二十五章 試練
那須川VS劃!
試練の行方は何処へ行くのか?
そして、次章より第三都市事変編開幕!
一週間後の期限の日。
那須川と劃は互いに拳を構え試合開始の合図を待ち、ジュダは彼らの真ん中に立ち手を前に出した。
「互いに死なない程度に本気を出してやってくれ。特に那須川は本気でやっても良いが壊すな」
ジュダはそう言うと手を上げ試合開始の合図をし、それと同時に走り出し互いに互いの間合いに入り込む。劃が初めに拳を放ちそれを那須川が受け止める形で試合は始まった。劃の拳は那須川となんら遜色のなく、互いに同じ拳を打ち合い続ける。
那須川も隻腕でありながら劃の拳を片腕と足で止め一度も彼の攻撃が体に入ることは無かった。那須川の蹴りを両腕で受け劃は少し吹き飛ぶもすぐに切り返し距離を詰める。
埋葬屋の面々はそれをガラス越しに見守っており、少年が声を上げた。
「劃! やっちまえ! 那須川の体に穴空けろ! 」
元気な声が鳴り響くもそれを後ろからイェーガーは頭を小突き彼を咎めた。
「静かにしろ行人。何でそう落ち着きが無いんだ」
「だってよお! この組手で劃の作戦参加が決まるんだぜ? 俺あいつと一緒にやりてえよ! 」
行人は手を振りながらそう言うとスペクターも彼を肩を叩き宥めようとする。
「それにしても行人がそんなに彼の事を気にいるなんてね。先週はあんなに一触即発な空気だったのに一体何があったんだい? 」
スペクターの問いに行人は食い気味に答えた。
「暇で那須川のところ見に行ったらあいつ俺でも受け切れない突きをしっかりと受け止めてたんだ! こいつは出来る奴だと思って那須川がいない時にちょっとだけ遊んだら抜刀を素手で受けるとかマジでぶっ飛んでてよ。こいつとなら作戦に参加したい、そう思えたしその後に色々話してみたら何か面白そうな奴だったから絶対勝って欲しいんだ」
すると行人が熱意が通じたのか那須川の蹴りと突きの連撃を捌き切り、劃は彼の体に拳を放った。
拳は塞がれるも那須川は少し吹き飛ばされ彼は満面の笑みを溢すと口を開く。
「你看起来好美! (素晴らしい! )劃、君がここまで成長してくれるなんて僕は感動しているよ! 一週間の内に僕の拳をしっかりと受け止めれる様になるなんてどんな特訓をしたんだい? 」
「眠ってる最中にも無理矢理特訓させられただけだよ」
劃はそう答えると彼をすぐに迎撃出来るよう両腕を前に構え、出方を伺う。そんな劃を見ながら一週間でここまで仕上がった友に対して那須川は喜びを隠さずにいた。
「劃、君の作戦参加はほぼ決まった様なモノだ。だけど、こっからは僕からの試練だ。ここまで仕上がった君がこれから放つ一撃を防ぎ切ったら僕が認める。埋葬屋三席、李 那須川。君に最後の試練を与えんとする者だ」
友に対する敬意と己の欲を満たす愉悦を拳に込め、那須川は彼らの目の前から一瞬にして姿を消し劃の目の前に現れる。
「覇号鉄鋼砲! 」
劃は彼が姿を現した瞬間に自分の勘を頼りに腕に力を込め那須川の放つ拳と同時に彼が言っていた事を思い出した。
***
特訓四日目、劃は遠ざかった意識が戻り、壁にめり込んだ体を慣れた手つきで無理矢理起こすと瞑想をしている那須川に声をかけた。
「なぁ、那須川のその覇号鉄鋼ってのは一体何なんだ?ただの技にしちゃあ食らった時の威力が段違いだし、生命武器の根源にある技の一つか何かか? 」
彼の問いに少し間を空け、那須川は瞑っていた片目を開くとそれに答える。
「ああ、そうだね、うん、君には教えて上げても良いかな。実のところ言うとね、僕の生命武器は滅茶苦茶条件が厳しくて殆どの場合使う事ないんだ。僕は基本根源を引き出している相手に対して根源を引き出していない状態で戦わないといかないから常に強さを求めているんだ〜。根源の力を過信している相手とかなら負ける事は無いんだけど、真の強者は根源から力を引き出しながら自分の力を加えてぶつけるからそれに比べると僕の体術と技術だけだと、ぶっちゃけ押し切られちゃうんだよね」
那須川はそう言い胡座の体勢から飛び跳ねると立ち上がった。
「それであんたが根源を使わずにそんなレベルまで至った話は覇号ってのと何の関係があるんだ? 」
立ち上がった那須川に劃は再び問いかけると彼は体を伸ばしながらそれに答える。
「こんな僕でも根源を引き出して尚且つ同化した相手だと流石に致命傷を与えるのは難しい。それで僕は考えた。幾つもの技を試したけどダメだったんだけど昔ジュダに無理矢理薦められて読んだ本の中にあったある技術を思い出してそれを取り入れてみた。それが覇号の正体。まぁ、覇号はただの号令だけどね。僕が取り入れたのは思い込みの力。体に入れる力を極所的に高め、その部分を鉄鋼の様になれと思い込む。すると破ることのできなかった武器の装甲を貫き傷をつける事が出来る様になったって訳だよ」
「思い込みってそんなんじゃあ、流石にあの威力に説明がつかないぞ」
劃は体を動かしながら彼の言っていることを実行してみようと体に力を入れ地面を叩くも少しヒビが割れる程度で響く痛みを散らそうと手を振った。
「号令を入れて自分の体の意識を高める。実際出来たのはスペクターぐらいだけだけどね。まぁ、物は試しってよく言うだろう? 君もいつか試してみると良い」
***
(こいつの拳を受けるにはキリアルヒャの領域で何度か試したあれしか無いな)
劃は目の前に現れる拳を見ながらそう思うと先日のやり取りを思い出し、那須川から放たれた砲撃を両腕に力を込め、彼の技術を試みようと声を上げる。
「権能鉄鋼」
号令と共に自分の腕に力と意識を込め、彼の砲撃を受け止める。劃の体は拳が当たった衝撃と共に一気に吹き飛び、壁に勢いよくぶつかり砂埃が立つと彼の姿が見えなくなってしまった。
「那須川お前あれほど加減をしろと言ったろう」
ジュダはそういうと那須川に近づき彼に手刀を入れようとするも、那須川はそれを避け、笑いながら構えを解かず口を開いた。
「土壇場で僕の技術を自分のものにしたね。やっぱり、君は最高だよ、東 劃」
砂埃が晴れ、壁にぶつかった劃の姿が現れる。そこには吹き飛ばされながらもしっかりと意識を保っており両腕を振りながら立ち上がった。
「痛えよ、加減しろって言われてなかったか? 」
「君にそんな事をしたら失礼だろ? 第二ラウンド行こうか」
彼らは互いに再び構え、試合を行おうとした瞬間、ジュダが彼らの間に立ちそれを抑えた。
「試練は終了だ。やりたいなら後でやってくれ那須川」
「チッ、しょうがないな〜。劃、また後でやろう! 」
那須川は少し顔をしかめるもジュダの静止を聞き入れ、その場から姿を消してしまった。
部屋にはジュダと劃の二人が残っており、少ししてジュダは彼に静かに口を開いた。
「おめでとう、東 劃。君は正式に埋葬屋の十席として認められた。これから君には勝手に地獄に付き合って貰うが覚悟はいいか? 」
ジュダの声には重みがありながらも劃をこの様な戦いに巻き込んでしまったことに対する申し訳なさが含まれている様であった。
しかし、その声を聞いた劃は彼を見据えながら堂々と宣言する。
「別にあんた達のために戦うんじゃ無い。俺は俺の正義を貫くために戦うんだ。この体は多くの人の魂で作られてる。潤、優午さん、それと見知らぬ人達。その人達を弔うには俺が最後まで自分を貫き続ける事の筈なんだ。そこからは俺の戦いだ。その道にあんた達が一緒にいるってだけであってそれ以上でそれ以下でも無い」
劃の答えを聞き終えるジュダは何も言わずに背を向けた。その顔には無意識の内に少しの微笑みを溢しながら彼はその場を後にする。
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