三十七章 首都陥落作戦-第六首都 其の肆-
最強とは誰か?
それを今から証明しよう。
「よぉ、来たぜ? ジャック・スランバー」
白い箱の様なモノが浮かび続ける空間に、玉座が一つあり、そこに呼び出された者は座っていた。
玉座に腰掛けた初老の老人はつけていた眼鏡を少し動かすと自らの名を間違えた呼んだものに対して優しい口調で喋り出す。
「スランバー・ジャックだ。私の名はスランバー・ジャックだよ。桜木バサラ」
そう呼ばれると棺の形をした大剣を携えたバサラが笑いながら再び口を開いた。
「嘘を吐くなよ、ジャック。それとも、この名で呼んだ方がいいか? 吸血序列八席、ジャック・ザ・スランバー? 」
玉座に座る男の顔が少しばかり歪み、怒りという感情が仄かに滲み出た。だが、すぐにその怒りを抑え、冷静さを取り繕うと言い返す様にそれに答える。
「それはあなたも同じだろう? かつての我らの王よ。最強にして、最凶の夜王、祖たる者の血、ロイヤルブラッドの後継者、吸血序列一席、ブレイド・ザ・アンダー」
バサラは先程までただ笑っていただけなのに自分が過去に名乗っていた名を聞き、ゲラゲラと声を上げながら笑った。
それを見て、ジャックは不思議そうにするとあまりにも彼が笑うので困惑しながら問いかける。
「何故、自分の名を聞いて笑う? 誇り高き吸血王の名だぞ? お前自らが先代から受け継いできた由緒正しき王家の名だぞ? それを何故、嘲る様に笑う? 」
一通り笑い落ち着いたのか目には少し涙が出ており、それを拭いてバサラはニコニコしながら声を上げた
「ああん? 簡単だよ。その名前がダサ過ぎて笑っちまっただけだよ 」
「自分の名前がダサいだと? 貴様、何を言ってるんだ? 吸血鬼の王としての威厳溢れる名をダサいだと? ふざけているのか? 」
「じゃあ、逆に問うぜ? お前、何で自分の名前を隠してる? そんなにあの序列に拘るならちゃんと名乗れよ」
そう言われるとジャックは黙り込んでしまい、玉座の肘掛けにヒビが入った。
それを見て、バサラは更に追い打ちをかける様に煽り出す。
「お前も、自分の名前がもう意味がないものと知ってるからこそ名乗れないんだろ? お前の事はよく知ってんだよ」
「そうか、それはそうだな。もう、吸血鬼と呼べる者は私と貴様しか居ないんだからな」
ジャックはそう言うと恨めしそうにバサラを見つめ、訴える。
そこに籠った怨嗟をバサラは感じ取るも気にする事なく、見つめ返した。
「何だ? 嫌味か? あの時、俺が死んでいれば他の序列の者たちも生き残れた。そう言いたい顔だな」
「どうせ、貴様とは分かり合えんのだ。さっさと始めよう。貴様を殺して、再び夢の国を作り出す」
「そうだな、俺も、お前との問答には飽き飽きしてた! 一瞬で終わらせてやるよ」
言葉の直後にはバサラの姿が消えており、玉座の上にいた。
大剣は既に抜かれており、それは片手で持つには不可能であるにも関わらず、バサラは軽々とそれをジャックの首へと振り下ろす。
バツリと音がし、首が落ちる。
ジャックの首がコロコロと転がるも首が離れた体が突如、動き出し、バサラに蹴りを入れた。
彼は蹴りを簡単にいなすとすぐに攻撃に移り、躊躇いなく体を真っ二つにしようと大剣を縦に払った。
するとその体はすぐに攻撃を受けて左右に分かれて動き出す。
首、右の体、左の体。
三つがバサラから遠ざかると右の体が首を拾い上げ、それを自らの体にくっつけるとミルミルと三つのパーツが繋がっていった。
吸血序列。
それ即ち、吸血鬼達の階級であった、かつての栄光。
高潔な血統と実力で作られたそれは吸血鬼としての誇りであり、身分の証明である。
そして、今、ジャック・スランバーが見せた吸血鬼の不死性。
それは序列の高さに比例して能力が上がる。
大剣の連撃を受けたのにも関わらず、動くジャックは八席。
その回復力はただの吸血鬼とは比にもならないものである。
「久々に切られたが痛いな」
そう言うとジャックは自らのポケットに仕舞っていた武器を取り出した。
武器はレイピア。
長く細く尖った剣先と丸みの帯びながらも様々な装飾のなされたモノを大剣に臆する事なく、構える。
バサラは何処にそれを仕舞われていたかなどを気にする事なく、再び得物を握る力を強めて走り出した。
走るだけで地面が抉れ、物理法則を無視した様な速度で移動するとジャック目掛けて武器を振るう。
大剣が自分に当たるスレスレでジャックは最適解を見出したように動くと生まれた隙を突き、レイピアを放った。
その動きは正しく、大剣の攻撃の軌道が見えており、その攻撃で生じる一瞬の間すらも計算し尽くされていたモノ。
しかし、バサラは自分の体に生まれた隙をその生まれながらの体でねじ伏せる。
大剣は振られていたのにも関わらず、無理矢理筋肉を膨張させ得物を持つ腕を折ると人では不可能な形の関節でレイピアとジャック共々、それを振るい吹き飛ばした。
壁にぶつかり、飛んだ体が止まるも与えられた衝撃が内部に響き、口から血を吐き出す。
口から血の味がするも吸血鬼の血は不味く、それが口に広がる前に体の治癒が始まった。
「ふん、なんだジャック、腑抜けたか? 八席を名乗っていた時の方がもっと動きに繊細さがあったぞ」
ジャックはバサラの声がする方を向くと彼の折れていた腕は既に再生され、それをグーパーと動かし、確かめていた。
「久々に血戦をやってみたのですがダメな様だ。古いやり方で貴様を殺したかったんだが。結局は序列一位、いや、それ以外の序列二位から五位までの血で出来た体は大分丈夫らしい」
「また、嫌味か? お前だっておかしいだろう? その治癒能力。吸血鬼がその血を強めるには共喰いしかない。お前は序列に着いていない者達をどれくらい食った? 」
この場で初めて、バサラは怒りを覚えた。
共喰いは吸血鬼の中でタブーとされており、それを行った者は序列関係なく、吸血鬼の世界で討伐対象になる。
故に、風習に縛られる事を嫌うバサラですら、共喰いを嫌っており、同志を喰ってきたジャックに対して激しい嫌悪感を抱いた。
だが、それを聞いたジャックはバサラとは逆に笑っていた。
嘲笑とも捉えれるその笑みはバサラの神経を逆撫でし、怒りを抑えきれずに再びジャックの首を簡単に切り落とす。
あまりにも刹那に起きた事であるがジャックは落とされた首から更にバサラの冷静さを欠けさそうと声を発した。
「お互い様って言いたいだけだ。だが、そうだな、序列を聞いた吸血鬼達は私を導き手の様に慕ってくれて気分がよかったなぁ。そして、私が共喰いをした時の絶望に浸る表情、何度見てもあれには興奮する」
「首切ったくらいじゃ黙れねえか。いいぜ、ジャック、お前がとことんやるなら俺も徹底的にお前を潰す」
バサラがそう言うとジャックの首めがけて走り出し、大剣を振り下ろそうとした。
ジャックはそれを見て、嬉しそうに、楽しそうに、喜びに満ち溢れながらこの時を一時一時と待っていたかの様に口を開く。
「生命解放、第六悪魔・暴食」
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