二十四章 初日
本編始めて連続投稿してます!
お手に取って頂けると幸いです〜
那須川に連れ回されるがままに劃は部屋に放り込まれる。真っ白い部屋の中には劃と那須川だけがおり劃は声を荒げた。
「あんた人の話聞かないな。俺はあそこでまだ話を聞きたかったのに」
「そう怒んないでよ。僕は君のことをある程度出来る人間だと思ってここに連れて来たんだから。それとあの場に居たかったなら席の番号を貰わない限り居られないよ」
そう言うと那須川は準備運動を始める。
「今から行きたいなら僕を倒してからにしてくれ」
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
劃は準備運動をしている那須川との距離を不意をつく様に詰め、拳を振りかざすも那須川はそれを隻腕の左腕で簡単に塞ぐと息を吐く間も無く劃の体に蹴りを入れる。ただの蹴りだと思い劃は防御を取っておらず、蹴りが入った体は宙を舞い部屋の壁にドンと言う重音と共にめり込んでいた。
「一言助言しとくよ。僕はあの中じゃ生命武器を使わないなら一番強い。舐めてたらこの一週間もせずに君死ぬことになるよ。まずはどんな攻撃も防がないと言う考えを捨てて欲しいかな」
那須川はそう言うと壁にめり込んでいる劃に走り寄りながら再び蹴りを放つ。意識は朦朧とするものの両腕でその蹴りを掴むと彼の足を引っ張りながら放たれた足の逆側を思いっきり蹴り飛ばし那須川の体勢を崩した。
空手に於ける足払いは本来、足を掴んだまま行うのではなく相手に牽制をかける時に使うことが多い。しかし、劃はキリアルヒャとの組み手により無意識の内にそれを行い那須川の背中を地面につけさせることに成功したかのように思われた。
体勢を崩された那須川は左腕を地面につけるとその腕力と劃が掴んだ足を重心にし彼の体を再び宙へ舞いさせる。浮かんだ体は無防備となりそれに向けて那須川は体を丸め、声を上げた。
「うん、うん、いい切り返しだった! 一日目にしては上出来だよ! それじゃあ、今日はこれを披露して終わろうか」
丸めた体は鉄の様になり、武を極めた一撃を劃の体にぶつける。
「覇号鉄鋼山! 」
ドン
人間と人間がぶつかりあって鳴る事がない重低音と共に劃の体は再び壁へと吹き飛ばされる。その一撃により彼の意識は完全に吹き飛んでおり那須川はそれを見るとため息を吐く。
「流石にこれは耐えきれないか〜。まぁ、いいや。今日は目覚めるか分からないから僕はここで特訓でもしとこうかな」
壁にめり込んでいる劃をそのままに那須川は隻腕で腕立て伏せを始め、その部屋は異様な光景が広がっていた。
***
円卓を囲う面々は話が終わると一人、また一人とその場を去って行く。勿はその場で目を瞑っており、寝ているのかそこから動こうとせず、黒い髪の青年がジュダに近づき喋りかる。
「ジュダ、スカディについて話がある」
彼は先日の作戦で重傷を負った幼馴染を心配しており、未だに彼女が目を覚さない事に焦りを覚えていた。
「スペクター、君が心配する気持ちも分かるが今は目を覚ますことを待つしか無い。リリィが診た限り肉体、内臓部への損傷が特に激しいらしく、未だに厳しい状態が続いている」
ジュダは彼を宥めるため静かに答えるも彼は背中に背負っていた電鋸をジュダの首元に向け声を荒げた。
「そんなことは分かっている! 僕が言いたいのはそこじゃないんだ。ジュダ、今回の作戦で分かった。彼女はまだ経験が足りない。それを踏まえて彼女を次の作戦のメンバーに入れるのはよしてくれないか? 」
スペクターはジュダの首元に向けた刃を離さず、彼が答えるのを待った。ジュダはそれに対して何も咎めようとせず冷静に答える。
「スペクター、君が言いたいことは分かる。今のままでは彼女を出すのは不可能だ。だが、これからの作戦はこの前よりも激しいものになることだろう。地下都市の子供達では彼女に匹敵する才能を持つ子は今のところ見当たらない。もし仮に見つかったとしてもその子を実戦までに持ってくるには時間がかかる。もう迷っている時間はないんだ。次の作戦に参加出来ずとも目覚めたら再び作戦に参加してもらう。厳しい事を言うが許してくれ」
スペクターはジュダの答えに納得が出来ず、怒りに身を任せ電鋸を彼に振り下ろそうとした。しかし、それを急に現れた一本の壁の様な兵器が止めると眠っていた勿が目を覚ましており、彼に問いかける。
「スペクター、何でジュダに武器を向けるの? 」
「勿、君には関係ないことだ。今ジュダと話している。少し黙っていてくれないかい? 」
スペクターの怒りはジュダに向けられており、彼はその場で武器の開放を行った。
「生命開放、深淵」
電鋸から鎖が現れジュダの体を締め上げる。彼は抵抗をすることなく、されるがままに縛られるもその武器目掛けてもう二つ目の壁が彼に向かって放たれた。
「喧嘩はダメだよスペクター」
「いい加減にしてくれ勿! 君が口出しする事はない! 」
「ううん、あなたは私の家族。ジュダも私の家族。家族が喧嘩するなら私には止める権利がある」
彼女がそう言うと壁の様な六つの武器が彼女を囲う様に顕現した。それがドスンという音と共に地面に落ちると彼の怒りを鎮めるため武器に自分の意思を込める。
「生命開放、絶壁」
彼女がそう言うと被っていたフードが風により後ろに下がり、そして、銀色の髪を靡かせなると頭の上にある動物の耳の様なものが現れた。しかし、彼女はそんな事はお構い無しにと六つ壁と自分を深く繋がる事に集中する。
六つの壁は彼女の願いを聞き入れるとその重たい腰を上げ動き出す。放たれた一撃はジュダを縛り上げていた鎖を砕き、もう一撃はスペクターに向かい突進して行くと彼はそれを鎖で固定し彼女との距離を詰めながら刃を起動させる。
ヴゥゥゥーーーーン
音が部屋に鳴り響き、それを壁の一つに突き立てる。壁と鋸ごぶつかり合った瞬間、火花が散るも互いの武器は壊れる様子はなく何度もその場で打ち合った。
六つの壁はその大きさ故に小さい部屋では力をあまり発揮出来ず、スペクターは自分に降り注ぐ壁の雨を軽く避け、彼はそれを綺麗に捌き切る。そして、勿の体を鎖で縛り上げ、ジュダの目の前に立つと再び刃を振りかざそうとした。
「随分、ご乱心ねスペクター。何があったか知らないけどジュダに手を上げるなんて貴方らしくないわ」
ジュダに刃が振りかざされる直前に部屋の扉の向こうから声がするとスペクターはすぐに攻撃を止め扉の方へと向かっていった。
「スカディなのかい? だってあれほどの傷治るまで時間がかかるって聞いていたのにどうやって? 」
彼は驚きで口があまり良く回らなかったが彼女の姿を見ようと扉を開けた。すると、そこには左目に包帯を巻き、先日まであった長く美しい銀髪の髪は首元ほどまでに切られていたスカディの姿があった。右手には切り傷が幾つも生まれており、松葉杖で何とか身を支えながら歩いて行く彼女の姿はとても痛々しくそれを見たスペクターは自分が彼女を救えなかった事に自分を責めた。
「そんな顔されるためにここに来たんじゃ無いわよ。スペクター、顔を上げなさい」
彼女の眼差しはスペクターをしっかりと見据えており、彼はそれを遠ざける様に顔を下にやると声を上げた。
「スカディ頼みがあるんだ。次の作戦に君は参加し」
「するわよ」
彼女は彼が言い切る前にそれを遮り宣言する。
しかし、いつもであれば折れていたスペクターであったが今回は引こうとせず彼女を説得しようと再び口を開いた。
「スカディ先日の作戦での傷はまだ癒えていない。君はリリィさんの武器を使ってなんとかなると思っているかもしれないがあれは寿命の前借りをしているだけなんだ。自分の体の事は自分が一番分かるはずだ。今回は諦めて大人しくしていて欲しい」
「ええ、あなたに心配されなくても自分の体は自分が一番理解しているわ。でも、これから一ヶ月もあれば元通りよ。大体、あんたは心配しすぎだし、自分でなんでも背負いすぎなのよ。この前の任務で私が失敗しただけなのに全て自分のせいだと思っているでしょ? 」
スカディの言葉に的を突かれスペクターは口ごもってしまうもまだ彼女が戦いに身を投じ傷つく事を見たくはなく何としても止めるために言葉を紡ごうとすると勿がそれを遮る。
「スカディの体に傷をつけたのは誰? 」
「あら、勿がフードを取っているなんて珍しいわね。誰のせいでも無いわ。これは私の未熟さから来た傷。勿が気にする事は一つもない」
スカディがそう言うと部屋から出ようとするも傷ついた体では動くのが厳しく何とか痛みを堪えながら足を動かした。それを見た勿は彼女の松葉杖を握る腕とは逆の方に行き彼女の手を掴み、彼女の手助けをする。
「勿そこまでしなくていいのよ。自分で歩けるし」
「ううん、家族が困っている時はみんなで支え合うのが決まり、約束だから」
彼女はスカディを手を握りながら部屋を去っていきジュダとスペクターがその場に残された。スペクターは刃を向ける事は無く席に座るとジュダが彼に喋りかけた。
「スペクター、彼女は君と同い年だ。もう少し同等に見てあげてもいいんじゃないか? 」
「分かってる、分かってはいるんだ。僕が彼女を止める事は出来ない事は。でも、彼女がこれ以上傷つくのは見たくない。彼女は僕のヒーローで幼馴染なんだ。一回の作戦であんなにボロボロになってしまったのに次の作戦に参加したら命すら危ないんじゃないかって」
スペクターは自分が行った行動が危険なものであったのを理解すると同時に彼女を心配する気持ちをジュダに吐露する。
「今回の作戦では君とスカディを同じチームで参加させる。それが俺が出来る最大の譲歩だ。それと今回、俺に刃を向けたことは不問にする。これからの戦いには全員の力が必要なのだ、分かってくれ」
ジュダはそう言うと席を立ちその場から姿を消し、一人残されたスペクターは部屋の天井を眺めながら考えに耽た。
そして、様々な思いが交差しながら一週間後の劃と那須川の組手へと物語は歩を進める。
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