四章 本部防衛作戦 其の肆
二人の兵器、定められた逆位置の運命。
劃の刀と凪良の剣が打つかると空気が揺れ、火花ではない黒い雷が煌めいた。
バチバチと互いに音を立てながら、もう一回、また一回と打つけ合う。
何度も何度もぶつかり合う度に、凪良の髪が真っ紫に染まっていき、五回ほどで彼の髪は染まり切っていた。
それを見た劃は刀を振るいながら喋りかける。
「何だ? イメチェンかよ」
「そうだね、君達と俺は違うとハッキリしときたかったからな」
「雰囲気も変わったな」
「君を殺す覚悟が出来たからね」
そんな事を言い合いながら彼らは互いに先程よりも早い速度で手に握られた得物で命を刈り取ろうとする。
白い天使と紫の天使。
天使同士でありながらその性質は全く逆。
しかし、彼らは互いの本質を理解している。
なぜなら、逆でありながら同じ天使の権能を持ち、逆であるが故に、その答えに至る過程を知っていたから。
今の彼らは譲れないものを持ち、それを刀に、剣に乗せて両者一歩も引くことなく振るい続けた。
最初に仕掛けたのは劃であった。
同じ攻撃で動いていたのに対して、得物を振るっていた方とは逆の手に自らの体内で作り出した剣を握っていた。
支配式武器庫は既に体内に仕舞い込んでおり、その中で形成したものを体に瞬時に取り出すことで凪良の意表を突く一撃を放つ。
片手だけで放たれていた斬撃をブラフに逆の腕から放たれる突き。凪良は唐突に放たれたそれに対して冷静に、むしろ、それを待ち受けていたかの様にニンマリと余裕の笑みを零した。
剣が凪良の体に突き刺さる直前、握られていた漆黒の剣が呻き声を上げながら、その突きを黒い液状のモノが止める。
奇襲が失敗した事に気付くとそれが自らの命に明確に迫るモノだと劃は瞬時に理解する。
そして、剣から手を離しながら凪良から距離を取った。
剣は空から落っこちるとその剣先が溶けて無くなっており、何かに溶かされた、いや、捕食された様な形をしている。
(何だ? あれは? 漆黒の物体? てか、あの剣、支配の権能どころか俺の体から作った武器だから生命武器には特別強いはずだぞ? それなのにあんなに簡単に溶かされてる? もし、あれをメインに使うならこっちもヤバいぞ)
そんな事を考えていると凪良は容赦無く劃との距離を詰めて来た。先程とは打って変わって、攻撃的に劃を攻め立て、自らの防御を投げ捨てた激しい連撃を放つ。
白い髪は剣撃により生まれた風圧で靡き、その攻撃の激しさを物語った。
大雑把でありながらも自らの力の全てを注いで放つ一撃一撃は目の前にいる白い天使を押すには十分で、それを刀で受ける度に劃は防戦を強いられた。
隙は大いにあり、それを突くのは簡単である。
だが、それを漆黒の太刀が許さない。
天空で二人の天使の撃ち合いは激しくなる中、劃はこの状況を打開しようと握る得物に更に力を込めて叫んだ。
「生命解放、第三悪魔」
悪魔は呼び声に応じて白い天使の体を借りて顕現した。
体に回る熱が発狂し、激らせる。
真っ白な髪の先が仄かに赤く染まり、その身に悪魔と天使を宿すと東 劃が姿を消した。
凪良は一時も目を離していなかったはずなのに、彼の姿は見えず、気づいた時には自分の体がビルに突き刺さっていた。
太刀は彼らの攻撃から自分の身を守っていたのにも関わらず、彼の黒い刀身は傷一つついていない。
(生命武器殺しの生命武器。かつて、凪良真琴が持っていた悪魔を宿すモノ。流石に、あれは壊せないか)
そんな事を思いながらビルから体を起こすと次の瞬間には再び自分の体が壁と共に貫かれていた。
赤と白が混ざった閃光が一直線に走ると凪良の体共にビルの壁ごと貫き、破壊する。
劃は体に回るアドレナリンにより、自らの限界を超えた一撃で黒い液状のモノの防御を上回ろうとしていた。
しかし、それを漆黒の太刀は否定する。
黒い刀ではなく、劃を。
支配の兵器である、劃に目掛けて防御機構が動き出す。
体を食べようとする黒い液体を左手で防ぎ、凪良を再びビルに吹き飛ばすと距離を取った。
手で塞いだにも関わらず、当たった箇所だけではなく、徐々に腕を黒い液体が浸食してくると劃はもう片方の腕に握られた刀で斬り落とす。
(あの液体自体に意思あるな。距離をとりながら戦いたいが必殺には至らない。しかも、食われた方の腕は治りが遅い)
そう考えていると次は凪良が劃との距離を一瞬で詰めていた。
剣が振るわれた瞬間に、劃はそれを弾くと凪良は再び剣を振りながら喋りかけた。
「絶対否定乃液体だ」
「あ? 」
反射的に声を上げてしまうと続けて凪良は嬉々として口を開く。
「この剣を纏う黒い液体をそう呼ぶ」
その言葉が終えた途端、劃を刀ごとを蹴り飛ばすとその太刀に秘められた力を解放するために今度は一人でに呟いた。
「生命解放、絶対否定乃斬撃」
大きく振りかぶる。
隙を自ら産むようなゆっくりとした動き。
それを見た瞬間に、劃の体の節々に切り傷が出来た。
劃は反射速度を極限にまで上げた状態であったにも斬られた事に驚くと凪良はニコニコと笑いながら再び太刀を横に振るった。
切り傷が二度生まれ、身体中から血が溢れるも劃はその血を空中で凝固させ、刃を作り出すと凪良目掛けて放つ。
幾つもの刃が襲い掛かり、それを一振りで再び否定すると劃は自らが持つ全速力で凪良との距離を詰めた。
そして、二人は再び空中で思いを乗せて、闘争心を爆ぜさせる。
血は空から垂れ落ちて、地面に赤い雨を降らせると自らのエゴを貫くために獲物目掛けて刃を振るった。
地下の街の天空に二人の天使は血生臭く、互いに折れる事を知らず、一歩も引く事も知らない。
赤と白を纏う天使と紫に染め上がった天使。
仲間と歩む者と孤独を貫く者。
幾つもの建物を斬り裂き、崩し、壊した頃。
最初に、限界を迎えたのは劃であった。
ティフォンから始まった連戦による疲弊と出血。
凪良の太刀を受けた途端、背中に生えていた羽が消え、地面に叩きつけられた。
久々に地面に立った劃は立ち上がることすら限界であるもその目には闘争の火は消えておらず、空に浮かぶ凪良を睨んだ。
その視線を感じてか凪良は悲しそうに笑い、地面に降りると劃に問いかける。
「終わりか? もう、終わりか? 東 劃! 」
大きな声が頭に響き、意識がチカチカしながら劃は今出せる精一杯でそれに短く答えた。
「ああ、もう限界だ」
「そうか。なら、今楽にしてやる」
凪良は一歩一歩と徐々に劃に近づくと手に握られていた武器を投げ捨てて、彼の顔を蹴り上げた。
蹴り上げられた事により、無理矢理起こされた劃はそのまま彼の顔を目掛けて拳を突き刺す。
その一撃をくらい吹き飛ぶも、凪良は笑っており、劃も同様の表情を浮かべていた。
「なんだよ、その剣で斬れば良かったろ」
「気が変わっただけだ」
短く言葉を交わした後、構えると二人は殴り合いを始めた。
拳と拳がぶつかり、同時に吹き飛ぶも立ち上がり、また、ぶつける。
どちらも限界であるが故に、彼らは自らの武器を捨てた。
人が進化の過程で得た武器を捨て、原初から持つ物同士で競う。
宿敵との戦いであり、怨敵との戦いでもあった。
だが、それでも彼らは戦いの中で互いを知り、その結果、最後の殴り合いを選んだ。
蹴られても避けず、拳が体に入ろうとも引かない。
凪良はこの時、既に自らの勝ち筋を捨てていた。
太刀を振るっていれば勝っていたのはわかっていた。
だが、それよりも彼を、東 劃を越える事を選んだ。
独りよがりの孤独な天使は知らず知らずと繋がりを得ており、その繋がりを味わいながら劃を殴る。
劃もまた、凪良との繋がりを感じ取り、それを持って彼を蹴る。
殴って蹴られ、蹴られては殴る。
そして、限界の二人は最後に見合い、互いの顔に拳を放った。
頬に拳が突き刺さり、同時に、吹き飛び、仰向けで倒れると二人は口を開く。
それは相手を讃えるように、相手を認めたように。
大きく清々しい声で。
「「俺の負けだ」」
「「あ?! 」」
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