八章 審判 其の漆
審判編は新たなるステージへ。
それぞれの思惑が入り混じる。
世界と人類の運命は如何に?
お手に取って頂けると幸いです!
「ジュダ・ダイナー? あなたが黙示録の獣って言われたあの? 」
(ああ、またあの目で見られる。仕方がない事だ。俺が、いや、俺達が背負う罪だ)
恐怖、畏怖、殺意。
助けた人々は名前を名乗ると一瞬にしてそれらが宿った目で見てくる。それ故に彼はもう自分の名を名乗る事を止めていた。
そんな事を思いながらジュダは彼女を見るも、彼女の目にはそんなものは無かった。
「お前、俺が怖くないのか? 」
「怖い、怖くないで言えば怖いわ。でも、あなたは私達を救ってくれた。それも私が本で頭を殴った事も咎めない。その事を踏まえると私はあなたの事を信用するには十分かなって思って」
そう言うと彼女は部屋を出て行き、子供を抱えて再び戻って来ると彼が渡したスープを飲み始め、子供にも少しずつ飲ませ、全て飲み終えると彼女は再び口を開く。
「私はイヴ。イヴ・サンロード。この娘はリリィ・サンロードよ。これから少しの間お世話になるわ」
彼女はそう言いながらお辞儀をした。
ジュダはそれを見ると何も言わずに本を読み続ける。
***
統合政府第一首都に聳え立つ星の塔が一つ「スーテラ」そこの一室にペトゥロを含めた五人の男女が円卓では無く長い豪華な装飾がなされたテーブルを囲んでいた。
「イアンコフ、タバコねえか? 」
戸松はそんな事はお構いという風に彼にタバコをせがんだ。しかし、イアンコフは何も答えず、それを見た戸松は溜息を吐くと声を上げる。
「なぁ、ペトゥロ。今日って何で俺達呼ばれたんだ? 」
「そうだね、全員揃った事だし本題に入ろうかな。単刀直入に言うとジュダが見つかった」
四人の空気が一気に張り詰めたがそれを緩めようとペトゥロは再び喋り始める。
「そう気を荒げないでくれたまえよ。彼だって何の理由が無く出て行った訳じゃないと思うんだ。たしかに、彼は三年間行方をくらましていた。僕達が多くの努力をしている間、彼は吸血鬼狩りを行う人間達から彼らを守っていたらしい。決して遊んでいた訳でもなくただ何処かへ行っていた訳でもない。僕達には彼の力が必要なんだ。みんなはどう思う? 」
すると、彼の問いに紫門がいち早く答えた。
「私はペトゥロに賛成。彼の持つ生命武器は肉体強化系の中でも異次元だ。是非とも研究、いや、間違えた、協力してもらいたい」
しかし、紫門がそう言い終わるとイアンコフが突然、席を立ち、その部屋から出て行こうとした。
「待てやイアンコフ、どこ行く気だ? 」
戸松は腰に付けていた剣を手に置くと一人どこかへ行こうとする彼を牽制する。
「ペトゥロが必要と言ったんだ。ならば、ジュダを連れ戻しに行くだけだ」
「俺とマリアの意見は聞かずに行く気か? それは間違ってるだろ。とりあえず座れ。そんでもってしっかりと顔と顔を合わしてからお前の意見も含めてから決める。だろ、ペトゥロ? 」
「そうだね。あまり勝手な行動は謹んで欲しいかな。君が常に組織に貢献的なのは分かっている。だからこそ、その行動はよろしくないと私は思うよ」
「だとよ、イアンコフ。落ち着いて話をしようぜ」
イアンコフは何も言わずに席に戻った瞬間、彼は急にその場で自らの力を開放した。
「生命開放、絶巨神」
彼の強襲に全員の反応が遅れると彼は地面を思いっきり叩き、その部屋に大きな穴を開ける。
それに対してペトゥロは彼に無慈悲に攻撃を放った。
「生命開放、包丁・千切」
不可視の斬撃の雨がイアンコフに降り注ぐも彼はそれをものともせずにペトゥロに向かい迫り、それを戸松は腰に収めていた剣を抜くと彼に向かい一撃を放つ。
「生命開放、絶戦神」
剣は戦神携えたたる神槍へと形を変え、イアンコフの拳を止める。
「イアンコフ、どう言う事だ! 何故、ペトゥロを攻撃した! 」
彼は何も答えず、拳に力を込めると槍諸共、戸松を吹き飛ばした。
壁に体からめり込むほどの威力であり、戸松は受け身を取ってはいたが全てを防ぐ事が出来ず、口から血を吐く。
「ジュダは俺が連れ戻しに行く。そして、俺があいつに勝ったら神羅は俺が貰う」
イアンコフはそう言うとガラスを突き破りその場から去ってしまった。
「ペトゥロ、今なら追える! 行くぞ! 」
「待ってくれ、戸松」
「はぁ?! 何でだよ! 」
やる気十分と言った感じですぐにでも行動に移そうとしていた戸松は彼が自分を止めたことに驚きを隠せなかった。
「今、我々が彼を探しに行くことは他の人々に与える影響が大きい。ダルタニャン、聞いているかい? 」
そう言うとダルタニャンは何処からか現れると「はい。」と言う返事をした。
「イアンコフの事を追ってくれ。そして、何か有れば連絡をくれ」
「かしこまりました。必ず、遂行します」
ダルタニャンはそう言うと再び姿を消した。
「さて、彼は本当にジュダに勝てるのかな? 」
ペトゥロの独り言は誰も聞いておらず、戸松が不満気に剣を腰にしまうと残った四人もその場を後にした。
***
研究所にて妹背山はこれまでの人生で一番と言っていいほどに興奮していた。
「アシモフ! 君は最高のモルモットだね! 」
「うるせえ、その言い方腹立つから止めろ」
研究施設の一室でアシモフは妹背山が作り出した最強の生命武器を手にしており、彼は手に持った斧に希望を奪った運命に、世界に対しての怒りを込め、その力を開放させる。
「生命開放、絶時間神」
それは彼以外の世界を止める。
その武器にはあらゆる世界の時を統べた者の根源が入っており、審判の日、あの時から止まってしまった彼の時間、怒りと繋がったことにより、彼はその力を引き出すことが出来た。
しかし、それは十秒程すると解けてしまい、アシモフはその場に倒れ込んでしまう。
「ふむ、十秒間だけ世界を自分のモノに出来るらしいが一日に使える回数は二回が限界らしいね」
妹背山は彼を見ながらデータを取ると倒れている彼に寄って飲み物を渡した。
「もう一回だ。もう一回開放を行う」
「アシモフ、立てないほどの疲労状態で実験をしてもあまりいいデータを取れないからやめてくれたまえ。君のやる気がいくらあろうと君の体が壊れてしまったら元も子もない。それに、君は無理矢理二つの武器を使う事が出来るからね。体を休めたらまずそっちの方のデータを取ろう。絶時間神の使用中は他の武器の時間も止まってしまうからね。本当の意味での必殺技だ。とりあえず、次はこっちを試すよ」
そう言うと妹背山は手斧を取り出した。
「また斧か。近距離以外の武器はないのか? 」
それに対してアシモフは不満気に呟いた。
「たしかに近距離ばっかだから不満が出るのは分かるよ。でもね、絶時間神は近距離の方が相手に確実にダメージを与えられる。まぁ、君の開放後の疲労感を見ていると開放中、その止まった世界を動くのは相当無理をしているそうだけどね」
妹背山がそう言っている最中、アシモフの意識は既に何処かは行っており、彼はそんなアシモフの横でデータ集めを始めた。
***
「アナ? アナなのか?! 」
白い髪を靡かせるその後ろ姿はかつて己が失ったはずの希望。アシモフは彼女がいる方へと急いで走り寄るも彼女との距離は縮まる事はなくむしろ遠ざかって行く。
「待ってくれ、アナ! 俺を置いて行かないでくれ! 頼む、頼むよ、アナ! 」
男はそこに届く事はなく、そして、彼女はかつて彼の前から姿を消した時と同じ様に灰になって消えて行った。
***
「アナ! 」
淡い夢から覚めると横にいたのは気味の悪い科学者であった。
「ふむ、人間性を捨てたと思っていたけど君にも案外そう言う感性が残っていたんだねえ」
妹背山はニヤニヤしながらそう言うとそこから立ち上がる。
「クソが、お前が協力者じゃなければ即座に殺していただろうに」
「あまり怒らないくれたまえ。ああ、そうだ。君に良いニュースだ。ジュダ・ダイナーの居場所が分かった。それと、そこに統合政府幹部イアンコフが向かっている。良い機会だ。君の実力を試してみよう。僕もあれの調整に入りたいしね」
「狙うならどっちだ。」
「へぇ、意外だな。君両方殺すとか言うと思ったんだけど」
妹背山は少しばかり驚きつつも彼を揶揄った。
しかし、アシモフはそれにあまり反応を示さず再び口を開く。
「今の俺の力じゃ一人とやりあう事で精一杯だ。勿論、全員殺すのが目的だ。しかし、まだ足りない。実力も力も全てだ。だから、今回は一人に絞る」
「意外に冷静だね。そうだな、ならば今回は彼を狙ってみよう」
そして、アシモフはその研究所から己の復讐への一歩を踏み出す。
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