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散華のカフカ  作者:
二部 闘争の戦斧
33/119

十八章 審判 其の拾漆

審判編終幕まであと少し!

お手に取って頂けると幸いです!

 燃え盛る大地に一人の男が倒れ込んだ。

 彼の体には幾つもの切り傷がつけられており、その意識は今にも何処かへと行ってしまいそうになっている。凪良真琴はその動かぬ聖者を見下ろすと彼の体に刀を突きつけ、重く閉ざされていた口を開いた。


「恵まれた家庭、恵まれた人生、恵まれた運命。君は全て恵まれていただろうに、それを自ら切り捨てるとは実に愚かだな。ペトゥロ・アポカリプス」


 彼の声は既にペトゥロに届いておらず、それを見るとため息を吐き、再び背中に刃を突きつけた。何度も、何度も、容赦無く、男に血は通っていないほどに冷徹に、冷血にそれは行われる。


「少し昔話をしよう」


 唐突に刃を突き刺すのを止めると彼は既に魂なきペトゥロの亡骸の上に座った。袴に血がこべりつくもお構い無しにと彼は座り込み、誰に伝える訳でもなく、自分の運命を呪いながら語り始める。


「俺の家系は生命武器を扱える一族の一つだった。だが、俺はさっきも見せたが根源に接続出来ない。それどころか根源を引き出した状態で生まれてしまった。その後はお察しの通り。親族から虐げられ、辱められ、人としての尊厳は無く育てられた」


 そう言うと再び凪良はペトゥロの背中に刃を突き立てる。もう流れる血はなくそれを見ると再びため息を吐くと再び口を開いた。


「でもな、お前達が起こした『審判』は俺の転機となった。周りの奴らは灰になって死んでいき、俺を縛る者は無くなった。俺はお前達に感謝しているんだ。それのおかげで俺は今、この国を得た。何も持たざる者が全てを得る。何とも浪漫のある話だろう? 」


 この世の理から唯一抜け落ちた男は孤独を埋めるために国を取った。それが如何なる手段であろうとも彼が求めた物はいまはもう誰に否定される事は無い。

 反応の無い骸に興味が無くなり、凪良はそこから立つと刀を抜き、最後の一太刀をペトゥロに目掛けて無慈悲に放った。







 しかし、それはペトゥロの体に届くことはなく、彼の体をすり抜けるとその太刀は地面を切り裂いた。そして、その場からペトゥロがゆらりと立ち上がると凪良はすぐに彼から距離を取ると刀を握る力を強める。


「死んだふりにしては穴が空きすぎてるな」


 穴だらけの骸は虚な目で彼を見つめると不気味に笑い出した。


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


 その声は燃え上がる大地に響き渡る。

 凪良はそれに危機感を覚えるとその亡霊を断ち切るために足に力を込めた。一瞬にして、ペトゥロの目の前に現れ、再び刀を振るう。地面は再び切り裂かれるも彼の体には傷一つついておらず、凪良は生まれて初めて得体の知れない物に対する恐怖を覚える。


「今、恐怖したな? 」


 ペトゥロは空な表情で凪良を見つめ彼の感情を読み取ると凪良に喋りかけた。


「遂に人を完全に辞めたらしいな」


 凪良は自分の気をしっかりと保つ為、また、ペトゥロの動向を伺うためにわざと攻撃的な言葉を放った。しかし、それは意味をなさず、彼は体の穴の傷からはありえないほど元気な声を出した。


「ああ、そうか、君とは初めてだったな。それじゃあ、自己紹介と行こうか。初めまして、凪良真琴。僕の名前はペトゥロ・アポカリプス。新世界の担い手さ」


「さっきまでペトゥロ・アポカリプスじゃなかったみたいな言い方だな」


「いや、彼は僕さ。だけど、少しばかり僕とは違う。まぁ、それはいい。今は君と少し話がしたくてね」


 ペトゥロ・アポカリプスは確実にあの時、死んでいた。凪良は彼を確実に殺すため、いや、なぶり殺すために、何度も、何度も、その刃を突き立てた筈だった。しかし、何故かその彼が目の前に立っている。

 凪良の警戒心とは裏腹にペトゥロは楽しそうに現世の空気を楽しんでいた。


「警戒するのは勝手だが話は聞いてくれよ?とりあえず、君の目的は何だい? 」


「俺の目的だと?そんなことを聞いてどうする? 」


「もしかしたら見据えてる未来は同じかも知れない。そうすれば争わずにも済まし一石二鳥だとは思わないか? 」


 ペトゥロの自分の心を掌握してくる様な声に耳を傾けようとしなかったが彼の提案だけを汲み取ると凪良はその問いに渋々答えることにした。


「俺の目的は至ってシンプル、日本国民全てに再び根源を引き出す力を与えることだ。俺だけが根源を生身で引き出すのでは無い。全ての国民が俺と同じくなることで強い国民、強い政府、強い国を作れる。これが俺が目指す未来だ」


「ふむ、いいじゃ無いか。僕が目指している世界と大体同じだ。でも、欠点があるね。何故、全ての人類にそれを行おうとしない?」


 ペトゥロの言葉に棘は無く、寧ろ自分を諭す様に言葉を放つ。しかし、凪良はそれが気に食わず首元に刃を突き付けると再び口を開いた。


「身に余る結果を求めた故にお前達の様になったのだろう。俺は同じ轍を踏まん」


「身に余る結果か。そうか、それじゃあこちらも質問だ。何故、僕達が目指した物が身に余ると思ったんだい? 」


 ペトゥロは刀の先端に手を添え、握り込んだ。

 凪良はそれを振り抜こうとするが先程とは別人の如き力で抑え込まれ、彼はその場から動くことが出来ず、刀から手を取ると少し距離を取りそれに答えた。


「全人類の幸福など俺にとってはどうでもいい。俺の一族は国を守る為の懐刀だった。しかし、俺が奴等から解放されたと同時に守るべき国は消え、その代わりに血と暴力が跋扈する無法地帯が広がっていた。俺は悲しんだよ。これから俺は何を目的に生きてけばいいんだって。そんな時、ある考えが思いついた。俺がこの国の舵を取ればいいんじゃないかって。それは見事に的中。どんな兵器でも傷つかない体、それらを捻じ曲げる力、それだけが有れば全ては簡単に終わった。俺が国を手に入れるのに半年かからなかった。そして、これから俺がこの国を守っていくそんな思いに浸りながら過ごしていたそんなある日だ。お前達が統合政府を設立したと聞いて怒りが込み上げてきた。何故今になって現れた、俺が守るべきものを見つけた時に何故また俺の邪魔をするとね」


 凪良はかつて虐げられて来た過去を思い返しながらそれを語る。そこには彼の家族に対しての怒りや憎しみが込められていた。それを聞くとペトゥロは少し寂しそうな表情をし、彼に刀を返すと口を開く。


「そうか、それは申し訳ないことをした。僕もそんなつもりはなかったのだが、いかせん計画を進めるには必要な物だったからね。それでも、君の目的や信念はとっても素晴らしいことだと思うよ。だけど、君の見ているビジョンは案外近い所しか見ていないね。勿体ない、何故その先を見ようとしない? 」


「お前に何が分かるというのだ! 虐げられた者がせめて国だけでも救おうとする気持ちご分かるというのか?分からないであろう?お前が掲げる正義は偽善そのものだ。それを棚に上げて貴様は何を」


「凪良真琴、そこだよ。僕を偽善と言うのであれば君の方こそ国の為に言いながら自分の欲求を満たすだけの道具にしているではないのかな? だが、それもいい。とても人間的だ。いい機会だ、今から君に僕達の本当の目的を教えて上げよう。『審判』の本当の意味、そして、これからの世界のことを」


 ペトゥロ・アポカリプスは凪良真琴に己の全てを語り尽くす。ジュダにすら教えていない『審判』の目的、そこから生まれるであろう四つの兵器、人類の『再誕』。雄弁に、優雅に、力強く、己の愉悦を満たす様に彼は喋り続けた。


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