六章 審判 其の伍
いよいよ、実行される審判。
彼らは一体どんな悲劇をもたらしたのか?
お手に取って頂けると幸いです。
円卓には十三人の男女が座っていた。
彼らは今から星の意思に背き、人類に審判をもたらす者たちである。
紫門はその場にいる一人一人に鍵を渡し始め、それが終わると彼らに向かって声を上げる。
「今から私達は世界に反旗を翻す。でも、これは先の歴史がいつか証明してくれるであろう。私達の行いが正しかったという事をね。それじゃあ、円卓の手前にある鍵穴に今渡した鍵を挿すんだ。そしたら、「星の塔」に搭載した高次元計算機デウス・エクス・マキナが起動する。そいつが勝手に計算して、人類を種としての進化を促す光を放ってくれる。もちろん、星が持つ意思という名の根源の妨害を含めて計算するようジュダが寝てる内にやっておいた。私達は最後の人類として新たな人類を導く存在となるって言う寸法だ。さて、話はこれくらいにしよう。さて、ペトゥロ、君が始めた計画だ。最後に締めの一言を頂こうか」
急に話を振られたペトゥロは少々驚きつつも、その場に立ち上がり、そして、しっかりとした顔つきで一人一人の顔を見るとハキハキと喋り始た。
「みんな、私から言えるのはただ一つだ。これから私達は世界の敵として扱われるだろう。身勝手な救済なんて誰も求めていないのは分かる。しかし、今の世界は滅びを辿る一方だ。大災害<インフェクションテンペスタ>により人類の三割が病に伏した。経済は滞り、人は人から奪う事しか出来なくなってしまった。かつての様に他者を慈しみ、尊び、愛し合うには、一度全てをリセットし、そして、人類を種として進化を促すしかない。君達はそれに賛同してくれた同志であり、人類の敵だ。そして、それは私も同じであり、その罪の全てを僕が背負う。それじゃあ、みんな準備はいいかい? 」
その一言に十二人はこくりと頷き、それに答えると円卓の鍵穴に鍵を挿した。
鍵は「星の塔」にある機械仕掛けの神を起動させる。四つの塔は光を放ち人を、人類を種としての進化を促す。それは全ての人間に適用されたかの様に思われた。
***
「ねえ、アシモフ。この娘の名前は何にしようかしら? 」
アナスタシアは彼に声をかけた。
アシモフはあの地獄の後、心と体が追いついておらず放心状態であったが、彼女の言葉にだけは反応を示しす。
「ブローニャ。ブローニャ・デッカート」
それを聞くとアナスタシアは嬉しそうに口を開いた。
「ブローニャ、いい名前ね。ブローニャあなたが生まれて来ることがとっても楽しみになって来たわ。アシモフ、父さんはあなたを生かしたのはこの娘の為よ。だからね、え、何あの光は? 」
光は世界を包み込み、そして、人類に残酷な運命を突きつける。それは人の幸福を、人の運命を、人の生命を、ある一つの結果へと導くことになった。
アシモフは彼女の声により、それに気付くと、目の前を光が彼等を平等に飲み込むと不平等に彼らの、いや、彼の唯一の希望を無慈悲に奪い去る。
光が収まり瞑んだ目を開くと、そこには絶望が広がっていた。
「アナ、大丈夫か? オイ、アナ、アナスタシア! 何が起きているんだ? アナ? これは何だ? 砂? いや、灰か? 灰が何故こんな所に?」
そこには人と呼ぶにはあまりにも美しい灰の様な物が無造作に散らばっていた。
「何が起きているんだ? まさか、あいつらか? 」
***
「ペトゥロ! これは一体どうなっているんだ! 」
戸松の怒号が地下に響き、彼らは自分達が起こした事が大災害<インフェクションテンペスタ>以上の悲劇を産んだ事に気付いた。
ペトゥロは一筋の涙を流しながら、そこに心がない様に呟く。
「何でこうなったんだ。星の意思の問題をしっかりカバーした筈なのに、何で」
絶望は彼らを包み込み、それに耐えきれなくなったヨハンがポケットから銃を取り出すと彼がそんな物を隠し持っているとは思わず、それを取り出した時には誰もその場から動けなかった。
パン
その音は地下の部屋に大きく響く。
一人が倒れていた。一度目の発砲は近くにいたフィリップの額を撃ち抜いていた。それを止めようとジュダがヨハンの下へと走り寄った。しかし、ヨハンは彼らに憎しみを込めて叫ぶ。
「生命開放、執行者」
円卓は一瞬にして血の海が溢れ出す。無造作に、無茶苦茶に、ヨハンは力を振り回し、それは新品のオモチャを買ってもらった子供の様にはしゃぎながら銃を撃つ。何人がやられたか分からない。しかし、ジュダはそれを止めようと彼もまた開放を行う。
「生命開放、絶技」
放たれる銃弾を全て撃ち落とすと一瞬にしてヨハンの腕をへし折った。しかし、彼は止まらずジュダに不気味に笑いながら殺意を向ける。
「すまない、ヨハン」
一撃。
人の顔はつい先日潰したばかりであった。しかし、友をこんな形で殺すのも初めての出来事である。
手から大量の血が滴り落ちており、その血もヨハンが撃った円卓の同志達の血と混ざり合う。
ヨハンが放った凶弾により六人の命が奪われ、ナタエラ、アルコ、アンドリュー、フィリップ、マテュー、ファディ、彼らは声を上げる事なく絶望に打ちひしがれながら死んでいった。
血塗られた円卓、血塗られた自分の手。
ジュダは一人その場を後にし、誰かが止めようとする事はなかった。
しかし、彼はその場から逃げたのではなく、それは彼の直感から来る強烈な違和感による物であった。
「ペトゥロ、お前は一体何者何だ? 」
去り際にジュダはそう呟く。
誰もそれを聞いておらず、円卓は血と絶望、何かの黒い陰謀に塗られていった。
そして、審判から三年の月日が経過した。
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