三十一章 首都陥落作戦-第五首都 其の漆-
強欲は今、その真実共に己を解放する。
***
暴力以外で彼は笑う事はなかった。
無情な為政者に徹するだけの抜け殻として、兄妹達を守る為に強欲の悪魔にわざと奪わせていた。
そうしなければ、自らの大切なモノを奪われてしまうたため。
親を刺した。
自らの育てた親を彼は刺し殺した。
その時、自分はどんな顔であったのかハッキリと覚えていない。
しかし、その時にはもう自分の感情は無くなっていた。
悪魔にそれを渡したから。
それが大切と思わなかったから。
それよりも自分の兄妹が大切であったから。
「よお、ニエルド。お前がここに来るって事は俺との契約を放棄するって事だな? 」
黒いモヤから水色のツンツンとした髪型の男が姿を現わし、ニエルドの肩を組んできた。
「勝手に肩を組んでくるな、アモン」
「まぁ、つんけんすんなよ。どうせ、俺もお前と会うのはここだけなんだからよう」
フレンドリーに接するアモンと呼ばれたニエルドはヘラヘラしながら喋りかけると組まれた腕をすぐに払い、この目を真っ直ぐ見て、声を上げた。
「アモン、単刀直入に言うぞ。お前との契約を破棄する」
その一言を聞き、アモンはニエルドの目を睨み返すも直ぐにそらして、ため息を吐くとそれに対して言葉を紡ぐ。
「お前が本当にそこまでするに値する奴らなのかそいつらは? 」
「怒りの感情以外をお前に喰らわれていたのにも関わらず、俺はこいつらに苛つき以外に戦いを通じて得る喜び、楽しみがあった。本来であればこれはペトゥロとの決戦に残しておきたかったんだがな。もう、守るべき兄妹はただ一人。着いてきてくれた弟を任務で殺され、親も離れていった妹も自分の手で殺した。唯一、最後に兄らしいことを出来るのであればフレイヤ、彼女を、俺の最後の妹だけは守り抜きたい」
「それはお前のエゴだぜ。感情を喰わせてたお前は冷徹で、怒りのみで凡ゆるモノを壊し尽くした為政者であり、暴力の王だ。そんなヤツが今更になって感情を取り戻し、一人の為にと動いても説得力も何も無い。お前は最後の妹にすら捨てられ、忌み嫌われる。お前がもたした結果であり、事実。それはもう決まって未来だぞ?それでも戻すのか?感情を、喜怒楽の三つを?これから取り戻してみろ。お前は壊れるぞ? かつての罪に苛まされ、耐えきれなくなる」
「それでもだ、アモン。ふっ、お前がそんなに言うのはお前の優しさなんだろうな。ここだけだから言ってやる。お前、俺が父上を刺した時には感情を奪って非常に徹するようにしていただろう? 」
「そんな事もあったか」
「あの時、俺の感情を持たせたまま殺させた方が悪魔的に楽しかったはずだ。だが、お前はその前に奪い、殺させた。俺が壊れない為に、俺があいつらから見て恐ろしい存在に見える様に。両親が良き両親のままで止まれるように。全部知ってるよ、アモン。父上が俺の力に気付けばその場では無くてもいつか俺を殺していた。だが、お前は俺が兄妹を思う気持ちを汲んで俺があいつらの敵になる様に仕向ける事で父上と母上を美しい記憶の中で止まらせた。そんな俺すらもお前は救おうと感情を奪った。お前は悪魔のくせに優しすぎんだよ」
アモンはそれを聞き少しだけ悲しそうな笑みを浮かべ、彼の顔を見る事なく空を仰ぐ。
空には何もなく、辺りは真っ暗な暗闇であった。しかし、それでも彼はそこに美しい星を見た様に感じると自分を見続けるニエルド向けて一枚の紙を手渡した。
「ふん、そんなつもりはねえよ。大体、お前を選んだのは俺だぜ? そんな性悪がやる行動なやけなきじゃん? お前が壊れたら感情が食えねえだろ? まぁ、いいよ。もう満足した。お前の感情はたらふく食った」
アモンの一言を聞き、ニエルドは紙を貰った後、後ろを向くと彼の顔を見ずにそれを破り捨てる。すると、紙は破られた途端に燃え始め、その炎が照らすニエルドの顔は優しい笑みを浮かべていた。
「ありがとう、俺の悪魔。お前のおかげでここまで生きてこれた」
その言葉がアモンに届いていたのかは分からない。だが、ニエルドの姿は既に消えていた。
一人、いや、一匹と言った方が良いのだろうか。
悪魔は寂しそうに佇みながら残されたモノとして口を開く。
「俺こそ、お前のお陰で他の悪魔とは違った感情を得れた。頑張れよ、俺の唯一の友」
***
「生命解放、第五悪魔・強欲」
その一言は武器の根源に居座る悪魔の本質を自らの身に降ろし、その力の全てを世界に写す。
体に漲る感情が波となり、これまでのモノが押し寄せてくると悲しみ、苦しみ、寂しさ、後悔、負の感情ばかりが迫ってくるもそれすらも自分の罪の罰とした。
そして、それを全て飲み込み、取り込み、糧として、それら、あらゆるモノを感情のままに喰らう強欲の権化へと姿を変える。
重力が襲いかかるのにも関わらず、それは立った。最も容易く立つ姿を見て黒猫は自らの体に迫る危険がこれ以上に無いほどに巨大になっていた事を感じるもそれをモノともせずにニエルドに対峙した。
そんな彼女にニエルドは勇ましさと敬意と愛おしさすら感じると優しい声音で喋りかける。
「埋葬屋。お前の名前を教えてくれないか? 」
先程とは別人と見間違えるほどに変わっている声の主の言葉に勿はこれまで以上に危機感を持ちながら応えた。
「埋葬屋二席、李 勿。みんなの為に、未来を繋げる者」
「そうか、勿か、良い名じゃないか。スカディもいい仲間を持ったらしいな」
「あなた、さっきと全然違う。何があったの? 」
「別に。少しばかり失ったモノを返してもらっただけさ。さぁ、始めよう。そっちの彼も狸寝入りしているのは分かってる。来い、スペクター、勿。第五首都首都長、ニエルド・ヴォーデン。お前らに立ち塞がる最強の壁だ。心して、かかれ」
先程とは違う、温かくも底知れない存在へと姿を変えたニエルドは彼ら二人が動き出すのを平然とした佇まいで見守った。
その一言の直後、すぐに勿はスペクターに声をかける。
「スペクター、一気にかからないとこっちがやられちゃうから、一瞬で片付ける。拘束頼める? 」
「痛みで目が覚めたよ、やろう。これが最終決戦だ」
限界を超えているスペクターは無理やり電鋸を起動させ、壁に磔にされていた体をようやく起こすと鎖を部屋中に鎖を解き放つ。
辺りは再び鎖の監獄を作り出し、そこから勿は六つの壁を宙に浮かせるとそれらは回転を始め、真ん中に何かを溜め込み始めた。
重力をそこに溜め込み放つ。
それは正しく弓と矢。
飢餓の兵器の根源武器。
それを放とうと勿は口を開く。
「生命解放、絶壁6th・飢餓」
「勿、それは取っておいて。あいつとの決着は私がつけるから」
放つ直線前に声がした。
その声を聞いた途端、勿はすぐに切り替えて壁を宙に浮く道として、声の主が鎖の檻を走り抜けれるように支えた。
六つの壁を駆け、白と黒が混ざった王たる騎士は一直線に暴王目掛けて飛んでいく。
「地獄から這い戻って来ちゃった」
鎖の檻から現れた殺したはずの妹が自分の目の前に現れ、一言を残して自らの槍に一撃を入れた。
それは腕に響くもそんな事、お構い無しに鎖の檻を吹き飛ばし、戻ってきたスカディに目掛けて槍を放つ。
スカディはそれを背中に浮いている十二の武器で防ぎ、携えた二つ剣をニエルドに突き立てた。
二本の剣は切り傷を生み、胸から血が溢れる。
その血を見て、ニエルドは歌うと自らの血をべったりと付けながら髪の毛を捲し上げた。
「最終ラウンドだ、スカディ。俺とお前!かつての因縁に決着をつけよう!!! 」
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