四十章 首都陥落作戦-第六首都 其の漆-
幻想に揺蕩うな。
使命を果たせ。
二人の吸血鬼は一人の青年の目の前で互いの得物を振り翳した。
ドンと言う音共に二人の得物を振るう速度が加速する。
片方は両腕に一体化された武器を一心不乱に振るうももう片方は無表情で大雑把に大剣を振るった。
ドンと言う音よりも速く、攻撃が放たれ、側からみれば音を置き去りにして互いに撃ち合う異常な光景が広がっている。
大剣がぶつかると鉤爪は砕けるも砕けた途端に再生し、速度を上げた。
四度の打ち合い。
パキリと砕けて再生する。
ドン、ドン、ドン、ドン。
遅れて響く音を置いて、大剣と鉤爪は引くことなく、主人の意志の赴くままに従順に従う。
音が鳴っては既に攻撃は放たれ、その場の空間が響き合い、歪みを生んではそれを物理法則が自分が則れる様に治そうと動くも更に歪みが加速する。
その打ち合いを、行人とイェーガーは眺めるだけであったが彼らは目の前に立つ男が本当に埋葬屋で最強である事を再び確認した。
バサラとジャックの打ち合いは止めるモノがいなければ止まる事なく続けられ、どちらの限界が来るかを互いに試している様であり、一種の耐久レースとなっていた。
しかし、音速を超えてた打ち合いの中、最初に限界を迎えたのバサラの方であった。
腕の骨の再生が間に合わず、大剣を持つ腕が一瞬だけ硬直するとジャックの拳が体を貫き、彼は再びその夜の王を幻想へと堕としこむ。
貫かれた瞬間に、バサラは再び幻想に堕ちた。
堕ちた彼の体が完全に幻想を見ている事を確認すると直様、もう片方の拳で頭を貫こうとする。
***
再び束の間の平穏の過去の夢が見える直前、幻想の中で彼は自らの首を切り落した。
***
幻想は溶け、解ける。
堕ちかけた意識を覚醒させ、迫る拳を回復した方腕で止めると油断して近づいていたジャックの顔に目掛けて蹴りを入れた。
剛力から放たれる蹴りにジャックの顔は首を中心にぐるぐると回転し、背面を向いていた。
死角を取ったバサラは大剣を握りしめ、力一杯振り落とすとジャックの体は脳天から半分に斬り裂かれる。
二つに分かれたにも関わらず、その半分ずつが互いに命を持ち始め、攻撃を始めるとその最中に合わさり再びジャックは一つとなっていた。
「鬱陶しい程の治癒能力だな」
「貴様だけには言われたくないよ」
打ち合いの中で短く行われた会話であったもののそれには相手を確実に殺すと言う確固たる意志が込められており、それをその身で互いに感じており、更に体に力が入った。
武器と武器が相手の命の削り切ろうと打つかり合い、犇めき合う。
悦はなく、そこにあるのは怒りのみ。
見せた幻想と同胞を喰らい続けた事に対しての怒りと自分達吸血鬼達を捨てた王に対しての怨念の様な激情。
そんな中、バサラが大剣をブラフに使い、ジャックの体に拳で放ち、吹き飛ばした。
彼の体が宙に浮くと同時にバサラは大剣を地面に突き刺し、その武器に封じられた力を使う為に声を上げる。
「第二封印指定を解く。心せよ。封じられた魂がお前の命を喰らう武器を生む」
「生命開放、絶夜王・死装」
棺の大剣が屍の軍勢を繰り出した方から扉を開けるようにゆっくりと開かれる。
そこから一人の男が姿を現すとそれにバサラは話しかけた。
「ファントム、元気だったか? 」
そこにはかつての友であり、吸血序列二席の男、ファントム・ザ・ブラッドの姿であった。
それを見たジャックはかつての憧れが何故か、棺の中から現れた事に驚き、声が出なくなっている。
そんな事を知らずに、ファントムはバサラにお辞儀をして、それに答えた。
「お久しぶりです、バサラ様。私を呼んだということはそういう事ですね。どの武器を持ってきましょうか? 」
「そうだな、同胞殺しのあれあるか? 」
「かしこまりました。ならばこちらで」
ファントムは棺の中に手を入れて一つの武器を取り出し、それをバサラに手渡した。
手渡されたモノはトンファーであり、バサラがそれを両手にはめ終わるとファントムは棺の中に消えていく。
「何故、ファントム様がその中に? 」
「企業秘密だ」
バサラはそう言うと大剣を地面に突き刺したままにして、装備したトンファーを構えて走り出す。
新たに手にした得物をくるくる回しながら先端を鉤爪にぶつけるともう片方の腕でジャックの顔を殴った。
叩かれた顔から出血するとその血が空中で凝固する。
浮いた血に目が一瞬奪われてしまったのを桜木バサラは見逃さず、すぐ体に拳を入れた。
二度目の衝撃に再び血を吐くとそれも同時に宙に浮きながら凝固する。
「何故、血が固まる? 」
自分の身に起こる理解出来ない現象に思わず呟くもそれを聞いていたバサラは間髪入れずに攻撃を放った。
全ての攻撃が当たり、当たった箇所から打撃で青くアザが出来る。
ジャックはそれを本来であれば気にする事が無いモノであり、意識もしていなかった。だが、生まれたアザが痛み始め、忘れていた痛みが体に押し寄せる。
「何だ? 何だ、これは? 」
動揺は動きの繊細さを失わせ、それが各々強者であればあるほど、その無駄が命取りになるのは明らかでバサラの連撃は止まらない。
殴る蹴るが先程よりも致命となり、一撃一撃が重くなる。
棺の中から現れたファントムが手渡したトンファー。
それで殴った者の血を凝固する武器であり、亡き桜木璃子の持っていた吸血鬼を殺す為の兵器が一つ。
速度は上がりに上がり、バサラの拳が止まる事を知らない。
打たれすぎた箇所から出血が始まり、それもまた宙に浮き凝固する。
吸血鬼は血を使い体の治癒力を高めており、血は彼らにとっえ一番と言ってもいい程に重要なモノ。
血は循環する事で力を発揮するのだが、今のジャックの体は既に多数の箇所から内出血を起こしており、それが凝固してしまい治癒を阻害する。
「桜木バサラ! お前、それでも吸血鬼か?! 人が生んだ武器を使い、それで俺を殺すだと? ふざけるな! それでも、吸血鬼の王か? 夜の王か!! 」
徐々に体の動きすらままならなくなり、ジャックは怒りのあまりに声を荒げるもそれを気にする事なくバサラは淡々と叩く。
出血が止まらず、宙に浮く血も凝固し、辺り一帯が赤く染まった。
ジャックは既に動くことも喋ることも出来ず、目の前に立つ、バサラの姿を見て、怒りを向ける。
それは向けるだけであり、向けてもなお、彼に届かぬ、高く、高く聳え立つ壁に絶望した。
バサラはその目線なら気付き、攻撃を止めると死に向かうだけのジャックに喋りかけた。
「なぁ、そんなに俺が憎かったか、ジャック? 」
答えない。
いや、答えることは出来ない。
だが、無言で目線だけを向けるジャックにバサラは悲しい表情をしながらその目線に応える為に再び口を開いた。
「そうだよな。俺のせいでファントムも、吸血序列上位陣は死んだ。いや、俺を救う為に犠牲になってくれたが正しい。だから、お前が俺を恨むのも分かるし、殺したくなるのも分かる。だがな、俺にもあいつらが託してくれた命があり、璃子との約束もある。すまねえが死んでくれ、スランバー・ジャック。お前が待たずとも直ぐにそっちに向かうからよ。そこで俺にぶつかって来い。いつでも相手してやる」
そう残すと動かなくなったジャックに背を向け、行人がいる方へと歩き出す。
完全な決着。
それはたしかに着いた筈だった。
スランバー・ジャックの体に交わったモノが吸血鬼達の血だけで有れば。
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