十章 審判 其の玖
連続投稿慣れて来たけどなかなか辛いっす。
お手に取って頂けると幸いです。
「ペトゥロ様、イアンコフ様が青髪の男にやられました」
「何だと? ジュダではない者にやられたのか? 」
統合政府第一首都星の塔「スーテラ」教会内部にて大きな声が響く。
その部屋にはペトゥロのみがおり、彼は教会にあるある物を操作していた。
「ダルタニャン、その青髪の男を連れて来れるか? 後、イアンコフの回収も頼みたい」
「かしこまりました。すぐさま回収作業に入ります。ペトゥロ様も同志が亡くなった事をあまり思い詰めぬ様に。あなたはお優しい方ですから」
そう言うとダルタニャンからの連絡が切れた。
「ジュダ以外の人間にやられるとは、デウス・エクス・マキナも計算を外すことがあるんだな。青髪の男が特異な存在だったのか? だが、こいつは人間の根源の集合体、高次元計算機である筈なのだが。三年前にも感じたことだが私達以外にも生命武器を持っている奴らがいるのか? もしそうなるとマキナの計算が狂うことになる。これからそれを踏まえて調整を行うか」
彼は一人、教会にある根源の塊に触れようとする。
***
巨神と戦鬼の戦いに決着がついた頃、妹背山は倒れるアシモフを見て再び興奮をしていた。
「ディモールト! ディモールト! アシモフ! 君は何故、最も簡単に人間の常識を! 限界を! 不条理を! 超えていける! やはり、私の目には狂いは無かったらしい。君に繋がった根源達は神の不条理に抗った者たちだ。ここで今、君は生まれ変わったらしい。神の意思に反く者へと。あの巨神のデータもとりたい。とりあえず、回収するか」
彼はそう言うと己の魂を根源へと繋げると傀儡に自分の魂を分け与える。
「生命開放、人形王」
一つの傀儡に魂が宿り動き出し、それはすぐさまアシモフが居る所へと向かった。
「なかなか、操作が難しいな。アシモフを回収し、」
傀儡がアシモフに触れようとした瞬間、糸のような物が絡まり付き動けなくなった。
「イアンコフ様を殺した不届き者の仲間か。ならば、お前も回収してやろう」
闇の中より一人の男が姿を現す。
手には傀儡に纏わりついた糸の様なものを持っており、それに対して並ならぬ殺意を放っていた。
傀儡は体中からナイフの様な物を一気に飛び出させ糸を断ち切ると彼に問いかける。
「へえ、あんた何者だい? なるべく穏便に済ましたいのだが」
「ならば、その男を置いていけ。そうすればお前だけは助かるぞ」
「彼は僕の優秀なモルモットだ。まだ、手放す訳には行かないんだよ」
傀儡は吐き捨てる様にそう言うとダルタニャンに勝負を仕掛ける。
走り寄ってくる傀儡の腕は回転し、ドリル様になっており、それを無茶苦茶に振りかざすも妹背山は未だに傀儡の操作に慣れておらず攻撃が大雑把になっていた。しかし、ダルタニャンはそんな事はお構い無しに向かって来る傀儡に糸を放つ。
糸は再び傀儡の動きを止めるもそれを止めれたのはほんの一瞬であった。
しかし、その一瞬を彼は無駄にせず、傀儡の腹部へと発勁を放つ。
ドン
凄まじい程の重音が鳴り響き、傀儡の腹部にはヒビが入っていた。
「がっ、何だ。今の」
傀儡に魂を乗せすぎたせいで妹背山にも腹部への衝撃が走る。
しかし、そのまま拳を振り落とそうするダルタニャンを傀儡から遠ざけようとなんとか口を開いた。
「生命開放、人形王・剣戟武装」
腕から細かい剣がいくつも現れるとそれを回転させ振り下ろす拳にぶつける。それは回転しており、先程のドリルとは比べ物にならないほどの威力であったはずなのだがダルタニャンはそれをただの拳で迎えうつ。
傀儡の腕は簡単に壊されその痛みが再び妹背山の体へとフィードバックする。
「いっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、何なんだ、あいつ!? 生身で生命武器とやり合ってんのか? そんなことある訳」
独り言を呟く間も無くダルタニャンの放った糸が傀儡の体を縛り上げていた。
「これくらいのレベルで私にかかってきたとは恥を知れ。己の力量も計りかねない者に容赦はしない」
糸は徐々に縛り上げる力が強くなって行き傀儡の体は所々からギシギシと悲鳴を上げ、再び体中からナイフの様な物を飛び出させたが先程までとはまるで縛り上げる力が違く傀儡の体中にヒビが入り始める。
「チッ、あれを使うしかないか。なら、まだもう少しあいつには耐えてもらうか」
妹背山は自分の半身が入った傀儡に再び無理を強いる。
「生命開放、人形王・合体化身」
ヒビが入った傀儡のか体から糸が飛び出るとそこら中にある巨神と戦鬼が壊したビルの破片などをダルタニャンの糸もろとも体に引き寄せ始めた。
そして、その中から体中にビルの破片とその他色々をワイヤーで繋ぎ合わせたツギハギの怪物が現れた。
「人形風情が大きくなった所で私からしてみれば的が大きくなっただけだ」
ダルタニャンはそう言うと腕についた装置の様なものから糸を放ち、怪物の頭の位置まで上がり始めた。糸にはアンカーの様なものがついており、それをビルの壁につけて機械の推進力で一瞬にして上がって行く。
次の瞬間、その怪物はニヤリと歪な表情を浮かべ不協和音の様な声を放った。
「生命開放、人形王・芸術爆発」
巨大な怪物の体の中からあり得ないほどの熱量が放射され、ビルの破片などが混ざりながら巨大な火の花を生み、ダルタニャンは隙をつかれ、その爆発に呑まれてしまう。
「ぶっは! 馬鹿じゃないのかこの武器! やれる事が多いのは良いが自爆技でしっかりと体が四散しそうになるほどのダメージを持って来るな。まぁ、良い。これなら流石に生身で受けたら死ぬはずだ。あっちの準備も出来た事だし、行きますか! 」
妹背山は体に残る痛みを抑えながら口を開いた。
「生命開放、人形王・空魚」
巨大な鯨の様な物が空から現れると妹背山を拾い、倒れているアシモフを拾おうとする。
拾った瞬間、不可視の斬撃が飛んでいき空魚は体勢を崩してしまう。それでも、アシモフを回収したので彼は何が来たのかをその一撃で理解すると巨神の回収は諦めて急いで研究所へと戻ろうとした。
しかし、それをペトゥロ・アポカリプスは許さない。
彼は再び両手をピタリとくっつけ祈りの形を取ると空魚に対して容赦なく開放を行う。
「生命開放、絶焔刃」
彼の祈りに呼応して、その焔は刃とならん。
祈る両腕に炎が湧き上がり、片腕にそれを宿すとペトゥロは空魚へ目掛けて炎と共に手刀を放ち、その一撃は空魚の尻尾から半分を焼き払った。
だが、空魚もまたそれでも尚逃げようと速度を上げる。ペトゥロは再び開放を行おうとするも目標が予想よりも速く見えなくなり、開放を行わず、先程の爆発から身を守ったダルタニャンの元へと走った。
「ダルタニャン、すまない! 」
彼の第一声は謝罪であった。ダルタニャンに生身で無茶をさせたことに対しての後悔。彼はそれを最初に口にした。しかし、ダルタニャンはそれを聞くと首を振ると優しく彼に口を開く。
「いえ、私こそ不甲斐ないです。奴が使う生命武器を能力を見誤ったこれが一番の原因です。でも、良かった。イアンコフ様のご遺体は何とか確保できました。体の損傷が多く人に見せられるものではありませぬが」
「ああ、分かってるさ、ダルタニャン。少しだけ彼と話がしたい。死体は後で僕が丁重に持って帰るから」
「かしこまりました。持ってこられたご遺体の方はこちらに着きましたらご連絡下さい。私が出来る限り、綺麗な形へと縫合いたしますので」
そう言うとダルタニャンは腕から糸を放ちビルの上へと消えて行った。
その場に残った一人と一つ。
かつて同志であった物の横にペトゥロは座るともう聞く事がないそれに話しかける様に呟いた。
「なぁ、イアンコフ。君は僕の何が嫌だったんだい? 僕が戸松と君と出会った時から君は僕に対して否定的だった。それでもついて来てくれた事には感謝するよ。マキナが見せた未来には君が僕に反旗を翻そうとしていた事が載っていて、いつ切ろうかと思っていたけど長い付き合いの君を自分の手で殺すのは僕には出来なかった。ジュダがヨハンを殺した時もどれだけ辛かったんだろう。僕は臆病だから、また、彼に頼ってしまった。だけど、君は知らない誰かに殺された。ジュダに辛い思いをさせなくていいと思った反面、僕がしっかりと君を殺すべきだったと言う気持ちが強くなっていくよ。覚悟を決めてその一歩を踏み出すべきだった。それと、君の企ては全部知ってたよ。地下の生命武器の巨兵達も、君が根源に無理矢理深く繋がる事で紫門の事を忘れようとした事も。はぁ、死体に僕は何を言っているのだろう。でも、これだけは言えるよ。君は僕の友人で、同志で、殺すべき相手であった。イアンコフ、いや、統合政府三虚神「巨神」。今までありがとう。後は全て私がやっておく。安心して眠りたまえ」
ペトゥロはそう言うと四肢の切り裂かれた巨神の死体を袋に包む。その目には何が写っているのか、それは彼にすら分からない。
***
男は再び夢を見る。
見慣れた光景、見慣れた彼女、見慣れた自分。
かつての記憶が流れ込み、涙が込み上げそうになる。しかし、彼はもう彼女の幻影に背を向けるとその夢の中から去ろうとする。
「アシモフ、私と私達の子供ブローニャの為に世界に怒ってくれてありがとう」
瞬間、背を向けた方から聞き慣れた声がした。
三年間、聞きたくとも聞けなかった彼女の声に男は涙を隠せなかった。
「でもね、アシモフもういいの。あなたはあなたの人生を歩んで。私はね、あんな世界でもあなたが生きている世界が好きなの。私の言葉はあなたの呪いになるかもしれない。それでも良い。あなたは復讐に囚われながら生きないで。これ以上殺せば戻って来れなくなる。アシモフ、あなたの事を愛しているわ。だから、精一杯生きて」
しかし、男は彼女の願いに何も答えなかった。
しばらくすると彼女の声はなくなり、彼は夢の中から覚醒する。
***
「やあ、アシモフ元気かい? ようやく目を覚ましたね。君の体はとっても負傷が激しいからこのまま永遠の眠りにつくんじゃないかと思ったよ! 」
「うるせえ、今最高に目覚めが悪いんだ。静かにしてくれ」
アシモフは吐き捨てる様に言うも妹背山は無視をして話を続ける。
「酷いな〜、これでも君を助ける時に大活躍だったんだぞ。足を焼き切られた時はヒヤヒヤしたけどね」
「足がなんだって? 」
「うん? ああ、足ね。だから、君が戦った後に君を回収しようとしたらペトゥロの部下と一悶着あった後、まさかまさかの本人が現れてね」
アシモフは軋む体を無理矢理ベットから起こし彼の足を見た。
「マジかよ。その足は俺のせいで負傷したのか」
「あまり気にしなくても良いよ。これくらいで彼から逃げられたの寧ろラッキーだ。しかも、彼の攻撃がどれだけヤバいかを分かるお釣りまで来た。あれは凄いよ。炎の剣が一気に空魚を切り裂いてね、魂をそこまで乗せていなかったのに食らった僕の足が焼き切れた。流石にヒヤヒヤしたなー」
「もういい。はぁ、悪かったな。足なくさせちまって」
「ならば、これからも実験に付き合ってもらうよ、良いかい? 」
「心配して損をした気分だが、まぁ、良い。それくらいで済むならいくらでも実験に付き合ってやるよ」
研究所の中では戦鬼と人形師の奇妙な関係が生まれ始めていた。
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