三十二章 第三首都事変 其の捌
ようやく中盤戦突入です!
それぞれの思いが交差する中、一体誰が闘争の兵器を、世界の未来を掴むのかお手に取って頂けると幸いです!
紫の流星はビル群の中に落ち、黒いドームに包まれた都市の中で一際賑わいを見せている方へと足を運んだ。
紫の髪を靡かせながら彼女はビルの間を天使が飛び回るように軽やかな足取りで素早く駆け回り、速度を上げていく。
次の瞬間、彼女の死角から一つの弾丸が頭に目掛けて放たれた。大きな銃声と共に弾丸は彼女の無防備な頭に目掛けて突き刺さろうとする。
彼女の頭を弾かれる一歩手前で、彼女は後ろを振り向くとそこには先程まで手に無かったレイピア状の剣がいつの間にか抜かれており、目の前にある弾丸を簡単に切り裂くと口を開いた。
「背後からの攻撃なんて卑怯な事をしないで出てきなさい、無礼者。正々堂々、殺り合いましょう」
彼女は銃弾が飛んできた方へと剣先を向けるとそのまま、その剣を投げつける。
灰色の髪をした青年は投げられた剣を簡単に避けると銃を握り締め、笑いながらその引き金を引いた。
彼女の手には武器は無く、防ぐ手段は無い。
しかし、彼女はそれに対してなんの感情も抱く事無く、吐き捨てるように呟くだけであった。
「生命開放、死告天使」
銃弾は彼女の体を貫くと体の中を駆け巡り、腸を、肺を、人間を生かす為の部位を容赦無く食い破る。
人としての命が尽き、彼女は魂なき骸と成り果てるも、ヒュードルは銃を握る力を更に強め、彼女に武器の力を込めたる為、声を上げる。
「生命開放、罪」
人間の生まれながらの呪いが込められた弾丸は再び彼女に襲いかかり、再び彼女を食い破ろうとした。
動かぬ物であった彼女の骸は弾丸を目の前にして、立ち上がりそれを素手で止めると姿を現した彼に対して急に近づき、剣を抜く。ヒュードルはそれの速度について来れず、反応が遅れるも彼女は自分に何かをする事なく彼はそこから距離を取り、再び銃を構えた。
先程まで白い礼服だった物は血に染まり、赤と白が混ざり合い、美しいコントラストを生んでおり、加えて、骸の紫の髪が彼女の異質さを際立たせている。
骸は彼を見据え、不気味に微笑むと唐突に喋りかけた。
「私はアズラエル、死を告げる天使。貴方の銃弾はお腹に響いたわ。気持ちの良い痛みよりも怒りが込み上げて来る様な呪いね。痛みは気持ちいいはずなのに今受けたのは違う」
死体が喋っていることに対して、ヒュードルは嫌悪感を抱くも、彼は冷静にそれを分析し、彼女に喋り返す。
「へぇ、痛みが気持ち良いね。気味が悪いな、君。アズラエルだっけ? 何で死んで無いんだ? 弾丸は君の体の大事な部分を容赦無く貫いた筈だよ?それなのに君は何で生きてる? 」
「別に死ぬ、死なないなんてどうでも良くない? 貴方如きが私達を測ろうとしないで。私は彼女が死ぬ事が条件で顕れる事が許される唯それだけよ」
彼女はそう言うと握っていた剣を彼に向け、「バン」と一言呟くと、ヒュードルに目掛けて銃弾の様な物が飛んで行った。
それを銃身で弾くも目の前に現れたアズラエルに不意を突かれ剣から放たれる鍛え上げられた鋭い突きに反応出来ず肩にそれを受け、吹き飛ばされる。
彼は吹き飛ばされながらもすぐに反撃するために立ち上がり、銃を構え、開放を行う。
「生命開放、罪」
人として生まれながら背負う原初の罪
それが込められており、受けたモノにその呪いの増幅を行う、人間特攻の一撃。
それは骸の天使に襲いかかるも彼女はそれを嬉々として体に受け、腹部が血に塗られ白い礼服はより赤く染まっていく。
「やっぱり、気持ち良くない。もっと気持ちの良い痛みを頂戴? 」
「そうかい、ならこれでどうだ」
彼は怒りが込み上げて来ており、口を開くと同時に指をパチリと鳴らした。
「生命開放、罰」
それは罪を裁く、人に与える原初の罰。
罪を受けた人間に対して体に増幅された呪いを解き放つ猛毒の一撃。
アズラエルはそれを受けると口から血を出すと、辺りには海が出来るほどの大量の血を吐き続ける。
しかし、それにより白い礼服は赤く染まり切ると彼女は不気味に微笑みながらヒュードルに再び喋りかけた。
「この痛みはなかなか良いわ。呪いを弾き出させて体を内部からズタズタにしていく。悪くない痛みね、どうもありがとう。テロリストのお兄さん」
「どうやっても死なない奴には興味は無いかな。痛がる表情をする奴は好きだけど痛がらないしなんならそれに感謝を述べるなんて反吐が出る。もう君には飽きたから、じゃあね」
彼はそう言うと腕についたワイヤーの様な物を壁に飛ばし、そこから一気に離脱しようとした。しかし、その背中を見つめながら血濡れの天使は悲しそうに呟く。
「生命開放、血酷天使」
彼女の作った血の海は大量の刃を作り上げ、彼の無防備な背中に飛んで行く。ついさっき似たような状況の再現。しかし、その量は先程の比ではなく一人に向けるには余りにも多く、怒りと憎悪が込められている。
その刃の中、彼が向かう方向から一筋の閃光が現れ、刃を横目に簡単に血濡れの天使の体を貫いた。
貫いた閃光は一度地面に当たり、その輝きを消すも再び灰の様なものからその姿を現し、彼女の背中を再び貫く。ボロボロであった彼女の体は更に穴が空き、貫かれた箇所から血が垂れ、口からも同じく大量の血を吐く。
普通の人間で有れば死んでいるはずの量であるが天使は痛みを噛み締め、血を凝固させ自分の周りに幾つもの武器を作り出し、同じ容量で大きく歪んだ赤い羽を作り出した。
「鬼ごっこといきましょうか。私が鬼であなたたちが逃げる方。捕まったら血を貰おうかしら? 」
赤い羽を纏った骸はビルをワイヤーで移動するヒュードルをとてつもない速度で追いかけて行く。
彼は自分の後ろに死を告げる天使の足音が聞こえて来るのに対して、至って冷静であり先程自分を助けてくれた者に対しての礼とこれからの作戦を告げるために耳につけたデバイスに喋りかけた。
「来栖の姉さん、さっきはありがとうございます」
デバイスの向こう側には巨大なライフルを構えた来栖が煙草をふかしながらそれに応えた。
「それはいいんだけどあんたあいつこっちに呼び寄せて無い?流石にあんなの相手するのは私には荷が重すぎるよ」
「いえいえ、あれはさっき連絡した彼女に当てます。あなたはそれの援護を。それと多分もうそろそろ彼女が来ますのでくれぐれも刺激しない様に。隊長以外は心を開いてくれなかったので」
そう言うとワイヤーを伝い、ビルとビルの間を縦横無尽に駆け巡る。そんな彼を血濡れの天使は自ら生やした血の羽で彼と同じように駆け巡り、彼を執拗に追い回した。
幾分かして、ヒュードルは目的地を目前にし、ビルのガラスを破り、部屋に入ろうとした瞬間、ヒュンという音共に大量の血の刃が飛んで来るとそれを背中に幾つか受け、壁に突き飛ばされてしまう。
「あらあら、私みたいに反応して下さいな。それとも無防備な背中は狙うなとでも言いたいのかしら? 」
彼女の武器の性質上、根源に深く繋がる事により、擬似的な不死を再現していることから口調がそちら側に引っ張られており、先程よりも妖艶にヒュードルに喋りかけた。
背中に受けた、血の刃は解けること無く突き刺さっているものの彼はそれを一本、また、一本と抜き始める。
それを見たアズラエルは彼に対する興味が急に冷め、ため息を吐くと自分の背中に作られた巨大な斧を腕に持ち、それを彼の首に目掛けて振り下ろす。
来栖はその瞬間、彼女の腕に目掛けて発砲するも血の羽がそれを簡単に掴み取り、それが広がり来栖の首を締め上げた。
「あら、さっきのヤツはあなたかしら?いい腕をしているわ。でもね、あなたのくれた痛みはとっても心地よかったの。ごめんなさいね? 」
赤い天使は彼らの命の手綱を最も簡単に握りしめ、彼らの最後に最高の痛みを与えようと赤い羽の形を変化させる。そして、自分に新しい痛みを与えたヒュードルの首を四肢を切り落とす為に電鋸の様な形に変化させそれを無造作に振り下ろす。
しかし、それは彼の首に届く事は無く目の前で赤い羽が紅蓮の戦斧に逆に綺麗に切り落とされた。
赫い髪を靡かせながら血濡れの羽を切り裂くと首を絞められ意識を失っていた来栖を拾い上げ、ヒュードルのいる方へと投げ捨てる。
「少しヒヤヒヤしたぞ、ブローニャ」
「いいえ、完璧なタイミングでした。それよりも聞いていたよりも負傷をしていますね。分析、負傷率40%。宣告、今すぐここから立ち去って下さい」
「駄目だ。君を一人にすると後で怒られるのは俺なんだ。ここでしっかりとみまって......」
次の瞬間、彼女は急に彼の目の前で戦斧を振ると驚きでセリフが途切れた途端、彼女は口を開いた。
「いつものあなたならこれを避けるどころか反撃をしようとします。今はそんな気力すらない様です。なので、戦いの邪魔です。死にたくないのであればここから立ち去って下さい」
ヒュードルは彼女が少し人間らしい心配をした事に戸惑うとため息を吐き、来栖を背負うと闘争の兵器に背を向けて、その場から立ち去り、そして、フロアから出る直前に彼女に一言を添えた。
「終わったら連絡しろ。この後、勝手な行動は許さないぞ」
「了承。必ずや任務を遂行してみせます」
彼女は戦斧を振り回すと向かって来る、赤い天使と対峙する。
統合政府「天使長」イズラエル・ファンロード
武器の開放でアズラエルと人格が変わるので口調も変わっている。能力は擬似不死化と自分の体外に溢れている血を操作する事が出来、その操作は血で手足を作り、ある程度の精密動作まで可能という優れもの。しかし、体外でなければ操作は出来ず、その為、自ら攻撃を受けないと能力を発動できない。
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