三十二章 首都陥落作戦-第五首都 其の捌-
言いたいことを言い尽くせ。
それが残された兄妹の宿命だ。
手を開き、自然と槍は主人の下へと帰っていく。
そして、その槍が手についた途端、スカディ目掛けて、ニエルドは走り出した。
十二本の武器は意志がある様に王を守る為に向かい来る敵へと放たれる。一本、また、一本と武器はニエルドにぶつかるも、それを最も簡単にいなし、スカディの目の前にそれは瞬く間に現れた。
「生命開放、絶壁・4th」
いつの間にか四つの壁がニエルドを囲っており、それが彼の周囲の重力を一瞬にして変え、容赦なく潰した。
メキメキと体を押し潰していると思いきや、それをそんな事で止まらない。
痛みは自分の糧となり、罰となる。
ニエルドはその痛みを笑いながら受け入れ、自らの体の骨が軋む音すら躊躇い無く聞き入れた。
腕に背負いし業。
槍に注ぎし己の情。
彼はそれらを混ぜ合わせる。
竜の鱗に覆われた左腕で槍を取り、その鱗を槍に巡らせ、武器の因子と形を変化させる。
「生命合成、第五覚醒悪魔・強欲」
鱗と槍は混ざると己の武器の根源によって三叉の矛は一又となり、一突きで全てを喰らう槍と成る。
辺りはそれを見るや否や攻撃を放っていた。
そこは重力が変わっているはずの地であるのにニエルドは何もない様に動き出した。
彼は笑いながら楽しそうな表情を浮かべ、先ずは勿からだと槍を幼い少女の体に放とうとする。
次の瞬間、それをスカディが抑えようと二本の剣でニエルドの手から槍が放たれる前に彼の腕を目掛けて十二本の武器を放った。
十二本の武器がその場で振り払われるとすぐさまスカディはニエルドとの距離を詰める。
そして、両者共に顔を合わせた途端に武器から攻撃が放たれた。
槍はスカディの肩を抉るも聖騎士の加護により、瞬時にそれが無くなっていく。
スカディの剣の斬撃はニエルドに切り傷を与えるものそれは致命へと至らず、それを受けても尚彼は笑った。
辺りは彼ら兄妹の血により、赤く染まっていき、互いに限界が知らない様に撃ち合い続ける。
撃ち合いの最中、両者一歩も引かない状況を側から見ている二人は彼らの強烈なまでの兄妹喧嘩に手を出すことはなかった。
「なぁ、勿、本当に手を出さなくていいのか? 」
スペクターはスカディが戻って来た事よりも目の前で行われてる狂乱を見ながら困惑していた。
それを見ている勿は少し悲しそうに笑いながら口を開く。
「いいんじゃないかな。私たちは多分、あそこに入るのは違うよ。彼らは今、過去の清算をしてる。私もこれはいつかしなきゃいけない事。だから、今はさ、私たちはこのままでいいと思う」
***
二人は互いの武器をぶつけ合い、互いの不満と怒りを解き放つ。
互いに大切なモノを失った者同士。
互いに同じ母を慕い、父を尊敬し、兄妹を愛し合った者同士。
お前があの時、あんたがあの時。
出ていかなければ、殺さなければ。
未来は変わっていたかもしれない。
その瞬間、ニエルドは考える。
あの時、自分が父を殺していなかった事を。
もしかしたら自分を殺そうとしないかも知れない。
だが、それはグリードと共に過ごした時間により、打ち崩されていた。
かつて、父が槍を使い、凡ゆる強者を倒す様を自分は見てしまった。それ故に、自分より強い者に父は必ず惹かれて殺しに来る。
やはり、未来は変わらないんだと。
同時にスカディも考える。
あの時、自分が逃げていなかった事を。
だが、そこに自分が笑える姿は見えなかった。
埋葬屋と、スペクターと過ごした時間で彼女は理解していた。
そして、後悔していた。
可愛い自慢の妹と弟、彼らを置いて行った事に。
だから、自分で未来を変えると。
互いに違う事を考え片方は未来に、片方は過去に囚われながらも剣と槍をぶつけ合う。
ぶつかる度に傷は生まれ、血だまりは更に増えていく。
スカディは十二本の武器と共に攻撃をするもニエルドは一人の槍で弾き返して攻撃に転じて突きを放つ。
その突きはスカディの右腕に直撃し、簡単にそれを切り落とした。
落とされた腕は力が抜け、剣が転がり落ちた途端、スカディはすぐに自らの腕をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
その判断の速さで放たれた肉塊すら槍を払い簡単に撃ち落とす。
瞬間、生まれた一瞬の隙を使い、スカディはニエルドの目の前にいた。
しかし、ニエルドは驚く事なく淡々と目の前に現れたものに対して突きを放ち、それを受けながら彼女は切り落としたはずのが腕で彼の顔に拳を入れた。
拳は既に再生しており、鈍い鈍器がぶつかった様な音が鳴り響くとニエルドの体を吹き飛ばす。
彼の体が地面に転がり、ゴロゴロと音を立てるとかつての自分ではあり得ない様な形で天井を見た。
天井を見つめながら自分の体に回る痛みが心地良くなり、それを感じながら呟く。
「やるじゃないか」
転がっていたニエルドの体にスカディは間髪入れずに跨ると再び彼の顔に拳を突きつけた。
「何が、やるじゃないなよ! 馬鹿ニエルド! あんたが、あんたが私達を、私を信用して、信頼してたら! 違ったのかも知れないんだよ! 何が、暴王だ! 何が最強だ! あんたはただの馬鹿なくらいに真面目で、兄妹思いの私達のニエルドだろ! それを無理して! 誰も! いなくなっちゃったじゃない! ヘズも! お父様も! お母様も! みんな、みんな! あんたが! あんたが素直じゃないから!」
何度も、何度も顔に拳がない放たれるもニエルドはそれが痛くなかった。
何故かは分からない。
だが、自分の顔が血ではない何かで濡れていることを感じた。
それすらも今の彼には何なのか分からない。
スカディはそれを見ながら拳を振るうのをやめ、徐々に彼女の顔にも涙が溢れ始めた。
「なんでよ! なんでなのよ! 今になって! 今になって、感情を取り戻したって言うの?! ねえ! なんで、なんで、今なのよ! 全部、全部、遅いんだよ! 馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! 馬鹿ニエルド!! 」
その言葉を聞き、ニエルドは何も言わずに涙をこぼす。
既にスカディは彼に跨るのをやめており、ゆっくりと彼は自らの体を起こした。
そこには先程までこぼしていた涙は無く、何か吹っ切れた様な表情を浮かべており、目の前にいたスカディの体を強く温かく抱きしめる。
急に抱きしめてきたニエルドにスカディは驚くもそれを承知で彼はゆっくりと喋りかけた。
「スカディ、俺がお前達、全員を救うにはこれしかなかったんだ。兄妹を守るのであれば強欲に、強く、生きるしかなかった。お前に別れとは言わない。だから、今一度最後に一度だけ俺の前に立ち塞がってくれないか?」
それを聞いてスカディも泣き止むのをやめ、彼から距離を取った。
二人の兄妹は互いに互いを尊重し、溢れる思いを最後の一撃を込めようと覚悟を決める。
それをスペクターと勿は何も言わずに見つめた。
「ねえ、ニエルド、これが全部終わったら埋葬屋に来ない?」
スカディの予想外の提案にニエルドは思わず、笑みを溢すもそれにしっかりと答える。
「気が向いたらな。だが、それは今から俺を越す事が条件だ。来い、スカディ。俺とお前の最後の兄妹喧嘩だ」
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