幕間 再会
目覚め、そして、覚醒。
最後のピースが今揃う。
時間は天気の変わりのような一瞬にして過ぎ去る。
かつて兄だったモノに殺されかけてから六年程が経過した。
母親は彼からもらった傷が深く、三年前に亡くなった。
何も残らなかった。
結局、自分が何故、あそこから逃げたのか分からない。
ごちゃごちゃ考え事をすると自らの思考が乱れるもののそれすらも今は心地よく感じてしまうほどに心が死んでいた。
「スカディ?」
声がした。
自分を呼んでくれる声が。
「何?」
素気なく、味気なく返事をする。
自分を救ってくれた彼に。
初めて外を教えてくれた彼に。
嘘つきな彼に。
私は今から問い詰める。
彼をもっと知りたくて、彼の力になりたくて。
いつか、家族を・・・・・・。
「スペクター、あなたが何をしてるか大体知ってるわ。だから、私にも全て教えなさい。私は私の道を生きる。だけど、そこに私はあなたと一緒に行きたいの」
***
チカチカと思考が纏まらず、頭から血が流れているのを感じるもそれを何かで抑えられているのを理解する。
「お姉ちゃん、起きた?」
目の前には自らが捨ててしまった妹が自分の体にある数々の傷に包帯を巻き、見守ってくれていた事に気付いた。
頂上から落とされたおかげで体中の震えは止まらず、骨の隅々にヒビが入っているように感じる。何かを言おうとすると口からは生暖かい何かが込みあがり、開けた途端、その場に血の池を生成させた。
「無理しない方がいいよ。ニエルドの槍をモロに喰らってそうやって五体満足に生きていけてる方がおかしいのに」
フレイヤはスカディが吐いた血を綺麗にすると水を差し出し、彼女はそれを一気に飲み干しした。
「今、何時?」
「お姉ちゃんが落ちてきて一時間くらい経ったよ」
作戦終了間近を理解すると震える腕でなんとか自らの体を起こし、白い聖剣に手を置いた。次の瞬間、フレイヤがスカディの手を引っ張り、力が殆ど入らない状態の彼女の体がふらりと地面に転がり落ちる。
「何、するの?」
地面にぶつかる衝撃ですら今のスカディには体の隅々に響き渡り、再び口の中から血の味がした。そんな彼女を見ながらフレイヤは握った手を離さないようにして、それに答える。
「もう諦めて私と一緒に逃げ出そうよ。ニエルド・ヴォーデンは本当の怪物。戦って分かったでしょ?もういいんだよ、お姉ちゃん。あれはあれで統合政府と殺り合うつもりなんだ。だから、ほっとけばどっちかは必ず消えることになる。お姉ちゃん達が頑張る必要は無いんだよ」
フレイヤは自分が大好きな姉のボロボロの手を握りながらそう言うと震える体を必死に止めようとする。スカディの体は既に限界を迎えており、塞がらない傷が彼女の中にあるものを曝け出してしまっていた。
しかし、そんな体であるのにも関わらず、スカディは止まらなかった。
自分を信じてくれた仲間達。
自分を助けてくれた人。
自分が好きな彼。
彼らに会わす顔が無い。
そう思うと彼女は無理矢理身体起こし、白い聖剣と黒い魔剣の両方の柄を握りしめる。
***
「僕は君のことを少しばかり見くびっていたよスカディ」
そこは二つの武器の根源。
目の前には白い剣を持った童顔の騎士と黒い砂鉄をマントに見立てた無表情の王が二つの椅子に座っていた。
「この忙しい時になんの用?」
スカディは白の騎士の言葉に怒りをぶつけるとそれを見ながら黒の王が続けて口を開いた。
「相変わらず生意気だな。だが、それでこそスカディだ。ふふ、ここに呼んだ理由は至って簡単だよ。俺達の真名を伝えようと思ってね」
「散々言わなかったのにどう言う風の吹き回し?」
何か思惑があるのでは無いのかと二人の根源の主を訝しむもそれを聞いた白の騎士は余裕の表情を浮かべながらそれに丁寧に答えた。
「協力に理由は必要かい?僕は純粋に君の思いに応えてあげようと思っただけだよ。なぁ、黒の王?」
「まぁ、そんなところだ。スカディ、俺はお前が最初に俺を握った時からずっとお前の事を見てきた。未熟だったお前が、復讐に囚われたお前が今は人のために自らを犠牲にして立とうとしてる。そんな姿を見れば王は必ず手を貸すさ。王は臣下の努力を無下にはしないし、臣下の危機に立ち上がらないわけが無いだろう?」
すると、そう言いながら二人は立ち上がるとスカディに対して彼らの誇りを託そうと互いの真名を口にする。
「俺の名はシャルマーニャ」
「僕の名はランスロット」
「「解き放てスカディ。お前こそが新たな希望だ」」
***
覚醒した意識から自分の体に巡る電気信号を今持てる最大速度で繋げ、二つの根源の主人から聞いた真名をフレイヤの静止を聞かずに叫んだ。
「同化、聖輝騎士+十二騎士王」
人の成長曲線は唐突に跳ね上がる時がある。
何が引き金かは分からない。
しかし、今、彼女の成長を促したのは間違いなく、彼らであり、彼である。
呪われた一族の血を断ち切る為に、彼との約束を守るために、これが、これこそが彼女のオリジン。
スカディ・ヴォーデンとしての新たなる門出。
魔剣と聖剣、黒と白の剣は互いに互いを高めあい交じり合う。
互いに反対の性質を持つもの同士。
しかし、今はその主人が願う形に彼らの意志で新たな武器へと変化する。
黒いスーツであったものは灰色に染まり、白い髪に似合う形になると背中に十二人の英雄達の武具を羽根に見立てて背後に浮かせ、彼女を再び闘争へと駆り立てた。しかし、フレイヤは何としても彼女を止めようと立ち塞がった。
「お姉ちゃん!なんで!なんでなの!私は、私はただ、お姉ちゃんと一緒に居たいだけなのに。なんで!わかってくれないの!」
フレイヤは目一杯に自分の力の全てを込めて大好きな姉を想う気持ちを込めて黄金の刃を振り翳し、大きな声で叫んだ。
「生命開放、絶勝利剣!!」
黄金の剣は一気に展開され、灰色の騎士王に向かい放たれる。閃光の様な光が幾つも幾つも重なり合い、辺り一面を光だけが覆うも騎士王の背中に浮く、臣下の武器がそれら全てを打ち消すと同時にゆっくりと口を開いた。
「生命解放、絶十二騎士王・凱旋」
騎士王に使えし騎士達の武器が彼らの意志を持った様に動き出すと勝利の女神が放つ光を灰色で飲み込んで行く。
黄金の剣は騎士王の武器とぶつかると瞬時に色を無くし、その力を失わせる。光のドームを生み出していたそれらは一方的に灰色に染め上げられ、フレイヤの握る剣から徐々に輝きが消えていった。
そして、全ての光が消えた時、いつのまにかフレイヤはスカディに近づいており、光を失った剣を彼女目掛けて振り翳した。
「ごめんね」
その一言と共に剣は音も立たずに刃が地面に突き刺さる。
少女の抵抗はかつて失った家族に対するものであり、フレイヤは突き刺さる刃を見ながらその場に膝をついた。
「フレイヤ、私を止めてくれてありがとう。あなたが本当に優しい子に育ってくれて、お姉ちゃんとっても嬉しかった。じゃあ、またね」
スカディはその一言を残して再び武器を羽に見立てて、暴君が居座る頂上へと飛び立った。
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