一章 空虚
新章開幕!
語られるはジュダの過去。
動き出す青髪の男。
三つ巴の戦いは混沌を極め、全てを飲み込む渦となる。
<闘争>の兵器を中心に物語は大きな大きな分岐点を迎えます!
是非ご期待を!
2XXX年 9月15日
ついさっきまで人として生きていたはずだ。
まわりとの違いなどなく、自分は特別なものではなくただのただの人であった。
しかし、その平凡は一瞬にして崩れ去った。
本来朽ちぬ身体は朽ち、友の身体は老いて崩れ去っていく。
先程まで友と呼んでいたものはその身が朽ち灰となっていた。
本来なら生を謳歌するはずだった
共に死のうと約束もした
なのに
何故、俺は同じく崩れない。
一体、一体何が起きているのだ
ああ、なぜ皆、俺を置いていくのか
俺が何をしたと言うのか
統合政府第四首都郊外とある研究所。
その一室にて青い髪を弄りながら男はかつての自分の嘆きを綴った日記を読んでいた。
そこには後悔の文字ばかりが記されており、目の前の装置には何かが管の様なもので繋がれている天使を横目に椅子に座りながら上を向く。
「アナ、君がいなくなって30年も経ってしまったよ。私は君のいない世界を恨み、そして、嘆いた。君はこの世界を愛していたが私にとって君のいない世界は空虚で無に等しい。だけど、ようやく私はこれからこの世界を壊せそうだ。君が愛した世界だが、私にとっては君を奪った世界を。君は私を許さないだろう。でもね、君が寂しくない様に全ての人類をそっちに送るから、安心して待っていて欲しい」
装置の中に入っている赤髪の天使を見ながら男は戯言の様にボソボソ一人で喋っていると研究所の扉が無造作に開き、軍服を着たガタイの良い男が現れ、口を開いた。
「アシモフ隊長、<闘争>の兵器の起動実験に入ります。それと、こいつが動けば本格的に統合政府に喧嘩を売ることになります。本当によろしいですか? 」
「ピエール、君は私が彼らに怖気付いているとでも言いたいのかい? 」
「いえ、決してその様な訳ではございません。しかし、現状戦力では確実に統合政府に負けます。あまりにも無謀とすら感じるのですよ、自分は」
そして、ピエールは淡々と現在の自分達が置かれている状況と彼らとの戦力差について説明を始め、幾分かが経ち、ピエールは最後に彼を説得する様に力強く声を放った。
「この結果、自分達はこの<闘争>の制御に失敗すれば確実に狩られます。しかも、彼らの他にも埋葬屋、<支配>の兵器の失敗作が<闘争>の確保の為に動き始める筈です。埋葬屋は<支配>の確保に成功したそうですし、」
「それで、君は何が言いたいんだい? 」
アシモフはそう言うと唐突に彼の言葉を遮る。
「君は始まる前から負ける事を考えているのかい?君はここに来てから幾年も経っていないから仕方がないか。ならば、いくつか間違いを訂正してあげよう。一つ目に私は決して世界を良くしよう思っているのではない。世界の再利用でも再使用なども考えていない。二つ目、私は君達を駒としてしか見ていない。君が死のうとも、ヒュードルが死のうとも、ラスコーが死のうともどうでもいい。勿論、私が死のうともだ。むしろ死こそが救いとすら思っている。そして、最後の三つ目だ。私は「審判」を起こし、のうのうと生を謳歌している奴ら、かつての悲劇を知らない人間共が許せない。それ故に私は全てを無に帰す。ご覧の通りさ、私はね、君が思っている様な立派な人間ではないのだよ」
彼の言葉に驚きを隠せない一方、彼の覚悟を知ったピエールは自分も彼に見合ったモノを準備しなければと思いそれに答えた。
「たしかに、申し訳ございませんでした。貴方の事をまだしっかりと掴めてなかった様です。しかし、それならば貴方の破滅を確実にするのなら、これから始める<闘争>の起動実験は成功しなければなりません。アシモフ隊長、皆さんが待っています。行きましょう、貴方の破滅を実現する為に」
彼の言葉を最後にアシモフはこれから奪うであろう命の価値の重みを踏み躙る様に足を動かし<闘争>の兵器が眠る部屋を後にする。
***
大量の札の様なモノが貼っている不気味な部屋の中に二人の男が向き合っており、低い声で片方が声を上げる。
「おはよう、<支配>の天使。これから幾つか質問がある。何も偽らずに答えてくれたまえ」
目の前に立つ、朽ち果てる寸前の樹木の様な体の男から発せられた言葉に東 劃は問い詰められていた。
腕を拘束具で縛られ、囚人の様な格好の劃はそれはこっちが聞きたい方だと思っていたが彼が放つ殺気にも似たオーラにより、その様な事は口が裂けても言えないという気持ちが半分半分となり口を開けようとしない。
「警戒をするのは結構だ。しかし、答えなければ私は容赦なく君を切り裂く。それだけはわかってくれたまえ。それでは、最初の質問と行こうか。君は一体何者だ? 情報によれば東 劃と名乗ったらしいが今の君はどっちなのだい? 」
しかし、彼の脅しにも似た一言が本気であると感じ取り、劃は渋々答えることにした。
「東 劃 それが俺だ」
「ふむ、君は<支配>の天使と意識は変えられるのかい? 」
「無理だ。あいつは俺が意識を失う時以外は干渉できない」
そう言った途端、彼は急に鈍器な様なものに襲われて意識を遠ざかっていく。
劃は再び魂の無い屍の上に立っており、支配の天使は骨で出来た椅子のような物のに座っていた。
「キリアルヒャ! お前を頼るのは癪だが出て説明してやってくれ」
劃は大きな声で彼女を呼んだが、それを聞いたキリアルヒャは怒りを滲み出すと声を荒げる。
「随分、大雑把に彼は僕の事を起こそうとしたね。ムカつくな、あいつに腹立ったから少しだけ力を貸してあげるよ。だから、君自身で解決してくれたまえ」
すると、彼は再び覚醒へと追いやられた。
首の後ろがズキズキと痛み、意識が再び自分の感覚を取り戻していく。
「ようやく目を覚ましたか、支配の天使よ。それでは私の質問に答えて貰おう」
朦朧とした意識は覚醒し男に敵意を向けながら彼は叫んだ。
「あんたの質問には答えねえよ! 」
固く縛られていた筈の拘束具はいつの間に解かれており、劃は拳を男に目掛けて振るうもその不意打ちに男は少し驚きつつも、その拳を軽く受け止めると彼の手を引っ張り捻り上げた。
すると、劃は体勢を崩しドスと言う音とともに背中を地面につけ転がっており、背中の痛みを我慢しつつ劃はすぐさま男の手を払い退けると立ち上がり両手を前に構えた。
「ふむ、まだ支配の天使でないらしいな。ならばもう一度意識を飛ばしてやろう」
男は再び不可視の鉄槌を彼の後頭部に放つ。
しかし、劃は何かを感じ取り、咄嗟にしゃがむとそれは天井に穴を開けた。
「嘘だろ。どんな威力のモノをぶつけようとしてんだよ」
劃は自分に振りかかったそれに驚愕する。
「今、私の攻撃が見えていたのか? 」
男もまた驚愕していた。
「なんでだよ。見えちゃいけないのか? 」
劃は相手の驚き様に不思議と違和感を覚えたがすぐさま切り替え彼の出方を伺った。
束の間の沈黙。
そして、男は少し考えると答えが決まったのかその沈黙を自ら切り裂いた。
「ふむ、君の実力を少しばかり測らせて貰うよ。私の名はジュダ・ダイナー。埋葬屋一席して世界の理に背く者だ」
そして、彼は祈りの形を取り叫ぶ。
「生命開放、包丁」
不可視の斬撃は無慈悲に彼に飛んでいくも劃は真正面から来る斬撃を軽く避けると再びジュダの近くに走り寄り、行き場を失った斬撃は壁にぶつかると大きな切り傷が出来ていた。
(あんなんぶつかったら死ぬわ。どうにか距離を詰めて一発ぶん殴る)
そんな事を考えながら彼は再びジュダに殴りかかろうとする。
「やはり、君は私の攻撃が見えているのか。ならばテストをしよう。全力で避けて見せてくれたまえ」
そう言うとジュダは再び迎撃体制を取った。
「生命開放、凍結」
その一言で劃の体は凍り付き、何が起きたかさっぱりと理解が出来ず、体は動かそうとしても動かせない。ジュダはそれを見ると更に追い討ちをかける様に開放を行った。
「生命開放、粉砕」
鉄槌は凍りつく劃に容赦なく振り落とされる。
しかし、鉄槌は氷像を潰すほどの威力で放たれたもののそれが崩れることはなく寧ろ振り落とした不可視の鉄槌は彼に触れる寸前に消え去った。そして、彼を止めていた氷も同じく溶けていた。
「し、死ぬかと思った」
凍り付いていた劃は死を覚悟していたため目の前で消えた鉄槌に驚いた。
「無意識のうちに権能を使っているのか。それを鍛えればまだ伸び代もある。体術は李に任せればそれならまで持って来れるか」
ジュダがぶつぶつと独り言を言うのを見ると劃は憤る気持ちを抑えて彼に質問した。
「あんた一体何なんだ? 急に試すだの言って殺されかけるし。ここはどこで俺は一体どうなっているんだ? 」
これまでの彼が感じた不平、不満、不安、それら全てをジュダにぶつけると、彼はそれに対して考えると少しして口を開いた。
「私は先程言った通り、埋葬屋一席ジュダ・ダイナーだ」
「その埋葬屋ってのが分からないんだよ」
劃は彼の言葉にすぐさま噛み付く。
それに対してジュダは彼が何を求めているかを理解すると再び口を開いた。
「ああ、そうか。君は元々新人類だったから私達の存在なんて知りもしないし、30年前の「審判」の真実も、吸血鬼も、何もかも分からないのか。ならばいいだろう。これから語るは私の過去、私の後悔、私の懺悔。しっかりと聞いてくれたまえ」
彼は語る。
己の過去を。
彼は嘆く。
己の後悔を。
しかし、彼は己の懺悔を胸に劃に対して
「審判」の真実を語り始める。
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