九章 審判 其の捌
巨神VS戦鬼開戦!
勝負の行方は一体何処に行くのか?
お手に取って頂けると幸いです
「ねえ、ジュダ。あなたは何で審判なんて起こそうとしたの? 」
イヴがジュダの部屋に居座ってから二週間が経とうとした頃、それは唐突に投げつけられた。
いつも通り無視を通そうとしたが彼女の問いがあまりにも自分の頭を巡る為、彼は読んでいた本を置き、固く閉ざされていた口を開いた。
「何でか? か。正直、俺もよく分からなくなっているよ。最初の頃はペトゥロと言う人間に惹かれて、彼の手助けになればとか思っていたんだろう。でも、その気持ちは審判の一週間くらい前から変わってね。人類の救済、いや、種としての進化というモノがその時に必ず必要であるって思えたんだ。何でだかは分からない。大災害<インフェクションテンペスタ>により人類の三割が病に伏していたからか、それとも知的好奇心による理想なのか。ハッキリとしていない。だけど、絶対に審判を行わなければならないって思えていてたんだ。それだから俺はある力を使って向かってくる軍隊を全て壊した。多くの命も奪った。そして、迎えた審判は俺達が望んだ形ではないモノだった。全員その場で地獄を味わった。仲間の内の一人がね、その地獄に耐え切れずその場で発砲したんだ。一瞬の出来事さ。十三人もいた仲間は六人になってしまった。それで、俺はそこから姿を消した。あの時、覚えた違和感。今でも覚えている。理由は分からないがペトゥロに対して強烈なまでの違和感を感じたんだ。そこからはずっと彼らの事を遠くから眺めていただけだ。統合政府が樹立された事。彼らを殲滅する為に総戦力の国連軍が向かった事。それを三人で制圧する彼らの事。全部俺は傍観者だった。もう彼らは俺の事を必要としていない。そう思うとなんだか身が軽くなってね。だから、俺は君達の様な人間を少しでも助けようと思えたんだろうね。たとえそれが偽善であったとしても。はぁ、俺は何を君にベラベラ喋っているのか」
ジュダはそう言うと再び置いてあった本を取り頁を捲り始めた。
しかし、彼の後悔に似た言葉にイヴは戸惑う事なくハッキリと答えた。
「そんな事ないわ。あなたに救われた人は沢山いるのでしょ?それなら胸張りなさい。あなたはとてつもない量の命を犠牲にして生きているのよ。ならば、それと同じ量、私達みたいな人間を救えば良いのよ。罪が消える事はない。だけど、その罪を背負いながらも前に進む事は出来る。あなたに出来る最大の贖罪は生きて多くの人を救う事よ」
彼女はそう言うとジュダの顔を真っ直ぐと見て来た。ジュダは本を読みながら誤魔化そうとしたが彼女の真っ直ぐな視線に根負けした。
「分かったよ」
彼はそう言うと再び本を読み始めた。
その言葉を聞いた嬉しいそうな笑顔を浮かべるとイヴはリリィを抱きながら彼のいる部屋で何も喋る事はない只々ゆっくりとした時間を過ごした。
***
夜の街に巨兵の影が紛れ込む。
イアンコフはジュダの居場所を突き止めると自分の目的の為に、全てを終わらす為に歩を強めた。
「ジュダ、俺はもううんざりだ。お前らが始めた物語はここで終わらせる。ペトゥロもお前も何かを隠しているのは分かる。だが、これから人類は俺が導く。奴等ではなく、この俺が」
一人で呟いていると目の前に復讐に囚われた戦鬼がいた事に気づいた。
「誰だ、貴様? 」
不気味な空気に身を包む戦鬼はその問いに答える。
「誰だ? か。たしかに、あの時の俺はお前らに取っては何でもない石ころだったんだろう。だが、今は違う。俺はお前ら全員を殺す。いや、この世界をぶち壊す為に俺はここに来た」
その答えを聞き終わるとイアンコフは戦鬼に殺意を向け己の武器に力を込めた。
「生命開放、絶巨神」
巨兵は戦鬼と対峙し、互いに野望と復讐をぶつけ合う。
イアンコフの手にはグローブが付いており、それに力を込めて拳を放つ。
アシモフは二つの手斧で彼の拳を受け止めたかの様に見えた。しかし、彼は簡単に吹き飛ばされ、建物にぶつかるとそこに亀裂が入る。
「お前弱いな」
イアンコフはあれほどまでの啖呵を切った男が最も簡単に吹き飛ばされた事に驚いていた。
意識が朦朧とする。
吹き飛ばされた体にはこれまでに無いほどの痛みが走り、アシモフは四肢がついているのかを確認すると呟いた。
「バケモノかよ」
しかし、負けてばかりではいられない。
アシモフはそう思うと新たな武器を開放する。
「生命開放、英雄戦斧」
手斧は柄が長くなり、金色の両刃斧へと変化した。アシモフはそれを携えイアンコフへと走り向かう。巨兵もまた向かい来る戦鬼に目掛けて再び拳を放つ。
ドン
静かなる夜にそぐわない重低音。
拳と斧がぶつかり合う。
アシモフは吹き飛ばされる事も無く、戦斧を再び戦斧を振り回す。イアンコフもまた拳を放ち何度も何度も重低音が鳴り響く。
そんな中、アシモフは一瞬の隙をつき、懐に入り込むと思いっきり斧を振るった。しかし、イアンコフの体には傷一つつかなかず、むしろその入ったアシモフをイアンコフはもう片方の拳を突き飛ばす。
「クソが。あいつの体に傷をつけようとしても逆に俺のがダメージを受けちまうじゃねえか。何なんだ、あの体は」
アシモフが独り言を呟くとイアンコフは一瞬にして距離を詰め、拳に力を込める。
「生命開放、絶巨神・剛腕」
右腕が光を放ち、力の塊がアシモフを目掛けて飛んで行く。それを彼は斧の柄で受け止めるとあまりの威力に踏ん張りが効かず地面を抉りながら二十メートルほど吹き飛ばされた。
アシモフの体はボロボロになっていた。しかし、巨兵は拳を止める事は無く、吹き飛んだ彼に目掛けて再び光を放つ。アシモフは受け身を取れずその光が体に命中する。
二度目の光によりアシモフは宙に待っており、それをイアンコフは逃さなかった。
獅子博兎。
格好の餌食である、アシモフに彼は容赦無く拳を放つ。
「生命開放、絶巨神・剛機関腕」
アシモフ一人に向けられるにはあまりにも多すぎる光の弾丸。それは全て命中し爆発した。
全てが終わり美しく爆ぜた花火に背を向けイアンコフはその場を後にしようとした。
「生命開放、絶時間神」
十秒
背を向けたイアンコフの腕右が何故か宙を舞っていた。それに気付くと彼は地面に膝をついた。
体を駆け巡る痛み。
それはどんなに経験しても慣れぬもの。
ましてや腕が取れるなどそうそう経験する事はない。
生命武器により、ある程度は和らいでいるはずだが彼はその痛みに耐え切れなかった。
「へぇ、三虚神様も痛みはあるんだな」
彼の背中にはボロボロになったアシモフが立っており、彼を煽る様に声を上げた。
「何故生きている?あれ程の攻撃を全部避けれる様な状態では無いはずだ」
「教える訳ねえだろ」
アシモフは倒れるイアンコフに向かって容赦なく斧を放った。
「生命開放、英雄戦斧・追撃」
投げられた斧はイアンコフの体目掛けて正確無比に飛んでいく。彼は怒りと同様により反応が遅れ左の肩に斧を受けてしまった。そして、斧は再びアシモフの方へと戻って行く。
「さっきまでの余裕はどうしたんだ? 腕が取れたのがそんなに痛いのか? それなら、お前が俺から奪った物の方が大きくて痛いぞ。お前の一瞬の痛みなんてこれっぽっちも痛くない筈だ。お前らが人類に与えた「痛み」はこんなもんじゃなかったぞ」
「黙れ。お前如きが俺たちの何が分かると言うんだ。三年間、地獄の様な日々を過ごして来た俺達が痛みを知らない事などない。」
怒りを力に変えイアンコフは立ち上がる。
彼はアシモフに対して、紫門以外の円卓の同志に対しての怒りにより根源に深く繋がる事に成功する。
「同化、巨神」
イアンコフの失ったはずの腕が武器と同化した事により、根源から巨神の腕を引っ張り上げる。
腕には包帯が巻かれており、盾の様な物が形成されていた。
しかし、それでもアシモフは攻撃の姿勢を崩さなかった。
両手に斧を持ち、彼は巨神へと立ち向かう。
巨神は向かう彼に拳を放つと、受け止めるも、彼は再び宙に舞っていた。しかし、意識はしっかりしており、斧をビル振り下ろし自分が地面に落ちる速度を緩めた。
「それが同化か。まるで、神話の化物みたいだな。そんな姿になっても俺に勝ちたいか? 」
「黙れ、お前に勝つ事などどうでも良い。お前はこれからジュダと殺り合う為の前座だ。」
「その割にはムキになってんな! 」
「黙れ! 」
巨神の拳は容赦無く彼に振り落とされる。
それを防いだとしても一撃で体は吹き飛ばされ、傷だらけになって行く。
吹き飛ばしても巨神の追撃を止まずに拳を振り下ろす。拳は何十、何百と回数を重なり、アシモフの全身が限界を迎えていた。それでも尚、彼は巨神の拳を受け続ける。
それに怒りと焦りを覚えたイアンコフは声を上げた。
「何なんだ、お前は。何故倒れない! 何故膝をつかない! 何故あきらめない! 何がそんなにお前を動かすんだ? そんなに俺達が憎いのか? あのままでは世界は、人類は滅んでいたんだぞ! その滅びを回避する為の審判だったんだ。お前はそれに適応しなかっただけだ! お前はお前の根源を呪え! 俺達に向ける復讐心は無意味な事だ!」
彼の声には怒りよりも彼に対しての戸惑い、恐怖が混ざっていた。そして、それを聞いたアシモフはこれまでにない程の怒りと殺意を向けて、イアンコフに問いかけた。
「お前達は目の前で最後の希望が消える瞬間を見たことあるか? お前達はこれから生まれて来るはずだった命が生まれ落ちることも無く消えて行く瞬間を見たことあるか? お前達はそれらの希望のために俺に魂を託してくれた人間の約束を無意味にした自覚はあるか? お前達は人の個人の幸せを踏み躙った事に後悔をしたのか? お前達は」
「黙れ! 」
イアンコフは彼が放つ呪詛に耐え切れず、彼の言葉を遮ると拳に彼に対してのあらゆる感情を込め、最大の一撃を放つ。
「生命開放・絶巨神・巨神大戦」
偉大な光の全てを込められた一撃がアシモフを襲う。しかし、彼はその場から動こうとせず不気味に笑いながらその光へと吸い込まれていった。
その瞬間にある言葉を残して。
「生命開放、絶時間神・IIポイント」
二秒
全てを終わらした筈なのに体を襲う危機感。
イアンコフは彼を警戒した。
しかし、再び腕は宙を舞っていた。
「お前は一体何なんだよ!? 」
「ただの復讐者さ。お前ら、いや、この世界に対してのな」
そして、再びアシモフは自分の世界へと足を踏み入れる。
「生命開放、絶時間神・IIIポイント」
三秒
イアンコフの体に切り傷が無数に現れ、両足が切り落とされていた。
「嫌だ、死にたくない。死にたくない。こんなところで、こんなところで死ぬなんて。こんな惨めな死があってたまるか。俺は世界を救う英雄になるんだ。英雄になるんだ。あれ、何で俺は英雄になろうとしたんだ?」
「生命開放、絶時間神・Ⅳポイント」
四秒
四肢は切り裂かれ残りは首だけが残っていた。
地面には血が滲み出ており、アシモフの靴には血がべっとりとついていた。
「ああ、今になって思い出した。俺は紫門を幸せにしたくて、ごめん」
イアンコフの最後の言葉にアシモフは一瞬だけ腕を止めたが覚悟を決め、最後の一撃を放つ。
「生命開放、絶時間神・Ⅰポイント」
一秒
首は無造作に転がり落ち、巨神の命はそこに尽きた。そして、アシモフの意識もまた同じく深いところへ落ちて行く。
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