二十九章 第三首都事変 其の伍
第三首都事変は更なる混沌へ。
劃VSラスコー決着!!
彼らの戦いの行く末をお見届けください!
黒いドームの外側にヘリコプターが一機近づいている。その中には四人の男女がおり、静かに座っていると思ったのも束の間、カエサルが声を荒げた。
「連絡がねえからよぉ、直接来ちまったじゃねえか! あいつらしっかりと連絡するって言ったよな!! ええ?! アポロスもペッローもやっぱりダメだな! 」
彼の言葉に残った三人は反応を示さず、それに余計腹を立てたのか彼は再び何かを言おうとすると彼に向かい左門が飛び上がり回し蹴りを入れる。
しかし、それを右腕で掴み金髪な少年が座っていた席に投げ再び口を開いた。
「残念だったなあ、左門。おめえの攻撃は単調すぎんだよ」
「なら黙って座っていろ、カエサル。お前は五月蝿すぎる」
小さな機内で互いに火花を散らすもそれをティフォンとイズは止めようとせず見守っている。すると、操縦席にいたダルタニャンが彼らに向かい話しかけた。
「皆さま丁度上空に到着いたしました。降りる準備をして下さい」
その一言を待っていたかの様に先程まで声を荒げていたカエサルは急に静かになると準備を始め、残りの三人もため息を吐き、彼に続き準備を始める。
「皆さま下の方に行くには各自の武器と開放によるものでドームの破壊を試みて下さい」
「「「「了解」」」」
最初にカエサルが飛び降り、槍を顕現させ手に握りしめる。
「生命開放、絶軍神・怒髪衝天!」
ドームの真ん中に穴を開け、そこから四つの白い閃光が入り込む。
「オイオイ! お前ら! 俺の開けた穴で入るなよ! 」
「別に良いだろ」
「右に同じく」
「どうでもいい」
四つの白い流星は各地に降り立ち、そして、ペトゥロを探しにまた、闘争の兵器の確保の為、その場を駆け抜けた。
***
劃はボロボロの腕を動かし、ラスコーの体に何度も拳を放つ。痛みはとうの昔に限界を超え、感じなくなっている。しかし、それ故に彼は腕を無理矢理に動かし、壊れかけの時計の様に刻一刻と迫り来る自分の限界を無視し続ける事が出来た。
ラスコーは右足の骨が完全に折れているのを理解してはいるものの劃の拳を何度も受けた事により、腕にも限界が来ている事を気づき防戦を強いられる。
本来であれば絶折神・静を使い、彼を紙の中に封じ込め、足の回復まで時間を稼ぐ事が出来きた。しかし、劃の体には支配の兵器の力による生命武器の無効化が永久的に行われており、それにより紙に封じ込める事が出来ず、強制的な殴り合いへと持ち込まれてしまう。
劃は止まる事無く、拳を無茶苦茶に振るうもその一撃、一撃には那須川に習った意識の集中が行われており、ラスコーの防御を自然と打ち壊していく。
そんな中、ラスコーはその場を脱しようと紙を片腕に作り出す。
「生命開放、折神・伝」
劃から距離をとったもののその動きには先程までのキレは無く、少し距離を取ったのものの劃は彼を逃がさない。裏を取ったと思ったラスコーが目の前に現れた途端、劃はタイミングを合わせて彼の顔に拳を入れる。
それは彼の顔にしっかりと入り、彼を地面に吹き飛ばすと地面に這う彼を逃さず携えていた刀を強く握りしめた。
ラスコーも吹き飛ばされた体をすぐに立て直し、再び紙を伝い姿を消す。痛みは劃との戦いから来る興奮からアドレナリンがこれ以上にないほど分泌され痛みを中和し始め、今瀬戸際、本来の速度ではないもの劃の目には追えないほどの速度を作り出し、彼の体に蹴りを入れた。
(また、目で追えない速度の移動か。今のを何発も受ければ立ってられないな。あいつの放ってた紙みたいなのをどうにかしなきゃ。待て、あいつが武器の開放時にオリガミって言ってたよな。この部屋なあれがある。一か八か、やってみるか)
そんな事を思っていると再び高速の世界に足を踏み込んだラスコーは彼を仕留めるために徐々に速度を上げていき、そして、先程とは逆の足で彼の体に蹴りを放った。
その速度は亜音速の一歩手前、その攻撃が入れば確実に劃を仕留められる。しかし、劃は彼の蹴りを直接刀で受け止め様と構えた。ラスコーはそんな彼の防御事踏み躙り、限界を迎えていた腕と共に砕け落とす。
劃は刀と共に体を壁に吹き飛ばされ、口から血を吐くもそれと同時にようやく捉える事が出来たラスコーに自分の目的地通りの場所にいるのを確認すると既に使い物にならない右腕を無理矢理動かし刀を天井に投げた。
天井に向けて放たれた刀はスプリンクラーに直撃し、彼らの上から水が流れ落ちて行く。
互いの髪に水が滴り落ちるとラスコーは右手で紙を作り出し、その場を脱しようとするも紙は水により作る事が出来なくなっており、次の瞬間、劃が彼の体に蹴りを入れた。
折神の紙は水に脆く、ある程度であれば耐え切れるが大量の水を浴びると体外での紙の作成を不可能となる。劃の予想は的中し、また、自分の仕事場であった為にその部屋の構造を理解していた彼のみが持ち得た策。
この事により再び拳と拳での殴り合い。
劃の土俵へと強制的に持ち込む事に成功した。
劃の右腕は限界を迎えており、左の拳で彼の立ち上がったタイミングで拳をを放つ。ラスコーは自分の武器が封じ込められた事を理解するも彼の拳に意識は届かず、それを顔に直接受け水飛沫を散らし吹き飛んだ。吹き飛ばされたラスコーはすぐに立ち上がると劃を見つめると口を開く。
「やるな、お前。思ってたより、タフで強い」
急に敵からの賞賛に驚きつつも痛む右腕に視線を向け、彼の言葉に答えた。
「まぁ、それなりに鍛えてるからな。と言うか、褒められたからって何も出ねえぞ」
「ああ、そんな事は知っている。ただ、もし違うところで会っていたらお前とはいい関係を築けそうだったと思っただけだ。話はこれでお終いだ。全力で殺し合おう」
ラスコーは体中に来る痛みよりも彼との戦いから来る愉悦による喜びが勝り、笑みを溢すと自分自身の限界を引き出す為、己の根源と武器を深く繋げ、そこに眠るもう一つ能力を引き出した。
「生命開放、絶折神・吽」
水が互いの髪に滴り落ち、幾つかの水玉が落ちた瞬間、それを戦いの合図とし、一気に距離を詰める。
劃は蹴りを放つもラスコーはそれを簡単に避け、腹部、肩、右腕へと一気に拳をぶつけ、劃は痛みにより声を上げた。先程までとは違う別の速度。
絶折神・吽は体内に繋がる神経の中に紙を作り出し、神経を巡る信号をそれを伝い移動し、繋げる事で極限の反応速度を形成させる。
それは本来、脳が擦り切れる様な痛みと体に対しての負担の大きさ故にラスコーが使用を躊躇っていた能力。しかし、この土壇場での使用は劃を自分の好敵手と認め、彼に勝ちたいと言う思いからその痛みを超え、彼は人の反応速度の範疇を超越し、劃を圧倒した。
ついさっきまで防戦一方であったラスコーと劃の立場は逆転し、彼は一方的と言っていいほどに殴られた続ける。
防御していた箇所を超反応によって見抜き、防御の甘い箇所を一方的に攻撃し、右を打てば、左の防御が甘くなり、そこを打てばさらに他の箇所が甘くなる。これの繰り返しにより、劃の体にはとうに超えた限界の反動が今になって襲いかかり、朦朧とする意識の中、ラスコーから放たれた拳を掴み、背負い投げた。
それはかつて仲間と高めあった技術。今は亡き友が彼の背中を押したのか、それとも無意識のうちに行ったものなのかは分からない。しかし、それにより劃の意識はなんとかその場を踏みとどまり地面に倒れたラスコーに拳を放つ。
ラスコーは超反応により、掴まれた腕を振り解こうとしていたが劃の握る力に負け、背中から地面に叩きつけられ尋常では無い程の痛みが駆け巡る。彼も意識が飛びそうになるも劃が向かってくることを確認すると飛びそうになる意識を超反応で繋ぎ止め、沈みゆく体を負けたく無いと言う気持ちの一心で無理矢理動かす。そして、彼もまた劃の体に向けて蹴りを放った。
劃の拳はラスコーの顔に、ラスコーの蹴りは劃の体に、互いに限界を超えた一撃を受け、同時に吹き飛ぶと大きな水飛沫が上がった。
互いの体を洗う様に水が彼らに降り注ぐもラスコーが最初に立ち上がり、限界を迎え動かなくなっている劃の近くに骨折した足を引き摺りながら近づいて行く。
「良い戦いだった、東 劃。すぐに俺もそっちに行くと思う。その時は仲良くやろう」
そう言うとダガーナイフを握りしめ、劃の頭に突き刺そうと振り落とす。
次の瞬間、ガラス割れ、そここ光線の様なモノが放たれた。ラスコーはそれに気付けず直撃し、その場から動かなくなってしまう。
そこには巨大な黒い羽を広げた支配の兵器の失敗作。彼はラスコーを羽で無造作にどけ、倒れている劃に近づくと彼を見つめ呟いた。
「さぁ、混沌の開演だ、キリアルヒャ? 君が求めているものを僕が見せてあげよう」
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