四章 審判 其の参
ようやく戦闘入れました!
ジュダ&ペトゥロVS国連軍開幕。
筆も乗っていたのでよろしくお願いします!
「目標に全弾命中! 煙により死体が確認出来ない為、確認を願う。その後、ビルに入って残りの十一人を射殺せよ」
端末越しに聞こえる声により伝えられた情報はアシモフを呆気ないと感じさせ、彼らの指示通り死体の確認作業を行おうと近づいた。
瞬間、アシモフは直感により全員が彼らの死体があると思われる場所に向かう中、ほんの一歩だけ足を止める。それが功を成したのか、その一歩先に向かった仲間は全て反応が無くなりその場に冷気のようなものが流れ込んで来た。
「生命開放、凍結」
ペトゥロはそう言うと容赦なく凶弾を凍らせた。
しかし、まだ加減が出来ず、向かう物全てを凍りつくしていく中、ジュダはその冷気をものともせず彼もまた、力を試すために開放した。
「生命開放、神技」
アシモフは目の前の煙により前方が見えておらず、そこから唐突に現れたジュダに驚きつつも銃を構えた。
ジュダはそれを見ると迷わず拳を放つ。
放たれた拳はアシモフの体目掛けて一直線に飛び、彼は構えた銃でその拳を受け止めた。しかし、その銃は簡単に破壊され、アシモフは壊れた銃と共に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたアシモフはすぐさま立ち上がるとナイフを逆手に持つと彼に向かって行く。
「あんたらよお! 世界の危機だって言うのに何でそんな身勝手な事を行える! 何で残り幾分しかない人生の時間をゆっくり過ごす事すら与えてくれないんだよ! 」
彼の咆哮はその場に響くとジュダにナイフを突きつけるも、彼は先程の問いに何も答えず、向かってくる腕を掴むと、思いっきり背負い投げを決める。再び地面に叩きつけたられたアシモフにジュダはトドメを刺そうとした。
すると、ジュダに向かって銃弾が綺麗に彼の眉間に放たれる。
一瞬の硬直。
それによりアシモフはその場から離れることが出来た。
「アシモフ、生きてるかい? あいつら予想以上にバケモンだ! お前以外の生存者はいるか? 」
「隊長、俺以外は全滅だ! あいつら人じゃねえよ! 」
辺りには煙がそこら中に立っていた。
その黒い獣は兵器を蹂躙する。
機関銃も、体術も、ナイフも、戦車も、人類のあらゆる叡智を無慈悲に無造作に貪り食う。
「戦車構わず撃て! 」
戦車の砲台からドンという凄まじい音共にそれは放たれた。ジュダはそれを真正面から迎え撃つ。
「生命開放、拳」
拳は戦車の弾を一撃で打ち砕き、彼を巻き込みながら爆発した。
「隊長、あんなんどうやって倒すんだよ」
戦車は彼と共に爆発に巻き込まれおしゃかになり、アシモフの表情には絶望が浮かんでいた。しかし、そんな彼の背中を叩くと隊長と呼ばれた男は残った軍人達に声を上げた。
「お前達、後は任せろ。俺だけであいつとやり合う」
「無理ですよ。あんな化物一人で相手するなんて。一旦引いて態勢を立て直しましょう! さっきまで百人以上いた仲間がもう十人ぽっちしか残っちゃいません。次はより強力な兵器を持ってから」
「無理だ」
「えっ」
彼はアシモフの言葉を遮ると続けて口を開いた。
「お前達に伝えておく事がある。しっかりと聞いてくれ。政府は今、彼らが使っている兵器を研究していて、これが完成すれば大災害<インフェクションテンペスタ>を止める事が出来るそうだ。ならば、一刻も速くあれを手に入れたい。俺は今から試作品だが、奴等と同じ兵器を使う。これがどんなものかは分からないし、お前らに迷惑をかけてしまう可能性すらある。だから、お前らは帰れ。そして、軍を抜けて今すぐ帰って会いたい人の下に行け」
「隊長待って下さい! その兵器は一つしかないんですか? 幾つかあるならそれを俺に下さい。隊長と一緒に戦わせて下さい! 」
アシモフは彼が一人であの獣に立ち向かおうとするのが許せなく、彼には子供もいるはずなのに自分達だけを優先する彼があまりにも眩く、そして、気に食わなかった。
彼はそんなアシモフの顔に拳を入れた。
そして、背を向け大きな声で叫んだ。
「若造が俺を誰だと思っている。国連軍第一部隊隊長ディック・デッカートだぞ。お前らに心配されるほど脆くも弱くもない。だから、安心して背中を預けろ。この場からどんな事をしても良いから逃げろ」
彼の一言により十人ほどの軍人達は一斉にその場に背を向けて、彼らは大粒の涙を流しながらその地獄から逃げ去り、その場にはアシモフとディックのみが残った。
「隊長、あんた死ぬ気だよな。あんたの帰りを待ってる人は沢山いるが俺を待っている人はたった一人くらいだ。俺がその兵器とやらを使う。だから、あんたはこの場から離れてくれ」
アシモフはそう言うと手を前に出し、それを渡せと要求し、そんな彼をディックは見向きもせずにその要求を拒むと口を開いた。
「アシモフ、お前は若い。若いというのはそれだけで価値があるんだ。俺は幾つもの戦場でその様な若者の命を奪って来た。今度は俺の番が回って来ただけだ。アシモフ、娘を、アナをよろしく頼む」
その言葉を最後にディックは自ら死地へと向かって行くとアシモフはその背中を呆然と眺めつつ涙を流した。そして、彼の最後を無駄にするかと死地から背を向け、彼との約束の赴くままに走り出した。
ペトゥロは未だに力の制御が追いつかず辺りを凍りつくしており、銃声が止んで何分が経っていた為、心が落ち着かなかった。
(ジュダは無事だろうか。僕自身は凍らないが周りは凄いことになってそうだ。速く制御し切らないと)
すると、目の前の氷の壁が割れると黒い獣が姿を現す。
「ペトゥロ、無事か? 」
その声の主人はジュダであった為、ペトゥロは安堵した。
「良かった、ジュダ。無事だったんだね? 」
「ああ、戦車の弾ぶっ壊したらそのまま爆発に飲み込まれてな、少しの間、気を失ってたらしい」
「彼らはどうなった? 」
「半分くらいは殺したよ。最初は少し躊躇ったが徐々に慣れて行くもんだな」
彼の姿を見た安心感によるものかペトゥロは徐々に力を抑え込む事が出来、辺りの氷の壁は消えなかったがそれ以上に被害を大きくする事も無くなった。
「ジュダ、鍵の回収を急ごう。あれがなきゃ始まらない」
ペトゥロはそう言うと戦場に背を向けてビルの方へと向かおうとした。瞬間、氷の壁を撃ち抜きペトゥロの体の腹部を一筋の光が貫いた。
ジュダはあまりにも一瞬の事により反応出来ず、ペトゥロがその場に倒れ込むのを見るとすぐさま声を上げた。
「ペトゥロ! 」
あまりの唐突の出来事により彼はペトゥロの下に急いだ。しかし、ペトゥロは指を自分を貫いた光がある方向へ指すとそれを見たジュダは踵を返し、彼の指差した、いや、光が放たれた方向へと走り出す。
彼の嘆きは再びその場を戦場へと変えた。
氷の壁の向こう側へと踏み出した途端、再び光は放たれるもジュダはそれを拳で弾き返すと、その狩人のいる方へと走り出す。
その間に光は何度も放たれたが彼は全て弾き返すと一瞬にして彼は狩人の目の前に立っていた。
「生命開放、突」
高速の突きは狩人の体に穴を開けた様に思われた。しかし、狩人は先程持っていた武器とは全く別の物を持っており、ジュダの突きは当たる事なく、寧ろ、ジュダの体に十字の切り傷が浮かび上がった。
「擬似生命開放、執行者・近接」
両腕に巨大な鎌の形をした剣が現れており、狩人はそれを携え容赦なくジュダの体に目掛けて刃を向ける。
ジュダは少しだけ動揺しつつも、その凶刃を片腕で止めるとそれをそのままへし折った。
バキリ
大きな音がその場に鳴り響くと彼らは互いに距離を取り合った。
「あんた何者だ? さっき、オープンって言ってたよな。あれは生命武器の起動コードだろ。だとしたら、あんたの体のその武器はまさか」
「そうだよ、ジュダ・ダイナー。これは政府が極秘に開発していた兵器だ。私はその試作実戦としてこれを渡されていてね、あまり使いたくなかったが若人を生かすためにはやむおえず使うしか無かったのだよ。まぁ、話は以上だ。それでは国の未来の為に死んでくれ」
狩人は距離を取っていた状態で彼に狙いを定めて口を開いた。
「擬似生命開放、執行者・中接」
狩人の腕は銃に変形し、ペトゥロを貫いた弾丸は次にジュダに目掛けて放たれる。
ジュダはそれを拳で撃ち落とそうとした。しかし、それは彼の拳を撃ち抜くと彼の右腕を一瞬にして使い物にならなくした。
右腕から昇り来る激痛によりジュダはその場に倒れ込む。なんとか痛みを抑えようとするが、痛みはそれをゆうに上回り、彼は立つ事すら出来なかった。そんな中、狩人はジュダに近づくと彼の頭を掴み、目の前で口を開く。
「さっきのライフルと同じだと思って拳で受けたな。この科学者気取りテロリストめ。お前如きがこのディック様に敵うと思うなよ。もしかして、このウィルスもお前達のせいじゃないのか? 如何なんだ? なぁ! どうなんだって聞いているんだ! 答えろ! 」
そう言うと狩人はジュダの頭を地面に叩きつける。何度も、何度も、何度も同じ要領で規則正しく叩きつけ、そこには先程まで若者の未来を守ろうと戦う老兵の姿はおらず、根源を無理矢理繋げた事による全能感、抑えきれない本能の赴くままに生きる獣のが如き狩人の姿であった。彼の下には大量の血が流れていたがそんな事はお構い無しにと容赦なくそれは行われた。
少しして、それに飽きたのか顔の潰れた黒い獣を氷の壁へと投げつけた。氷の壁に打ち付けられたジュダの血が大量に飛び散る。赤と白のコントラストは一種の美しさを産み、それを狩人は満足気に眺めていた。
「お前が答えないのが悪いんだよ、ジュダ・ダイナー。お前が素直に答えないからこうなるんだ。昔からそうだ。若いのはいつもいつも判断が遅い。そして、死ぬ。老兵ばかりが生き残る。これは誰の記憶だ。俺はナニモノだ? 私は? 俺は? 一体何者なんだ? 」
狩人は意味の分からない言葉を羅列すると、自分が何者かを思い出そうとする。その場に立ち尽くすと彼はかつての自分を思い出す。
自分がディック・デッカートである事、家族がいる事、自分が若者達の命を奪っていた事。
そして、全てを思い出し、目の前の氷に打ち付けられたジュダを見て、彼は唖然とした。
「俺がやったのか」
彼はジュダ達ですら殺すことを躊躇っていた。しかし、それは自分の考えとは限りなく遠く離れたあまりにも凄惨な光景。老兵はすぐにでもその武器を捨てようとした。
「根源強制接続プログラム起動」
自分の体から歪な機械の声がした。
そして、その音は老兵に恐怖を覚えさせる。
数多の戦場を駆けてきた彼が覚えた、最後の恐怖。それは他人の命を奪うことではなく、自分が彼らを信じた事から来る後悔からの恐怖であった。
「あいつらは最初から俺ごと消すつもりだったのか。すまない、アシモフ。すまない、アリサ。すまない、アナスタシア。すまない、未来を奪ってしまった若人達」
彼が最後に放ったのは懺悔の言葉。
しかし、その懺悔は誰にも届かず、彼の意識は根源へと飲み込まれていく。
「私が君の体の新しい主人だよ」
それは、老兵が最後に聞いた言葉であった。
その場に産まれ落ちた新たな狩人は目の前にある獲物の芸術を見て、微笑むとそれに最後の仕上げを行おうと口を開いた。
「生命開放、絶執行者・死弾」
狩人の右腕は巨大なライフルへと変わり、ジュダの顔を目掛けて照準を絞ると、彼は容赦なく引き金を引いた。赤い光は一筋の線を生み、ジュダの顔へと放たれる。しかし、それは彼に当たる事はなく不可視の何かがそれを防いだ。
「生命開放、包丁」
狩人の体には一筋の切り傷が生まれ、そこから一気に血が流れ始める。何が起きたかさっぱりと分からない彼は辺りを見渡すと、獲物の目の前に白いスーツに身を包んだ怒れる獣が立っていた。
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