三十六章 第三首都事変 其の拾弐
愛に飢える獣は一体何を求めるのか?
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二人の黒猫は互いの出方を伺いながら拳を交え、黒く染まった長髪と猫耳を靡かせながら勿は怒りを込め容赦なく拳を振るう。
そんな彼女とは裏腹に左門は余裕の表情で自分に向けられる怒りを簡単にいなし、微笑みながら彼女を宥めようと口を開いた。
「なぁ、姉ちゃん? 何でそんなに怒ってんだよ? 」
「呼ぶな! あなたは私の家族じゃない! だから、呼ぶな!!! 私を、私を家族と呼ぶな! 」
勿は怒りにより拳は乱雑になり、それを左門は簡単に避け彼女を見ながら嘲る様に笑みを溢し続ける。
左門から攻撃を仕掛ける事はなく、彼は彼女から放たれる一方的な拳をいなすだけで何もしない。
それに更に怒りを覚え、一旦距離を取ると彼女は壁の一つを自分の目の前に置き手を添え、そこから記憶を喰らい仲間の力を引き出そうとする。
それに呼応する様に壁が内側が開くとそこから刀が二本現れ、それを腰に刺し、黒猫は刀に手を添え口を開く。
「権能解放、抜刀・猫喰い」
それは行人の武器より放つ抜刀術、その物であり、勿は彼との記憶を喰らい糧にすると左門に切りかかる。そこには無意識の内に那須川の技術も加わり、踏み込みは地面を抉り取ると同時に凄まじい速度を生んだ。
目にも止まらぬ速度での抜刀は左門も反応する事が出来ず体にモロに受け服が破けるとそこから血が溢れ、礼服を赤く染める。しかし、彼はそれを痛がる素振りも無く、寧ろ、楽しんでおり、自分から流れる血を手につけ舐めた。
「良いね、姉ちゃん。それくらいじゃないと面白くない。じゃあ、そろそろ僕も見せようか」
少年はそう言うと背後に浮かぶ魔法陣に右腕を埋め、声を上げる。
「権能解放、具現化絶召喚王・右腕」
右腕は魔法陣から現れる六本の腕の一つになり、左門は腕をグーパーし、その力を試そうと勿に向かい走り出した。
背後に浮かんでいた魔法陣は消えており、壁の攻撃を遮っていた腕はない。勿は自分に向かって来る彼の体をすり潰すために六つの壁を一気に叩きつける。
六つの壁は無規則に襲いかかり、勿の怒りに呼応してか、いつも以上に力強く、念入りにそれは行われた。しかし、左門は右腕を魔法陣に再び埋めるとそこから一本の槍を取り出し、口を開く。
「召喚、戦神」
赤い槍は煌々と輝くと共に向かい来る壁を三つ蹴散らし、槍を携えたまま左門は壁を蹴り上げ、避け飛び回る。それは彼を追う様に襲いかかるも槍が再び輝くと再び壁は吹き飛ばされてしまい、勿を守る者が無いと分かった途端、彼女に向かい槍を投げつけた。
「権能解放、抜刀・猫の情」
彼女に向けられた槍を抜刀で叩き斬るも、目の前に急に現れた左門に反応が遅れる。その右腕には赤い槍が握られており、彼は笑いながら彼女の幼く華奢な体に槍を突き刺した。
勿の幼い体に穴が空き、右肩には黒いスーツからでも分かるほどに黒い粘り気のある血が滲んでいる。槍は深々と刺さっており、彼女はそれを抜くと同時に左門から距離を取ろうとするも彼は逃がそうとせず、刺した箇所をぐりぐり抉った。
「はぁ、ぐ......。うっ、はぁ」
抉られ度に開けられた穴から血が溢れ、意識が朦朧とする。そんな彼女を見ながら左門は笑いながら槍を引き抜こうとせず、逆により深く刺した込んだ。
「壁が巨大USB及び武器庫か。姉ちゃんもなかなか面白い権能使うね」
「黙って、黙れ! 黙りなさい! あなたは私の家族じゃない。だから、私をお姉ちゃんと呼ぶな」
勿は苦悶の表情を浮かべながらもそれにだけは怒りを込め答えると左門はそれを聞くとつまらなそうね表情をし、より深く槍を刺し、彼女は痛みに襲われ、口から血を吐いてしまう。
「ねえ、家族ってそんなに重要なの? 姉ちゃんは口を開くとそればかりだ。折角会えたのに僕は悲しいよ。あんたも僕も愛に飢えた兵器だ。僕らは互いに互いを認め合い、慰め合い、愛し合える。そう思っていたんだけどね。あんたは家族に愛を求めて埋めてしまった。悲しいよ。飢えをそんな物で満たしてしまうなんて」
「あなたに何が分かるの? 無くしていく記憶の中、彼らだけが私の記憶を、飢えを満たしてくれた! あの人達だけが私を兵器としてじゃなく認めてくれた! だから、私はあの人たちのために、認められる為に私の力を使い、振るうの」
そう言うと勿は左門の顔を見つめると突き刺さった槍を引き抜かず、そのまま間合いを詰め、蹴りを放った。
「猫号鉄鋼槍」
左門は勿が槍を引き抜かず、貫かれながら蹴りを放った事に驚きその攻撃を腹に受け、吹き飛ばされると上空に浮遊していた壁が彼を囲い、彼女は血を吐きながら壁の力を引き出す。
「生命開放、絶壁・6th」
壁の先端が輝くと共に地面をすり潰し、左門に重力の重みがのしかかる。受けた事のない重みに体は耐える事は出来ず、押し潰されていき、左門もまた口から血を吐くも左腕を魔法陣に埋め、権能を引き出そうと声を上げた。
「権能解放、具現化絶召喚王・左腕」
左門の両腕は装飾された鎧の様な物に纏われ、二つの魔法陣に手を埋めるとそこから二つの銃を取り出すとその引き金を引く。
「召喚、神獣」
二つの引き金を引き、白い獣が現れ、雄叫びを上げるとその場の重力が消え去り、彼はその場を抜け出すと倒れていた満身創痍の勿の目の前に立ち、彼女の髪を握り上げる。無理矢理立たされた痛みと髪を引っ張られた事による痛みが同時に襲いかかり、彼女は再び痛みにより苦痛な声を上げた。
それを聞きながら左門は彼女を煽る様に口を開いた。
「ああ、可哀想な姉ちゃん。これじゃ、皆んなに捨てられちゃうね! 可哀想に! 可哀想に! 」
しかし、それを聞いた途端、急に勿は青ざめた表情で頭を抱えながら不安定に声を発した。
「嫌だ、いやだ、イヤだ、嫌だ! 私は、私は捨てられない! 捨てられない! 皆んなは私の家族だもの私の家族? あれ? あの人の名前なんだっけ? ああ、食べ過ぎちゃった。あの人の顔も思い出せない。あの人の声が思い出せない。ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。忘れてしまってごめんなさい、役に立たなくてごめんなさい、家族なのに、家族なのに、私の家族、ああ、何で、どうして、ポッカリと穴が空いてる。ああ、埋めて、埋めて、誰か、誰か、私の穴を、記憶の穴を、私を愛して」
勿はそう言うと涙を溢すと大量の出血と不安定になった精神により張り詰めていた意識と彼女が彼女とたらしめていた何かが切れてしまい髪を引っ張られながら喋らなくなってしまう。
そんな彼女を見ながら左門は嬉しそうに呟いた。
「まさか壊す前から壊れていたのか。ああ、姉ちゃん。可哀想な姉ちゃん。それが飢餓の兵器の副作用なんだね。忘れっぽいだけじゃなく、記憶を喰らい自分の糧にする。その結果、自分自身の大切な記憶を食べ尽くしてしまう。はは、正しく飢餓だ。記憶に飢え、愛に飢える。でも、安心して、姉ちゃん。あんたの飢えは僕が満たしてあげる。だから、安心してお眠り。僕の唯一の家族」
左門はそう言うと彼女を抱え、自分の仲間がいる方へと歩き始める。
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