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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
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三十九章 首都陥落作戦-第六首都 其の陸-

繭の中、ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ混ざり合う。

これは私で、これは貴様で、これはお前で、これは僕。

血が混じり、交ざり、固定化され、生物としての進化を遂げる。

***


 夜の王が見ている幻想の中。

 ブレイドは自分が無意識の内に避け様としていた事を愛すべき人間に問いた。


「なぁ、璃子、俺はここに居ていいのかな? 」


 ブレイドがそう聞くと璃子は不思議そうな表情をしていた。しかし、彼が本当に悩んでいると気がつくと少し考えてそれに答える。


「いいか、悪いかなんてないんじゃない? バサラが居たいならここに居て。居たくないなら帰ればいい。だって、私にとってあなたはどんなことがあってもヒーローだから」


 璃子はニッコリと笑みを零すもそれとは対照的にブレイドは驚きが隠さず、戸惑った表情を浮かべた。


「今、お前、バサラって? 」


「うん、そうでしょ? 王の名を捨てた私の愛した吸血鬼」


「本当に、本当に璃子なのか? 何でだ? これはあいつの幻想、いや、夢の中、俺を陥れようとしているはずじゃないのか? 」


 驚くブレイドに対して璃子は淡々と事実を述べる。


「そうだよ、これはスランバー・ジャックが生み出した幻想、だけど、それにあなたの思いが乗って私みたいなバグが生まれたみたい」


 そう言うと璃子は立ち上がりクルクルと回り始める。


 自らが幻想で生まれた存在であるにも関わらず、彼女は優雅に回り、そして、バサラの目の前で手を出した。


「この幻想はあと少しで解けるわ。あなたは最強だし、ファントム達の血が混じってるから無意識のうちに幻に対しての抗体が働いてる。だから、最後に私の手を取って踊ってくれない? 幻想が生み出した最後のお願いだと思って」


 その言葉でブレイド、いや、桜木バサラとして完全に幻想の中で覚醒し、自らの弱味につけ込まれたことを後悔するも目の前に立っている幻想でありながらも自分の知っている彼女そのものの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。


 そして、彼らは踊り出す。

 ゆっくり、ゆっくりと足を動かし、時に優雅に、時に大胆に、すぎる時間を噛み締めながら永遠とも捉えれる瞬間を過ごした。


「ねえ、バサラ。すぐに、こっちに来ちゃダメだよ」


 唐突に放たれた言葉にどきりとし、少し口籠るもそれでも、その問いに対して嘘偽りなく自分の思いを彼女の幻想に告げた。


「いや、すぐに会いに行くさ。それが俺の使命だからな」


 そして、バサラは足を止め、彼女の幻想の目の前で首を切る。


 溢れ出す血と共に首が地面に落ちた途端、世界が黒く染まりボロボロと音を立てて壊れていった。


 幻想からの唯一の解き方。


 それは自らの死。

 自死を持って幻想世界は崩れ落ちた。


***


 引き金が引かれた瞬間、音共に弾丸が行人目掛けて放たれる。


 そして、それを無意識の内に避けるとその射線にはジャックの体があり、彼の心臓を撃ち抜いた。


 心臓を撃ち抜かれたジャックはすぐにその部位を回復させようとするも放たれた弾丸が吸血鬼の体の治癒を妨げるものであった為、行人への攻撃が中断される。


 吸血鬼の治癒は心臓から行う。

 それは無意識の内に彼らに課せられていた解釈であり、心臓を貫かれた事で、彼の体は無意識に治癒が遅くなる。


 そして、それを機に、行人はジャック目掛けて走り出し、その刀に眠る龍の力を込めるために呟いた。


生命開放(オープン)、龍舞壱乃型・一季当千」


 距離を詰めて放たれた剣撃にジャックは反応出来ず、無防備にそれを受けた。


 そして、その刃もまた、吸血鬼の弱点を突くモノ。

 魂を載せた刃。

 それが吸血鬼の体を斬り裂くと上半身と下半身を解った。


 刀を鞘に収めると自分を狙った狩人に行人は怒りを向けて声を上げる。


「イェーガー! テメエ! 俺狙って撃つんじゃねえ! 」


「うるさい、行人、集中しろ。お前なら避けれると思ったから撃っただけだ」


 すると、再生が歪なまま行われたジャックであったが徐々に元通りになって行き、体をくっつけて二人の埋葬屋に喋りかけた。


「痛いなあ、貴様達、私が誰か分かってやっているのか? 」


「知ってるからこそ対峙したんだろ? 」


「なぜ対峙する? 貴様と私は関係ないだろ? 」


「何だって、そりゃ、仲間がやられてんだから、それを助けないヤツなんていないだろう? 」


 言葉を終えた途端、行人はジャックとの距離を詰めると自らの手でその怪物の息の根を止めようとする。


 目の前に立つ羽虫を見て、怒りが込み上げる。

 夜の王を封じ込めたはずなのに、自分に満たされるものがなく、寧ろ、先程よりも感情が掻き乱される様に感じた。


 吸血鬼にとっての共喰いとはより強くなる為の一種の行為でありながらも禁忌(タブー)


 禁じられていた理由はただ一つ。

 自らの血と他の吸血鬼の血が混じり合う事により生まれる異常反応。


 血と血が争い、混じり、一つになろうと体の奥に眠るモノを掻き立てる。


 VR空間であるにも関わらず、彼の体は現実世界と一つになっており、その結果、共喰いの代償。


 その対価を支払いが迫り、混沌とする意識の中、

ジャックは自らの身体に鉤爪で穴を開けた。


 すると、傷をつけた穴から血で出来た糸が現れ、それがジャックの体をグルグルと纏わりつき、球状に変化する。


 それを見たイェーガーはすぐに引き金を引き、その繭の様な球を撃ち抜くも手応えがなく、行人は遠ざかりながら口を開いた。


「ああ?! イェーガーどういう事だ?! 」


「分からない、だが、今からが本番って感じだな」


 繭がばかりと音共に開かれるとそこには先程とは全く違う姿となったシルエットをしたスランバー・ジャックが現れた。


 眼鏡をかけた初老の男は若々しくガッチリとした体型となっており、鉤爪が体と一体化した事で相応しい形に最適化されている。


 禍々しさすら通り越し、生物の進化という神秘性を帯びているそれに対して、行人は動かずに自らが取れる最強の一手を繰り出すために刀に手を置いた。


「遅い」


 声と共に行人は刀を抜こうとするも間合いに入っていた事に気づく間も無く、背中に切り傷が生まれる。


 イェーガーの目ですら追えぬ、速度であり、行人は切られたとは言え間合いに入った敵に対して躊躇いなく抜刀した。


生命開放(オープン)、龍舞零乃型・無龍(むろん)残火(ざんか)


 一つの流派の奥義は己が力で目の前の怪物に引導を渡そうとする決意の現れ。


 龍の斬撃はジャックの体を斬り裂いた。

 しかし、その決死の一撃ですら今のスランバー・ジャックには通用しない。


 行人に再び鉤爪が襲い掛かると既に限界を迎えていた彼はそれを防ぐことが出来ずに攻撃を受けてしまう。


 イェーガーもまた、狩人としてそれの心臓を狙い撃つも意味を成さず、行人にトドメを刺そうと怪物は鉤爪を振り翳した。


 限界を迎えた行人は自らに迫る死に抗おうとするも体が言う事を聞かず、一刻と迫る鉤爪をなす術なく見つめる。だが、そこには後悔も恐怖もなく、ただ、自分が死なない事だけを確信して笑みを零した。


 鉤爪は三本の刃で行人の体の肉を抉り取ろうとした瞬間、その刃が全て斬り落とされる。


 三つの刃が落ち、ガチャリガチャリと音が鳴った。


 行人の目の前には怒りに身を焦がした夜の王が立っており、そこには二人の怪物が立っていた。


「決着と行こうじゃねえか、ジャック」


「私もそう言うところだったよ、ブレイド」

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