二十章 審判 其の拾玖
更新遅くなってしまい誠に申し訳ございません!
次で審判編完結します!
(闇夜には光がよく似合う)
妹背山はそう思いながら試験管につながる白い天使を取り出すために端末の操作を始めた。
警報が鳴り響き、その部屋に大勢の人間達が向かうも傀儡達が彼らを一人残らず排除していく。
そして、全ての操作が終わると試験管のガラスが消え、その中にいる白い天使が虚な目で彼を眺めていた。そこから動こうとしない天使に苛立った彼だがすぐに自分を落ち着かせて、傀儡の一体に天使を持たせると仕掛けていた爆弾のスイッチを押し、彼は武器を開放する。
「生命開放、人形王・空魚」
空魚は彼を口に入れると爆弾をものともせずに空を泳ぐ。空魚の中で未だに魂が抜け落ちている天使に妹背山は喋りかけた。
「やぁ、やぁ、やぁ、初めましてかな? それとも久しぶりかな? 凪良」
しかし、天使はそれに答えず、虚な目で彼を見ており、妹背山はため息を吐くも彼の顔には凪良真琴の面影がぼんやりとあり、それ以上強く攻めようとせず口を紡ぐと彼との約束を守るため誰もいない所へと空魚を泳がせた。施設は爆発にまみれ闇夜に一層光が際立っている。
「私達の新しい旅路のファンファーレ様だ。気持ちが良いね」
彼はそう言うと爆発は更に大きくなり破壊の限りを尽くすと空魚は闇夜に消えていった。
***
「ペトゥロ、こんなところに呼びつけるなんて一体何のようだ? 統合政府の出した仕事はしっかりこなしていたぞ。ケチをつけるなら次から仕事は受けない」
「そう声を荒げないでくれよ、ジュダ。別に仕事の話をしに来たんじゃないんだ。今日は私自身の頼みがあって来ただけだよ」
統合政府第二首都にて、夜の街に二人の男が対峙している。ジュダは彼が何を言い出すか予想がつかず何も答えずにいるとペトゥロが再び口を開いた。
「ジュダ、君の生命武器、いや、星の根源の片割れである神羅を返して貰いたい」
それを聞いたジュダの警戒心は一気に高くなり、両腕を前に構えるとすぐに答える。
「断る、お前にこれ以上力を持たせるのは危険すぎる」
彼が何を企んでいるのかは分からないが確実に自分に敵意を向けているのだけは確かであったが、そんな彼を見たペトゥロはそんな彼をお構いなしにとそのまま話を続けた。
「ふむ、やはりそうか。理由は言えないが返して貰いたかったのだがね。仕方が無いな。ならば、万象を君に渡す。だから、神羅を私に渡して欲しい」
「支離滅裂だな。お前がこれを渡した時、こいつを制御出来ないから二つに分けたんだろ? 何故今になって交換などを考える。欲しいなら力ずくで奪ってみろ」
ジュダは冗談でそう言うと彼に背を向けその場を去ろうとした次の瞬間、ペトゥロは背を向ける彼に聞こえるように声を上げた。
「残念だよ、ジュダ。なるべく穏便に済ますつもりだったんだけどね」
そう言うと彼は両手をくっつけ祈りの構えを取ると不可視の斬撃を放つ。
「生命開放、絶包丁」
不可視の刃がジュダの背中に容赦なく襲いかかるも彼はそれをのけぞりながら避けると彼もまた祈りの型を取り開放を行った。
「生命開放、絶技」
ペトゥロとの距離を一瞬にして詰め、蹴りを放つが何かがそれを通さず、ジュダはそれを蹴り飛ばし自分をペトゥロから遠ざける。
(不可視の壁か。小賢しい真似を)
そう思った束の間、ペトゥロは自らジュダとの距離を詰めると不気味な笑みを溢しながら原初の炎を放つ。
「生命開放、絶焔刃」
全てを喰らう原初の炎はジュダに目掛けて放たれ、彼の体を燃やし尽くす。しかし、ジュダは落ち着いており、彼に対しての怒り、そして、これからの未来の為に己の全てを解放する。
「生命解放、限界超越」
ジュダの体に黒いコートが顕れ、それを着ると彼を喰らおうとする炎は消え去っていた。彼は両腕を前にし、焔を纏うペトゥロに自分のこれまでの思いを吐露し始めた。
「ペトゥロ、昔の俺はお前を正義の、いや、自分の善悪の指針にしてた。俺にとってお前は友人でもあり、俺の人生にやりがいと言うものを与えてく恩人だ。二十年前、お前がイアンコフと戸松に拉致られた時も俺にはお前が必要だったから助けたんだ。あんな馬鹿二人の相手を一人でするなんて自分のために以外には出来ん。こう思い返していると俺はお前の事を自分のことの様に考えているらしいな。だが、それは今も同じだ。今のお前はかつて俺が指針にしていたペトゥロ・アポカリプスではない。それでも、俺はお前を止めたいと思っている。友人として、俺自身として」
彼はそう言うと覚悟を決め、足に力を込める。大地を蹴り上げ一気にペトゥロとの距離を詰めると彼に拳を放つ。
「生命開放、超越絶拳」
ペトゥロに対する怒りと想いが混ざり合った拳は不可視の壁を壊すと彼の体に拳が入った。
その拳をペトゥロは掴むと原初の炎により彼の体を燃やし尽くそうとするも、ジュダは掴まれた拳からペトゥロの服を掴み、彼を地面に叩きつける。その一撃により、ジュダの腕を掴む力が緩むと彼はペトゥロに蹴りを放ちビルの壁へと吹き飛ばす。
ジュダは自分の体に纏わりつく炎を消すと壁にめり込んだペトゥロにトドメをさそうと再び距離を詰めようとした。しかし、壁に打ち付けられたペトゥロは祈りの型をとっており、向かい来るジュダを見据えるとボソリと呟く。
「ジュダ、君の本気は分かったよ。でもね、僕にも譲れないものがあるんだよ」
その呟きと共にペトゥロを中心に熱が高まり、ジュダが目の前に現れた瞬間、彼の解放によりその場に火柱が立つ。
「生命解放、調理場」
ペトゥロの白い礼服の上にも白いコートの様なものが顕れると彼はそれを羽織り、火柱に巻き込まれていたジュダの顔を右腕で掴み上げるとその腕に力を込めた。
「生命解放、零絶包丁・捌」
腕に掴まれたジュダの顔に容赦なく斬撃が降り注ぐ。彼は顔を掴んでいるペトゥロの腕からなんとか離れようとするもペトゥロはそれを逃そうとせず、斬撃を放ちながらビルに何度も打ち付けた。
ビルには貫通した斬撃とジュダの体を思いっきり打ち込んだせいでヒビが入り、そして、壁を突き破るとペトゥロはジュダを中に放り込み、右腕を前にし力を放つ。
「生命開放、零絶粉砕・流星」
壁の空いたビルを不可視の槌が頂上から一気にすり潰す。ジュダも勿論共に巻き込まれており、一つのビルが無くなるとペトゥロは再び腕を前にし追撃を行った。
「生命開放、零絶包丁・千切」
ペトゥロを中心に辺りのビル全てに斬撃の雨が降り注ぐ。凪良真琴に放った時よりも速く、鋭く、容赦無くそれは行われる。全てが終わった頃には辺りのビルは全て切り裂かれており、それを見たペトゥロは口を開いた。
「ジュダ、安心してくれ。昨日の時点でここにいる人間は全て安全な場所に避難させておいた。存分に殺りあえるぞ。生きているのは知っているから早く出て来い」
ペトゥロはそう言うとジュダが現れるのを待つも彼の期待を裏切るようにジュダは現れず、一人崩れ落ちたビルの間に呆然と立ち尽くすとため息を吐きその場から離れようとした。瞬間、何かに足を掴まれ、地面に埋められると下から黒い獣が地面を破りペトゥロの顔に一撃を放つ。彼はそれを防ぐ事が出来ずそのまま顔に拳が突き刺さると崩れたビルの壁に叩きつけられた。
黒い獣の顔には切り傷がいくつもついており、黒いコートもボロボロになっている。吹き飛ばしたペトゥロを眺めると彼はいつも以上に大きな声でペトゥロに言葉を放つ。
「痛えよ。これ以上馬鹿になったらどうするつもりだ」
「君は元来天才だろ? 多少馬鹿になるくらいが丁度いいと思うよ」
そう言うと互いに睨み合い、闘争心に燃えたぎる様な火をつける。
ジュダは自分から攻撃しようとせず、両腕を前にし、受けの構えを取るとペトゥロの動きを伺う事にした。
(へぇ、君から攻めて来ないなんて意外だな。ならば、その誘い乗ってあげるよ)
ペトゥロはそう思うと体中のバネを一気に稼働させ、ビルの壁を全身を使い跳ね上がると壁から壁へとジグザグに動きジュダの視界から姿を消す。そして、ペトゥロが目の前に現れた瞬間、ジュダはそれにすぐさま勘付き膝から股関節までの力を一気に抜くと彼もまたペトゥロの視界から一瞬にして姿を消した。
古武術の技術である膝抜き、ジュダはペトゥロの足下に滑らかに入り込み力の流れを殺さずそのまま蹴りを放ちながら声を上げた。
「生命開放、超越絶廻蹴」
ペトゥロの顔に再び蹴りが入るかと思いきや、彼もそれを真っ向から受けて立つために開放を行う。
「生命開放、零絶凍結」
ジュダの蹴りはペトゥロに届くことなく、彼の体全体が凍りつき動けなくなってしまう。そんな彼の頭を握ると再び斬撃を放とうと腕に力を込めた。しかし、凍りついていたジュダの体にヒビが入ると彼は急に動き出しペトゥロの顔に蹴りを入れる事に成功する。
ペトゥロの意識が少し飛び、彼の体も地面に叩きつけられるとそれにジュダはお構い無しに彼の体に馬乗りになりながら拳を放つ。一撃一撃が地面を割るほどの威力の拳を容赦無く彼の体に打ち込んだ。ペトゥロも数発食らった後に彼の足を掴んで斬撃を入れると彼の体に乗っかっていたジュダの力が弱まったその隙に自分の間合いから自分の体を無理矢理起こし、彼の体に蹴りを入れる。体勢を崩されジュダはそれを腕で受け止めるも蹴りには思った以上の力がこもっており彼もまたビルの壁に吹き飛ばされ、そして、再び彼らは互いに走り寄り、距離を詰めると拳を打ち合う。
かつてあらゆる兵器全てを否定して来た生命武器。それらを交え、力と人間が生み出した技術により行き着く先は拳と拳の打ち合いであった。
泥臭く、血生臭い。
しかし、今の彼らを現代の兵器が止める事は不可能であり、唯一止めることが出来るのであれば彼らのどちらかが倒れることだけである。
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