、あはははははははははは!!!!!! いい!! 実に、実に、いい!!! 魅せてくれるねえ?スペクター!! まさかこれまでの物を出せるとは、期待以上だ。これなら僕の完全復活も近そうだ」
白い天使は大きく笑い声を上げ、地上に降りると人型の怪物と対峙する。彼女はそれがスペクターが生み出した幽霊である事を理解しており、自分の予想を遥かに上回る成長を見せた彼に対して敬意を表する為に堂々とした立ち振る舞いで怪物の目の前に立った。
怪物は目の前に現れた敵を捕捉すると雄叫びを上げ両腕についた電鋸を振りかざす。キリアルヒャは天秤を地面に突き刺すと嘲る様に微笑みながら両腕を前にし、口を開いた。
「権能解放、支配」
振りかざした電鋸を天秤から現れた二つの剣が受け止めるも簡単に薙ぎ払われ、キリアルヒャも同様に電鋸を腕に受ける。
キリアルヒャの体は一瞬にしてビルの数々に穴を開けていき、五十メートル以上遠くに吹き飛ばされた。腕は削がれ使い物になっておらず、それを目にも止まらぬ速度で再生していくと嬉しそうに呟く。
「まさか、対アポカリプスシリーズ兵装を積んでいるのか。ははは、あの生命武器最初から違和感が有ったが今理解した。あれは万象の力の一部を持った、いや、分けられた武器か。それならもっと僕の力を引き出されるな。よしよし」
天使は独り言をぶつぶつと呟くと全て吐き捨て終わった途端、八枚の羽を広げ、怪物がいる下へと飛んで行った。腕には刀が握られており、怪物の左腕を切り落とす為に飛び回りながら刀を振るう。怪物は電鋸と同時に巨大な尻尾を振りながら飛び回る天使を振り落とそうと暴れ回った。
辺りのビルに傷がつき、電鋸が当たり破片を撒き散らすもそれが当たる人は居らず、下に咲き誇る黒い華を無常に潰していく。
そして、怪物はキリアルヒャを捉えると再び電鋸を振り下ろし今度は吹き飛ばすのではなく地面に叩き潰そうとする。
バキリと言う人の体は鳴らない音がその場に響くもキリアルヒャは右腕の電鋸を刀で切り裂き移動すると右腕全てを切り落とし、再び飛び上がった。
キリアルヒャは飛び上がり、八枚の白い羽を広げ、力を溜めるとその集まった光の刃を解き放つ。
「権能解放、支配堕天使」
刃はジグザグと放たれ、空から襲いかかる光に怪物をなす術なく切り裂かれる。八枚の羽は穴だらけになり、左腕も同じ様になっていた。怪物は痛みからか雄叫びを上げるもそれを聞くのはそれを殺そうとする白い天使のみである。
「怪物の身でありながら痛みがあるのか?甲冑の下に隠れている素顔が気になるがこら辺で終わりにしようか。まだまだ僕の思っていたよりも耐久性が足りないようだからね。次会う時は......? 」
キリアルヒャは怪物にトドメを刺そうとするもそれが立ち上がり、こちらを甲冑の下にある幾つも有る不気味に輝く目が彼女を睨みつけた事により言葉を失った。
切り裂かれた右腕は新しい物が生えており、羽と体の穴は完全に塞がり切っている。怪物は再び雄叫びを上げると次はその八枚の羽を使い、飛び上がり、キリアルヒャに再び襲いかかった。
怪物は空中でキリアルヒャに電鋸をぶつけ吹き飛ばす。彼女は驚きにより受け身を取れず足場の無い空中に放り投げられた。
黒いドームにぶつかるまでそれが止まる事はなく、ドンと言う大きな音が鳴り響く。
キリアルヒャは口から血を吐くと同時に自分の体が切り裂かれており、内臓が落ちているのを確認した。しかし、彼女は嬉しそうに笑い滴り落ちる内臓を体にしまい再生させる。
「再生能力持ちとは驚いたな。いや、僕が油断していたのが悪いか。嬉しくてつい手加減していたのかな? 」
彼女は黒いドームを蹴り上げ、空に浮かぶ怪物の下へ戻ると同時に羽を広げ再び光の刃を放った。先程よりも大きく多くの光の雨が怪物一体に容赦無く降り注ぐ。
輝きと共に煙が立つと目の前が見えなくなっていたキリアルヒャであったが手応えが無いことを感じるとすぐにその場から離れ、煙が開けるのを待った。
その予想は的中し、怪物は両腕を前に光の刃を受け止め、体には傷一つ生まれておらず、それは彼女を再び睨みつけていた。
(生きているのは分かっていたがまさか傷一つないとは。肉体じゃ無いから回復も魂を消費して補えるのか。こいつもしかして僕と同じ原理で回復している? なら誰の魂を使っている? この場の魂は僕が天秤に仕舞っているし。まさか、根源から引き出しているのか? それなら、僕の予想よりも厄介な奴だな。多分、一度受けた攻撃に耐性を持つ能力もあるし......)
彼女がそう思っていると怪物は空中で二つの電鋸を振るい襲いかかる。刀でそれを受けるも怪物の力強さにより空中で彼女は再び吹き飛ばされ、それを逃す間もなく怪物は追撃を行った。
空中でボールの様に飛んでいき、飛ばされ続けキリアルヒャは徐々に疲弊していくも彼女はその怪物を解析していき、勝ち筋を見出していた。
すると上空にあった黒いドームが消え、空が黒から茜色へと変わり下に咲いていた黒い華を煌々と照らし出す。誰かがドームの装置を壊したおかげで二体の兵器は太陽に照らされるとキリアルヒャは怪物に喋りかけた。
「そろそろ終わりにするよ怪物君? 」
そんな事をお構いなしにと怪物は雄叫びを上げ、彼女に向かいその刃を振り下ろした。キリアルヒャの目の前には天秤が現れており、それを目の前に両腕を重ね祈りを捧げ、そして、その魂達を糧として怪物を地獄の窯へと引き摺り込む。
「権能解放、支配領域」
天秤が光輝き、怪物と彼女を包み込むと支配の兵器が住んだ領域へと怪物を誘った。そこは何もなく、人の骸の山で出来た足場と青白い景色だけが広がっている。生者はおらず、骸の山に足をつけ怪物は自分に何が起きたか理解出来ていなかった。
「怖いかい? 君は武器のくせに人間的だね。でも、そりゃそうだ。ここは選ばれた者のみが入れる死せる領域。アポカリプスシリーズだけが持つ最奥の終末装置。君は誇っていいよ。僕にこれを使わせるまでの実力を持っていたからね」
キリアルヒャは劃の体ではなく彼女本来の白い長髪の少女の姿で門の前にある玉座の様な装飾の椅子に腰掛けており、その周りには彼女を称えるように黒い華が咲いていた。
怪物は彼女に攻撃を放とうと飛び上がるもその体を足場の骸が掴み体を空中で固定されてしまう。
骸達の力は凄まじく怪物は完全に動けなくなってしまい、彼女はそれを見ながら笑みを溢し、腹部に何かを投げつけた。
それは骨で出来た槍であり、骸の形を変え、幾つも放たれた。体は再び穴だらけになるも骨の槍への耐性を持ちそれが突き刺さる事が無くなると少女は無邪気に骸を捏ね始め次は斧の形へと変化させ、それを投げつける。
キリアルヒャは怪物が耐性を持つ事に確信を得ると無尽の骸を無常に武器に変え続け、それを怪物の体に放ち続けた。怪物の体は再び穴だらけになり、八枚の雄々しい羽は飛ぶ事を許さぬ程の穴があけられ、強靭な体には無数の武器が突き刺さっている。
少女は怪物を解き放つ様に青白い空間から解き放ち、ボロボロになった幽霊の王が空から地面へと自由落下する。
王はその少女に怒りと言う感情を初めて覚え、穴だらけであった羽を無理矢理動かし襲いかかった。
しかし、そこには既に広がっていた空間はなく、少女の姿もなく、そこにいるのは劃の肉体のキリアルヒャ。
天に刀を翳し、光が集まる。
そこに集まる光は生命の輝きそのものであり、劃とキリアルヒャが殺した人々の魂の最後の光。
「権能解放、後光刃」
光は幽霊の王の体を真っ二つに切り裂き、その形を喪失させ、最後に残った魂が主人がいたビルへと戻っていく。それを見ながら彼女は灰と大量の華が咲き、甘い香りが充満する地面に降り立つと目覚めようとする劃を慰める様に優しく喋りかけた。
「劃に噛み締めて欲しくてね。つい張り切って少しやり過ぎてしまった。都市の人間全員分を華に変えたから天秤にはまだ魂が残ってるから有効的に使っておくれ。それじゃあ、また、会おう。次はもっと成長した姿でね」
キリアルヒャはそう言うと目の前に広がる黒い華を見せつけるために劃の意識と切り替える。
劃は自分の体の中で全てを見ており、その場に倒れ込み大声を上げた。
変えられない意識の壁を何度も叩くもそれは壊れる事はなく、彼の意識が戻ったのはその惨劇が全て終わった後であり、殺し尽くした後だった。
無数の華は甘い香りを鼻腔にねっとりと絡ませ、劃は咽せてしまいその場で吐瀉物を地面に撒き散らす。
黒い華の一つ一つがその都市に住まい、営みをしていたただの人。灰は無数に散らばり、誰が誰だか分からない。
それら全てを一人残らず人ではないものに変えた自分を劃は許す事が出来ず、その場で何度も何度も頭を打ち続けた。
血が頭に滲み、普通の人間で有れば死んでいる程の威力で地面に頭を打ち付けるも彼の体は人を既に辞めており、血は流れるもその体が死することはなく彼の苦しみを増殖させていくだけであった。
後悔、絶望、そして、懺悔。
三つの感情が入り混じり彼の精神は崩壊直前であったが埋葬屋として彼らが未だに戦っている事を思い出し劃は立ち上がりふらふらとした足取りで黒い華に背を向ける。
(動け、動け、動け。動くんだ。俺は多くの人達を、見殺しにしてしまった。死ぬべきだ、本来なら死ぬべきだ。死んで彼らを弔うべきだ。だけど、そこで死ねば俺はただの人殺しになってしまう。動け、動いて自分の価値を示すんだ)
彼は呪いの様な決意を胸に再び地獄に足を踏み入れた。
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