二章 本部防衛作戦 其の弐
二人の白い天使が己の存在を証明しようと魂を打つけ合う。
凪良vs 劃、二人の決戦の幕が上がる。
二人の白い天使が暗夜に飛び交う。
互いに得物は既に手にあり、それを無心に払った。
長刀と刀が打つかると火花が弾け、それが幾つもの星が何度も何度も空中で生まれる。
長刀を持った天使は目の前にいる天使を紛い物と思い込み、自分こそが本物であると証明するためにその武器に、力を込めた。
もう片方の天使は赤い刀を払いながらかつての友人を殺した者に向けての殺意と怒りでひりついており、冷静ながらも振るわれる武器には無意識に力まずにはいられなかった。
譲れないものを用いて彼らは互いに互いを否定する。
ヤツと出会わなければ。
ヤツを選ばなければ。
未来が変わったはずなのに。
言葉は交わす事なく、得物だけを交わす。
長刀を振るうも劃の刀から放たれた大雑把であるがしっかりと力の篭っていた一撃により、ビルのガラスに叩きつけられた。
しかし、距離を取れた事により、凪良は手を広げると彼の背後に無数の剣の山が顕現した。
現れた剣の山を見て、劃もまた、自らの武器を取り出すために口を開く。
「権能解放、支配式武器庫」
体の中に手を入れて穴を開けるとそこから取り出した骨が四角に変わっていく。
顕現せし、白の箱。
何にも染まらぬ、純白の箱に劃は手を入れて声を上げた。
「権能解放、支配式契外装+支配式契剣」
白い箱が彼の声に応えて、大きな音共に形を変え、そこから十字架状の鋼が四つ放出されるとそれが劃を守る様に辺りを回り始める。
それを見た凪良はさらに怒りを向け、喋る事なく、ただひたすらに武器を放った。
十字架状の鋼がそれらを撃ち落とすと握られた剣を振るう。
剣は鞭の様な形状になり、振るった瞬間、音の壁を突破して大気を揺らした。
凪良はそれを長刀で弾き、劃の武器が遠ざかっているのを確認すると距離を詰めて得物を振り翳した。
剣が伸び切った状態で凪良、自ら突っ込んで来た事で大ぶりになった体に劃は冷静に武器を捨て、次の行動に移っていた。
かつての劃であればそれの対処に時間がかかり、最悪、その一太刀を受けてしまうはずだった。
だが、今の劃は二ヶ月前の彼ではなく、戦友と高め合い、ライバルと築き上げた経験という名の自信から次のモーションへの一手を決める。
宙に浮く凪良と劃の体。
そこで放とうとする長刀の一振り。
凪良は自身が把握していないほどに冷静さを欠けていた。
本物の白い天使をもう一度だけ見たいと思い、その思いが戦いへのノイズとなっている事を知らず。
本来の彼であれば敵に隙を与えるなどするはずない。
しかし、彼はそれに気付かない。
自らが不要としていた想いが枷となり、その隙を劃に突かれる事になろうとも。
「権能鉄鋼砲」
意識と支配の権能。
その両方を乗せた必殺の一撃。
体に入った途端に、凪良の体に生えていた羽が消え、物理法則に則り落ちていく。
ビルへと吹き飛ばされるとそのまま部屋の壁を貫き、もう一つもう一つと壊していく。
三つ目の壁でようやく止まると自らの体から流れる血を見ながら自分が完全な天使ではなく、人である事を思い出させた。
(妹背山、お前が、お前が俺を生んだくせに、先に逝ってるのが腹立だしい)
血を見ながらかつての生みの親を思い出しながら、自分が何故、劃より優れていないかを考えていた。
すると、開けられた穴から劃が現れ、彼は自らが握る刀を首元に置き、睨みつけると口を開いた。
「本気でやれよ」
「本気だよ」
短く言葉を交わすと劃は首元に置いた刀を鞘に収めると彼の顔へと拳を放った。
頭に響く振動が脳を揺らし、視界をぐらつかせる。
殴られた自分が地面に顔をついていても尚、彼は自分が何故、こうも一方的に殴られているかわからずにいた。
「抵抗しろよ。あの時の不敵で、不遜な態度で殺し合えよ」
劃はそういうと地面にある顔を容赦なく蹴り上げると凪良の体が壁に打ちつけられ、口から血を吐いた。
血の味がねっとりと自分の味覚を刺激し、嫌気が差してくるもそんな凪良を見ながら劃は止まらずに、彼を痛めつける。
自らの手に全力で力を込め、殴る度に骨が軋む音がした。
バキリバキリと音を立て、殴っている方も殴られている方も互いに痛々しい光景が広がっていた。
血溜まりが幾つも生まれ、普通の人間であれば死んでいる量の血が流れており、それでも凪良は抵抗せず、劃は殴る事をやめない。
数分して、白い髪が血で赤く染まると息切れをしたのか劃は拳を振るうのを止めて、倒れている凪良に喋りかけた。
「何度も殴っても、本気で殴っても、スッキリもしないし、むしろ、気分が悪くなる」
「なら、さっさと殺せよ」
「それが出来たらやってる。だが、俺はここまで、多くの人を命を手にかけて、散らした。優午さんと潤、あの人達を殺したお前を絶対に許さないし、これからも憎んで行く。だが、その反面、ほんの少しだけ、ミリ単位と言っていい位だけ、お前に感謝してる」
感謝。
その言葉の意味がわからなかった。
凪良は自分が劃に対して行った行為の全てを自分の目的のモノで良いと考えており、彼にとってのいい事などまるでなく、その一切が憎悪と復讐に満ちていると考えていた。
そして、自らもそれを良しとして劃を憎み、キリアルヒャとの出会いを遠ざけた憎悪すべき悪と思っていた。
しかし、そんな彼が感謝をしていると言った。
訳がわからない。
理由も、さっぱりで、理解が追いつかない。
戸惑いの中、凪良はそこに湧いたほんの少しの興味で劃に問いた。
「何で、感謝する? 俺はお前に、何もしていない。したのはお前が嫌がる事だけだ。キリアルヒャを無理矢理目覚めさせ、多くの人間を華に変え、多くの人間を糧にした。その俺がお前に感謝をされるだと? 嫌がらせか? 」
劃はそんな彼に向けて少しだけ微笑み、それに答えた。
「あいつら、埋葬屋のみんな、ティフォン、シモンさんに出会わせてくれた。前までの俺は、世界がどうだの、未来がどうだの、そんな事どうでもよかった。ただ、自分の周りの人が幸せに幸福に生きれればそんなのは勝手にやっておけって思ってた。だけど、埋葬屋のみんなに会って人類を救おうとするあいつらに、少しだけでも力になりたくなった。一度は絶望して、自分一人で全ての人類を救おうとしたけど、そんなのは不可能で勝手にアイツは俺を追っかけて、勝手に捕まえて、勝手に仲間と思ってくれていた。あの時、お前に会わなければ、事件を追わずに手を引けば違う未来があったかもしれない。だけど、それ以上に、今の自分が俺は気に入ってる。だから、少しだけほんの少しだけ、その一因であるお前にも感謝してんだよ。お前も少し変わってみたらどうだ? 案外、変わるのも楽しいかもしれないぞ」
劃は真っ直ぐとした視線を凪良に向けるとそれを当てられた彼は何も言えずにただ、寝たまま様々な事を考える。
自分の与えられ続けた使命や、価値。
それに囚われ続けた自分の過去を思い、自分が何なのかを自らに問い続けた。
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