三十七章 第三首都事変 其の拾参
恐怖は伝染し、広がり続ける……。
中盤戦も最終局面に移行!
死へと誘う兵器の姿をその目でお確かめください!
光線で破壊した窓から大層な黒羽を生やした天使は倒れている青年の下へ向かい、手には注射器が握られていた。
その注射の中身は青年の中に眠るもう一人の体の主人、それを目覚めさせる劇薬が入っており黒い天使は何の躊躇いも無くそれを首元に突き刺す。
「さぁ、混沌の開演だ、キリアルヒャ? 君が求めているものを僕が見せてあげよう」
そこで踊る演者は二人。
倒れていた青年は何も言わずに目を覚まし、目の前にいる黒い天使を見ると全てを察し、彼に喋りかけた。
「凪良翔悟、また君かい。何度もいうが僕は君に用はないよ」
目覚めた白い天使は呆れた口調で言葉を紡ぐもそんな事はお構い無しにと凪良と呼ばれた黒い天使は笑いながら口を開く。
「ああ、そんな事は知ってるよ。知ってるからこそ俺は君を求めている。支配の天使はあらゆる物を常に支配したい本能に駆られる。それを拒否する君を俺が欲さない訳がないだろ? 君は今その男の体にあるからそいつが支配したい自分の正義という欲が満たされてしまっている。だから君は昔の様に他人を支配したがらない」
「へぇ、そこまで知っていて何で僕に構うんだい? 僕の支配欲はこいつと体を共有しているせいで半減どころか無くなっているに等しい。でも、そんな事と何の関係がある? 君は紛いなりにも支配の兵器だ。支配の兵器はあらゆる兵器の中でも本能のままに生きれる権利がある。誰にも支配されない。他人を支配し、自分を支配する。その誰にも囚われない自由こそが僕達の本能であり、他の兵器達とは違う所だ。だが、どうだい? 今の君は僕に囚われている。僕という唯一無二の存在を欲している。自由であるべき兵器が一つの兵器に囚われて、恥ずかしくないのかい? 」
白い天使は黒い天使を睨みつけ彼の出方を伺うも彼は笑うだけであり、それが済み腰に差していた刀をゆっくりと取り出し逆手で握ると彼女に歪んだまでの愛と殺意を向けた。
「ああ、君が言っていることは一言一句全て正解だよ。支配の兵器として俺はあるまじき行為をしている。だがね、僕は君を支配すると言うこれ以上にない自由を手にしようとしているんだ。君は唯一無二の存在でもあるが僕にとっては唯一の同類。そんな君を欲っない訳がないだろ? 」
黒い天使の背後には六本の剣が浮いており刀を握りながら携えた大きな羽から光を放つ。
「生命開放、失楽園」
羽から放たれた光線はジグザグと線を描き、最愛の白い天使にその慈愛と殺意に満ちた光の刃を突き刺そうと襲いかかる。
光線は天使に直撃し、建物は崩れることは無かったが壁には穴が空いており、天使の姿は消えていた。白い天使はため息を吐きながらその光を体に受ける寸前、背中ににしまっていた白い羽を広げ、それを受けるとビルの外に追いやられ、彼女は羽を広げ空に飛び、その中にいる凪良の姿が見えると彼の体に目掛けて飛びながら蹴りを入れた。
煙が起こり前が見えなくなっていた黒い天使は煙の中から急に現れた白い天使の飛び蹴りを受け、ビルの外に出ると二人の天使はビル群の中に姿を表した。
ビル外で逃げていた人々は二人の天使に気づくと何を見ているのか分からずその場は更なる混乱が生まれた。しかし、それを見て幾人かは何故か祈りを捧げ始める。
無意識の内の祈祷。
神秘なる物を前にし、人は祈るしかない。それを眺めた人々は混乱は少しずつ消えその二人の天使を見ながら空を眺める。
キリアルヒャは劃が持っていた刀を右手に握り凪良と空中で斬り合いを始めようと近づくも凪良はそれを羽の後ろに浮かしていた剣で受け止め、羽を広げ再び光の刃を彼女に向けた。
それを避けようとキリアルヒャはビル群を壁にし飛び回るも凪良の光の刃は彼女を追う様に動き回る。
彼女がビルから抜け姿を現す場所を凪良は予測し、その場に現れると腰に差していた刀を抜き、刀を振りかざした。
二人の天使が空で刀を交え、重ねた刃から火花が散るもキリアルヒャは不意を打たれた事により力が入らず、一つのビルに叩きつけられてしまう。
しかし、吹き飛ばされた白い天使は体の内部の破損により口から血を吐くもそれを見ながら嬉しそうに呟いた。
「内臓の痛みか。ふふふ、良いね。今でしか味わえない痛みだ。血の味も悪くない。翔悟がどれだけ本気なのかも分かったし、褒美代わりに僕の本気を見せてあげようかな。ふふふ、それじゃあ、黙示録の再現といこうか」
キリアルヒャはそのビルから飛び降り、羽を使いゆっくりと地面に着地すると両腕を前にピタリとくっつけ祈りの型を取る。すると彼女の胸部から杖の様な物が飛び出した。
その杖には右と左に皿がついており、天秤の様な形をしていた。それを地面に突き刺すと彼女は不気味に笑いながら再び口を開く。
「さぁ!地獄の再現、支配の兵器の力をお見せしよう」
「権能開放、支配」
天秤はその声を聞き受け、何者にも染まる事が無いほどの白い光を放つ。
その光は大地の浄化、人が汚し、乏し、貶めた星への贖罪そのものである。
***
少女は少し嬉しそうに母の手を握り地下への階段を降りている。
彼女を助けてくれた青年の姿。
その姿を思い返し、母の握る手をより強く握り返す。地下に降り立つと多くの人間の悲鳴や恐怖が充満しており、それは人から人へと伝染し続けている。そんな中、少女だけはそれに飲まれる事は無く、気を強く持っていた。
(絶対にあのお兄ちゃんが助けてくれる)
何を根拠に少女はそう思ったのか分からない。しかし、何故か彼女には自信があった。
(あんな状況で他人を助ける事が出来るなら自分は彼らを信じて進もう)
幼い彼女はそう思うと自然と心が強くなり、悲鳴で溢れる地下でありながら一切怖がる素振りを見せない。
一目惚れだろうか少女は自分を助けた青年の姿を再び思い返し、そして、彼との再会を望んだ。
しかし、その夢は今瀬戸際に途絶える事になる。
「いやあ! 何で! どおして! 急に灰に、いやあ! 何で私の体もは......い」
始まりは一人女性の悲鳴から。
それは地下の悲鳴に呑まれるも次第にそれが連なって、人々の恐怖は連鎖し、伝染する。
そして、次に地下は甘い香りで満たされ、むせ返る様なその香りは少女の気を乱す様に、溶かす様に彼女の心に影を刺す。
自分達の方へとそれが迫り、見えた頃、彼女はそこから逃げようと走り出していた。母の握る手を振り解き、初めて会ったあの人を思い返し、頬を涙で濡らしながら足を動かす。
悲鳴が一つ、また一つと消えていき、少女を追う母の声が消えると彼女は無意識に後ろを向いてしまった。
そこには母だった物。
美しい灰と黒く禍々しい一輪の花。
最後に会えた希望と幸せを少女は抱きながら母と、その地下の人々と同じ様に黒い華へと姿を変える。
自分の身が溶けていき、感覚が消えていく。
自分だった物はもう何も残っておらず、そこに残るのは人々の嫌悪を促す黒い華。
***
地下を満たした甘い香りは地上に居た人々も同じよう公平に漂うもそれを嗅ぐ人間は居らず、地上も同じく華と美しい灰のみがその場に散らばり落ちている。その中心には天秤に手を置き、ケタケタと笑い声を上げる白い天使だけが佇んでいた。
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