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散華のカフカ  作者:
三部 飢餓の弓
101/119

幕間 決別

別れ、そして、出会い。

 「終末内乱(アポカリス)」から数ヶ月。


「ニエルドはもう私の知ってるニエルドじゃない。だけど、ここにいた方がフレイヤ、あなたは苦労をしないから。だから、フレイヤはここにいて。ヘズはもうニエルドに着いていくって決めたらしいから私だけでもお母様に着いて行ってあげないと」


 部屋の暗がりでスカディはフレイヤに別れを告げよていた。しかし、それに涙でぐしゃぐしゃになった表情でフレイヤは彼女を止めようと口を開く。


「お姉ちゃんもここに一緒にいちゃダメなの?」


「ごめん、フレイヤ、あなただけは危険に晒したくない。だから、ここで幸せに生きて。ニエルドは兄妹なら守ってくれるから」


「お姉ちゃんも兄妹じゃん。ニエルドに私が言うから、だから、お姉ちゃんも一緒にいようよ、私良い子にするから」


 泣じゃくるフレイヤを宥める事なくスカディは彼女に背を向けるとそのまま姿を消してしまった。残されたフレイヤは泣き止まず、一人でにボソリと呟く。


「一緒に居てくれるって言ったのに、嘘つき」


***


 スカディは牢屋に捕まっていた母を救い、夜の第五首都へと駆り出す。

 二度と帰ってくる事無いと思ったその都市の最後の姿を目に焼き付け、ボロボロになった母親の手を強く握りながら全速力で走った。


「お母様、ごめん。こんなになるまで助けにいけなくて」


 スカディは弱っていた母を無理に走らせてしまった事を悔いながら謝罪をする。しかし、息が途切れ途切れになっていたが彼女はそれに対して優しく答えた。


「何を言ってるの、あなたの方が無茶をして。私なんて置いて早く逃げなさいとあれ程言ったのに本当に優しい子なんだから」


「私、優しい子なんかじゃ無いよ。フレイヤは宥めてあげれなかったし、ヘズに手を差し伸べせなかった」


「そんな事無いわ、あなたは私の自慢の娘よ。だから、そんなに自分を卑下するのはよしなさい」


 弱気になっていたものの母の言葉で自分の行いが間違いでなかった事を確信したスカディは第五首都の警備が手薄い門の目の前まで迫り、誰もいない事を確認すると少しだけ落ち着けると思い、足の力を緩める。


 全速力で駆けたせいで母も限界を迎えている事を知っていたスカディは都市を出る前にそこで休もうと考えた。


「スカディ、どこに行こうとしている?お前の家はここだぞ?」


 しかし、一瞬の安心は一つの呟きで絶望に変わる。


 それは自分の事を全て知っていたかのように門の前で待ち構えるニエルドの姿があった。目の前な立つ兄に恐怖を抱くもそれを無理矢理打ち消し、己を鼓舞すると家に置いてあった武器を握りしめ、それを構える。


 その姿は勇敢で、果敢で、そして、無謀な物であり、それを見ながらニエルドは槍を構え、口を開く。


「母上、これは立派な罪だ。罰が下っても文句はありませんな?そして、スカディ、お前もその逃亡の企ての手助けをしたらしい。だが、安心しろ。お前は母上に誑かされただけと言うことにして俺の兄妹だから罪を問わない様にしよう」


「随分、立派になったものね、ニエルド。お父様を殺して得た血塗れの椅子がよっぽど気に入ってるようじゃない?」


「黙れ、スカディ。それ以上言うのであれば少しばかり痛い目を見てもらうぞ」


「あっそ、やってみないよ、あなたなんて怖くない」


 スカディはその一言が終わった途端、構えていた武器と共に宙に浮いていた。


 体が生命の危機にギリギリで反応したのか槍が自分の体に刺さる直前、剣でそれを防いでおり、なんとか致命傷を免れる。だが、その一突きは彼女の体を動かす事を禁じ、地面に這いつかせると近くにいた彼らの母に容赦無く槍を放った。


 再び目の前で地の海が現れる。

 次は見知った人の鮮血であり、流れる血は徐々に増えていく。


 ニエルドはスカディを抱いて行こうとするも彼女は怒りを露わにし、最後の力を使い、彼の体に剣を突き立てた。


 油断ではあるがその一突きはニエルドの右肩に深く傷を負わせると自らの血を見て、彼は怒りのままにスカディの肩に槍を突き刺し、吹き飛ばす。


 スカディの意識は無くなり、自らの体が冷たくなるのを感じた。


(冷たい、これが死なのかな。ああ、ごめんね、お母様。ごめんね、お父様。ごめんね、ヘズ。ごめんね、フレイヤ)


 心の底から出たのは家族に対する謝罪。死の恐怖ではなく、彼女が最後に思ったのは家族への思いであった。


 ニエルドはその二人を見て、吐き捨てるように呟く。


「逆らわず、従っていればよかった、スカディ、お前は判断を見誤った。生きるか死ぬかはお前の勝手だ。好きにしろ。フレイヤには死んだと伝えておく」


 その一言を残し、彼は一瞬で姿を消すと残された二人の魂の灯火は徐々に弱まっていく。


 すると、三つの影が死に行く者の目の前に現れると何も言わずに彼らを抱き抱え、ビルの合間に消えていった。


***


 どれくらい経ったのだろうか。

 スカディは自分の体が少しだけ温もりを感じると弱々しく目を開く。


 すると、黒いスーツに身を纏った少年が彼女のおでこについていたおしぼりを替えていた。


「起きたかい?おはよう、なも知らない誰か。僕はスペクター。君は?」


「......」


「喋りたくなければいいんだ。僕はたまたまここに来ただけ。ここは来る者を拒まないし、去る者も拒まない。自由に使えばいいよ」


 スペクターはそう言うと扉の方へ向かい、姿を消そうとする。そんな彼の姿を見ながら少しばかり警戒を解いたスカディは質問した。


「お母様はどこ?」


「ああ、そうか、そうだね。君のお母さんは傷が深くて他の所で治療中だよ。そこは知られちゃいけないから君には言えないけどもう少ししたら会えるよ」


 それを聞いたスカディは安心したのか再び意識がプツリと途切れてしまい、眠りにつくとそれを見たスペクターは静かにその場から姿を消した。

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